六人の嘘つきな大学生 |
---|
作家 | 浅倉秋成 |
---|---|
出版日 | 2021年03月 |
平均点 | 7.47点 |
書評数 | 19人 |
No.19 | 8点 | みりん | |
(2024/03/20 13:21登録) 私にとって、心の底から素晴らしいと思えた作品に出会えました。 就職活動がほぼ終わったので、ようやく本作品を楽しめる心理状態になりました。普段はこういう"社会への警鐘系"の説教くさい作品が全く刺さらない私ですが、当事者として大変共感が得られる作品でした。 大学院に入学したのも束の間、就活の超早期化により5月から就活は始まります。 毎日大学に通い、研究活動に力を入れたものが損をする。就職活動のために大学に一切来ず、研究活動を疎かにする学生ほど内定を得る。私の周りではありふれた光景です。果たして企業は学生の何を見ているのか甚だ疑問と言わざるを得ません。 そんな就活に対する私の1年間の鬱憤を晴らすような秀作でした。なんて、まだ社会を知らない私の青臭い意見だと温かい目で見守ってください。 【ネタバレがあります】 こんなのは就活で拗らせた私だけだと思いますが、この犯人の動機は10000000%理解できます。今年出会った犯人の中で、最も納得のいく動機でした(笑) ただそれだけに、最後の実はみ〜んな○○奴でした路線はあまり好ましくないのです。しかし、これは私の考えと作品のテーマが最後の最後に微妙にズレてしまったというだけであって、エンターテイメントとして優れた作品であることは間違い無いです。映画が楽しみですね。 上記の理由から、ミステリとしてというよりは就活への警鐘の部分の方が楽しめたので、私もこの作品は社会派に投票します。 |
No.18 | 7点 | ミステリーオタク | |
(2023/09/22 21:12登録) う~ん、タイトルや簡単な紹介文からは、もっとゲーム色の濃いエゴイスティックな騙し合いみたいな内容を想像していたが・・・・確かに前半の荒唐無稽なグループ・ディスカッションではそういうテイストがそれなりに出ていたが、ホントに勝とうと思ったらあんなマトモな投票の仕方はしないだろう。 それ以外の部分や後半に入ってからもいろいろとミステリ要素がちりばめられていたが、あくまでも散りばめられていて何か統合性に欠ける感が否めなかった。 また登場人物達に語らせる「就活」や「採用」に関する延々と続く持論の展開、引いては人間性にまで関する膨大な考察や関係者達へのインタビュー・・・そして最後は「実はみんな○○人でした」で終わるのかと思ったが流石にそこまでクサくはしなかったね。 作者としては「ミステリ+社会派ヒューマンドラマ」のつもりで書いたのだろうが、冒頭に記したようなコテコテのミステリを期待した自分としてはもうチョッと・・・・ それにあそこまで手の込んだことをやる、あの「動機」に納得できた読者が一人でもいるのだろうか。就活惨敗組にはいるかもw |
No.17 | 5点 | ボナンザ | |
(2023/08/11 13:01登録) タイトルからしてちょっとコテコテな感じもするが、陰湿なようで爽やかな一作。某社の人事の話は忘れてあげて・・・。 |
No.16 | 7点 | makomako | |
(2023/08/11 07:31登録) なかなか面白い。 有能な主人公たちの若く素敵な感じがまず提示され、その後実は--といった暴きの話となる。これだとちょっと嫌味な小説となりそうだが、その後みんなそんなに悪いやつではないことがわかってくる。 このあたりはなかなかのもので小説を読む手が離せない。 最終的にもいい感じで終わるので読後感もよい。 作者自身が非常に理屈っぽい性格と述べているように、話は「精緻を極める」というとよい方向にとるか、「くどくどとめんどくさい」と感じるかは読み手の感性によるものでしょう。 きっちりした本格物が好きな方はきっと素晴らしいと思われることでしょう。 私はちょっとめんどくさかったかな。 でもよかったですよ。 |
No.15 | 7点 | mozart | |
