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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.910 5点 迷路
ビル・プロンジーニ
(2016/10/16 07:45登録)
要するに3つの中編をつなぎあわせてテーマ的に統一し、長編に仕立てた作品です。原題 "Scattershot" の本作、訳者あとがきには、「あえて『迷路』と名づけた。シリーズ第五作の『死角』の原題名 "Labyrinth" と混同なさらぬように」と書かれていますが、直訳の「散弾」でもよかったのではないかと思えました。
その3つの話の内容ですが、かなり本格派寄りだけれども、とりあえずハードボイルドかなあ、という感じです。密室好きには喜ばれるかもしれません。監視された自動車の中からの被害者消失、ラティマーの『処刑6日前』と同じく他人を犯人に仕立て上げるための密室殺人および密室からの宝石盗難と、不可能犯罪ばかりなのです。トリックはまあそんなところかなといった程度です。ただ自動車の事件はもう一ひねりあるんじゃないかとも思ったのですが、それだと名無しの探偵さんざんな一週間というテーマが逆転してしまうかな。


No.909 7点 煙の殺意
泡坂妻夫
(2016/10/12 23:15登録)
全8編中基本的には謎解きミステリが多いですけれども、ノン・シリーズだけに様々な趣向を凝らしています。
最初の『赤の追想』は長編『湖底のまつり』をも思わせるような雰囲気があります。次の『椛山訪雪図』は紋章上絵師であり美術に造詣の深い作者ならではの作品で、殺人事件の真相自体よりも手がかりとなる絵の秘密の方に驚かされます。本作の冒頭で言及されるダリも個人的に好きな画家だけに、集中で最も気に入っている作品です。『閏の花嫁』は島の位置が「北緯三十七度、東経十七度」なんて細かい大ぼらが作者らしいところでしょうか。『歯と胴』は犯罪小説ですが、殺人計画の途中で一ひねりあります。『狐の面』に出てくる稲荷魔術については、阿部徳蔵の『奇術随筆』(1936)に詳しく解説されています。『開橋式次第』は『DL2号機事件』的なロジックですが、その勘違いをする人は他にもいそうなところが決め手としては弱いですね。


No.908 6点 サリーは謎解き名人
ジャネット・イヴァノヴィッチ
(2016/10/08 09:06登録)
保釈契約強制執行人、通称バウンティ・ハンターであるステファニー・プラム・シリーズの第4作です。邦題のサリーという名前は女性みたいですが、サルヴァトーレという女装の男性ミュージシャンで、謎解きというより暗号パズル解読の名人です。
同棲していた男から自動車を盗んだということで訴えられた女が出頭日に出てこなかったため〈お尋ね者〉になった事件で、その男の家に投げ込まれた手紙が暗号だったため、ステファニーは人伝にパズルが得意だと聞いたサリーに解読してもらうことにするのです。ただしどんな暗号かは作中では全く示されません。
前作よりハードボイルドっぽい仕上がりになった本作、事件の裏はよくできていますし、本筋とは別のステファニーのアパートが放火される事件との絡み具合もなかなかのものです。ただし、サリー登場の契機となる手紙はわざわざ暗号にする必要がないという点だけは不満でした。


No.907 5点 遺留品
パトリシア・コーンウェル
(2016/10/04 00:01登録)
コーンウェルを読むのはこれが2冊目です。主人公は検屍官ですが、個人的にはやはり警察小説に分類すべきだろうなと思えました。あるいは検事やFBIであっても、公的捜査機関の活躍を描いたものは、結局同じタイプと言えるでしょう。逆に犯人が警察官だろうが検事だろうが、結末の意外性のパターンは変わらないのと同じようなものです。
前作『証拠死体』が謎解き的にも様々な要素を手際よくまとめ上げてくれていておもしろかったので、本作でもそこを期待したのですが、伏線の妙は今回ほとんど感じられませんでした。容疑者はかなり後の方になって浮かんできて、同一犯の最初の殺人と思われる事件に結び付きそうになるまではよかったのですが、その後が、どうも冴えません。最後に派手な展開にして、後味の悪い結末をつけてくれてはいるのですが、読者を納得させ損なっているという気がしました。


