ビッグ・ボウの殺人 別題「ボウ町の怪事件」 |
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作家 | イズレイル・ザングウィル |
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出版日 | 1954年12月 |
平均点 | 7.72点 |
書評数 | 18人 |
No.18 | 9点 | みりん | |
(2024/10/20 02:11登録) まさに青天の霹靂…実にショッキングな出来事であった…私が好きな某推理漫画の中でベストトリックに堂々と認定していたものが、まさか1892年で既に編み出されていたなんて… ソチラの方では他の方々が指摘しているようなトリック露呈の可能性を著しく低めてはいるものの、ほとんど本作のアイデアの流用であった。少年時代にソチラで味わった時の衝撃を本作の評点に加味して9点とする。心理密室の元祖であることやトリックのシンプルさ・独創性・破壊力を考えても『黄色い部屋の謎』より有名になるべき作品な気がします。いや、もう十分有名なのか?また、トリックだけでなく幕引きも完璧です。 ※こちらも「みんな教えて」の「この密室トリックがすごい ベスト5」にてお二方が挙げていたので読みました。カルチャーショック! |
No.17 | 7点 | クリスティ再読 | |
(2022/06/08 09:50登録) このところのクラシック・シリーズの最後は、密室長編の嚆矢で〆よう。 本作の凄いところは、実は年代である。1891年に新聞連載された作品だから、要するに「シャーロック・ホームズの冒険」の連載と同じ時期だったりするのだ。だから「ホームズの影響」がある作品なのか?というのがポイントなんだけども、これが「ない」と見るのが実情なんだと思う。 語り口はチェスタートンをコミカルにした雰囲気。確かにアングロ・カトリシズムをベースにした「マイノリティ文学」のチェスタートンと同様に、ザングウィルのバックグラウンドはユダヤ人ゲットーであり、「イギリス社会のマイノリティ」としての社会批判の切り口がなかなか冴えている。作中の追悼集会(老グラッドストンまで参加!)での労働運動活動家逮捕が暴動になるあたりでも、たとえば1887年のトラファルガー広場での「血の日曜日」事件などが反映しているんだろうね。 とはいえ、筆致は深刻ではなくて、ユーモアを湛えつつも、辛辣な観察が覗くというタイプのもの。「ゲットーのディケンズ」という評価がこの人にはあったようだ。靴直しのクラウルの、愛すべきキャラであっても浅薄な知識を振り回して周囲を辟易させるが、インテリの詩人だけがそれにマウントされちゃう...といった造形のうまさを見れば、ディケンズになぞらえられるのも納得。 ミステリとしては、やはりこれが「探偵競争モノ」だ、というあたりを指摘すべきだと思う。一般的な「長編探偵小説のフォーマット」として1920年代くらいまではこれが存在していたようにも見受けられる。このところ「奇岩城」「黄色い部屋」と取り上げたクラシックがすべて「探偵競争」を軸にプロットが動いているわけだ。この終点がたぶん「ローマ帽子」とか「髑髏城」になるんだろうけどもね。しかし、ホームズは絶対的なヒーローであるからこそ、ドイルには「探偵競争」はありえないわけで、ヒーロー小説としての「ホームズライヴァル」とは別な流れを「探偵競争モノ」に求める観点もあるのではないのだろうか。 密室トリック自体のフィージビリティに疑問を持つ向きがあるのは、当然と言えばそうだが、殺害方法をたとえばアイスピックで延髄を一撃!でも成立する話なので、それに難を付ける必要もないだろう。 「アリバイって、なあに?ビー玉遊び?」 (アリバイの説明...) 「ああ、ずる休みのことか」 今の我々からは「ナイーブ」にしか見えないものも、実は複雑な来歴を備えているものなのである。 |
No.16 | 7点 | makomako | |
