皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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クリスティ再読さん |
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平均点: 6.39点 | 書評数: 1444件 |
No.1344 | 5点 | 魚雷をつぶせ- ジョルジュ・ランジュラン | 2024/12/30 18:17 |
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「ハエ男の恐怖」として映画化された、この人の「蠅」が面白かったこともあって、もう一作ある翻訳の本作をやってみよう。
このランジュランという人、名前もフランス人だしフランス語で著作するのだけど、実はイギリス人。しかも第二次大戦中はスパイ組織で活躍したという経歴があり、このスパイ小説にもしっかりその経歴が反映。NATOの情報部員として、フランス人のルイ・グルナ・ド・フォンシーヌ少佐とイギリス人のサンディ・グラント大尉がコンビを組んで活躍する。イギリス人が「蠅取り紙」として目立つ動きを見せてターゲットを牽制し、その隙をついて潜行するフランス人がキメる、役割分担のコンビである。 なのでイギリス人の方が、本作でも敵に捕まって美女スパイとしっぽり、というプレイボーイっぷりを披露。フランス人の方はイケオジ風で、敵方の使用人の少女とコンタクトして「伯父さん」として潜入。まあだからバディ物スパイ小説とは言え「ナポレオン・ソロ」のナポさんとクリヤキンのコンビみたいな味わいはないな。 でこのシリーズは、このランジュランが総監修するかたちで、他の作家にも執筆させるという企画もの。残念ながら翻訳は本作のみ。スパイ小説ブームを当て込んで企画された、エンタメ・スパイ小説シリーズということになる。それでも「経験者」のランジュランだから、リアルと言えばリアル。しかし、リアルなプロセスに踏み込んでいることで、やや地味な印象。 敵方も元ナチのシュラハト博士。東側の依頼で原子力応用で何年も潜航しっぱなしOKの潜伏型魚雷を発射する施設を管理する。ヴィランというほどの押し出しはないなあ。というわけで悪くはないが平凡なスパイ小説。期待したわけではないが、ランジュランという作家への関心で読んでみた。 |
No.1343 | 5点 | 酔いどれの誇り- ジェイムズ・クラムリー | 2024/12/27 16:19 |
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主人公ミロはモンタナ州の田舎町メリウェザーの没落した名家の出身。
おれのおやじは飲んだくれだった。おふくろも飲んだくれで、あげくのはてに自殺した。おれの人生は、あまりバラ色だったとはいえない。おれには人格もないし、宗教心もないし、人生に目標もない。 と共同経営する「マホニイ」という酒場で飲んだくれる日々。地元名家出身だからか小銭にピーピーしているわりに資産はあるようだ。まあだからまぎれもなくジモティで、スモールタウン物といえばそういうことにもなるか。 そんな田舎町だが、ヒッピーが流入して地元民とトラブルを起こしていることが背景にある。そんなヒッピーの中でも強面のオカマ、リースの腰ぎんちゃくだった男がオーバードーズによって酒場のトイレで突然死。その姉から弟の死の真相究明をミロは依頼される... おれの名前は、ミルトン・チェスター・ミロドラゴヴィッチ三世。職業は酔っぱらい。神様も公認さ と御大層な名前のわりにスラブ系で、西部植民の末期に無法者を退治した曾祖父から司法官の家柄として続いた不肖の末裔....だが、その曾祖父の手柄がこの事件にも少しばかり影響していたりする。西部のどん詰まり、夢破れた姿というべきか。 まあそんな小説だから、ミロ自身正当防衛で2人ほど作中で殺したりして、西部劇風の荒々しい背景が見えたりする。それにもかかわらず、ハードボイルドか、というとかなり疑問。不幸自慢してしまうような主人公じゃ、ハードボイルドにはならないよ。ハードボイルドの「非情さ」には都市住民の「心を見せない」クールさが不可欠なんだと思うんだ。ジモティにはハードボイルドである条件を満たすのは難しいや.... 読んでいて連想したのは「ディア・ハンター」。あれもスラブ系の狭いコミュニティ出身者たちの湿度の高い話。 |
No.1342 | 6点 | ハートの刺青- エド・マクベイン | 2024/12/23 11:29 |
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87の四作目。三作目「麻薬密売人」のラストで瀕死の重傷を負ったキャレラが、見事復帰。シリーズはめでたく継続。というわけで、真の意味でのシリーズ開始作、と言ってもいいのかもしれない。