(2023/06/21 17:40登録) 「告発文」の真犯人が明らかになる過程はロジックもしっかりしていて感心しました。「嘘つき」の意味が秀逸でした。○○にもしっかり「裏」の面があったことが最後で明らかになったし。 |
No.14 | 6点 | ひとこと | |
(2023/05/28 15:41登録) 今後が楽しみな作家さん |
No.13 | 7点 | suzuka | |
(2022/10/13 02:02登録) 話題作ですね。読んで損はない一冊だと思います。 個人的には一部の設定にかなり無理があると感じましたが、本筋が面白いのでヨシという感じです。 |
No.12 | 8点 | take5 | |
(2022/09/19 16:30登録) 最近、当たりの作品が多くて嬉しい限りです。 大学生の性格の反転、 ナレーションの意味の反転、 主人公の一人の境遇に関する反転、 等々、 半分も読まないうちに反転の連続で、 この先どうする?の後からまた反転。 個人的には、上記3つ目の反転が 『赤毛の男の妻』的で好きです。 叙述の巧みさで読ませるのがやはり ミステリーだと思うので、 これはレベルが高い作品だと思います。 装丁の絵から、どれが誰と考えてみるのも一興。 就活に対するアンチテーゼも効いていて、 軽い社会派的な面も。 |
No.11 | 9点 | 猫サーカス | |
(2022/07/31 19:02登録) 就職活動という状況の心理戦と、その先にある意外な真相を描いている。若者に人気のIT企業スピラリンクスの新卒採用、その最終選考に残った六人は、一ヶ月後の選考日に協力して課題に挑むことになると告げられた。内容次第では全員に内定が出される可能性がある。それが一転、採用枠が変更され、内定は一人だけに。そして不穏な告発文が持ち込まれ、議論は不信と不破の渦巻く展開に。六人のチーム形成から選考当日までの間で、徐々にそれぞれの人物像が浮かび上がる。そして密室での心理戦から、歳月が過ぎた後の真相解明の過程が語られる。その中で人物像にさらに意外な側面が加わって、物語そのものが鮮やかな反転を見せる。一人の人間を知ることの難しさというテーマが、就職活動という状況と結びつく。人の心という謎を、精緻なミステリに仕立てている。 |
No.10 | 7点 | 蟷螂の斧 | |
(2022/05/30 20:24登録) 「犯人、○○さんへ」と「ジャスミンティー」にはやられました(笑)。8点がつけられなかったのは、前半の○○には騙されたのですが、種明かしがうまくないので、ああそうだったのかで終わってしまった点と、あれこれ伏線の回収を狙ったものと思いますが、欲張りすぎ?で全体が薄味になってしまった感があることです。あと、後半の人物評はいらないと思いました。でもリーダビリティに優れており楽しめました。 |
No.9 | 8点 | まさむね | |
(2022/05/24 22:35登録) 見事です。この間、様々な媒体で高い評価を受けていたことも頷けます。 多くの皆さんが経験する(した)であろう「就活」をテーマにした上で、最終選考に残った6人たちで内定者1名を決定するためにグループディスカッションを行う…まずはこういった舞台設定が興味深い。第一部で就活時点を描き、第二部で8年後を描くという、時間差攻撃?も効果を上げています。何よりも、「犯人は誰だったか」という主たる謎のみならず、周辺にも複数の謎を配置し(しかもそれらの謎が主たる謎と絶妙にリンクしてくる辺りが心憎い)、伏線を配置しながら二転三転させてくる技巧には唸らされました。 読み終えた後、「自分だったら、ディスカッションの際、そんなに取り乱さずに別の対応を採ると思うな」といった不自然さを感じた面も正直ございました(そもそも、こういった採用手法自体があり得ないだろうしね)が、全体の作りこみ具合は、こういった不自然な点を凌駕していたと思います。本当に採用すべき人材は誰だったのか、否、そんなことを結果論で捉えること自体が間違っているような気もするし、様々に考えさせられる作品でもありました。 |
No.8 | 9点 | zuso | |
(2022/03/30 22:48登録) IT企業の新卒採用の最終選考に残った六人の学生たちの密室劇。 一人の内定を決める課題を会社から出された学生たちが、告発文を交えた暴露合戦を行うのだが、後半になると別の視点から本当の犯人探しが始まる。イヤミス全開の暴露合戦が、最終的には心温まる展開に。これが見事。 |
