home

ミステリの祭典

login
ラットマン

作家 道尾秀介
出版日2008年01月
平均点6.71点
書評数45人

No.45 8点 三枝
(2024/11/05 19:58登録)
殺人による青春の終わり、というシナリオが好みだったので個人的にはどんでん返しがない方が好きだったかなあと。

終盤の展開は見事としか言いようがなく、1つの事件に何重もの解答を与える『毒入りチョコレート事件』的な手法が冴えます。
特に1発目をひっくり返すくだりはまったくの不意打ちであったため、本を読む手が少し止まってしまいました。
ここまではよかったように思います。

その後は毒チョコのように証拠が増えてそれを足がかりにするわけではなく、推理というよりは思いつきに近いのですが一応の伏線は張られています。
過去と現在がシンメトリーを描く構図もさすがです。

ただ、これまた個人的好みに片足を突っ込むのですが、こういった二転三転物はどんでん返しに対する伏線が弱くなりがちで、どんでん返しの驚きというのは6〜7割がたが伏線によるものだと思うのです。
返される驚きよりも“へー、そうなんだすごいねー”となんだか覚めた気持ちになってしまうのは私だけでしょうか。

陰鬱な道中に対してラストは希望を感じさせるものとなっており、ここにもっていきたいがために無理やり犯人と動機をこしらえたようにすら感じてしまいます。

また本作のすれ違いを招いたのは作品テーマとされているラットマンの理屈より“無実の容疑者は自分だけは犯人ではないと知っている”というミステリーでは定番の自己認識のように思いました。

文句ばかりになりましたが、おもしろい作品だったのは確かです。
ただ本来の着地点より読みながら予想していた着地点の方が好みではありました。

No.44 8点 よん
(2024/07/17 14:36登録)
結成十四年になるアマチュアロックバンドが練習中のスタジオで、一人の女性が大型アンプの下敷きになって死んでしまう。
その死の謎をめぐって物語が展開する中、ギター担当の姫川の過去と、姫川の彼女である被害者のひかり、その妹でドラム担当の桂の三人の関係が浮かび上がってくる。
過去の事件と現在の事件を呼応させているばかりか、そこに絡む人間相関図まで重ね合わせたり、二パターンの見え方があるはずの絵が思い込みによって一方の見え方に誘導されてしまう心理を物語全体に有機的に絡めている手際が見事。

No.43 8点 ぷちレコード
(2024/06/13 22:15登録)
主人公の姫川亮が関わる過去と現在の二つの殺人の構図を重ね合わせ、いずれの事件でも二重三重のどんでん返しが仕組まれている。
この作品で作者は、人間が何かを知覚する過程で前後の文脈が結果を変化させてしまう心理現象を持ち出し、時にはネズミに、時には人間に見えるラットマンの絵を引き合いに出す。だとしても、認知科学系とも従来の叙述トリック作品とも違い、むしろ同じ文章が複数の意味に読めるという手法を駆使したパズラーとして、もっと評価されてもいい作品だ

No.42 7点 パメル
(2020/12/10 09:24登録)
「ラットマン」と呼ばれる素朴な線描画がある。動物たちの絵の中に置かれていると、それはラット(ねずみ)に見える。人物画の中に置かれていると男の顔に見える。同じ絵なのに、なぜか全く別のものに見えてしまう。見る、聞くといった人間の知覚は、その前後に受けた刺激によって左右される。これを心理学などで「文脈効果」というらしい。本書は、この文脈効果を最大限に利用した作品といえる。
結成14年のアマチュアロックバンドが、貸しスタジオで練習中に不可解な事件に遭遇する。メンバーの一人が、密室状態の倉庫でアンプの下敷きになって死んでいた。
現場の状況から、容疑者は当時スタジオにいた四人のメンバーに限られる。四人は互いに疑心にかられ、同じ絵にそれぞれ別のイメージをふくらませる。そして、それはまた新しい「ラットマン」現象を作り出していく。
容疑者の一人である姫川と23年前に姫川家の事件を扱った古参刑事が、全く別の方向から、この絵を読み解こうとするのだが、推理の行方は三転四転し、容易に予断を許さない。後半の途中まで、ただの胸糞悪いミステリ要素の少ない小説だなと思っていたが、最後の最後で評価が変わった。騙された快感が味わえる作品。