2〜4作は原題でいうと"The Mugger","The Pusher","The Con Man" と、「強盗」「売人」「詐欺師」と犯罪者の類型が作品タイトルになっている。そういう狙いがあったんだろうね。 というわけで本作だと「ハートの刺青」をした女の死体が川から続いてみつかる話と、ケチな詐欺師の話がカットバック。女殺しも結婚詐欺の凶悪なタイプのわけで、「人生すべて詐欺の連続」という「大テーマ」によるまとまりを狙っている。まあけど、これって「気の利いた人生の教訓」というもので、説教くさいな(苦笑)2つの事件が関連が薄い、というご批判もありがちだが、ここらへん初期の試行錯誤のうちだろう。本作だとハヴィランド刑事の油断がテディのピンチにつながるわけで、「暴力刑事」として不人気なハヴィランドは次の「被害者の顔」でお役御免。ここらへんも初期の試行錯誤が露わなあたりだろう。 とはいえ、テディ大活躍の本編、テディのファンにはうれしいよね。あとクリングくんも刑事としてサマになってきて、クレアとの恋も進展。事件も結婚詐欺で冴えないオールドミスの恋が背景。そんなラブラブな話が人気の理由じゃない? (でも、なぜかポケミスの登場人物一覧がテディ・キャレラを落としている。失礼ではw) |
No.1341 | 8点 | 忙しい蜜月旅行- ドロシー・L・セイヤーズ | 2024/12/21 20:43 |
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大まかにだけども、評者も執筆順で読もうかと思っていたから、セイヤーズの長編ラストは本作。ピーター&ハリエットの男女物語としてはやはり順を追わないと「腑に落ちる」ことにはならないだろうね。だから最低でも「毒」「死体をどうぞ」「学寮祭の夜」本作は、この順番で読むことをおすすめする。
「学寮祭」のラストでようやくプロポーズを受けたハリエットが、本作冒頭でゴールイン。晴れて「レディ・ウィムジイ」とか呼ばれてしまう。 「はい、おそらくは、奥さま」 〈奥さま〉−こんな事態をバンターが受け入れてくれるとは、彼女は考えてもみみなかった。ほかのみんなはともかく、バンターだけは無理なはずだった。だがどうやら、そうではなかったらしい。 評者も思わず目頭が熱くなる。新婚旅行はハリエットが子供時代を過ごした村で、憧れの家を借りてのものになるはずが....不測の事態に見舞われて、新婚夫婦の間にもいろいろと波乱も起きる。コージーというには筆がしっとりとしているし、ユーモアにしてはハイブラウ。シェイクスピアを引用しまくりでロマンチックな「いいムード」になったところにお邪魔虫が...という笑える場面もあるけども、お互い若くはない新婚夫婦ということで、気遣いすぎて遠慮めいてしまう感情もあれば、シリーズの中で隠れたテーマでもある「ピーター卿の弱さ」を「強い女性」のハリエットが受け入れるというシリーズ全体としての「決着」もある。 いやこのシリーズ、ピーター卿って、弱さを克服して「強く」ならないことに、その「独自の個性」があるんだろうな。その「弱さ」に開き直るのでもなく、否定するでもなく、自然に受け入れるあたりに、このシリーズの良さでもあり、単純な「名探偵」小説にしないセイヤーズの見識が伺われる。 創元のオマケの「〈トールボーイズ〉余話」では、三人の男の子に恵まれたピーター卿夫妻の後日談が語られる。長男のブリードンの悪戯から、男の子の自然な「強さ」みたいなものがテーマかな。だから、父になったピーター卿が我が子のために「子供に帰る」姿に、妙に泣けるものがある。+1点したいな。 さてこれでセイヤーズも長編はコンプ。来年は短編集を3冊片付けたい。大体ピーター卿登場作はカバーできるみたいだ。 |
No.1340 | 6点 | 日時計- クリストファー・ランドン | 2024/12/14 14:38 |
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いやこういうの、好き。
悪漢に誘拐された少女の居場所を写真の「日時計」からフランス・ロワール地方のシャトーに突き止めて、ハリー&ジョウンの私立探偵夫妻と友人のジョシュのトリオによるその少女の奪還大作戦! 魅力はサクッと軽いその舌ざわり。軽妙かつユーモラス...なんだけども、とくにギャグがあるわけではなくて、叙述から伝わってくるそこはかとないユーモアが大変魅力的。それを丸谷才一の筆がうまく伝えている。ジョシュがトリックスターみたいな役割を果たして、うまく状況を掻きまわす。それが「牽制作戦!」 まあ犯罪自体には麻薬密輸に絡んでの「ゆるめ」な犯罪企図もあるんだけど、ここらへんはまあ、リアルとか言っても仕方ない。それこそエーリッヒ・ケストナーの「消え失せた密画」とかそういう「ゆるくて、楽しい話」としてのスリラーということである。しいて言えばクリスピンとか近いのかなあ。 なぜか創元オジサン印で出たために、損している印象もある。「本格」という概念が偏っているといえばそうだけど、こういうのが王道英国スリラーとだとも思うんだ。 |