(2021/01/17 09:03登録) 中編というべき比較的短いお話の中のほとんどが、密室の推理にあてられているといってよいでしょう。 100年以上前にこんな密室を考え出したことは誠にすごいことです。十分に楽しめました。 そして私の常ですが、密室のからくりは見破れず、犯人も全く分からずでした。 以下ややネタバレ 密室の回答は二つ示されます。二つ目が正解で、これが錯覚を利用した密室の最初とされるものなのだそうです。 私には初めに示された回答のほうが穴がなくてすっきりしましたね。これも錯覚を利用したといえばそうなのですが、ありうる方法なのではないでしょうか。 最終回答は実は医学的には成り立たなさそうに思えてしまいます。 いくら即死でも出血がほとんどないのはあり得ない。首を切って死に至らせるには動脈を記っての失血死か首の骨の中にある神経ごときっての即死かのいずれかと思いますが、神経ごと切るには剃刀では難しそうだし、剃刀の達人だったとしても相当に勢いよくやらないと無理であろうから、このシチュエーションでは必ずきずかれてしまいそうです。またどんなにやっても心臓が少しの間は動いているのでやっぱり大量に手が飛び散るものと思いますので、やっぱり気付かれるのでは。 ああ。こんなこと言っていないで、古典的作品に敬意を表すべきなのでしょう。 |
No.15 | 6点 | ミステリ初心者 | |
(2020/12/28 19:38登録) ネタバレをしています。 長編としては最古の密室(たぶん)という作品だそうで、乱歩も絶賛していたとか。前から読みたかったのですが、なにやら復刻されていたようで購入(笑)。 古典ですが読みづらさはないです。登場人物も適度で、割とすぐに密室殺人が起こります。途中、2回の法廷が挟まれ、簡単に事件の概要を理解できます。 結末はかなり衝撃的…?というか、意外な犯人です。読者の裏をかく工夫がなされており、現代の読者でも退屈しない内容でした。 私は、登場人物の少なさと密室の強固さから、一度はグロドマンを疑いましたが、ドラブダンプ夫人の存在のせいでグロドマンには犯行が不可能と思いました(笑)。 以下、好みではない点。 ・密室物の"どうやって入った、どうやって出た"という魅力はイマイチでした。いわゆる、心理的密室というやつでしょうか。嫌いではないのですが。 ・犯人にとっての密室がアリバイ工作などではなく、他人からみて必須ではない点。最近の密室のような理由が、最初期にあったとは(笑)。むしろ評価点か(笑)。 ・ドラブダンプ夫人の行動は、すべて犯人の思い通りにいくとは思えません。ドラブダンプ夫人がグロドマンを呼ばなければ事件は起こりえないのですが、グロドマンが「呼ばれなかったら殺さなかった」とか言ってます。これを推理するのは難しい。そして、ドラブダンプ夫人の見ている前で殺しが起きてます(笑)。しっかり目撃される危険性だってあったはずです(笑)。結構運に頼ってませんか? ・また例の"世界最古の密室"のネタバレがされてらぁ。 |
No.14 | 7点 | ◇・・ | |
(2020/03/29 17:14登録) 密室ものとして画期的な作品で、小説としてもキャラクターが楽しい。 何が優れているかというと、トリックに対する手掛かりの与え方や論証の方法が近代的なところ。それに基づいて論理的な推論を行い、解決しているから先駆的で洗練されている。 ただし、饒舌体の文章なんか、ディケンズかと思うくらい古めかしいし、物語としても古臭さを感じる。 |
No.13 | 6点 | レッドキング | |
(2019/03/03 00:48登録) 「心理的」密室トリックの元祖とのことなので、その世評信じて2点オマケ付き。特許権は大事だから。 ※ところで「物理的」密室トリックの元祖って何て小説なんだろう。 |
No.12 | 5点 | 風桜青紫 | |
(2016/07/06 13:01登録) ミスリードがうまくて結末はけっこうビックリした。……ぐらいか。本格ミステリの中編として今でも十分楽しめる出来だが、平均8.36点はいくらなんでも高すぎた。 |
No.11 | 10点 | あびびび | |
(2015/12/06 18:50登録) 久しぶりに歴史的な名作に出会った…という興奮。事件、密室、エンディングと完璧である。自分はそう感じた。特に、エンディングの素晴らしさ。登場人物が少なく、薄々感じる犯人だったが、その独白で自殺せざるを得ないという状況。これは見事としか言いようがない。 久しぶりの10点満点。9点にしようかと思ったが、自分の度量のなさを反省し、急きょ変更。しかし、作者はロシア系ユダヤ人で、ユダヤ関連の作品が有名。ミステリはこの一冊だけだったという事実。これも凄い。 |