No.906 5点 炎の終り
結城昌治
(2016/09/30 22:46登録)
私立探偵真木シリーズの長編第3作です。この探偵役の名前からして、ロス・「マク」が元になっているのではとも思われます。またただ姓だけしか明かされないのもトマス・B・デューイの探偵マックと似た感覚で、もちろん遡ればハメットを想起させます。
今回の真木はずいぶん酒(主にウィスキー)を飲んでいますが、これは依頼人の影響でしょうか。その依頼人である元女優は、立派な(?)アル中です。彼女がアルコールに溺れるようになった理由が本作のテーマとなるのですが、結末のつけ方がシリーズの前2作に比べると安易な感じがしますし、少々説明的になってしまっているようにも思えます。ラスト・シーンの雰囲気はなかなかいいですけど。
また、彼の警察組織に対する反感がかなり露骨に表現されている作品でもあり、黒島部長刑事が「警察という権力組織が別の人間に変える」ことになった人物の典型例として描かれています。


No.905 6点 伯母殺人事件
リチャード・ハル
(2016/09/26 22:30登録)
久々に再読してみると、意外に倒叙していたんだなと思いました。ここで「倒叙」というのは、もちろんただ犯人の視点から書かれた小説ということではありません。それだけなら、たとえば本作の前年1934年に発表された『郵便配達は二度ベルを鳴らす』だってそうですし、その手の犯罪者の肖像を描いた小説はJ・ケイン以前にもずいぶんあります。ジャンルとしての「倒叙」は謎解きミステリを通常とは逆の犯罪者の立場から描いたものということなわけですが、ただ本作では、最終章で主人公がどんな犯行の証跡を残していたかということを語るのはソーンダイク博士やコロンボのような名探偵ではありません。読者にその結末を悟られにくくするためには、目次はない方がよかったでしょうね。
主人公のエドワードだけでなく、伯母もまたあまりお近づきにはなりたくない人物ですが、巻末解説によれば、そのような人物を描くのが作者の好みだそうです。


No.904 4点 餌のついた釣針
E・S・ガードナー
(2016/09/22 09:41登録)
ペリー・メイスンにはさまざまな依頼人がありますが、本作の依頼人は仮面をつけていて一言もしゃべらず、正体が全く不明という状態(実際に話をするのはその仮面の女に付き添う男ですが、彼もまた最初は偽名でメイスンを真夜中に呼び出します)、さらに依頼内容さえ明かされないままの依頼なんていう、とんでもない話です。メイスンがそれを受諾したのも、怪しげなところに興味を持ったからでしょう。
で、当然のごとく殺人が起こるわけですが、今回はなかなか逮捕者が出ません。そのうち謎の依頼人が誰であるかも判明し、8割近くになって、やっと逮捕が行われます。その後が目まぐるしい展開になり、恒例の法廷場面はないまま決着を迎えるのですが、さすがに急ぎすぎ、詰め込みすぎで、全体のバランスを崩しているとしか思えません。メイスンが逮捕されそうになる証言は省いた方がすっきりしてよかったのではないでしょうか。


No.903 5点 ハンプティ・ダンプティは塀の中
蒼井上鷹
(2016/09/18 13:05登録)
塀の中と言っても刑務所ではなく留置場、つまり起訴前の人が入れられる所です。ハンプティ・ダンプティはもちろん、『僧正殺人事件』以来ミステリには縁の深いマザー・グースからの引用で、一応の探偵役マサカさんのこと。この人、他の被留置者からはゆでたまごみたいと言われているのです。
5編からなる連作短編集で、レギュラーは4人、そこへ他の人が同じ留置室に入ってきて、というのが第4話までのパターンです。最初の『古書蒐集狂は罠の中』は4人目のレギュラー(「おれ」)と前の人との交代ということになるのですが。
第4話が特に意表を突く結末でおもしろく、第2話の叙述形式も全編読み終えてからなるほどと思える構成で、なかなか楽しく読めたのです。しかし最終話は、その冒頭で明かされる設定もあまり好きになれませんでしたし、推理がごちゃごちゃしすぎで断定に論理的欠陥もあり、がっかりでした。


