殉教カテリナ車輪 |
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作家 | 飛鳥部勝則 |
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出版日 | 1998年10月 |
平均点 | 7.41点 |
書評数 | 22人 |
No.22 | 8点 | ボナンザ | |
(2024/08/22 19:12登録) 独特の雰囲気と読みやすい文章で引き込む、本格でありながらどこか怪しげな孤高の名作。芳林堂の復刊に感謝。 |
No.21 | 8点 | みりん | |
(2024/06/06 02:24登録) 図像学×本格推理という新機軸を打ち出したという点だけで既に賞賛されるべきです。芸術に疎いので、矢部の図像学的考察と蘊蓄は新鮮で純粋に楽しめますし、絵画『殉教』と『車輪』の最後の解明に関しては、ただの推理小説に止まらない文学的(芸術的)高尚さを齎しています。 しかし、本作の魅力はそれだけではありません。とある工夫で時間的&空間的不可能トリックを成立させています。私は読んでいる途中に、「時間」の方は容易に看破できるように思えました。ただ、作者はそんな読者を見透かしていたようです。 審査員の島荘・綾辻・有栖川が満場一致で選んだというのも納得ですね。これから新人賞は鮎川哲也賞を中心に読んでいこうかなと思うくらい素晴らしい作品でした。288ページ4h41min読了。 この作家の他作品に大いに期待し、一旦8点を。中古価格がすこぶる高く、読めるか不明ですが… ※こちらも「みんな教えて」でお二方が挙げていたので読みました。感謝です(^^) |
No.20 | 7点 | メルカトル | |
(2023/06/22 22:51登録) 憑かれたように描き続け、やがて自殺を遂げた画家・東条寺桂。彼が遺した二枚の絵、“殉教”“車輪”に込められた主題とは何だったのか?彼に興味を持って調べ始めた学芸員・矢部直樹の前に現れたのは、二十年前の聖夜に起きた不可解な二重密室殺人の謎だった―緻密な構成に加え、図像学と本格ミステリを結びつけるという新鮮な着想が話題を呼んだ、第九回鮎川哲也賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 何だか変なタイトルだなという印象しかなく、予備知識なしで読みました。いきなりカラーの絵画が載っていて、それも何やら意味ありげな感じだけど、とは思いましたが、そこから図像解釈学(イコノロジー)が展開される辺り、正に純文学の香りがプンプン漂います。後で考えればそれも意味のある記述ではあります、しかしそこまで画家は意識して描いたのだろうかと、あまりに深い掘り下げ方にかなり執拗さを感じました。それがどうとか云うつもりはありません、ただこれまで味わったことの無い異様な世界観を繰り広げており、これがただのミステリではないというのは伝わってきます。 問題の手記ではなかなかお目に掛かれない、同じ凶器によるほぼ同時に行われた二つの密室殺人事件の謎が描かれており、うーむとなりました。途中、ある二人の人物のぎこちない会話に違和感を覚え、んん?って感じでしたが、それも作者の計算の上だったとは、恐れ入りました。どこに伏線が張られているか分かりませんね、全く油断も隙もあったものじゃない。 尚、作中の洋画は作者自身が描いたもので、洋画家としても才能を発揮されています。個人的には『殉教』の中の少女の表情が素敵でした。作中での誰かの発言と全く同じ意見なのが、如何にも素人の感想だなと情けなくなりました。 |
No.19 | 6点 | びーじぇー | |
(2022/10/07 22:58登録) 大学教授が自宅の密室状況の浴室で刺殺され、ほぼ同時刻に別の部屋で女性の刺殺体が発見される。凶器は同じナイフで、その真相が事件に関係した画家が遺した絵画と手記とによって解かれていく。絵の隠された主題を探っていく図像学を殺人事件の推理に応用しているが、基礎となるキリスト教の知識が十全はないから、作中人物の蘊蓄に頷くしかない。 推理小説的には、別にもっと大胆な仕掛けがあり、伏線も几帳面なほど張られている。ただ、せっかく作者自身が描いた絵画を用いての視覚的な作品なのに、印刷上の工夫が逆効果になって読みにくい。 |
No.18 | 8点 | 虫暮部 | |