No.1339 | 5点 | ライノクス殺人事件- フィリップ・マクドナルド | 2024/12/12 14:59 |
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「鑢」がテンポよく軽快に読み進められたので、期待しすぎたかな。
構成の工夫はともかく、要するに「映画的」を狙って書かれたミステリ、ということにはなる。「映画」の「写っているものしか分からない」即物性を利用して、プロットをわざと「虫食い」状態で提示することで、パズラーらしい謎というよりも、叙述トリック風の仕掛けを実現した作品だと思う。 まあ何となく真相は勘づく気もする。マーシュとジェイムズ船長と、不愉快な人物が二人も登場するのは、あまり印象がよくないな。いい面は、ビジネスマンらしさがしっかり描けているあたりだろうか。 まあ考えてみれば、20世紀前半にはヘミングウェイ・ハメット流の「ハードボイルド」以外にも、映画的な即物性とスピード感による「映画小説」というものは、結構試みられているものでもある。ドス・パソスの「USA」もそうだし、ブレヒトだってそう。そのくらいに映画というメディアが小説に与えた影響というのも大きなものがあると思っているよ。だからフィルマクの「映画っぽさ」というのは、単にシナリオライターで成功したから、というだけではなくて、そういう「映画小説」の流れにあることが大きいようにも感じる。 |
No.1338 | 6点 | 銀のカード- ボアロー&ナルスジャック | 2024/12/12 10:42 |
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評者も年を喰ってきたわけで「あとはニコニコしながらあの世に行くのが仕事」なんて公言したりもするんだよ。そんな「老年」を扱ったのが、ボア&ナル最後の訳書の本作。結局ボアローの死去(1989)の後にナルスジャックがまとめたのか、共作名義で1991年まで本が出ていたりして、未訳が15冊もある。評者は後期ボア&ナル大好きだから、きっと気に入る作品もあるだろうな、と残念なところでもある。
あらすじなどは人並さんのご書評がよくまとまっているので、そちらに譲る。要するに、老いらくの恋とはいいながら、やっぱり肉体的には老いているために、エネルギー不足でなかなか「燃え上がる」とはいかない不倫の話。この不完全燃焼感の中で、主人公のエルボワーズは、愛人?のリュシイルが、自分にとって都合の悪い養老院仲間を事故に見せかけて殺しまくっているのでは?という疑惑に駆られる。だから結構初期っぽい心理主義に戻っている雰囲気はあるけども、恋にも疑惑にも主人公がのめり込まないあたりに、ヘンな新鮮さがある。 そのうち「あの世に行くよ~」と思っていたら、殺されたってどうということもない。そんな諦念がベースにもあるために、サスペンスならざるサスペンスと言った、独特な読み心地になっているわけだ。 だからミステリとしてはかなり「奇抜」な狙いだけど、「一発芸」に近いのかな。作者に覇気がある、とも逆説的にいえなくもない(苦笑) というわけで、今後もボアロー・ナルスジャックの単独作は拾っていきたいけども、とりあえずこの合作コンビとしてはコンプ。ベスト5は「悪魔のような女」「女魔術師」「思い乱れて」「呪い」「私のすべては一人の男」。 「死者の中から」「殺人はバカンスに」あたりがそれに続くかな。 今回コンプして「殺人はバカンスに」以降の後期作もしっかり面白いことが確認できたのがよかった。 |
No.1337 | 8点 | 殺人者の湿地- アンドリュウ・ガーヴ | 2024/12/11 18:09 |
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わお!これは凄い。よくもまあこんな作品が長らく訳されてこなかったものだ。評者のガーヴ最終作で、こんなオタカラとブチ当たるとは思ってなかったよ。
評者未読の某日本作品とも同じネタ、とあとがきにもあるが、先日評者が書評した松本清張の某作とも、実は同じネタだったりするんだよ。振り返ればガーヴは1908年生まれ、清張は1909年生まれ。完璧に同世代の上に、ガーヴだって「社会派」と呼ばれる作品がいくつもあるし、ポリティカルスリラーもあれば、犯罪小説とパズラーを合体させたタイプの作品は両方とも得意技だ。いや、ガーヴってイギリスの松本清張かもしれないぞ! なおかつ、本作だと全体的な構図がとってもアイロニカルなもので、評者なんて大喜び! 攻防感のある「倒叙」かつ、視点を変えることで伏せた「意外な真相」。それこそコロンボ見て犯人を応援するような感情を、久々に味わった(苦笑) いや犯人サイコパスで悪い奴ヨ.... ガーヴって「ウェルメイド」にこだわった、評者に言わせれば「理想的な大衆作家」なんだけども、その根底にはしっかりとした「ミステリの素養」が潜んでいて、時折王道ミステリで勝負してくれる作家だと思う。今回本作で翻訳済みのガーヴの長編は全作書評できたことになるけど、実に楽しかった! 敬意をこめてベスト5〈順不同)。 「地下洞」「メグストン計画」「ギャラウェイ事件」「遠い砂」「殺人者の湿地」 けど、ガーヴって特にいうほど駄作がないのも凄い。しいて言えば「D13峰登頂」くらい? |
