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ミステリの祭典

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戻り川心中

作家 連城三紀彦
出版日1980年09月
平均点8.20点
書評数54人

No.34 8点 名探偵ジャパン
(2015/04/22 18:09登録)
本格ミステリ小説というものは、パズルに小説的演出を施したものか。小説にパズル的要素を持ち込んだものか。作品によって違いがあり、また、どちらが優れている、正解であるといった優劣は付けられないだろう。
文学と言って過言ではない美しい文体で綴られた、連城三紀彦の傑作「戻り川心中
」(もちろん表題作以外の短編も含む)はどちらだろうか。圧倒的に前者である。
作者は「まず謎ありき」で、その謎を不自然なく包み込める舞台、人物設定を構築している。まぎれもない本格ミステリの作り方だ。
連城三紀彦の文章が美しすぎるがため、ミステリというには気恥ずかしいくらい「文学」してしまっているのだ。もちろん私は、「文学のほうが本格ミステリよりも上である」などと思ったことは(その逆も)一度もない。本格ミステリだろうと、文学だろうと、ライトノベルだろうと、面白いものは面白い。
ジャンルに優劣はないが、文章に美醜はあるのだ。
文章だけではなく、ミステリ的トリック、仕掛けも秀逸。(多少無理のあるものもなくはないが)
昨今の作家であれば、「これひとつで長編に仕立ててやれ。『予想を裏切る結末!』とか帯に書いてもらって、映画化を狙ってやれ」と、水増し水増ししかねないようなものも、惜しげもなく短編に、きゅっと詰めてくる。粋だなぁ、と思った。

No.33 9点 まさむね
(2015/01/24 09:29登録)
 この短編集は,謎ときというよりも,個人的には「反転小説」というタームも思いつくのですが,しかしながら,その反転に「やーい,騙された」というような軽さは一切なく(そういう軽さも決して嫌いではないのですが…),読後に唸らざるを得ない短編揃いです。
 ベストはやはり表題作「戻り川心中」。そして,ともに遊郭街を舞台にした前半の2作品「藤の香」「桔梗の宿」の構成や作品世界も見事。「桐の柩」のホワイ,「白蓮の寺」の反転も良いですが,他の3作に比べると一段落ちる印象かな。
 理論では必ずしも割り切れない何かが,人としてそれぞれあるわけで,だからこそ哀しさも生まれるし,ソコも含めて,人生の意義があると思うのです。反転や伏線と言った技巧もさることながら,この点を流麗な筆致で綴られていることが何よりも素晴らしい。私などは,物語に完全に身を委ねながら,何とも言えない満足感で読み終えることができました。
 パズラーとしての傑作短編集はいくつか思い浮かびますが,もっと広い視点でミステリーを捉えた場合,年代を超えて確実に上位に位置する伝説的な短編集と言えましょう。

No.32 7点 STAR
(2014/09/02 20:19登録)
どの短編集もその世界観は似ていると思いました。
せつなくて美しくもある。大正から昭和の暗い雰囲気もあります。
こういう短編集は初めてでした。

No.31 6点 ボナンザ
(2014/04/08 15:55登録)
美しき短編集。
個人的には夜よ鼠たちのためにのほうが好きだが、これも名作ではある。

No.30 8点 mini
(2013/10/28 09:53登録)
このサイトに集う方々には既に周知と思いますが、先日19日に連城三紀彦氏が逝去された
短編集「戻り川心中」を読んだのはかなり昔だったので、こんな形で追悼書評する事になろうとは残念
65歳とまだ書ける年齢だったんですねえ、謹んで哀悼の意を表します

コアなファンには初期作だけで語られるのを良しとしない方もいらっしゃるとは思うが、中後期作を未読な私にとっては連城氏と言えばやはり花葬シリーズである
こんなのを書ける作家は他に居ないでしょう、直木賞受賞も肯ける
表題作の「戻り川心中」なんて、もう真相のひっくり返しがどうのなんて事よりも、作中の詩歌が全て作者の創作という事に驚かざるを得ない
”ミステリー小説とはパズルでもいい”を標榜する某サイト主の方は、”物語は誰でも創れるがパズルを創る才能は特別なもので希少だ”みたいな主張をしていたが、この方はパズルというものに対して神聖視し過ぎだと思う
パズルなんざぁ誰だって創れるんだよ、物語を創る方が数段難しい
「戻り川心中」は他の誰にも書けない短編だろう
1つだけ不満を言うと題名である、当初はシリーズに合わせて「菖蒲の船」を予定していたが変更したらしい
やはり花葬シリーズらしい題名にして欲しかったですね、短編自体は「菖蒲の船」として短編集全体の題名を「戻り川心中」とする手もあったんじゃないかなぁ
「桔梗の宿」は集中でも傑作の1つだが、ちょっと気になる点が
この発想の根源は、戦前には珍しい某本格派作家の有名な短編を思わせる
連城氏はこの戦前の短編を知っていたのかなぁ
傑作揃いの前半に対して後半の作には、無理にシリーズに合わせようとして謎と世界観との融合が上手くいってないと感じるものもある
例えば「白蓮の寺」だが、謎と世界観とのバランスは相変らず見事だが、何となくトリックに合わせて物語を創った感が有るんだよね、トリックが見えた時点で花の色が褪せるような
前半の作は真相が分かったら益々花の色が濃厚になるのに
氏が花葬シリーズを長続きさせず葬ったのも止むを得なかったのかも、でもだらだらと続けなかった事が後世に残る伝説的名短編集になったとしたら仕方ないよね合掌