(2021/05/18 11:56登録) 第Ⅱ部の視点人物である矢部直樹は、なんだか変な奴だ。 絵のモデルが妻に似ていたので画家を調べ始める。画家の妻と話しているうちにぞっとする。事件の状況を聞いて驚いて大声を出す。――これらの場面を実際にストーリーに沿って読んでみると、なぜそこでそう動くのか、よく判らない。唐突に感情が沸点に達して、また唐突に平静に戻っているように感じられる。そういう不安定な類の人なのだろうか。 但し、これはこれで“操縦不能のロボットに私の脳だけ搭載されている”みたいでなかなか得難い感覚ではあった。 一方で、東条寺桂の手記は臨場感があり、謎の画家は見事に解体された。一見常識人の矢部がよく判らないままなのとは対照的だ。 |
No.17 | 8点 | じきる | |
(2020/12/21 01:53登録) 豪快な密室トリックも、作中作の仕掛けも素晴らしい。画家である作者自身が描いた絵を図像学の謎として用いる手法も面白くて好印象。 静かで切ないラストシーンがいいですね。 |
No.16 | 9点 | レッドキング | |
(2018/07/06 20:47登録) 「二ヶ所同時密室殺人」トリックの隠れた金字塔。手記叙述というところがまたうまい。 カーの「三つの棺」と並べてツートップで満点過大評価したいところだが、この作家、あまり好きになれないので、この点数。 (2021年追記) 物語の叙述者Aが「 」(=叙述)の中で矛盾・虚偽を記せば、ミステリとしてアウトだが、「 」の主体を巧妙にすり替えるのはトリック・・ヴァン・ダインには悪いが。 |
No.15 | 7点 | ねここねこ男爵 | |
(2018/05/14 19:52登録) 面白かった。 狭義のミステリ要素のみを抽出して評価するなら斬新なものではないかもしれないけれど、シンプルで抑制の効いた文章とそこからの雰囲気が非常によい。図像学について多くのページが割かれているが、それを新要素としてゴリ押すことなくあくまで調味料の一つとして扱っている事もすごい。 巻末の評者コメントにもある通り、「桂氏がなぜあのような人格を獲得したのか?」の描写があればより魅力的になったかもしれずそこがやや残念だけれど、作者的にはそれも冗長な要素だったのかもしれない。ひょっとして作者が本当に描きたかったのは仕掛けではなく絵なのかもとも思う。 以下ネタバレ含みます。 メインの仕掛けは、あの章が明らかに表現が浮いているので読み慣れた人ならすぐ分かるのではなかろうか。実際、あまり細かい事まで考えず読む自分には珍しく、あの章の時点でほぼ完璧に密室も真相も分かった。ほぼというのは、義母が(ひょっとしたら歯科医も)犯人を目撃していながらそれを庇っていた、記述者は更にそれを隠そうとした、と言うのが最後のオチだろうと思っていたので…この二人は動機が十分なのでむしろ犯人を応援する側だろうし、目撃していないと義母の発言がやや不自然かと。 それから、手記は特定の人物に容疑が向くように終わっているがあれは無理だろう。その人物は渋滞情報に言及していて、ケータイのない時代にほぼリアルタイムで情報を得る事はできないから。潜伏しながらラジオやテレビをチェックすることはできないし。 不可能状況を偶然の産物とする向きもあろうが、偶然というより「びっくりしてお皿を落として割ってしまった」が適性かと思う。都合の良い偶然に酷評を浴びせる自分がそう思うくらいなので。 |
No.14 | 6点 | パメル | |
(2018/04/04 01:08登録) 二重密室殺人の真相が、謎の自殺を遂げた無名の画家によって描かれた2枚の絵画に込められていたのかと、絵画から事件の背景を読み解いていこう(図像解消学)という着手方法が新鮮。また、この変態的な絵が作者自身が描いていたというから驚き。 推理合戦も楽しいし、読者を真相から遠ざけるミスリードも巧妙でお見事。ただ、密室トリックは偶然の産物と思われる点が残念。 |
No.13 | 6点 | いいちこ | |
(2017/10/27 21:36登録) まず絵画から事件の背景や登場人物の心理を洞察していくアプローチが斬新。 同一の凶器で2件の密室殺人が発生するという謎の不可解性にインパクトがある一方、その真相はやや期待外れの感があるが、真相の解明プロセスにおける論理性は一定の評価。 しかし、それ以上に真相を隠蔽する叙述トリック、随所に張り巡らされた伏線に冴えを見せている。 一読の価値のある意欲作 |
No.12 | 7点 | 青い車 | |
(2017/01/02 21:13登録) とにかく絵画を題材に持ち込んだ挑戦的な作風がユニークです。偶然成立したタイプのトリックは本来あまり歓迎しないのですが、その答を自然に導き出す推理と、気の利いた叙述のテクニックも相まって高い完成度を誇っています。抑制のある文章も処女作とは思えないほど洗練されており、受賞作にふさわしい出来と言えます。 |
No.11 | 7点 | E-BANKER | |