No.1336 | 7点 | 蠅(はえ)- ジョルジュ・ランジュラン | 2024/12/09 16:54 |
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異色作家短篇集といえば「奇妙な味」が売り物、というかその代名詞みたいなシリーズ。どうしても常盤新平趣味の英米作家中心になりがちで、フランスっぽい名前で興味がわくが、確かにフランス語作家、でもイギリス人でMI5勤務歴があるという困った作家(苦笑)
でもね、サブカルの上ではこの表題作が映画「ハエ男の恐怖」「ザ・フライ」の原作、物質電送機に紛れ込んだ蠅と合体してしまうマッドサイエンティストの話として、極めて影響力の高い作品なんだ。語り口も巧妙で、頭と片腕が巨大ハンマーで潰れた状態で発見された死体から始まり、その妻が「アタマの白い蠅」を探すのはなぜ?という謎を絡めて、「変身の悲劇」を謳いあげる。単純なホラーという感覚でもなく夫婦愛の話でもあり、完成度が高く、ちょっと「おお!」となる。 同様にホラーに寄った作品だと、収録最後の「考えるロボット」。ポオが扱った「メルツェルの将棋指し」と同様なチェス・ロボットの謎だけど、その指し筋が死んだ友人にそっくりなことから、製作者のマッドサイエンティストの秘密を暴く話。SF発想のホラー、かな。 「彼方のどこにもいない女」は深夜の放送のないTVに現れる女に恋をした男の話。この女は長崎の原爆投下の中心にいたことで、次元の違う世界に転移してしまい、主人公はその女に会うために....とSF発想のラブストーリー。フィニイに似た感覚の話があるけども、フィニイの予定調和の甘さがなくて、何というか違和感の強い結末になる。不思議な作風だな。 暗い、というわけでもない。 たとえば「奇跡」なら、列車事故で足がマヒしたフリをして補償を得ようとするズルい男の策略と因果応報。「安楽椅子探偵」なら"おじいちゃん"と呼ばれる意外な探偵役の叙述トリック(風)。とか、「御しがたい虎」なら動物に催眠術をかけて遭遇した悲惨な話だし、「他人の手」なら自分のカラダが勝手に犯罪を犯すのに困惑する男。「最終飛行」ならコウノトリに導かれて事故を回避した機長...とこんな感じでバラエティに富んでいて、しかもそれぞれの完成度が高い。 ちょっとした異能作家、と呼ぶべき。 ポケミスでスパイ小説「魚雷をつぶせ」が訳されているので、近々やろう。 |
No.1335 | 7点 | 火神被殺- 松本清張 | 2024/12/06 10:30 |
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ヘンに党派的になって清張否定論をいう方もいるようだが、評者に言わせれば清張って結構なトリックメーカーであり、ロマンあふれるエンタメの書き手として、ミステリ界の巨人であることを否定するのはどうかと思うんだ。
と言いたくなるのは表題作の「火神被殺」って、清張らしいリアルなトリックとミスディレクションが炸裂した好編だと思うからだ。今のDNA鑑定になると問題もあるけども、ごく最近までは本作の秀逸なトリックはしっかりと通用し、それをオオツゲヒメの「食品起源説話」を巧妙に使ったミスディレクションで導いて、古代ロマンとトリッキーなミステリ、そして清張の出世作「或る『小倉日記』伝」で取り上げたような「ハンデを抱えた不遇な天才」を描いた秀作短編となったと思う。「清張ってどんな作家?」を理解するのなら、評者は一番に勧めたいくらいの短編。 続いて実話であっても不思議じゃないくらいのリアリティがある裁判モノの「奇妙な被告」。クリスティの「スタイルズ荘」でのアイデアをより徹底して扱うとこうなる、というのが面白い。 「葡萄唐草文様の刺繍」ならば、夫婦の感情の機微を浮気を隠す夫の心理から、殺人事件と絡めて描き出す。夫の疑心からの行動が回りまわって真犯人への因果応報となる皮肉。 「神の里事件」は忘れ去られたような田舎の神道系の新興宗教で起きた殺人を描いているけど、これはちょっと失敗作かな。ウンチク部分は興味深いが、殺人事件との絡め方がもう一つか。 「恩誼の絆」は「天城越え」と似た感じの、子供視点での事件を描いて、さらに大人になった後での「繰り返し」のような事件を扱う。昭和の庶民の生活という面で、評者はとても懐かしい。祖母の使っていた針山を思い出す。 名作目白押しの好短編集。ミステリマニアほど読むべき作品集だと思う。 (あと「火神被殺」だけど「火の路」で扱うゾロアスター教日本伝来説の萌芽みたいな話を取り上げている。古代史造詣は深いからねえ。こうしてみると「Dの複合」がいかに中途半端だったか、というのが悔やまれる) |