No.29 7点 メルカトル
(2013/02/01 21:23登録)
再読です。
たまにはいいね、文学作品も。えっ、本格?これが。
いや、確かにミステリ的要素は幾分か含まれてはいるが、どう考えても本格ミステリじゃないでしょう。やっぱり純文学、いくら贔屓目にみても文学だよね。
個人的には、格調高い文章に載せて語られる、男女の愛憎劇だと考える。
ミステリ的角度から見れば、ホワイダニットが中心となるだろうか。意外な犯人とかを期待すると間違いなく裏切られるが、ちょっとした反転は味わえる。
ミステリじゃないから、どう評価していいかやや困惑してしまうが、やはり文学作品として低い点数は付けられないので、無難に7点にしておく。

No.28 6点 makomako
(2012/12/31 09:31登録)
 文学性とミステリーを高い次元で融合させた作品と思います。文章も美しく、それぞれの作ごとにミステリーとしての工夫も凝らされていて、このサイトでも多くの方の評価が高いようですが、残念ながらわたしの好みではありません。
 雰囲気や繊細な美しさに逆境や暗さが必要なことは承知しているつもりですが、この作品は根本的に「ねくら」なのです。
 読んでいてどうにもいらいらしてしまう。こんな雰囲気につかりたくはないのです。
 太宰治や水上勉が好きな方にはとてもよいのでしょうね。
 
 

No.27 10点 mohicant
(2012/10/17 00:32登録)
文体の美しさに加えて秀逸なストーリー。誰が犯人なのかははどの話でも意外性はない。だが、なぜ殺したのかという動機の面では、その意外性とバラエティーに度肝を抜かれる。その愛憎模様に心を揺さぶられる。

No.26 7点 蟷螂の斧
(2012/01/13 16:24登録)
大正ロマンにどっぷりつからせてもらい、師匠の妻・琴江の登場あたりで物語が終わっても、十分満足できる小説と感じました。ところが、急に現実に引き戻されてしまい、真相が明らかになります。なんともにくい演出です。

No.25 9点 take5
(2011/08/10 23:14登録)
日本古典文学を読むことは人生において何らかの意味があると信じます。
古典というくくりはどこからかと。私は、流行り廃りがなく、現在も残り今後読まれるべき(主観として)と信じる人が多いものが、時代の流れの中でも確固たる作品として残るのだと思います。
古典文学として、読むに値する作品で、さらにミステリーなのだからこれから読む方は幸せだと思います。

No.24 7点 E-BANKER
(2011/07/02 23:43登録)
いわゆる、作者の「花葬シリーズ」を収めた作品集。
今回は光文社文庫版で読了。(ハルキ文庫版の方がよかったかな?)
①「藤の香」=このシリーズらしさを感じる作品。起承転結が効いていて、「名人芸」を感じる。
②「桔梗の宿」=何だか切なくなるような真相。大正末期~昭和初期という暗い時代と相俟って、作品世界の「叙情性」を引き立たせる。
③「桐の柩」=これも作者にしか書けないような作品世界。ラストが余韻を引き摺る。
④「白蓮の寺」=母子の情愛の深さ・・・心に染み入るねぇ・・・
⑤「戻り川心中」=さすがにこれは「名作」と言われるだけのことはある。特に、「創作」と「現実」とが入れ替わるというカタルシスは見事! この作品を読むだけでも買う価値ありでしょう。
以上5編。
これは、本当に独特の「作品世界」。時代設定もありますが、暗くジメジメしていて、それでいてどこか「耽美的」な香り・・・
これこそが「連城ワールド」と呼べそうです。
是非一度ご堪能あれ!って感じ。
(やっぱり⑤が抜けている。あとは①②かな)