No.902 4点 大いなる賭け
ロジャー・L・サイモン
(2016/09/14 22:54登録)
ユダヤ人私立探偵モウゼズ・ワインのシリーズ第1作。
最後の方、事件全体の整理がよくできていないと思いました。事件を決着させるある人物の登場など唐突すぎますし、そこにいた経緯も不明瞭です。黒い影になっていたその人物の名前はすぐに書かれますが、彼の顔を、ワインは知らないはずですしね。その後の警察での収拾も、結局事件をどう取り扱うことになるのかあいまいなままです。砂漠の中の緑地にまで行ってくる部分も、そこを読んでいる間はハードボイルドらしい雰囲気でおもしろかったのですが、後から振り返ってみると、そんな遠くに設定する必要はなかったのではないかと思えます。だいたい、悪役もその動機なら重罪の犯罪などしなくても、効果的な手段はあったでしょう。
複雑な事件を手際よくまとめ上げる緻密さはなさそうな作家なので、むしろパーカーみたいに事件をシンプルにした方がいいのではないでしょうか。


No.901 5点 人形の夜
マーシャ・マラー
(2016/09/10 09:33登録)
1977年に発表された、シャロン・マコーン・シリーズの第1作です。講談社文庫では作者名がマーシァ・ミュラーとなっていますが、たぶんこれが本来の発音には近いのではないでしょうか。
真相への伏線を張るためにかなり無理やりなことをしていて、その部分を読みながら、シャロンのこの行動は後で何か意味を持ってくるのだろうかと疑問を持ったものでした。しかしグレッグ・マーカス警部補に妙な場所で出会うところは、ご都合主義的な偶然だなと思ったのが、これまたクライマックスである事実が明かされるための伏線になっていたのは、意外でした。そんなわけで、不自然さがあるという意味では完成度は決して高くないのですが、瑞々しさは感じられ、それなりに楽しめました。
それにしてもどちらも頑固なシャロンとグレッグ、キスはしたものの、今後つきあっていくのは大変そうだな…


No.900 8点 悪魔の手毬唄
横溝正史
(2016/09/06 21:54登録)
言わずと知れた横溝正史の代表作のひとつ。久々に再読したところ、最初に読んだ時以上に楽しめました。いや、楽しめたというより、じっくり味わえたという感じがします。
プロローグで放庵による「鬼首村手毬唄考」を紹介し、読者にだけは連続殺人の見立ての意味をあらかじめ知らせておくという構成がとられています。以下、少々乱暴な私見ですが…その古い唄に出てくる3人の娘がちょうど犯人が殺したかった3人に一致したというのは、あまりに偶然すぎるように思えます。しかし、これは放庵が書いたものですから、途中で五百子婆さんが歌うものと違った部分があることを考えると、3番は実は1・2番で歌われる娘の偶然を利用した、放庵の創作かもしれず、だとすると偶然性はかなり軽減されます。五百子婆さんは実際には放庵の文章全体を自分では読んでいないのですから、この説も否定できないと思われます。


No.899 6点 検屍官の領分
マージェリー・アリンガム
(2016/09/02 21:44登録)
タイトルにもかかわらず(原題 "Coroner' s Pidgin"。pidginは仕事のこと)、検屍官が登場する場面は最後の方5ページもないぐらいです。
本作ではキャンピオンが最初から活躍しています。彼が風呂に入っている時、偶然彼の家に死体が持ち込まれるという冗談みたいな冒頭から、話はもつれていき、戦時下、ドイツが裏で糸を引いている大規模な連続文化財盗難事件も絡んできて、検屍官が登場する最終章の前までは、実におもしろかったのです。
しかしその最終章での解決はあっけなく、もうちょっと盛り上げられなかったのかなという気もしました。その検屍官のセリフによる解決はキャンピオンが演出したはずですが、それも前章の終りからそうであると推測できるだけで、直接的な描写は全くないというさりげなさです。事件解決後に明かされるカラドス侯爵の不可解に思えた行動の理由については、なるほどと思わせられました。


