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ミステリの祭典

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闇からの声
ジョン・リングローズ

作家 イーデン・フィルポッツ
出版日1956年01月
平均点5.64点
書評数11人

No.11 6点 zuso
(2023/07/03 23:09登録)
初めから事件の犯人は分かっているが物証はない。この犯人をどうやって尻尾を出させるか、それがこの物語の主眼となっている。
老練な名刑事だったリングローズは、刑事としてだけでなく人間としての豊富な経験と知識を武器に別人に成りすまし、犯人を罠にかけていく。その際に展開する心理戦がサスペンスフルで面白い。

No.10 6点 弾十六
(2023/06/23 02:55登録)
1925年出版。
フィルポッツさんは観念的なところがあり、頭で妄想を膨らませるタイプ。実際にやってみると計画時点では想定していなかった思いもよらないアクシデントがいろいろあるんじゃないかなあ。そこらへんがやや不満だけど、語り口が巧みなので、あまり気にならなかった。フィルポッツお馴染みの先回り文とか、そういう一昔前のテクニックが折角の進行に水を差している。作者自身は古臭いとは全然思っていないのでしょう。他の評者さんも指摘しているが、三人称の視点が重要なところで一瞬切り替わるのが特に良くない。何か効果が高まっているなら別なんだが… 前述の先回り文と同様、古めかしさを感じてしまう。
まあでもそれ以外は冗長なところや無駄な議論も無く、スッと読める。主人公の義憤にどれだけつきあえるか、で評価は変わってくる。この主人公、こういうとんでもない行動を平気でやるタイプなら現職の時はかなりヤバイ奴なのでは?と思っちゃうと物語自体が阿呆らしくなるだろうけど、私は現職時に感じていたが仕事としてはそこまでやれないよ、と抑圧していたものがここで出ちゃったのかも、という解釈で乗り切りました。
実は本作『灰色の部屋』(1921)と構成要素が共通していて、一種の姉妹編だと感じた(どちらにもサルバトール・ローザ、ゴビノー、アンドレア・デル・サルトへの言及がある)。両方ともオカルト否定の話で、当時の英国の(ドイルなどが有名だが)心霊主義の流行に対して、(WWIで身内を失った、というショックが原因だろうから)同情はするが、煽動して利益を得ていた者たちのことは快く思っていなかったんだろう、と感じた。
以下、トリビア。
第一次大戦から少なくとも3年以上は経過している感じ。作中現在を確定できる記述は見つからなかったが、発表年から考えて冒頭は1923年11月としておこう。
価値換算は、英国消費者物価指数基準1923/2023(77.37倍)で£1=14004円。
p9 十一月
p9 ブリッドポート(Bridport)◆ 冒頭のホテルの近くの町。英国ドーセットに実在する。
p9 五十五歳(five and fifty)
p11 窓… 普通のさし錠で締りを(window fastened with the usual bolt)
p12 革製の書きもの台(leathern desk)
p14 付添い(her maid)◆ コンパニオンではなかった。確かに食事には同席していないので使用人の立場なのだろう。
p19 ドアに掛金を掛け直し(locked the door again)
p23 気つけ薬(smelling salts)
p34 トランプ(a little card game)
p35 自分だけの鍵をどこかに持っていない人間なんかいない(There’s very few folk—men or women—that haven’t a private key somewhere!)
p41 人名録(Who’s Who)
p66 ブリッドポート人名録(Bridport directory)
p66 ブリッドポートの歴史◆ フィルポッツさんの観光案内コーナー
p75 彫刻した象牙細工(Carved morsels of ivory)
p76 年に500ポンドの収入… 1万ポンドていどの資産
p81 家には700ポンドかかった◆ バンガロー・タイプの一軒家
p83 シェラトン風の…書棚(Sheraton bookcase)◆ Thomas Sheraton(1751-1806)英国の家具製作者。英国家具デザイナーのビッグ3の一人と言われているようだ。(他はチッペンデールとヘップルホワイト)
p84 サルヴァトール・ローザ… エドガー・ポー(Salvator Rosa… Edgar Poe)◆ おぞましい怪奇の代表。
p96 態度にもぽきぽきしたところ(her manners were abrupt)◆ この表現、橋本さんのワタクシ語なのかなあ。普通なら「ぶっきらぼうな」
p97 『ガリヴァー旅行記』(Gulliver’s Travels)
p101 千里眼(second sight)◆ 英語の定義を見ると「予知[透視]能力」という方が近い感じ。
p103 ブロマイド(bromide)
p132 ゴルドーニ(Goldoni)◆ 彫刻細工師としては見当たらず。架空人名だろう。
p132 六百ドル(six hundred)◆ ケアレスミス。もちろんここはポンド。
p133 六月
p146 細工師たち◆ いろいろ名前が出てくるが、調べるのが面倒なので原綴りだけ示しておく。Vicentino, Bernardo, Du Quesnoy, “the Fleming”, Zeller, Leo Pronner, Van Obstal, Kern