No.7 | 8点 | 人並由真 | |
(2022/03/04 05:17登録) (ネタバレなし) まぎれもなく、21世紀リアルタイムの国産新作ミステリではある。 が、そのテクニカルな物語の作りには、1950年代のポケミスに収録された、当時のリアルタイムの<洗練された前衛的な技巧派ミステリ>の香りを感じた(特に前半)。 終盤の真相、展開はあざとい。この上なくあざとい! しかしそれは文句や非難ではなく、最大級のホメ言葉として、本作と作者に向けて贈りたい!! たぶんこれが、評者が2021年度の「SRの会」のベスト投票のために読む昨年の新刊、そのラストの一冊になると思うが、最後の最後にコレを読めて本当に良かった。 なおジャンル投票は、自分も「青春ミステリ」以外の何物でもないと思うが、あえて「社会派」に入れておく。理由と言うか、その気分は、読んだ方なら、きっと分かってもらえることと信じる。 |
No.6 | 8点 | ぷちレコード | |
(2022/01/22 22:58登録) IT企業の新卒採用の最終選考に残った6人の学生たちの密室劇。6人の中から1人の内定を決める課題を会社から出された学生たちは、告発文を交えた暴露合戦を行うことになる。 前半は、学生たちの隠された顔が次々と暴かれ、告発文を書いた犯人も一応は突き止められるのだが、後半になると別の視点から本当の犯人捜しが始まる。前半は意外性に富んで緊張感も高いが、後半は巧妙に張られた伏線の回収となる。 人間の負の部分を描くイヤミス全開の暴露合戦が、人間味あふれる温かな世界へと逆転する展開もいい。 |
No.5 | 8点 | パメル | |
(2022/01/17 08:48登録) 就職活動を経験したことがある人は、当時の自分を思い出しながら読むといっそう楽しめるかと思います。私の場合、面接は大の苦手で、そのために面接対策マニュアル本を買って自分なりに練習したものでした。ただ、その時も思ったのですが、たった数分の面接やグループディスカッションで、その人の本質など見抜けないだろうと思っていた。そのような誰もが感じる疑問や苛立ちをミステリに絡めているところが新鮮。また、日本特有の面接のあり方について本書を通じて、作者は皮肉っているんだろうなとも感じた。 第一章では、登場人物のそれぞれに引っ掛かるポイントを要所要所に散りばめ、事件はいったんの収束を迎える。そして第二章では内定者に視点が移る。「月の裏側」と比喩されるような、人の内面の見えない部分を、その人の表層に現れる何気ない仕草から読み取って、ミステリとしてのどんでん返しとして相乗効果を成している。 現代の就職活動を馬鹿馬鹿しいで物語を終わらせず、それに関わる人間の心を通して、他人との接し方、他人への優しい眼差しを描いている。途中まではイヤミスかと思っていたが、読後感は爽やかで清々しかった。 |
No.4 | 7点 | メルカトル | |
(2021/09/11 23:07登録) 「犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ! ここにいる六人全員、とんでもないクズだった。 成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を 得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。 『教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。 Amazon内容紹介より。 これは評価が難しいですねえ。そもそもジャンル的にどの範疇に入るのかが分かりません。本格かサスペンスか青春ミステリか、個人的にはイヤミスが最も近いのではないかと思いますが。 序盤は六人の就活生達が最終選考に全員残る為、一致団結してグループディスカッションに臨む辺りまでは、読み易い文章も相まって青春っていいなあとか思いながら呑気に読んでいました。それが突如暗転するのには驚きを隠せませんでしたよ。 