No.898 6点 水晶の鼓動
麻見和史
(2016/08/29 23:07登録)
殺人の起こった家の各部屋の壁や床がラッカースプレーで赤く塗りつぶされていたという発端の謎は、なかなか魅力的ですが、その解決はというと、犯人の条件に着目した点は評価したいものの、これでは犯人が警察の鑑識能力を見くびりすぎです。その他にも「麻布図書館2北」の手がかりは、被害者が単なるメモに自分がよく心得ていることをそんなに詳しく書くはずがない(「麻布」だけでも十分)ですし、「T→K」も当人たちには当然のことなので、これらは警察にわざと見せるために残されたものではないかと疑ったのですが、普通に本当の手がかりでした。
そんなわけで、論理的精密さには不満もありますし、決定的手がかりを読者に明示していないのですが、連続殺人と連続爆弾テロ事件とを組み合わせた(モジュラー型ではない)派手な警察小説としては、ユーモラスなところもあり、なかなか楽しめました。


No.897 6点 ミッドナイト・ブルー
ロス・マクドナルド
(2016/08/25 18:13登録)
『ロス・マクドナルド傑作集』のタイトルで出ていた時に買って読んだのを、このたび再読しました。中短編5編の他に、評論『主人公(ヒーロー)としての探偵と作家』、さらに訳者の小鷹信光による20ページ以上もの解説が付いています。
ロスマクはハードボイルドの中でも本格派っぽいとされることが多いようで、実際真相は論理的に構築されていて意外性もあります。しかしハメットが、真相を示唆する手掛かりをあらかじめ用意しているのに対して、ロスマクは捜査を進めていくうちにもつれた謎が自然にほぐれてくるという構成になっています。このほぐし方が、長編の場合だと最後の方で鮮やかに決まるのですが、短い作品だと性急な感じになってしまうのです。
収録作品の中でも、特に『追いつめられたブロンド』はこの欠点が目立つ作品で、当然逆に中編の『運命の裁き』(長編『運命』の原型)が最もよくできていると思いました。


No.896 6点 ウィッチフォード連続殺人
ポーラ・ゴズリング
(2016/08/21 14:24登録)
初期はスリラー、サスペンス系を書いていたゴズリングですが、本作はイギリスの田舎町を舞台にした連続殺人を警察が捜査するという、いかにもイギリス謎解きミステリらしい作品です。
登場人物の一人がミステリ・ファンという設定ですが、ポアロとかH・M卿の名前がちょっと出てくるくらいです。ミッシング・リンク・タイプとも言えますが、ABC理論を引き合いに出すような読者への目配せもありません。アボット主任警部も、犯人はすべて同一人物なのか、模倣犯なのか決めかねています。
実のところ、真犯人を示す伏線は不足していますし、最後はジェニファーが犯人に襲われて辛くも助かり、そこで犯人の正体がわかる推理不要の段取りになっています。しかし、コージーやサスペンスに分類するには警察による捜査が主ですし、犯人の意外性、トリックにも気を配っているので、とりあえず本格派ということで。


No.895 6点 内海の輪
松本清張
(2016/08/17 16:16登録)
表題作と『死んだ馬』の犯罪小説2編を収録。
連作『黒の様式』第6話として最初『霧笛の町』のタイトルで書かれた表題作は文庫本で200ページぐらいの短めの長編です。瀬戸内の町を巡る半分ぐらいまでは、こんなに長くする必要があるのかなと思っていたのですが、その後主人公にやっと殺意が芽生えてきてからは、ここまで引き延ばしているからこその作品だなと思えました。『古代史疑』等を著した作者らしく、遺跡発掘もストーリーに絡んできて、そこから(当然そうなるんでしょうねという感じではありますが)ある偶然が警察の疑惑を引き起こすことになります。最終的な証拠については、最初の方に出てくるのが鮮やかに決まりますが、その部分を読んだ時何となく伏線じゃないかと予測できました。
中編『死んだ馬』は悪女と、彼女に翻弄される才能ある建築設計家を描いた犯罪小説で、まあまあといったところでしょうか。