No.41 6点 nukkam
(2020/02/03 22:09登録)
(ネタバレなしです) 2008年発表の本格派推理小説です。文学志向を意識している作者ですが本書も謎解き要素と物語要素の内、どちらかと言えば後者の方に注力しているように感じました。事件が引き起こした悲劇性や登場人物が抱える秘密が重苦しく描かれています。しかしながら終盤でのどんでん返しが連続する謎解きは鮮やかで、謎解きにもちゃんと配慮されていることがわかります。タイトルはミステリーのタイトルとしては魅力的でないように思いましたが、なかなか意味深です。

No.40 6点 びーじぇー
(2019/08/06 22:07登録)
高校の同級生たちが結成した十四年目のアマチュアバンドのギタリスト・姫川亮は、父と姉を失った幼少時の不穏な記憶に悩まされていた。バンドのドラマーが姫川の恋人・小野木ひかりからその妹・桂に代わり、姫川の心も桂へ移りつつあった。そんな矢先、練習用のスタジオでひかりの変死体が発見されるが、その奥には思いがけない真相が隠されていたのだった。
序盤では人間関係が活写され、中盤では倒叙ミステリが進行し、やがて真相が明かされてドラマは完結する。その全篇を貫いているのは多くの誤解。自己に対する誤解、他者に対する誤解などが錯綜することで、本作にはネガティブな心理劇が幾重にも編み込まれている。著者が販促用パンフレットに「登場する人々はみんな、心の中で見えないギターを搔き鳴らしている」と記したように、登場人物たちは悲しさと寂しさを叫び続け、真実を知ることで青春の終わりの解放感と痛みを味わうことになる。動物をモチーフにしたレトリック、議論による真相追求、読者に対する騙しなどの得意技を駆使しつつ、多段構造の謎解きをくみ上げたエモーショナルな青春ミステリに仕上がっている。

No.39 3点 新世紀ミステリー
(2019/06/30 09:35登録)
2008年発表。ロックバンドミステリー。作者どっかで「人間描きたいからミステリー形式を選んでるだけ。トリックはどうでもいい。」みたいに言ってましたが、確かに既視感ありありのよくお勉強したトリックだと思いました。ただし、人間はあまり描けていませんでした。

No.38 4点 mediocrity
(2019/04/29 02:16登録)
謎解き自体は面白かったが、326ページでこれだけだと点数はこのくらいか。
正直130ページあたりで読むのをやめようかと思ったけど、その章の最後でやっと事件が起こったので読み続けた。ただ事件が起きた後のストーリーも言葉は悪いが、かったるかった。
偶然にも文庫版の解説を書いている大沢氏の『新宿鮫』も退屈で途中で読むのをやめてしまった数少ない本の1冊なんだけど、なんだか雰囲気が似てたような。
2冊とも平均点は高いので自分が変なだけだと思います。

No.37 6点 バード
(2019/03/27 22:09登録)
最近とがった点数つけてないんですが、こいつも6点です。(私の平均点すね。)ただ7点に近い6点ね。
前読んだ道尾さん作品は酷評ぎみだったけど、これは結構好きよ。

殺人事件発覚以降は作者が何かを隠しながら書いてるのは明らかなんだけど、隠していた事柄については外しちまったな。残念。
一つ気になったのは、姫川が殺人を犯してないということは、種明かし部分の前にきちんと書いてあるのかな?まだしっかり読み直してないけど、上記のことが明記されているのであれば、上手い!ということで7点に引き上げるかも。

No.36 8点 sophia
(2018/02/26 17:22登録)
とても読み易くてなおかつ続きが気になり一気に読めます。過去の事件と現在の事件両方に「錯誤」があり、それは読者に対しても仕掛けられています。まんまと騙されました。ミスディレクションの方向性が氏の先行作品と似ていますが。

