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ミステリの祭典

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緑のカプセルの謎
ギデオン・フェル博士シリーズ

作家 ジョン・ディクスン・カー
出版日1958年01月
平均点7.38点
書評数21人

No.21 8点 クリスティ再読
(2020/04/11 22:19登録)
「目の前に起きた事実を、正確に証言できるやつはひとりだっておらぬ」というテーゼのもとに、罠だらけの実験をする...という趣向にカーらしい手品趣味が横溢していてこれが本作の最大の魅力。その実験がすべてムーヴィーカメラで撮影されていて、クライマックスではそれを殺人現場で上映して犯人を指摘する...なんだから、まあこれくらい「映像的な」ミステリもないものだ。ぜひぜひ映像で見てみたい。透明人間みたいな仮装をした殺人者が、3人の観客の面前で実験の主催者に公然と毒を飲ませた殺害する、まさにその映像が、ありあわせの揺れる白い布に投影されて、ドイツ表現主義映画さながらの効果をあげたに違いない...と思うんだよ。
それに比べると、やや謎の構成に不自然なあたりもないわけじゃない。それでも実験に仕掛けられた謎がきわめて魅力的なために、そこらの瑕瑾が気にならない。まあこの映像性に比べたら、毒殺講義なんてどうでもいいくらい。「三つの棺」の密室講義は密室の「改め」みたいな側面があったから、これはこれで必要要素だと思うけど、本書の毒殺講義はただのペダントリの部類。
何といっても、本作は「魅力的な謎」でうまくカーが押し切れた成功作だと思う。心理の間隙を突く手品の原理をうまく使い切ったトリックなので、ミステリ固有の味わいもよく効いているうえに、映像の使い方にやはり憧れるし...名作じゃないかな。

No.20 7点 ミステリ初心者
(2019/06/24 21:10登録)
ネタバレをしています。

 新訳版を買いました。中学生ぐらいの時分、訳の古いカー作品を読むのを断念した記憶があります。しかし、最近は読みやすい日本語に訳された新訳版が発売されていて、非常に助かります!

 消える犯人、録画したビデオと食い違う証言…という魅力たっぷりな謎があり、この作者特有の安定して面白い不可能犯罪を楽しむことができ、満足しました。

 このトリックと、マーカスによる観察力を試す実験を絡めたところが、この作者の頭のいいところですね! 犯人以外の人間が、無意識に犯人に協力してしまっているのですが、それをほのめかすヒントがちりばめられており、好感が持てました(というか、ヒント過剰気味であり、普段さっぱり当てが外れる私でさえ察してしまうほど)。

 最後はハッピーエンド?で読後感がよかったです。こういうパターン多い気がしますね(笑)。

 この本を購入したときについていた帯のあおり文には、"毒殺ミステリの最高峰"ということが書いてあったのですが、毒殺ミステリっぽくなくてびっくりしました(笑) たしかに毒殺ではあるんですが…。なんか毒殺というと、いかにして特定の人物だけに毒をもることができたのか~みたいなものだと思っていたので。

 好みでない点を挙げるとすれば、フェル博士の紛らわしい発言と、後半の銃暴発事故です。いらないと思いました(笑)。

No.19 5点 レッドキング
(2019/03/11 11:29登録)
なるほど、毒殺の本質は虚栄心か。虚栄心から、ケレンミたっぷりの心理実験劇を演じる虚をつかれて、毒殺されちまう男ってのが、またエスプリ効いてて。
そういえばわが国でも「ヒ素カレー事件」って毒殺事件あったな。確かにアレもいろいろ「虚栄心」の臭いがした。

No.18 8点 弾十六
(2018/11/10 04:00登録)
JDC/CDファン評価★★★★★
フェル博士第10作。1939年出版。新訳(2016)で再読。
記憶に残ってたのは、実験で何か書いてるシーンがあって凄い傑作だった、という印象のみ。今回、新訳で再読(といっても40年ぶり)してみたら、それ以外はすっかり忘れていて、冒頭などは今回の新訳で初めて翻訳されたんじゃないのか?と疑う始末。犯人もトリックも全く覚えていませんでした。
強烈で異常なキャラが異常な状況を作り出すJDC/CDの独壇場。実験は素晴らしいの一言。(錯覚や錯視やロフタスが大好きです) 罠の連続が実にいやらしく探偵小説としては非常に上出来、なんですが、この話、エリオットの視点だけで主観全開で語ったらもっと盛り上がると思うんですよ。小説的に良いネタをぶつ切りにしてぶん投げるアンチノヴェリストJDCらしさですね…
ところで宇野先生の訳が悪いはずがない、と思って昔の文庫を見たら… セリフがとても古臭くて新訳は大正解ですね。
(これもフェル博士に歌と酒が付き物、という真理の発見前だったのでトリヴィアの記録はありません。歌が出てきた記憶もないのですが…)