No.1334 | 5点 | 通り魔- エド・マクベイン | 2024/12/04 14:23 |
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87の2作目。「警官嫌い」でまだパトロール警官のクリング君が負傷する件から引き続く。キャレラは晴れてご成婚。この事件中は新婚旅行で最後の場面に顔を出すだけ。マイヤー・マイヤーは初登場だけど、ずっと87に居たような顔をしている。ハヴィランドとウィリスに出番が多い。
特筆はやはりクリング君。この話があの気の毒なクレアとの馴れ初め回。プライベートな関りで、私的に捜査してその中でクレアと出会って、イイ感じでデートもしちゃったりする。そして見事ラストでは刑事への昇進をキメてみせる。青春、だなあ。 メインは「クリフォードはお礼をもうします、マダム」とご挨拶な女性を専門に狙う強盗の話と、その犯行に見せかけた女性殺しの話。女性刑事アイリーン・バークが囮を買って出るエピソードあり。クレアとアイリーン、同じ作品で初登場するというのが面白い。マイヤー・マイヤーは連続猫盗難事件というジョークみたいな話の担当。 いやいや、結構とりとめがない...というか、シリーズ2作目なのに「肩の力が抜けすぎている」のが何か不思議。狙ってやったのなら、作者のヨミが深すぎるのかもしれない。 |
No.1333 | 4点 | 裸の顔- シドニー・シェルダン | 2024/12/03 11:09 |
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シドニイ・シェルダンって大昔はハヤカワで出てたんだよね。アカデミー出版で「超訳」をウリに新聞広告打ちまくって....でセルアウトしたわけだけども。
うんまあ何かご縁があったみたいで、本書を読むスケジュールに入れていた。昔読んだのかなあ、よく覚えていない。今回はポケミスを主に「超訳」とも比較。 精神分析医が何度も何度も命をつけ狙われ、間一髪で助かるか誤殺された死体が転がるか、の連続の話。実に達者な筆。イベントが連続するのを、スピーディに場面を転換しつつ、視点もこだわらずに切り替えて叙述。キャラもいろいろと味付けしていて、単調にならないように工夫。開始すぐに殺される主人公の受付嬢の前歴も、スラムの少女売春婦から主人公が善意で拾い上げた黒人女性だとか、話としては実に面白いけども、プロットの本筋とはまったく無関係。 で、肝心の本筋は単純。振り返れば一方調子のスリラー。叙述は上手でソツががなさすぎる。それだけならば「合わないなあ...」と評価を下げることはしないけど、主人公の設定から「フロイト精神分析」というものが、いかにロクでもないものなのかよく分かる。とくに専門知識を生かしたうまい逆転とかはない。 評者は昔から「エセ科学」であるとフロイト主義には悪感情を持っているんだ。 まあだから、紙芝居的な底の浅さが覗いてしまい、悪達者な筆とのコンビネーションにシラケた。すまぬ。 で「超訳」の話。日本人に伝わりにくいアメリカ文化のネタをカットしたり、トークにキャラらしい役割語を振ったりとか、そういうレベル。なら平井呈一とか都筑道夫だって充分「超訳」だよ。そもそもリーダビリティ絶大なシェルダンだから、そんなことしなくても敷居が低いと思う。「超訳」というネーミングが最大の「発明」だったようにも思う。 |
No.1332 | 6点 | 囚人の友- アンドリュウ・ガーヴ | 2024/12/01 22:36 |
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ガーヴといえば毎回毎回「違う世界」を見せてくれて、舞台設定だけでも楽しさがある作家のわけだが、今回の主人公は保護観察司。刑余者の更生をサポートする役割の仕事。日本だと楠田匡介が保護観察司の兼業作家として「塀の中」の人々をテーマにした作品をたくさん書いたわけだが、イギリスの保護司も兼業が普通のようで、今回の主人公も獣医との兼業。
若い囚人テリーの出所が近づく。保護司のアッシュは初めて申込みのあった自動車修理工場に、テリーの就職をお願いした。しかし、工場主のウィンター夫妻の金庫がこじ開けられそうになり、その疑惑は刑余者のテリーにかかる。証拠がないまま疑いの目で孤立するテリー。さらに工場主の家が荒らされてウィンター夫人の絞殺体が見つかった。容疑はテリーにかかる....アッシュはどうする? という話。あまり「社会派」という感覚でもなくて、アリバイ崩しを中心にした日本では「本格」に入るタイプの作品。いやガーヴって「罠」とか「モスコー殺人事件」とか本格枠に入る作品がいろいろあるし、「ギャラウェイ事件」だってアクション味はあるにせよ、面白味は「本格」要素だとも感じる。 というか、日本の「本格」概念がヘンに歪んでいて、イギリスだと本来「スリラー」に入る作品が日本では「本格」扱いされている、という面があると思うんだ。クロフツなんて事実上「スリラー」作家だ、と捉えるのならば、ガーヴがその後継者的な立場にある、と見ておかしいわけではないのだ。 いや「トリックがある=本格」という乱歩が始めた「トリック至上主義」が日本特有なジャンル観なのであって、海外作品はそういうジャンル観で書かれているわけではない、という単純な事実が顕れている作品。 |
