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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
もっとも危険なゲーム
ギャビン・ライアル 出版月: 1966年01月 平均: 5.67点 書評数: 6件

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早川書房
1966年01月

早川書房
1972年01月

早川書房
1994年01月

No.6 6点 2020/03/22 13:03
 州領域の半分以上が北極圏に属するラップランドのロバニエミ飛行場で、おんぼろ水陸両用機のチャーター業を営む雇われパイロット、ビル・ケアリ。夏のシーズンにヘルシンキの採掘会社カーヤから請け負ったニッケル探索の合間、アメリカからはるばる熊猟にやってきた折目正しい男フレデリック・ウェルズ・ホーマーを、ロシア国境付近の立入り禁止区域内に降ろしたのが事の始まりだった。
 互いに親しみを覚えた二人はバリオヨキ河付近の湖で銃の腕を比べ合うが、そのときビルは湖中にドイツ空軍の十字章をすかし見る。沈んでいたのは第二次大戦中行方不明となったメッサーシュミット四一〇型で、中には後ろから顎を撃ち抜かれたドイツ軍パイロットの頭蓋骨がわらっていた。それは奇しくも彼が長年に渡って探していた飛行機であった。
 ホーマーと別れロバニエミに戻ったビルだったが、彼の元には胡散臭げな仕事が持ち込まれ続け、更にわざわざヘルシンキから派遣された国内治安警察(スオエルポリシ)が付き纏ってくる。どうやらスオポのアルネ・ニッカネンは密輸決済用の英国ポンド金貨について探っているらしい。
 それからまもなく、兄ホーマーを追って飛行場に妹のアリス・ビークマンが現れた。ビルはアリスを乗せてホーマーの元へと向かう途次、エンジンから出火したイギリスのオークス水上機を救助するが、事故現場の状況に様々な不信を抱く。そして骨折したパイロットの雇い主アーサー・ジャッドも、代替となるビルの飛行機に興味を示すのだった。
 その翌朝、ビルに仕事を持ち掛けてきた同業パイロット、オスカー・アドラーが、彼に再び逢いたいと言ってくる。だがオスカーの水上機は待ち合わせ場所の河に着水する寸前横転し、ビルの目の前で裏返しになったまま水面に激突し大破した・・・
 処女作『ちがった空』の好評を受けて執筆された長編二作目で、1963年発表。翌年のCWAゴールド・ダガー賞ではH・R・キーティング『パーフェクト殺人』に競り負け、惜しくも次点に留まりました。ちなみに三位はロス・マクドナルドの『さむけ』。
 ライアルの代表作の一つとして評価の定着した作品で、ストーリーも処女作に比べ格段の進歩。個々の描写や気の利いたセリフ等も素晴らしいのですが、若干の異論アリ。なぜなら軸となる主人公ケアリとホーマー兄妹のドラマ、この引き金となる兄フレデリックの行動が、十分な説得力や哀しみをもって描かれていません。意地を張る対象があまりにもくだらない存在なので、結果として齎される悲劇に見合わなさ過ぎるのです。あくまで騎士道的な果し合いを追求したという事なのでしょうが、そうなるとビル側の思い入れが宙に浮いてしまいます。対決そのものは名勝負といっていいだけに残念。
 どこかスッキリしない読後感には筋立ても影響しています。スパイ組織の邪魔者燻り出しを大枠にした巻き込まれ物ですが、ブレ気味の軸に複雑なストーリーが被さっているのでいまいち満足できないのです。主人公とホーマー兄の関係性に的を絞り、思い切って筋を単純化した方が良かったでしょう。総合的には前作『ちがった空』のシンプルさに劣ります。
 本来ならもっと上を狙える作品ですが、6.5点。惜しいけどそれ以上は付けられません。

No.5 8点 斎藤警部 2016/05/16 12:01
“古い蓄音機が止まる時のように、自分の声も遠くから聞こえてきた。。”

私見ですが、日本の心に照らせば「さむけ」や「W家」は本格、「深夜+1」や本作はHB。(「ちがった空」は冒険小説) フィリップ・マーロウが好きな日本人なら本作も良かろう。 舞台は北極圏某紛争地域。

“幸福以外はなんでも表現できる表情ゆたかな顔”
「私は、今あなたにあごをかいて欲しいのです。」

主人公は冷静そうだが危険な不安定要素もある、そんな事実が少しずつ暴露され読者をスリルに曝し続ける。’死人が一人じゃない’と分かるシーンはなかなかだ。ジャッドは意外と魅力あるファック野郎じゃねえか??うんにゃ、そうにちげえねえ。。しかし主人公を小用で雇った奇妙な金持ちの男と、彼を捕捉しようと躍起なその妹の真の狙いは一体?