No.10 | 9点 | ロマン | |
(2015/10/20 11:04登録) 19世紀に誕生した密室殺人の起源となる作品。当時の時事問題に関心がないためそれを中心に繰り広げられる人間関係にもあまり乗れなかったが、法廷シーンを経て明らかになるトリックは、まさしく密室の起源に相応しい、今となっては誰でも知っているあのトリック。意外な犯人、意外な動機。How Who Why、すべてそろった見事な作品が19世紀に完成されていたことに驚いた。ミステリとしての驚きを期待すると肩すかしかもしれないが、100年以上の時を経ても圧倒的な輝きを放つ傑作。 |
No.9 | 7点 | 斎藤警部 | |
(2015/06/22 15:54登録) このユーモア原理主義は大いに有りでしょう。地の文からしてフィリップ・マーロウの台詞に匹敵する含蓄をいちいち感じます。 例の歴史的密室トリック及びそれと密接に関わる意外な犯人像も、短くも怖ろしく密度の高い物語を経た後に見せ付けられるとあらためましての衝撃。今となっては貴重な歴史証言と言える社会派要素も丁寧に織り込まれ、当時かなりの先取りだったであろうミステリ要素の濃厚な文芸作品として玩味に堪えます。 余談ながら「人種のるつぼ」なる表現は彼の戯曲が発祥と言われているそうですな。 *ところでこの密室トリック、実生活でもけっこう応用効きますね |
No.8 | 8点 | ボナンザ | |
(2015/02/27 00:40登録) 当然これを今発表されても5点がいいとこでしょう。 しかし、この時代にこれだけの斬新さを持っていたこと、逆に言えば今現在でも標準点は付けられる出来になっていることを考えればこの点数になるでしょう。 |
No.7 | 10点 | nukkam | |
(2014/08/15 16:52登録) (ネタバレなしです) ロシア系ユダヤ人とポーランド人の間に生まれた英国のイズレイル・ザングウィル(1864-1926)はジャーナリストやシオニスト(ユダヤ民族主義者)としての活動がキャリアの中心でミステリー作品はわずかに本書と短編1作のみですが書かれた時代を考えると本書は驚異的にハイレベルの作品です。現代ミステリーや黄金時代(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間)のミステリーを読み慣れた読者には目新しくないかもしれませんが、本書が発表された1891年当時の読者にとっては衝撃のトリック、衝撃の結末ではないでしょうか。冒頭に作者による序文が付けられていますが、「物語の主要部分でデータは全部出しておかなければならない」と、この時代にフェアプレーを意識していたこともまた革新的です。30年後の作品と言っても通用しそうな先進性が際立っています。 |
No.6 | 7点 | take5 | |
(2013/09/28 18:56登録) 200ページで密室、ミスディレクション、イギリス労働者階級、人生晩年のひあい、自家中毒…が読めれば高評価です。 ウィットが読むスピードに影響して、現代ミステリーの倍は時間がかかりました(´`:) 何故も、ミステリーのトリックも先人の知恵の上に立つ(建つ)ものですから、敬意を表したら後1~2点足してもいいかなあ。 |
No.5 | 8点 | 蟷螂の斧 | |
(2013/02/16 22:32登録) 密室(心理的トリック)の元祖とのことで拝読。単純明快さという点で「黄色い部屋の謎」よりも上位に位置付けたいですね。密室の評価よりも、動機と犯人の独白に至る経緯が秀逸であると思いました。犯人にとって、喜劇でもあり悲劇でもあったというところです・・・。 |
No.4 | 7点 | 臣 | |
(2012/02/23 10:20登録) うわさに違わぬ凄い作品だった。 ただ、本作には多くの瑕疵があります。 (1)短すぎること、さらに中盤を飛ばして読んでもけっこう楽しめること プロット(というか物語の構成?)があまり上手くないということか? まあ、ミスディレクション重視ということなのでしょうか。 (2)who how why のすべてが揃っていること 動機が理解しがたいことや、(空さんも指摘されている)トリックが読者に悟られにくくするためにきわめて危うくなっていることなど、現代の視点でみれば、もろさがあります。でも、すべてのミステリ要素が絡み合って結果的にうまく仕上がっていることも事実です。 (3)アンフェアそうにみえてそれほどアンフェアではないこと もっともっとアンフェアに仕上げていたら、「アクロイド」「そして」ぐらいの超有名作になったのでは? 以上はもちろん長所でもあるのですがね。 実は上記以外にも多くの欠点があり(たくさんあって挙げきれません)、総合的に判断すれば6点ぐらいが妥当ですが、100年以上も前に書かれた元祖密室トリックの代表作に敬意を表して、この点数です。 |