No.17 7点 makomako
(2017/02/10 20:37登録)
 みんなの目の前でしかもフィルムを回しながら殺人事件が起きるという、なんともものすごい設定です。犯人とおぼしき人物は次々と指摘されるが、全員鉄壁のアリバイがある。よくもこんなお話が成立したとまず感心しました。推理小説ファンにはこたえられないです。
 ちょっと残念なのは犯人の推理が二転三転しながらは良いのですが、ちょっとくどい感じになってしまったところです。これだけいろいろやればくどくなるのもやむを得ないかなあ。
 カーの作品はそれほど読んではいませんでした。こみいった話である上に翻訳が悪く読みにくいのです。そういった悩みは今回の新訳でずい分解消されたようです。
 何篇か新訳が出ているようなので、読んでみようかな。

No.16 7点 E-BANKER
(2016/11/13 21:15登録)
1939年に発表されたお馴染みギデオン・フェル博士を探偵役とする長編。
長らく旧約のままだった作品が東京創元社より新訳版で登場!!
当然手に取って読むべしということで・・・

~小さな町の菓子店の商品に毒入りチョコレートボンボンが混ぜられ、死者が出るという惨事が発生した。事件を巡って村人が疑心暗鬼となるなかで、村の実業家が自ら提案した心理学的なテスト中に殺害される。透明人間のような風体の人物に緑のカプセルを口に入れられるという寸劇で、青酸を飲まされたのだ。目撃証言は当てにならないという実業家の仮説どおりに食い違う証言。事件を記録していた映画撮影機の謎。そしてフェル博士の毒殺講義。シリーズを代表する傑作ミステリー~

いやいや『さすがの出来栄え』という一言。
読後しばらくたった今だからこそこういう感想になるが、読後すぐの段階では正直「えっ?」と思うことが多かった。
密室を中心とする不可能趣味こそがJ.Dカーという先入観のせいなのか、本作の独特のプロットのせいなのか、とにかく違和感を感じさせられたわけだ。

でも、よくよく考えると、本作のスゴさが理解できてくる。
やっぱりマーカムの実験だ。
マーカムの十の質問には、作者の悪魔的な奸計が存分に込められている。
目の前で見ていたはずの三人の証言がことごとく食い違うのはなぜか?
そして何より、マーカムに毒入りカプセルを飲ませた犯人は誰なのか? 三人のうちのひとりなら、どのような早業でそれがなし得たのか? etc
それらの謎を見事に収束させる終章は読み応え十分。
とにかく円熟期とも言える作者のテクニックが満喫できる作品だろう。

ただ細かいところではアラというか疑問符のつくところがあるのも事実。
(最初の毒チョコ事件の方は単なる前フリだったのか?)
有名な毒殺講義も「三つの棺」で登場する密室講義と比べるとあまり響かなかった。
ということで他の有名作よりも高評価は難しいかな。

No.15 6点 mini
(2016/10/10 10:29登録)
つい最近2~3日前に、創元文庫からカー「緑のカプセルの謎」の新訳版が刊行された、旧版も古い訳だからまぁ新訳への切り替え移行の一環ということである

「緑のカプセル」は1939年の作だが、「テニスコート」「かぎ煙草入れ」「連続殺人事件」とかの40年代前半辺りの作は、初期のオカルティズムが影を潜め、不可能興味は有るものの怪奇色を薄めた一般的なパズラーが多い
パズル要素では流石にカーらしさは発揮しているものの、雰囲気作りという点ではちょっと薄味な作が多い
再び怪奇色も入れるようになるのは46年の「囁く影」以降だと思う
と考えると、時代的には丁度戦争中、つまり世界大戦中の作には何故かオカルト色が薄いという事になる
何かあれですかね、戦争の最中には小説中に怪奇色を導入するのに不都合な理由でも有ったのでしょうかね、再び怪奇色を入れてくるのと戦争の終結とがリンクしてますもんね