就職活動、入社試験、面接、これらのワードは私が世の中で最も嫌いな単語です。そりゃ私だってかつては就活生でしたし、面接も少なからず受けました。孤独な戦いでしたね、思い出すだけでも気分が下がります。それをパワーに変えて事に当たる若者たちには好感を抱きました。 しかし、六人の知られざる過去を暴かれて以降、終始嫌な気分が抜けず不安感を煽られました。ただ少なからず心を揺さぶられた時点で作者の勝ちだったのだと思います。 「犯人」の正体はある理由から推測できました。なのでそれが誰なのかを明かされても驚きませんでした。けれどそれだけで終わらないのが本作の魅力。これ以上は未読の方の興を削ぐことになりそうなので割愛します。 |
No.3 | 6点 | 文生 | |
(2021/09/02 19:40登録) 最終面接に残った学生たち6名の中で誰を採用するのが相応しいかを自分たちで決めろといわれ、しかも、彼らを貶める文書が出現したことで腹の探り合いが始まるという展開は非常にサスペンスフルで引き込まれました。なんといっても、就活の面接をミステリーにするという着想が斬新です。 ただ、面接の方法があまりにも説得力に欠けています。てっきり学生たちに採用を決めさせるのは表向きの話で、なにかウラがあるのかと思っていたら、なにもなかったのには唖然としました。誰を採用するかを学生に選ばせることの是非以前に、みな自分の内定を勝ち取るために面接に来ているのだから、自分以外の誰が相応しいか話し合えといわれても建設的な議論になるはずがありません(作中では意外に真剣に議論し合っていましたが)。そのくらいのことはたとえ人事担当者が無能であってもわかりそうなものですが。 また、登場人物の印象をミスリードさせるためにやたら激昂させたり、うろたえさせたりしたのも真相が明らかになってから振り返ると不自然に感じました。発想としてはなかなか面白いと思いますし、実際かなり楽しめたことも確かです。それだけに要所要所が説得力に欠いているのが惜しまれます。 |
No.2 | 8点 | HORNET | |
(2021/08/11 16:58登録) 就活中の大学生・波多野祥吾は、大人気IT企業「スピラリンクス」最終選考に残った。最終選考の課題は、祥吾を含めた残った6人でのディスカッション。「全員合格もある」という人事部の言葉を受け、皆で内定をとろうと協力する6人だったが、試験日前日、突然会社から連絡が。それは、急遽採用が「1人」になり、ディスカッションの課題が「自分たちで1人の内定者を決めること」になったという衝撃の知らせだった。突如「ライバル」になってしまった6人。試験会場で待ち受けていたのは、6人の過去の罪を告発する怪文書だった――。 告発文を仕掛けた「犯人」は誰なのか?限定された空間で繰り広げられるフーダニットの面白さもさることながら、物語には「わずかばかりの筆記と、数十分の面接、ディスカッションで人の本質など見抜けるのか?」逆に「パンフレットや表向きの説明だけで、企業の何が分かるのか?」といった、「就活とはいったい何なのか?」を問うテーマ性がある。 試験当日のディスカッションで互いの信頼が揺らいでいく様子と並行して、「合格者」が数年後に関係者にインタビューする様が描かれていく。最後に明かされる真相も見事で、とても楽しめる一冊である。 |
No.1 | 9点 | sophia | |
(2021/06/30 23:45登録) 人や社会の表と裏、善と悪の二面性にスポットを当てた青春就活ミステリー。ミステリーを読み慣れている人なら第一部終盤に用意されている反転は何となく読めるのではないでしょうか。そして「まだページが半分ぐらい残ってるけど、第二部で何を描くんだろう」などと思うわけですが、第二部でも構図はさらに二転三転していくのです。第一部は過去、第二部は現在という構成ですが、第一部の随所に現在からの振り返りを挿入することが第一部の補完となり、第二部へ向けての伏線にもなっているという実にテクニカルな作品です。8点か9点か迷いましたが、「教室が、ひとりになるまで」を超えなおかつ今回は著者得意のSF要素を使わずにこれだけの物を読ませてくれましたので9点といたします。 |