p149 デーヴィッド・リッチョ(David Riccio)◆ スコットランドの女王、メアリー・ステュアートのイタリア人秘書官(c1533-1566) 女王に寵愛されたため、食事中に女王の眼前で惨殺された。
p152 悲劇的(tragic)
p155 マキャベリー、ゴビノー、ダヌンチオ(Machiavelli, Gobineau and d’Annunzio)◆ゴビノーは『灰色の部屋』で主要登場人物がべた褒めしてるので、フィルポッツさんもアッチの人か?と思ったが、本書では悪党が大好きな思想家、という位置付け。
p161 フローレンス… いつも見に行く絵… アンドレア・デル・サルト… 母のことを思い出させてくれる… もう一つ、フラ・バルトロメーオのキリストの遺骸を描いた絵(a dead Christ)◆ 絵はAndrea del Sarto(1486-1531) Madonna delle Arpie(1517)とFra Bartolomeo(1472-1517) Compianto sul Cristo morto(Pietà di Pitti)(1512)のことだろう。いずれもウフィツィ美術館所蔵。
p164 アレッツォの祭壇のスピネロの『悪魔』(リュシファ)(Spinello’s ‘Lucifer’ in the altar piece at Arezzo) ◆ Spinello Aretino(c1350-c1410)、Luciferの原画は現存していないようだ。
p164 ドレスデンのバルテル(Barthel of Dresden)◆ ドレスデンの彫刻家Melchior Barthel(1625-1672)か。ちょっとググったが、それっぽい作品は見当たらなかった。
p165 大型車(the big car)
p171 サン・ゴタルド・トンネル(St. Gotthard Tunnel)◆ スイスの鉄道トンネル。1882年開業、1920年電化された。
p174 パナマ帽子(Panama hat)◆ 名前に反してエクアドル起源の帽子。
p186 捕鯨者(whaler)
p189 検死尋問(inquest)◆ イタリアでおきた出来事だが、インクエストがあったような記述になっている。多分、言葉通りインクエストが開催されたということではなく、当局の死因調査があった、というような意味なのだろう。作者がうっかりイタリアに英国の制度を持ち込んでしまった、という可能性もある。
p200 ミネルヴァ・ホテル(Minerva Hotel)◆ 1869年開業のGran Locanda della Minerva(現在のGrand Hotel Minerva)のことだろうか。
p210 ボローニャ、カヴール・ホテル(Hotel Cavour, Bologna)◆ 実在のホテルでそれっぽいのがあった。(Piazza Maggioreの近くでVia Goitoに面しているようだ)
p242 タイムズ紙の『宮廷記事』(The Times, under ‘Court Circular.’)… 召使頭(butler)が出す◆ 貴族の動向は執事が新聞に知らせているのですね… 当時のイタリアでは英国の新聞は翌日に届くようだ。航空便か。
p243 アメリカ人のたくみな表現… 『虫のしらせ』(hunch)
p245 ルガーノのヴィクトリア・ホテル(Victoria Hotel, Lugano) ◆ ルガーノ湖畔に1884年開業の同名のホテルがある。
p255 うそ(false)◆ ここで視点を変える必要はなかったのに、と思う。サスペンスが台無しだ。
p276 イシュリアルの槍のひとふれで(At the touch of Ithuriel’s spear)◆ Ithuriel はMilton “Paradise Lost”に出てくる天使の名前で、イヴの耳の近くにいたヒキガエルみたいなのをサタンと見抜いて槍で刺して正体を暴いた。
p285 にせ者(a wrong un)◆ unはoneのことらしい。
p285 私立探偵(a private inquirer)◆ 英国ではinquirerという用語が一般的だったのかも。
p289 夜間用のベル(night bell)… ベルの音(the electric bell)◆ 辞書にnightbell「《英》(特に医者の家の)夜間用ベル」という意味が出ていた。なるほどね。
p291 手紙
p303 お役所主義(red tape)
p310 一週間も続くいい映画(the beautiful moving pictures that go on for a week)◆ 当時は続き物の映画があった。1タイトルあたり12~15エピソードで構成され、1エピソードの上映時間はだいたい20分。映画館では1日1エピソードを繰り返し上映し、1週間で次のエピソードへと進む、というもの。パール・ホワイト主演の連続活劇映画『ポーリンの危機』(1914)が有名。
p311 われわれの言葉を使えば、鳴りをひそめ(lay doggo, as we say)
p321 道化芝居(burlesque)◆ ここに出てくる劇場名は架空のもののようだ。「バーレスク」というエンタメ・ジャンルはWiki “ヴィクトリア朝のバーレスク”に詳しい。その記述を読めば、この場面の発言がああなるほど、と思えるはず。ただし1930年代以降の米国でburlesqueといえば、ほぼストリップ・ショーと同義。ジプシー・ローズ・リーの英Wikiの紹介でも真っ先にan American burlesque entertainerと紹介されている。