そういう流れからすると、「緑のカプセル」は怪奇色の薄い普通の本格っぽい傾向が始まった頃の作だと言えよう
そういう意味からすると、「緑のカプセル」はカーらしくない作ではある
一方で限定された状況設定での不可能性は強烈で、その点ではいかにもカーらしいとも言える
要するにさ、カーという作家に雰囲気や演出とかそういった要素まで求めるような読者には正直物足りなさは有るんだよね
逆にパズル要素や不可能興味しか求めずに、極論言えば雰囲気や演出を邪魔だと考えるようなタイプの読者にはぴったり合う作である
同作者中で他の作に比して、「緑のカプセル」の評価がかなり高い読者は後者のタイプなのだと思う

No.14 6点 nukkam
(2016/05/15 00:00登録)
(ネタバレなしです) 1939年発表のフェル博士シリーズ第10作はカーが得意とする密室や足跡のない殺人でなく、容疑者の大半にアリバイが成立してアリバイ崩しに挑んだ珍しい作品です。まあ鉄壁のアリバイだって一種の不可能トリックには違いないし、クロフツのアリバイ崩しミステリーと違って犯人当てとちゃんと両立させています。心理実験に隠された様々なトリックや落とし穴が謎解きの面白さを倍増させているのはさすが巨匠ならではの趣向です。また「三つの棺」(1935年)の「密室講義」ほどは有名ではありませんが、本書では「毒殺講義」があるのも興味深いですね。

No.13 6点 測量ボ-イ
(2016/04/21 21:05登録)
カ-の作品の中ではオカルト・怪奇趣味はなく、確かに「皇帝の嗅ぎ煙草
入れ」に近いテイストの作品です。
でも「皇帝・・」ほどシンプルなトリックで、読者をアッと言わせるイン
パクトに乏しく、私的評価は劣ります(皆さん高評価なんですけど)。
毒殺講義もありますが、「三つの棺」にある密室講義に比べると明快さ
に欠ける印象。

No.12 8点 あびびび
(2016/02/28 00:09登録)
ミステリというジャンル自体がオカルトなのかもしれないが、その上に題材がオカルトでは興味が薄れてしまう。自分とカーとの相性の悪さはそのあたりにあったと思うが、この作品は本格中の本格だった。

緑のカプセルというイメージから毒殺事件は間違いないのだが、あちこちに散りばらめた伏線の数々と寸劇の重要さ…特に撮影フィルムの謎。もともと容疑者が少なく、犯人の意外性は皆無だが、納得のいくフィナーレだった。

No.11 8点 青い車
(2016/02/18 22:50登録)
 『皇帝のかぎ煙草入れ』と同様、あまりカー特有のケレン味がない作品です。しかし、大胆なトリックが巧妙な伏線と相まって意外な合理性をもっているという点では、最高にカーらしい作品とも言えるかもしれません。駄菓子屋のチョコに毒入りのものを混ぜたトリックはシンプルな手品的手法ですが、その犯人を示唆するロジックが気が利いています。そして何より、何人もの目の前で無理やり毒を飲ませる殺害トリックは十分フェアであると同時にインパクトも抜群です。総じてバランスのとれた傑作だと思います。

No.10 9点 ロマン
(2015/10/20 11:02登録)

毒殺もののミステリはあまり数を読んでいなかったが、まさかここまで強引かつ堂々と毒を呑ませる犯人がいるとは思わなかった。普通ならまず有り得ないこの殺害方法を成立させるためには今作のようなシチュエーションが不可欠で、カーの優れたプロット構築能力を見せつけられた思いがある。「心理学的推理小説」の名に相応しい、鮮やかなトリックも見事。フェル博士による「毒殺講義」も盛り込まれ、読んでまず損はない一作と感じた

No.9 9点 斎藤警部
(2015/05/19 19:08登録)
意味ありげな題名に惹かれて若かりし頃手にした一冊。
最初から最後までテンションキープで期待を裏切らなかったけど、特にやっぱり謎解き部分が面白くて面白くて、ハラハラドキドキしたなあ。謎解き自体にあれほどエモーショナルなスリルを感じられて幸せだった。毒殺といういやらしい手段の事件相手に「トリック再現」「フィルム撮影」なんていかにも大きな心理の落とし穴がありそうなギミックの存在感も最高。全体的にざわざわした雰囲気の文章も凄くいいです。