“土曜日の夜のきこり酒場のようなにおい”って、嗅いだことあるか?
「見知らぬ熊などに話しかけるなよ。」

鋳造のトリック。。 信頼、つまり評判の重みが知らん奴一人の命を凌駕するわけだ。
「時間はあるし ウイスキーもあるからね。。」

催眠剤を盛られてからの疾風の描写には泣かされた! 「わかったよ きみにほれたよ」
クソださい文章は訳しても飾ってもクソださかろう。穏当にださい文章なら訳で紛れる隙もあるだろう(その機微を気まぐれに当たるのは外国人読者の愉しみだ)。 しかし、本書の格好良さと来たら。。。。

”自分が金持ちになった瞬間をこの耳で聴きたかっただけだ。”
ヒロイン設定の女を本気で本能で殺したくなるシーンの創出なんて、おいらには納期永遠の宿題サボリだな。

“彼女も一瞬それを考えていたようである。”
二人の女の登場の間のxxxxに、永遠より遥かに儚いxxxxを突き付ける。 このマッチョな俳諧師の様な言葉の豪腕晒し。

「ヘルシンキへビールを飲みに行くか?」 「たまには俺の言う角度でものを見たらどうだ?」 “もう少しで殺すところだった。。” 「こういう思いつきは時折うかぶのかい?」

北欧神話発生への洞察はなかなか良い。
表題の洒落はホヮイダニットの解答だったのか。。 最後まで礼節と穏やかな狂気を失わない、社交性と孤独と富を備えた男。 そして、冷酷で合理的な仕事ぶりだが友達として愉しい男。 そして、主人公。 どんなに近づいても遠くにいるあの女。 ミステリ的にトリッキーな役回りを与えられた、悲劇の男。 嗚呼、悪い仲間たちよ。。

「本当の人間社会に害を与えてはいなかったんだからね。」 
果たして、この台詞に作者は重みを持たせたかったのだろうか。

No.4 4点 あびびび 2014/05/28 00:02
ブックオフ巡りをしたときに見つけた作品。最近、ロバート・ラドラムに魅かれ、もう一度冒険小説を…と読んでみたが、やはり嗜好に合わなかった。

ラドラムは壮大なスケールで、ワクワク感が募ったが、この作品はありがちなストーリーで、映画にはならず、テレビドラマ止まりって感じがした。

No.3 5点 mini 2012/04/09 10:02
発売中の早川ミステリマガジン5月号の特集は、”レジナルド・ヒルと内藤陳よ、もう一度”
追悼特集ってわけね

今回の陳メに関する特集テーマは、やはりライアルに締め括ってもらおう、
内藤陳と言えば何たって新宿歌舞伎町ゴールデン街で日本冒険小説協会のアジト酒場『深夜プラス1』の店主だったんだから
「深夜プラス1」はいかにも陳メが好きそうな作品だが、「もっとも危険なゲーム」についてはどう評価してたんだろうな
私はライアルという作家は基本的にあまり好きではないのだが、その理由の1つに、ライアルが広く日本の読者に浸透してから、冒険小説とハードボイルドという2つのジャンルを区別しない悪しき風潮が出て来た印象が有るんだよな
私は冒険小説とハードボイルド私立探偵小説とは全くの別ジャンルという立場を採っているので、昨今の両者を同列に扱う風潮が大嫌いである
ハードボイルドという語句を拡大解釈するのは良くないと思う、アメリカの私立探偵小説って結構狭い意味の分野なのだ
そういう意味で冒険小説とスリラー小説とハードボイルドを合併させたような「深夜プラス1」よりも、より純粋に冒険小説オンリーに徹した「もっとも危険なゲーム」の方が好感は持てる
でも結局は1対1の男の勝負に話を持って行く歌舞伎調な展開は萎える(強引な歌舞伎ちょうネタ~苦笑)
どうもライアルは私には合わないようで

No.2 6点 2011/11/27 11:45
 ライアルの代表作の一つということで、主人公のパイロットの人物像がいいとか、しゃれた文章がうまく決まっているとか、舞台であるフィンランドの情景とか、様々な出来事が最後にすべて結びついてくるところとか、それからもちろんクライマックスの戦いの迫力とか、褒めるに事欠かないのはわかります。
しかし個人的には、読み終わってみると今一つ釈然としないものが残ってしまったのも確かなのです。これは翻訳の問題でしょうが、会話のつながりがよくわからないところがあります。冒頭で主人公が飛行機に乗せる客が結局事件とどう絡んでくるのかというところも、驚かされたのですが、その人物の考え方に共感できないのも、もやもやの理由の一つです。主人公の酒の飲み方も、アル中でもないのになんだかなあという感じ。また、様々な事件の結び付け方に偶然を多用していているのも気になりました。
そうは言っても、最後3割を切ってから俄然盛り上がってくるアクションは、さすがです。

No.1 5点 kanamori 2010/07/21 17:30
「東西ミステリーベスト100」海外編、ギャビン・ライアル2作目の登場は、もっとも危険なゲーム=マンハントを扱った冒険サスペンスです。
普通の狩猟に飽きた大金持ちが、人間を標的にした狩猟ゲームを画策する。死力を尽くした一対一の銃撃戦が読みどころでしょうが、嗜好から外れた作品でした。


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