No.9 7点 人並由真
(2020/12/31 20:53登録)
(ネタバレなし)
 その年の11月。つい先日、引退を表明したばかりの55歳の名探偵ジョン・リングローズは、イギリス南部の「旧荘園荘ホテル」で休養を楽しむ。だがある日の深夜、恐怖におののき何かとの対面から逃れたいと叫ぶ子供の悲鳴が聞こえてきた。数日後、同様の悲鳴をまた耳にしたリングローズは、ホテルの長期宿泊客で彼が懇意になった富豪の未亡人ベラーズ夫人とその侍女スーザン・マンリーにだけ、この怪異をそっと打ち明けた。はたしてリングローズは、その悲鳴はほぼ一年前に死亡した13歳の少年ルドヴィック・ヒューズのものだと聞かされる。

 1925年の英国作品。フィルポッツの数少ないレギュラー探偵のひとりジョン・リングローズものの、二つある長編のうちの第一弾。
 この数ヶ月、いまだ読まずにほうってあるのがなんか無性に気になってきたが、大昔に買った創元文庫が見つからず、仕方なくweb経由で講談社文庫版を古書で買った。荒正人の翻訳は若干かたいが、丁寧な訳文、それに精緻な解説のようで信頼がおける。
 名探偵対(中略)という主題は前もって聞いていたし、フィルポッツならさもありなんという感じであった。
 しかし物語の図式がわかっていても、ストーリーテリングの面白さでグイグイ読める。悪い意味でなく、大人向けのおとぎ話を楽しんでいるような感触の興趣でいっぱいだ。
 さらに言うなら、リングローズを事件のなかにひきずりこむきっかけとなった<闇からの声>の真相は(ある程度は推察がつくとはいえ)最後まで謎の興味としてひっぱられるし。
 
 しかしこれ、クリスティ再読さんも指摘している通り、英国名探偵もののマンハントノヴェルとして『ハマースミス』の先駆だろうね。さらにこの系譜がのちに、フリーマントルのあの初期の傑作(そっちはノンシリーズだが)に連鎖していくと思うけれど。
(というかそのフリーマントルの作品は、この大系の諸作に向けてのサタイアであり、またそのカリカチュアだったかもしれないが。)

 それで名探偵が追いつめて倒すべき悪党があまりにもあからさまなので、なんかヒネリがあるんじゃないか? 実は本当は(中略)とかあれこれ思った。結局(中略)でしたが。まあそういう単調さを避けるために、リングローズの捜査&追求の対象を(中略)にした構成は、当時としてはなかなか考えてあったと思います。