No.8 8点 文生
(2015/03/06 13:09登録)
カーといえばおどろおどろしいオカルト趣味、ベタベタなスラップスティック・コメディ、大仰な密室殺人といったコテコテな要素が満載で手にしただけでお腹いっぱいになりそうなイメージがあります。
しかし、本作はそうした過剰な装飾物はなく、パズラーとしてすっきりした仕上がりになっています。プロットも実に良くできており、読者をだます手管はこれ以上ないというほど巧妙です。
中期の作品では他にも『皇帝のがき煙草入れ』『貴婦人として死す』という本書と同様の魅力を持つ傑作があり、カーは苦手だが、パスラーは好きという方におすすめです。

No.7 8点 了然和尚
(2015/02/12 18:47登録)
 ちょっと出だしがクリスティーっぽいですが、手がかりがよく示されている、出来の良い本格でした。
 75年ぐらい前の作品ですが、犯行の様子がフィルムで撮影され、しかもその中に偽装が含まれるという内容は、さすがカーです。見たものは録画されたものでも信用できないとは。
 

No.6 6点 ボナンザ
(2014/04/08 16:23登録)
毒殺講義もおもしろい!もちろん本筋も考え抜かれており、上級者が読んでも退屈しないでき。

No.5 7点 蟷螂の斧
(2013/11/08 17:22登録)
「心理学的手法による純粋推理小説」と銘打った本作。物語の展開、心理実験、警部の恋心など申し分なし。容疑者も4人と少なく、アリバイがある。さて・・・といったところですが・・・。減点要因は、子供の犠牲者が出た毒入り事件のトリックと、心理実験のカラクリの一部に好きでない部分があったことです。心理試験は本当に盲点でした(苦笑)。

No.4 7点 kanamori
(2010/07/01 23:19登録)
フェル博士ものの第10作。
不可能犯罪を扱っていますが、密室殺人ではなく、毒殺トリックを扱った秀作です。
物理的なものより、このような心理的トリックは、ヤラレタ感が強いですし、終盤の映画フィルムの件も非常に巧妙で、考え貫かれたプロットという感じがします。

No.3 8点 ミステリー三昧
(2010/05/15 12:11登録)
<創元推理文庫>フェル博士シリーズ10作目(有名な?)「毒殺講義」を含むカーの代表作
毒入りチョコレート事件というネーミングだけで一冊の小説が書けてしまいそうなほど、インパクト大な序盤の展開。そのテーマをためらいなく3章以降から脇に置いてきぼりにしてしまうカーの余裕とサービス精神が伝わる魅力に溢れた一冊でした。
肝心の真相なのですが、実際、毒入りチョコレート事件の真相は肩透かしでした。序盤の展開はなくても問題ない気がする。それだけに子供が可哀そう。
メインである実演会の実態なのですが、これは「おいおい、ありかよ!!?」といったズル賢さが満載。私としては盲点に引っかかりまくりで何一つ本質を見極められず、ホント頭が下がる思いでした。まぁ、深く考えたわけではないんですけど・・・ここで一つだけ苦言を呈すなら、このトリック「そんなに上手くいくかな?」というのが第一印象。確かに至る所に罠が散りばめられている分、ある突破口を指し示す手掛かりも同時に分散されている訳でアンフェアには成り得ないのですが、素直に納得できない部分が多少あってモヤモヤ気味。ただ、フーダニットはこの人でしかあり得ないという状況作りはかなり巧いですね。実演会で「実際起こったこと」が分かれば、犯人も分かる、毒入りチョコレート事件の真相も分かるという構成には間違いなくなっているので、何とも言えない細かなディティールの利いた傑作でした。

No.2 9点
(2009/01/12 12:06登録)
カーに限らず、犯人以外の登場人物が事件を複雑化するミステリはかなりの数にのぼると思いますが、この作品では特に、被害者が犯人と共同して読者を騙しにかかってきます。要するに被害者が考え出したトリックを犯人がうまく利用したということなのですが、それが実に巧妙にできているのです。
犯行を証明する決定的証拠は、読者には全く予想しようのないものですが、その証拠がなければ推理が成り立たないわけではありませんし、フェル博士の名前が出てくるところがユーモラスでもあります。緻密に構成されたパズル小説が好きな人にとっては満足のいく作品だと思いますが、派手な展開を期待する人向きではありません。

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