No.1331 | 6点 | すりかわった女- ボアロー&ナルスジャック | 2024/11/30 10:10 |
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人物の「入れ替わり」と言えばボア&ナル、ボア&ナルと言えば「入れ替わり」、って言いたくなるくらいに、ボア&ナル十八番の「すりかわった女」。
人並さんは他のフランス作家の例を引いておられるが、ボア&ナルが「入れ替わり」サスペンスのスペシャリストであることは、きっと否定なされないだろう(苦笑)なんだけども本作はボア&ナルの後期作。というわけで「入れ替わり」の表も裏も百も承知のボア&ナルによる「入れ替わり」正面突破の作品となる。 で本作の変化球は、入れ替わる本人のキャラ設定。野心によって強引になり替わるのではない。「ぼんやり娘」と呼ばれるくらいに、主体性がなくておとなしい女性がヒロイン。たまたま事故で助かり、ボケかけていた伯父の愛娘の死を受け入れられない気持ちからか、伯父の誤解に乗じてイトコと入れ替わる。夫は伯父の遺産相続で有利な立場になることから、委細承知の上。しかし、ヒロインは入れ替わったイトコが秘密裏に結婚していたことに気づく....「二人の夫をもつ女」になってしまったヒロインの運命やいかに? という話。本来の夫は結構頼りないし、秘密結婚の男は軽薄な色事師。だから後期ボア&ナルらしく、ヘンに喜劇的な雰囲気で話が進行していく。本人たちは大真面目なのには違いないが、客観的には喜劇みたいなもので、そういうシニカルさを楽しむ作品だと思う。 後期のボア&ナルの特徴って、本来悲劇的であるべき心理劇の枠組みの中に、「そぐわない」キャラを投入することで、悲劇を相対化してリアルでありかつアイロニカルな味わいを出す、ということなんだと思うよ。「皮肉な喜劇」が大好きな評者って少数派だと思うけどもね。 |
No.1330 | 6点 | 肌色の月(中央公論社版)- 久生十蘭 | 2024/11/27 07:49 |
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渡辺剣次「ミステリイ・カクテル」の中で「未完の悲劇」と題して、中絶したミステリ作品を回顧していた中に、久生十蘭の本作があるのが気にかかっていた。
本作を「婦人公論」に連載中に食道がんが見つかり、最終回原稿を待たずに死去。最終回は口述筆記をしていた妻により、聞かされていた筋をまとめて完結させた。どうやらタイアップで映画が同時進行していたようで、乙羽信子主演の映画の封切日が告別式だったそうだ。 声優の宇野久美子は、遺伝的な肝臓がんの恐怖におびえ、若いうちに自殺しようと考えて、誰も知らぬ湖で投身自殺するために失踪した。湖に向かう途中雨に降られ、声を掛けてきた車に乗せてもらい、車の男の別荘に泊めてもらうことになる。翌朝ボートを盗み、湖の中央で自殺するつもりだったが、ボートがない...男もいない。そうするうちに、男がボートを使って湖で死んだらしいと騒ぎになる。この男、大池は詐欺事件の犯人として追われていた男だった.. という話。「ゼロの焦点」とかそういう雰囲気の女性視点でのサスペンス。「ムードのあるスリラー小説を」という狙いで書かれたものだ。がんの恐怖におびえ自殺を考える主人公と、連載中にがんで死ぬ作家と、符合していて不思議だが、昔のことで「がん告知」は夫人の手記によればされてなかったようだ。ちなみにタイトルの「肌色の月」は、黄疸で月が黄色がかって見えるという症状を指している。 で、結局この大池の一家をめぐるいろいろな事件も絡んで、殺人容疑も落着して久美子は旅立つ....久美子は死んだはずの男を目撃した気がして振り返る。こんな結末。何か胸がつまるような思いがする。生と死の境を越えようとするときに、その境界が曖昧になるのかのような。 けして成功作とは思えないが、それでも独特の雰囲気のある不思議な作品。 評者は図書館の中央公論社単行本(S32)で読了。十蘭が最も愛した2作「予言」「母子像」を併録しており、これは長らく読まれてきた中公文庫版と同じ体裁。「予言」は貧乏華族の画家・安倍が不倫を疑われて、その妻の自殺から夫に恨まれ、安倍の新婚旅行中の死を予言される話...なんだが、意外な結末がある。 「母子像」はニューヨーク・ヘラルド・トリビューン主催の第二回世界短篇小説コンクールで第一席を獲得した有名作。サイパン島での邦人自決の話に取材して、生き残った母子の戦後を描く。銀座でバァを開業した母と、非行を繰り返す子。この子の母への屈折した愛情表現による自滅を、短い枚数に叩き込んで描く。工芸的というべき珠玉作。異色作家短編集にありそうな話だが、しいて言えばスタージョンに近い情念が感じられる。 |