 小説としては、標的を追い込むためひたすら外堀を埋めていくリングローズの行動の軌跡を楽しめるかどうか、で評価がだいぶ変わるだろうね。
 1925年に刊行された作品なんていう時代を考えると、まだアメリカではハメットの長編作品なんかも刊行されていないんだけれど、どっかでその辺にも一脈相通ずるものを感じたりする。まあ本来の源流は、英国の19世紀冒険スリラー作品の諸作の方だろうけれど。
 個人的には第17章で、リングローズが青年医師アーネストに悪人を(中略)ための協力を求め、本意でない手紙を書かせようとして、アーネストがそんなの嫌ですと駄々をこねるところで笑いました。こういう小芝居の面白さは、弟子筋のクリスティーがしっかり継承しているように思う。
 大綱としてはシンプルな話ともいえるし、謎解きミステリとしては同じリングローズものの『守銭奴の遺産』の方がずっと面白いと思うけれど、これはこれでやっぱり読んで良かった。肝心の悪役キャラの、いろいろと(中略)な面もスキ。

 かえすがえすもリングローズの登場作品が少ないのが惜しいわ。英国の並み居る紳士探偵のなかでも、けっこういいキャラだと思うのだけれど。

No.8 4点 レッドキング
(2019/07/14 09:29登録)
探偵が「怪物像」に気付き、犯人が気付かれたことに気付いたかも知れない、ってあたり実にサスペンスしていた。
そういえば「ミステリー」と「サスペンス」の違いについて、テレビかなんかでやってたなあ。「犯罪を廻る謎があって解いて行くのがミステリー」「最初から明白に犯罪に沿って顛末を描いて行くのがサスペンス」・・。でもこれミステリでもあるよなあ。両方の要素ともに良く出来てたら、それは凄い作品なんだろな。
※こんな殺人トリックを考案した。壁に掛かってる普通の風景画の上下をひっくり返すと恐ろしい幽霊の絵に見えるっていう騙し絵の仕掛けを作り、それを心臓病持ちのターゲットに遠隔操作で見せてショック死させ、その後、絵の上下を元に戻しておく・・・

No.7 6点 クリスティ再読
(2018/11/29 21:38登録)
さて古典。読んでて「ハマースミスのうじ虫」が本作のリライトみたいなことに気がついたな。オタクっぽいが独創的な犯罪者を、天性のマンハンターが「密猟」する話である。なので本作が作ったパターンというものは、なかなか応用が効いて面白みのあるものだ....とは思うんだよ。
更に考えてみると、本作ある意味ゴシック・ロマンスを解体して再構成したようなものなのかもしれない。怪しい叔父の男爵が敵だし、幽霊も出るし「呪われた彫刻」だったりするわけだ。ゴシック・ロマンスの要素を「合理」で裏側から再構築した「逆転」の作品が、本作ということになるのかな。だから「倒叙」とはちょっと違うけども、まあ「倒叙」と似たような逆転操作による作品だとは言えるだろうね。
なので本作は19世紀的なロマンに根っこを持って、それを20世紀的に解体した作品、と読めるんだろう。しかしね、19世紀的な持って回った描写が多すぎて、早い話説明過多。スピード感に大幅に欠ける。で、リングローズがブルーク卿をルガーノで晩餐に迎える場面で、本作リングローズ視点限定の三人称小説だと思ってたら、リングローズが席を外したときに、ブルーク卿の心理描写を始めたよ....視点の混乱を気にしないのは、いかにも19世紀的で古臭い。
というわけで、20世紀的な新しさと、19世紀的な古臭さが奇妙に混在した、かなり珍味な小説である。心して読むべし。

No.6 5点 蟷螂の斧
(2017/09/22 17:07登録)
東西ベスト(1986年版)74位。ほぼ100年前の作品ですが、オカルトチックにならない点に好感を持ちました。題名の「闇からの声」の謎は、あまり主題とは関係なく、あくまでも犯人を追いつめていく物語です。ただ、探偵の心理の吐露や、犯人の心理を読む言い回しが、ややクドイ。それによってスピード感が削がれてしまって勿体ない感じがした。なお、少年の声の真相は微笑ましいものでした。

No.5 6点
(2015/11/01 12:48登録)
再読ですが、そんなに凡作でも複雑すぎるわけでもないのに、ほとんど記憶に残っていませんでした。
冒頭の闇からの声については、探偵役のリングローズが、第4章で幽霊について詳細に分析しているので、予測は簡単につくでしょう。作者も、読者に悟らせるためにあえて丁寧に説明しているのではないかと思えます。
全体の1/3ぐらいまでは、子ども殺害の実行犯を追いつめる話ですが、リングローズの採った手段は、冒頭の幽霊の声を継承するホラーっぽいものです。しかしいくら醜悪な悪魔の首でも、雰囲気のない最初の2回の状況では、うまくいくとは思えません。
その後は黒幕の男爵をいかにして逮捕にまでこぎつけるかで、舞台となるスイス、イタリアの国境あたりの風景描写はさすがです。ほぼリングローズの視点で語られる中に、時たま男爵の視点を入れているのは、当然こうなるだろうなと納得しながらの読書でした。