No.35 7点 斎藤警部
(2018/02/13 12:16登録)
数学的に美し過ぎる物語経緯の構築が、完璧過ぎて却って上滑り(作り物めいて見えたのか)、その造形への感銘はひとかたならぬものがありながら、ミステリとして、及び小説としての感動はそれなりに損なわれた。。
とは言え、あるクルーシャルな台詞の反転返し(!)にはグッと来ましたね。しかも、その台詞が最初に放たれた時、もっと深い意味かと思ったら実は浅い方の意味で、だけど逆にそっちの方がよりズゥンとヤバい、という逆説的趣向が噛んでたもんで、その流れから更にまたノーマル反転に収まりゃしない反転返し(単に二度反転の意味ではない)を見せつけられたのには心底ドッキリ!でした。ところが、その更に上を行く、前述の、あまりに完璧すぎるマセマティカルな構造を見せ付けられると、どういうわけだか。。もはや小説ではない、もはや戦後ではない、って感じたのかしら。あるいは、作者があまりに「出来るだけハッピーエンド寄りの、少しでも救いのある、いい話で終わらせよう」と意識してるのが伝わって、さりげなく鼻についたのかも知れない。とかなんとか言って相当に面白く読ませていただきました!

折角エアロスミスをカヴァするならストーリーに密接な関係のある”WALK THIS WAY”だけでなく”BACK IN THE SADDLE”とか”RAG DOLL(入れ歯の爺ぃ)”とかも演って欲しかったなあ。掲示板で話題の”ヤりたい気持ち”はまあ、演(ヤ)らなくてもいいですけど。

No.34 6点 青い車
(2016/01/25 00:27登録)
はじめての道尾秀介作品です。僕は現代的でリアルな人間の悪意や心の闇を見るのはつらくて苦手なので、冒頭から陰気なオチになってしまうのではないかと心配しながら読みました。結果、ハッピーエンドとはいかずとも少しの救いがあるラストで良かった、というのが第一の感想です。それ以外は可もなく不可もなくといったところ。作品の内容を集約したタイトルはとてもいいと思います。

No.33 5点 風桜青紫
(2015/12/29 00:50登録)
ちょっと期待が大きすぎたかもしれない。たしかに青春小説としてはよくできてる(年増バンドマン同士の絡みとか妙に共感できる)し、二転三転するどんでん返しも見事だとは思ったんだが、「犯人が誰か」という謎かけの構造が前面に出てきているぶん、先行きを予測しやすい。スマートなどんでん返しは、道尾作品でも良くできた部類なんだが、驚きという点では物足りなかった。まあ、これは、こっち(読者たる風桜)も道尾秀介の作風に慣れてきてしまったこともあるのかも。まあ、道尾さんがこの作品以降、脱ミステリ系に作風を変化させ始めたのは、それはそれで残念なんだけど。

No.32 4点 smk
(2013/10/07 22:57登録)
ミスリードも巧く、二転三転するストーリーも好印象。ただ、全体的に暗い印象であまり好きな世界観ではなかった。

No.31 7点 奇妙なイビキ
(2013/03/07 18:04登録)
期末テスト勉強の合間を縫って読破しました。今回は私の勘があたってしまった箇所があり、他の作品よりは驚きが少なかったです。けれど一番最後の真実には驚かされたし、勉強もそっちのけで話に引きつけられました(←反省) 今作で、改めて道尾さんは人の「暗」を書くのが上手いなあと感じました。大沢在昌さんの解説も良かったです

No.30 7点 mohicant
(2012/09/17 21:47登録)
 きれいな叙述トリックを使ってくるなといった印象。

No.29 8点 isurrender
(2012/03/14 17:42登録)
いかにも道尾らしい作品
ストーリーもトリックも道尾作品の中では上位に位置づけされるべき作品だと思う

ラストの解決部分での怒涛の展開はとても驚かされた

No.28 8点 いいちこ
(2012/01/25 21:16登録)
非常にテクニカルなストーリーテリングと見事なミスディレクションに加えて、二転三転する真相もインパクト十分。
ただ全体に伏線が少ないうえ、地の文で明らかに嘘を書いている箇所があり、アンフェアな印象を残す点でミステリとしては減点。
それでも着地点で明かされる本作の主題と、プロット、タイトルが完璧に符合する美しさ、完成度の点で高く評価。
読み手側の嗜好によって評価がわかれやすい作品と思う。

No.27 7点 haruka
(2011/05/28 23:44登録)
読者を二重三重のミスリードに誘い込むテクニックは健在で、最後まで飽きずに読める。

No.26 6点 つよ
(2011/05/01 21:55登録)
ワクワク感は乏しい。

45中の書評を表示しています 1 - 20