No.894 6点 死体は沈黙しない
キャサリン・エアード
(2016/08/13 23:43登録)
エアードは、訳者あとがきでは、アガサ・クリスティーの後継者という評価のある作家とされているとのことですが、本作を読む限りでは、むしろ違いの方が目立つ感じを受けました。基本的にフーダニット作家であるクリスティーに対して、本作では犯人の意外性にはこだわっていません。それよりも、糖尿病で死んだ老婦人に莫大な遺産があったのはどうしてなのかということが、最大の謎になったミステリです。事件の全体像は全然見えないままに、何となくこんなこともありそうだとは思っていたのですが。その老婦人を「糖尿病で殺す」アイディアもありますが、これは途中で明かされます。
作者の特徴とされているユーモアは文章表現にかなりの部分を負っていますが、ちょっと鼻につきます。クロスビー刑事の天然キャラは現実にはあり得ないだろうと思えるものの、結構気に入りました。


No.893 7点 非情の街
トマス・B・デューイ
(2016/08/09 23:18登録)
デューイが最初の作品 "Hue and Cry" を発表したのは1944年だそうですから、まさにハードボイルドの巨匠ロス・マクドナルドと同年デビューです。そしてシカゴの私立探偵マックのシリーズが始まるのは巻末解説では1953年となっていますが、英語版Wikiによれば1947年。
この探偵の名前については、本作には、「あなたの名前はそれだけなの?…ただの『マック』なの?」「どうも、たいへん個人的なことを質問するんですね」というセリフが出てきます。そんなことまできっちり書くのは、正義感あふれる社会派要素が強い固ゆでな作風のデューイらしいところかもしれません。それだけにロスマク等に比べると、文学的香りはさほど感じられません。
原題は "The Mean Streets"(最後にsが付きます)ですから、非情というより卑しいといった感じでしょうか。Theのないスコセッシ監督の映画とは無関係ですが、描かれる世界は同じです。


No.892 5点 ダウンタウンの通り雨
都筑道夫
(2016/08/05 23:14登録)
私立探偵西連寺剛を主人公とした収録3編のうち、表題作は中編で、他の2編は短編です。3編のうち最もハードボイルドっぽい感じがするのは表題作で、ハワイで失踪人探しをする話。途中で主人公が殴られたり、その後殺人まで起こったりと、いかにもな展開です。失踪事件の真相は長さのわりに3編中最もあっけない感じで、殺人の経緯も納得はできるものの特にどうということもないのが、不満でした。
『油揚坂上午前二時』は西連寺探偵の近所で起こったちょっとした出来事に彼が関係したことから始まります。結末のつけ方に味わいがある作品ですが、途中でタイトルの油揚坂についての蘊蓄が、この作者らしいところで、そこも楽しめます。
蘊蓄と言えば最後の『首くくりの木』では、この言葉についての歴史的考察だけでなく、チャンドラーの映画シナリオ『ブルー・ダリア』(そんなのがあるとは知らなかった)なんてことまで語られます。


No.891 6点
ボアロー&ナルスジャック
(2016/08/01 23:31登録)
中編2編が収録されています。最初の『譫妄』の方が長く、原書ではこちらの “Delirium” 方が本のタイトルになっています。殺人を犯してしまったほとんどアルコール中毒の建築家の一人称形式で語られる話です。その酩酊感とでもいうか、タイトルどおりの意識の混濁状態が独特な味わいを出しています。最後の方は、多少意外な展開になっていくとも言えますが、隠されていた真相は平凡でした。
『島』の叙述は三人称形式ながら、ほとんどが、生まれた島に久しぶりに帰ってきた男の視点から、『譫妄』とも共通する疑心暗鬼が描かれています。ただし本作の方は3/4近くまでは、ほとんど何も起こりません。最後になって突然このコンビ作家らしいミステリ的な展開になり、さらに意外なオチをつけています。ただ、真相の明かし方は不自然と思えますが、ではどうすればいいのかとなると、難しいでしょうね。

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