No.1329 | 8点 | ハリー・ポッターと秘密の部屋- J・K・ローリング | 2024/11/26 16:04 |
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ハリポタ第二作。どうしてもイントロ的な内容が多くなる「賢者の石」とは違い、フルスペックのハリポタ。特に本作は謎解き要素が多く含まれていて、連続石化事件の意外な犯人とか、トム・リドルの謎、壁から聞こえる謎の言葉、そしてハリー自身が「自分が本当のスリザリンの後継者なのでは?」と疑惑に駆られるなど、ミステリ的な興味が濃厚にある。あれもこれも、いや実に伏線だらけ。
このシリーズは、単に「冒険」「ファンタジー」とも言えない、ジャンルミックス的な側面が強くあり、それがイギリスの伝統的なエンタメ書法のようにも感じられるのだ。本作だとミステリの「連続殺人モノ」的な趣向が効いている。その中で「操り」が真相にも含まれていて、この「操り」の真相がハリー自身とヴォルデモート卿との関係にも影を落としている。実際、ハリーとヴォルデモート卿が表裏一体の関係にもあるわけで、これがシリーズ終盤でも大きなテーマにもなる。 まあここではハリーが自分に対して持つ「疑惑」として、いい意味で「複雑性」のスパイスを加味しているようにも感じる。ハリポタの中でもまとまりのいい作品だろう。 |
No.1328 | 6点 | 鑢- フィリップ・マクドナルド | 2024/11/24 15:17 |
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軽快に進む楽しい古典。
「それには、お答えしかねますねー素人探偵組合の規約に反しますんでね」 「これは、ドイルの生霊が教えてくれたんだぞ、きっと」 何というのかな、ミステリ処女作らしいちょっとした稚気が好ましく感じられるんだよね。偉大なホームズというモデルがあるわけだから、黄金期作家と言うのは多かれ少なかれ、ホームズに対するファンアートの側面があったのでは?なんて想像してしまう。稚気には愛情と含羞の両方が含まれているわけで、それが節度と客観性・過剰にならない自己省察を備えているのならば、後世から見ても「ほほえましく」感じてしまうよ。 スーパーマンのゲスリン大佐。いいじゃないの。ファイロ・ヴァンスみたいな嫌味もないし、素敵な青年紳士じゃない。諜報活動での功績から「大佐」と呼ばれて困るのも、かわいいな(苦笑)で、恋愛も3組成就。スクリューボールコメディ風の楽しさがある。まあ「トレント最後の事件」ほどには小説の根幹部分にはならないけど、そう邪魔な恋愛要素というほどでもない。 現場の人の出し入れが煩雑になりすぎていて、アリバイトリックのタイムテーブルがキツキツなのは危ういが、それでもこのトリック、笑える。許す! 総じて若々しく軽快で楽しいエンタメ。カットバックなどうまく使って、いい意味で映画的。 (そういえばポケミスではNo.248「鑢」、No.249「トレント最後の事件」と連番なのにも面白味) |
No.1327 | 6点 | 暗い燈台- アンドリュウ・ガーヴ | 2024/11/22 23:14 |
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ガーヴの中でも冒険小説色が強い...というか、凶悪な青年ギャングによって占拠された、僻地の灯台の職員たちのサバイバルの話。だから細かく言えばミステリというよりも冒険小説だと思う。
まあガーヴ、冒険小説味のあるミステリが主体だけども、時折「冒険小説」以外の何ものでもない作品を書いたりもする。「レアンダの英雄」なんてそうじゃない? でも、ガーヴらしさ、というのは善人が不意に悪人たちに脅かされる話、という面で一貫していると思うよ。「黄金の褒章」とか「道の果て」とか、そういう話で、とくに「道の果て」の人より自然が好きなネイチャー指向がしっかりと出た作品だとも感じる。 灯台という閉鎖空間の中に、ギャング3人+そのスケ vs 灯台職員3人という構図だから、「狭苦しい孤立した環境」での闘争が主眼。まあそりゃさあ、そういう閉鎖空間に慣れている灯台職員と、慣れてなくてすぐにイライラしだす町育ちのギャングじゃあ、最初から勝負は見えてるよ(苦笑) ギャングたちは自滅するのが当然というものだ。 (執筆が後の「罠」の翻訳が先にはなるため、本作がポケミスで翻訳が最後のガーヴ。今のところ訳された最後に執筆されたガーヴ作品は、創元の「諜報作戦/D13峰登頂」。これはガチの山岳小説だから、未訳のガーヴって冒険小説のウェイトが高いのかしら...後期の未訳作は9作ほどあるみたいだ。1978年まで書いているんだもんねえ) |