No.3 | 10点 | おっさん | |
(2011/12/27 19:41登録) 「その十二月初めの忘れがたい朝、目を覚ますと、ロンドンは凍えるような薄墨色の霧に包まれていた」と始まる、この短めの長編は、1891年(『ストランド』誌にホームズものの読み切り連載がスタートした年)に、夕刊紙 London's evening star newspaper に連載され、翌年、単行本化された、ジャーナリスト作家ザングウィルによる、探偵小説パロディの古典です。 ボウ地区で発生した大事件(ビッグ・ミステリ)――密室殺人の謎解きをめぐって、新聞紙上で侃々諤々の投書バトルが繰り広げられるくだりは、何回読んでも面白い。 犯人は猿だろ・・・いや窓ガラスをこう、はずしてだな・・・じつはドアの陰にパッと隠れて・・・違う、外から磁石で掛け金を・・・(ああ、ネットの書き込みみたいだw)。 事件の真相は、推理ではなく告白形式で開陳されますが、作品の狙いを考えればこれは当然の処理で、ドタバタの果てにその告白を導く段取りが、きちんと出来ています。 メイン・トリックは、密室への心理的なアプローチとして画期的なもの。ただし、具体的なその方法だけを抜き出せば、じつは必然性と蓋然性の低い“密室のための密室”です。 それをカバーしているのが、異様な犯行手段と異様な犯行動機を結合する、“犯人の物語”なのですね。 本書はまた、意外な××トリックの古典でもあるわけですが、筆者としては今回の読み返しで、ガボリオが『ルルージュ事件』で試した犯人視点の採用という手法が、ミスディレクションとしてより積極的に活用されている点に、目が向きました(犯人設定で同一トリックにカテゴライズされる、ポオの前例とは料理法が異なります)。 ただし、場面によって視点を固定化するわけではなく(まだ、そうした近代小説の技法は確立されていない)、作者の恣意で人物の内面を自由に瞥見させる手法なので、厳密なフェア、アンフェアの観点からは、微妙なところではありますが・・・。 いっぽう、風俗描写(被害者がそのリーダー格だったため、当時の労働運動が描かれる)と人物スケッチも味わい深く、時の経過とともに二大トリックの衝撃性は失せても、読み物として再読、三読に耐える、笑える古典としてオススメできます。 探偵小説への皮肉なアプローチという面から、チェーホフの『狩場の悲劇』(1884-85)と合わせて鑑賞するのも一興でしょう。 |
No.2 | 7点 | 空 | |
(2010/07/24 13:38登録) 密室トリックの一つのパターンを確立したことであまりにも有名な作品。同じ手は後にチェスタトンも使っていますし、高木彬光の長編にも応用例があります。1930年頃でさえすでによく知られていたトリックですので、原理だけを見れば、がっかりする人も当然いるでしょう。 しかし、ただ原型というだけでなく、融通のきく殺人計画はよく考えられていると思います(不自然で危ういトリックの方が読者に悟られにくいから優れているという説には賛成できません)。また、密室トリックを自然に行える犯人の人物設定が、犯人の意外性にもなっていますし、1891年という早い時期なのに叙述トリック的な文章があるなど、さすがに古典として賞賛される作品です。解決の仕方は推理展開を重んじる人には不満でしょうが、皮肉な結末もあることですし、特に年代を考えればこれでいいと思います。 |
No.1 | 9点 | あい | |
(2008/05/16 22:44登録) 密室殺人を語る上で欠かすことができない作品。発表年数を考えると、密室殺人に正面からぶつかっているし、トリックも密室殺人の新たな分野を築いた作品だと思う。今でこそ色々なアニメや漫画で使われてしまっているので驚きは薄いと思うが・・・ |