No.23 8点 あびびび
(2011/04/03 19:36登録)
題名に、ロマンより古臭さを感じてずっと読まなかったが、確かに怪しげな世界。しかし、そこにミステリが絡んで、物語が余計に沈んでいくような感覚はこの作家ならではないか。

ずっとモノクロの映画を見てきたようで、作風はまったくちがうが、阿佐田哲也の麻雀放浪記を思い出した。

No.22 9点 kanamori
(2010/07/29 18:36登録)
「東西ミステリーベスト100」国内部門の第9位になってようやく発表時リアルタイムで読んだ作品が登場。
いわゆる”花葬シリーズ”といわれた主に大正・昭和前期を時代背景にしたミステリ作品集で、美麗な文章に隠された騙し絵の世界を堪能しました。
探偵小説誌・幻影城で第1作「藤の香」を読んで以来、追い続けたシリーズなので思い入れのある作品集です。

No.21 8点 りゅう
(2010/07/24 09:34登録)
 文章力よりもミステリとしての質の高さで評価したい。読者が謎解きをするような要素は少ないが、真相が明らかになった時にその意外さに驚き、それで辻褄が合っているのかどうかを考えさせられる短編集ではないだろうか。伏線が巧みに貼られた緻密な設定もお見事。逆に文章の方は、格調の高い文章だとは思うが、あまりぴんとこない表現もあって、多少読みづらさを感じた。個人的には、「白蓮の寺」が最も面白いと思う(幼年期の記憶をこんなにうまく利用できるのかなという疑問、致命的とも思える欠点はあるのだが)。

No.20 7点 江守森江
(2010/04/14 13:47登録)
読者としての自分は物語世界に浸るタイプではなく、分析的な目を光らせるタイプで、文学的格調より推理パズルを嗜好している。
純文学的で、流麗な文章を纏った反転ミステリーは嗜好からズレている。
表題作「戻り川心中」が不朽の名作な事は紛れのない事実だが、嗜好の壁までは突破出来ない。
物語世界に浸らない為、何故?が主題で心情を考察する反転ミステリーは‘驚き’しか評価対象がなく、分析的な読書では反転の構図が読める場合も多い。
それでも、花葬シリーズの連作で同様な反転ミステリーを続けながら、巧妙に変えた語り口や結末の見せ方には唸らされる。
嗜好の壁と精緻な技巧を相殺し7点で妥協した。
※補追
ハルキ文庫版の「戻り川心中」では花葬シリーズ全八編が収録されている。

No.19 8点 (^^)
(2009/11/16 05:40登録)
本当に文体が綺麗です。
タイトルも秀逸。

No.18 7点 測量ボ-イ
(2009/11/15 09:20登録)
最後の真相は以外に俗っぽかったのでやや拍子抜けしました
が、高評価できることには間違いないです。
採点7点or8点で悩みますが、この作品が「狭義のミステ
リ」に定義できるか、あるいは僕の好みの部類かとなると微
妙な面もあり、7点としました。

でも、文体の綺麗さはさすがというべきです。誰にでも書け
るものではないでしょう。

No.17 7点
(2009/11/02 19:17登録)
5編の共通点は、花がテーマになっていること、それといずれもがホワイダニット物ということです。概ね伏線がうまく示されているので、結末に驚かされるだけではなく、ミステリとしての上手さも感じられます。

個別には、『藤の香』『桔梗の宿』がシンプルにまとまっているし、幻想的で奇妙な味が出ていて、好みです。『桔梗の宿』の結末もよかったですね。それから、『桐の柩』の「柩」の発想には驚かされました。『白蓮の寺』『戻り川心中』は、文学的な美文を駆使して、ここまで巧妙に書かなくても、と思うほど実に手のこんだ作品です。ただ、私にとっては、正直なところ2作品とも、いい印象を持てませんでした。

ミステリ的に評すればもっと高得点なのですが、総合的にはこの程度ですね。

No.16 8点 こう
(2009/10/18 03:57登録)
 個人的には美しさを排除したよりトリッキーな「夜よ鼠たちのために」の路線の方が好きですが花葬シリーズの美しさは皆さんが挙げている通りだと思いますし戻り川心中は最も連城ミステリを上手く説明できる作品だと思います。
 ただミステリ作品が戻り川心中くらいしか店頭に並んでないのが残念です。個人的にはこれをとっかかりに他作品に進んでほしい作家です。  

No.15 10点 isurrender
(2009/09/21 21:16登録)
美しい、の一言!
ミステリ専用作家じゃ書けない作品だなって思いました

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