No.4 5点 makomako
(2015/08/09 08:15登録)
 小説だから許されるのでしょうが、現実にこれをやったら大変なことになるでしょう。完全な思い込み操作でもあり、冤罪が続出間違いなし。
 古い小説ですが、当時は(今もか?)イギリスが階級社会であることを改めて認識させられました。
 犯人も探偵も本質的には狂的要素が強くても、外見は極めて人当たりが良く紳士的です。
 フィルポッツのほかの作品でもそうですが、平凡な描写が多く退屈してしまうところが多々ありました。感じの悪い話ではありませんが、大して面白くもなかったというのが感想です。

No.3 6点 ボナンザ
(2014/04/08 21:34登録)
話だけなら赤毛のレドメインよりもおもしろい。
読みやすさもこちらが上だ。

No.2 5点 mini
(2013/10/01 09:58登録)
今年も秋恒例の創元復刊フェアの真っ最中、相変らず読者側のニーズを全く無視したような古書市場でも安価で入手容易なものばかりが選ばれている
「闇からの声」の復刊なんて誰が喜ぶのだろう?創元だったら「灰色の部屋」とか「溺死人」とか他に選ぶものはあっただろうに
いや、そもそもフィルポッツなんか選ぶ必要性が乏しい

しかしなんである、「闇からの声」は「赤毛のレドメイン家」の陰に隠れてはいるが、意外と面白い
フィルポッツという作家はミステリー史などでは本格長編黄金時代の作家みたいに位置付けされる事が多いが、それは「赤毛」と「闇からの声」が1290年代前半に書かれているからだと思う
ところがミステリー長編は1890年代から書いていたらしく、ミステリーなのかは不明だが晩年には戦後の1950年代の作まであるという驚くほど息の長い活動歴だ
第1次大戦を跨いで前世紀から書き続けた最後の作家みたいな感じで、悪く言えば前世紀の遺物
つまり作風が古臭いのも当然なわけで、本格黄金時代の他作家とと同列に扱うのもためらわれる
そう考えると乱歩御大が「赤毛」をまるで黄金時代を代表するかのように喧伝したのがフィルポッツにとって良くなかったと思えて仕方が無い

「闇からの声」にしても、謎解き的に見れば”闇からの声”の正体などたしかに馬鹿馬鹿しいのだが、これは主人公を事件に引き込む為の単なる導入部であって、これを謎の核心部と捉える方がおかしい
森事典で森英俊氏はこの部分を酷評しているが、森さん、それはちょっと視点がずれているような
「闇からの声」は1925年の作だが、結局のところ主眼は犯人との心理闘争であり内容的には1910年代のサスペンス小説を引き摺ったものと割り切れば腹も立たない
作者にとっては「赤毛」はどちらかと言えば異色作で、本来はこういうのを書きたかった作家なんじゃないかなぁ
少なくとも「赤毛」よりは面白かったという点ではTetchyさんと同感

ところでフィルポッツの未訳作を今後出すとしたら、長編なら森事典でも言及されている「The Jury」あたりだろうけど、それよりも”クイーンの定員”にも選ばれた中編集「フライング・スコッツマンの冒険」が気になる、1作しか収録されてないのかな?

No.1 6点 Tetchy
(2008/07/30 19:00登録)
本格物の『赤毛のレドメイン家』とは違い、最初から犯人が解っていて、それを証拠立てて犯人を追い詰める、刑事コロンボシリーズに代表される倒叙型サスペンス物。
探偵役の元刑事リングローズと犯人のバーゴイン卿との心理戦はけっこう読まされる。
『赤毛のレドメイン家』よりも面白く読めた。

この元刑事が事件を手がける発端となる「闇からの声」の正体は、読んだ当時は、ちょっと無理があるなぁと思ったが、野沢雅子氏や大竹のぶ代氏が現役として頑張っている今、かなり説得力のある真相だと考え改めた。

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