(2014/09/13 22:18登録) 1988年発表の第九回鮎川哲也賞受賞作。 本格ミステリーと絵画ミステリーを融合させた野心作。もちろん作者デビュー作品。 ~東条寺桂。制作期間僅か五年の間に憑かれたように五百余点の絵を描きあげ、やがて自殺を遂げた画家。彼に興味を持ち、作品について調べ始めた学芸員・矢部直樹の前に浮かび上がってきたのは、意外にも数年前の聖夜に起こった二重殺人の謎だった。二つの部屋でほぼ同時に、しかも同一の凶器で行われた不可能極まりない密室殺人の真相とは。そして桂が残した二枚の絵、《殉教〉と《車輪》に込められた主題とは何だったのか?~ デビュー作としては規格外のスケールと完成度と言えるのではないか・・・と感じた。 何しろ道具立てが魅力的。 謎多き画家が残した二枚の絵、その画家が巻き込まれた二重密室殺人、そして作品全体に仕掛けられた作者の大いなる罠・・・ どれをとってもミステリー好きには堪えられないガジェットで溢れている。 まずは二重密室殺人。 しかも二つの殺人がほぼ同時に、同じ凶器で行われているという困難さを伴っている。 これを「犯人の移動」と「凶器の移動」の二つに分けて考察しているところが本作のトリックの白眉だろう。 “捨て筋”もまずまず面白いと思ったが、真のトリックの方には思わず唖然。っていうか、普通の読者なら怒り出すかもしれない・・・ (でもまぁ「これしかない」という解法にはなっているんだよなぁ・・・) 割と分かりやすいフーダニットを糊塗するために、大掛かりな○○トリックまで使うという用意周到さ、恐れ入りました。 絵画の謎解きの方もなかなか興味深い。 事件全体の構図が二枚の絵画にも込められているというところもよく練られているという印象。 (作者自身の挿絵のうまさにも脱帽だ) 鮎川哲也賞受賞作に相応しい重厚でトリッキーな秀作。 さすがにデビュー作らしい粗さやアイデア倒れの部分も目につくが、まずは十分合格点という内容だろう。 素直に高評価したい。 (新潟が舞台というのも珍しい・・・) |
No.10 | 7点 | 蟷螂の斧 | |
(2012/01/08 13:32登録) 絵画の謎と、二重密室殺人が組み合わさって、面白く読めました。プロローグ「私は豪徳二を殺した。理由はない。私は佐野美香を殺してしまった。理由はない。」は謎めいて気に入っています。画家の「手記」の仕掛け、伏線も面白いと思いました。 |
No.9 | 8点 | seiryuu | |
(2010/07/16 16:43登録) ストーリーもトリックも楽しめた。 変わったジャンルで面白かったです。 |
No.8 | 6点 | touko | |
(2009/12/21 21:12登録) 学芸員が死んだ画家を調査する動機が弱いし、奥さんに似ていたのは単なる偶然で、何の伏線でもなんでもなかったのですねえ。 随所でご都合主義が鼻につくかなあ……こういう題材ならば、相当強引な展開にしても、不自然にならないよう書くことができそうなのに、薀蓄とミステリをうまく結び付けられなかったという印象です。 道具立てが派手なので、期待したわりには、いい意味でも悪い意味でも、シンプルなミステリでした。 |
No.7 | 9点 | いけお | |
(2008/10/29 00:03登録) 二重のトリックに加えて、人物への興味と、深い内容を完成度高くまとめている印象。 トリック以外の部分に絵画の蘊蓄が有機的に絡んでいるし、無駄がない。 |
No.6 | 8点 | ギザじゅう | |
(2002/11/07 02:07登録) この作品は事件やトリックだけを見てみればたいしたことはない。 しかし、イコノグラフィーとミステリーの関係と『殉教』と『車輪』にこめられた意味。そして東条寺桂の内面を探っていくのはとてもおもしろい。 |
No.5 | 10点 | 一千花 | |
(2002/10/31 18:54登録) 心ひかれるタイトルです 装幀デザインも好き。 作者自身が描いた絵画をミステリの謎解きにからめる のは面白いです。図像学も専門的で楽しかった。 プロローグ・書き換えられた第三章はオチとしては 少し弱い気がしました。 最近読んだミステリの中で一番好きです。 |
No.4 | 7点 | けるる | |
(2002/07/17 00:52登録) 純粋にトリックだけを抽出してみるとたいしたことはないけれど、作品全体として完成度の高い本格ミステリをなしていると思う。図像学に関しても意外と解り易く説明がなされていたし、その薀蓄がしっかり作品に絡んでいるし。 だた難をいうとすれば、試みと試みとの繋がりがちょっと綺麗でないところか。 |
No.3 | 6点 | ao | |
(2002/06/10 02:59登録) 前半の図像学についての説明は少々だるかったが、後半は面白かった。密室の謎はすぐわかったけどミスリードはうまいと思う。評価できる試み。 |