No.1326 | 8点 | 証人たち- ジョルジュ・シムノン | 2024/11/22 11:18 |
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シムノンのロマンの中でも、上位に位置する傑作じゃないかな。
ガチンコの裁判劇なのだが、まずは裁判長が主人公、という面でも異色中の異色だと思うよ。弁護士が主役の裁判劇なら描きやすいのもあって世の中に氾濫しているし、検事でもいろいろある。裁判では受動的な役割である裁判官をメインに据えて、「人間を本当に理解できるのか?」「理解したとしても、誤解ばっかりで他人をこういう人と決めつけていないか?」といったテーマを深掘りしている。 その中には主人公の裁判長の妻との関係も含まれている。主人公自身の過去の軽い浮気の話も、その裁判を傍聴する黒衣の女性によって、たびたび主人公の意識に登る。また、ベッドに寝たきりとなっている妻が「意図的に自分を困らせるためにそうしているのでは?」という疑惑もあれば、またこの裁判の被告が、妻のご乱行に怒って殺したのでは、という裁判の行方を自分の妻の引きこもりのきっかけとなった妻の浮気話と、主人公は重ね合わせずにはいられない。 こんな2日間の裁判が、妻の求めによって深夜薬局に妻の薬を買いに行かされ、その結果風邪をひいた主人公の前夜の話から始まっていく。裁判も行方も気になるが、妻との関係にも懊悩するさまが、熱に浮かされた主観の中で丁寧に描かれる。シムノンって一時的な病気・体調不良をちょっとした「きっかけ」につかうのが実に上手だと思うよ...メグレが酷い風邪を引いたのが印象的な短編もあれば、「ビセートルの環」のように入院生活をテーマにしたロマンもあるしね。 (バレかな?) まあそういう小説だから、この事件の真相について、ちゃんと解明されるわけではない。アメリカを舞台にしてアメリカで書かれた「ベルの死」に続いて、同様のテーマをアメリカ時代最後に書かれたと目される本作が扱っている、ということにもなるだろう。 |
No.1325 | 5点 | クロイドン発12時30分- F・W・クロフツ | 2024/11/21 11:58 |
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評者クロフツは苦手だけど、嫌いではない。だから本作とスターヴェルくらいはあとやりたいと思っている。
で倒叙有名作だから、本作をやらないというのは評者的にもありえない。昔読んだ時もフツーに流した作品。今回の再読では「意外なくらいに倒叙じゃないんだ...」というのが一番の感想。 要するに「倒叙と犯罪心理小説とどう違うか?」というのは大きなテーマだと思っている。本作だと「犯罪心理小説」のウェイトが思っていた以上に強い、というのが結論で、犯人のスウィンバーンの犯行に至る経緯がクロフツらしく事細かに叙述される。 玄関ホールから響く足音は『運命』そのものの歩みに聞こえた。さあ、今こそ度胸と自制心を示す時だ。少なくとも予備知識は頭に入っている。ピーターから話を聞いていて本当によかった。あそこでピーターに会っていなかったら、このありがたくない来客に不意を衝かれていたはずだ。うっかりぼろを出してもおかしくない。今その心配はない。備えはできている リアル、って言えばそう...なんだけども、何したこう思ったを丁寧に全部描きたがるクロフツの良いとこ悪いとこ全部出ている文章だと思う。書けば書くほどキャラの個性が潰れていく。 逆に耄碌のあまりに不条理な対応をして結果として殺されるアンドルー伯父が、スウィンバーン視点だからこそ「老害...」と妙な個性が出てくるのとは対照だと思うよ。いやその点犯人に評者は同情しちゃう。 逆に詳細な描写に魅力があるのは、モーター工場のデテールやら、経営者として従業員の身を思いやるあたりで、そういう良さとキャラの平板さとが、ひっかかりのない「読みやすさ」につながっているのかもしれない。 まあ法廷場面もその後の反省会にも、とくに意外な話が出るわけではない。「盲点!してやられた!」というような、ミステリとしての意外性がなく、「倒叙」らしいスリリングな攻防感が全然でていないことにもつながる。 タイトルの「クロイドン発」って、そんな突発事件で行動がシビアになっている状況でなければ、実はバレなかったのかも?と勘繰りかねない「犯人の不運」を示しているのかもね。平凡に企まれ、平凡に露見した気の毒な「実話風殺人物語」のようにも感じてしまう。 いやさ、冒頭の飛行機旅行の10歳の少女ローズ視点、これ描きようによっては絶対に魅力的になるものなのに、この子その後どこに消えたんだろう?これが最大の残念ポイントかもしれない。 |