皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] ちがった空 |
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ギャビン・ライアル | 出版月: 1967年01月 | 平均: 7.25点 | 書評数: 4件 |
早川書房 1967年01月 |
早川書房 1976年10月 |
No.4 | 7点 | 人並由真 | 2020/11/18 04:17 |
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(ネタバレなし)
ライアルの初期5冊、60年代の作品中、評者が唯一、未読だったのがコレ。 たぶんその理由は、ライアルの名作=菊地光の翻訳という固定観念があり、松谷健二じゃどうなんだろう? という疑念を抱えていたからだと思う。 いやほかの松谷訳のミステリで楽しんだものなんていくつもあるし、実際、今回、読んでみて、オレはずいぶんと長らくつまらない予断を持っていたものだと、大いに反省した(汗・そのくらい普通にこなれた、味のある訳文であった)。 でもって物語の前半は、ややとっちらかった印象を受けたが、主要人物のひとりが(中略)してからは話が弾み、ストーリー最後の4分の1は、加速度的な勢いでページをめくらされた。 嵐の中での飛行描写の克明さと迫力には、空のハモンド・イネスの称号を、作者に今さらながらに送りたい(そういや先輩のイネス作品って、航空ものをあまり読んだ覚えがないな)。 それで、始終こまかく抜け目なく、今後の状況を勘案している主人公ジャック・クレイの駆け引きぶりとか、物語全体の主題や結末に至る流れとか、たぶん多くの読者が、この長編のさらに数十年前に別の欧米作家が書いた<かの作品>を想起するんじゃないか? と思う。 しかし意図的なリスペクトにせよ、着地点が同じになったにせよ、くだんの先駆作品に近しい手応えを与えてくれた実感はホンモノで、その意味でたしかにA級作品と呼ぶにふさわしいと私見。 そんな熱気と勢いに意味がある作品だと思うから、あまり細かいことを言ってもナンなんだけれど、気にかかることがちょっと。 最後には主人公たちや作者の念頭から、何人か主要(準主要?)キャラの存在が抜け落ちちゃっているよね? 半ば「まあいいか」とも思いながら、やはり微妙にその辺が気にならないでもない。 評点は私も、実質7,5点というところで。 |
No.3 | 7点 | 雪 | 2019/12/18 09:08 |
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一流の腕を持ちながら、なぜかそれにそぐわぬ会社で賃仕事に地中海一帯を飛び回るパイロット、ジャック・クレイ。副操縦士のロジャーズと共にトルコを離陸したものの、水のまざった燃料のおかげでアテネに着陸しなければならなくなったのがすべての始まりだった。おんぼろダコタを停止させてからふと滑走路を見やると、一台の飛行機が見える。翼端にタンクのついた高翼の小型機、ピアッジオ・166。機はエレガントに、軽やかに最後のターンにはいり、横風にみじんのゆらめきも見せず着陸態勢をとった。
ひとつの元素からもうひとつの元素へ滑り移る。こんな真似ができるパイロットは世界に何人もいない。だがスクリューボール・ビュアリング、ケン・キトソンならできる。 アテネのホテル、キング・ジョージで十年ぶりの再会を祝うジャックとケンだったが、酒に酔った彼はその席でインド分割直後に小王国トゥンガバドラの財宝を奪ったパイロットの話を語り出した。ケンのボスである元藩王ナワーブ殿下は、今もなお持ち逃げされたそれを追っているらしい。弾薬箱にぎっしり、百五十万ポンド相当の宝石を。 翌朝空港についたジャックは格納庫のかげから出てきたケンに出会った。「しゃべりすぎた」と言う彼はジャックにアテネからの脱出を掛け合うが、駐在員ミクロスの持ちかけた胡散臭い密輸話と同様に、彼はそれを断った。ミクロスも七・六五ミリのベレッタをデスクに隠し持つなんて、今朝はえらく気が立っている。 まもなくピアッジオは気ちがいじみた勢いで離陸するが、四分の三円を描いて上空を通過した時点で片エンジンがおかしくなり、空転したプロペラはやがて静止する。そのまま機は海上をよろめきながら飛んでいき、やがて視界から消えた。 ナワーブはすかさずジャックのダコタをチャーターし、地中海でケンの捜索活動を行おうとする。果たして彼は無事なのか? ジャック、ナワーブ、美人秘書ミス・ブラウンと近衛将校ヘルター、そして女性アメリカ人写真家シャーリー・バート。各人の様々な思惑を秘め、ダコタ機はアテネを飛び立つ―― ライアルのデビュー作で五部構成。アテネからクレタに到る島々やアフリカの玄関口リビア、そしてトルコのトリポリなどの地中海全域が舞台。正統派英国冒険物の流れを継ぐ小説で、1961年の発表時にはP・G・ウッドハウスがベタボメしたそうです。ミステリ部分は「まあそうだよね」という感じで、後の「もっとも危険なゲーム」「深夜プラス1」に比べると捻りが足りませんが、空の世界が中心となった男たちが時折地上に身を降ろす感覚と、世界や風景の捉え方が肌で感じられるのが素晴らしい。航空描写もさることながら、操縦士と副操縦士の間の信頼関係まで伝わってくるのはこの作者ならではでしょう。 捜索はサクソス島で林に囲まれた十年前のダコタの残骸と、海上に浮いた油とピアッジオらしき機の車輪を発見して終了。その後いったん断ったミクロスの荷運びを請け負いますが、出発直前に彼の射殺死体を発見してから話は急展開。しがない雇われ機長から殺人容疑者へ、果ては宝石争奪戦のキーパーソンとなり、ガッツリ事件に関わっていきます。 見所はなんといっても嵐を衝いてのピアッジオ飛行と、ラスト付近でのジャックとケンの葛藤シーンでしょうか。ぶっきらぼうな言動の根底にある明るく乾いた感傷が心地良い。ギャビン・ライアルの本質がよく出た処女作で、点数は7.5点。 |
No.2 | 10点 | 斎藤警部 | 2015/05/18 19:09 |
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「深夜プラス1」で有名なアドヴェンチャー・ミステリー作家ギャビン・ライアルの処女長篇「ちがった空 "THE WRONG SIDE OF THE SKY"」。 氏の作品で初めて読んだのは当作品でしたが、こちらの勝手な予想を遥かに上回る心を掴む文章力で参ってしまいました。 ほぼ全ての行間からいちいち芳醇な野菜ジュースが溢れ出て来る様な感触で、地の文でも会話や"思い"の文にしてもそれぞれ何かしらとてつもなく有り難い教えを内含している。又そいつが実にしゃらくさくない。 ハヤカワミステリ文庫の翻訳を読んだのですが、原文でないとは言えその超絶的素晴らしさは充分にぎゅんぎゅん伝わって来ます。(もちろん訳者、松谷健二氏の力量も見逃せません)
また、個人的に風景描写の多い小説はかったるくて好きじゃない場合が多いんだけどこの人の風景描写は実にヴィヴィッドで動きがあって(それがたとえ静止しているはずの砂漠でも、地球や人間の営みという動的なものを感じさせるのが立派)、きっと日常から「万物は流転する」という鉄則を感じながら生活しているんだろうなあ、という人となりを体感。 明るい性悪説(ほとんどの人間は基本が悪い奴だが、愛や友情が時々救ってくれる仕掛けになってるから捨てたもんでもない、みたいな)を取る様な態度が文章の底に感じられるのも最高にウェルカムです。 著者は元英国空軍のパイロット。その経験+他の諸々の経験+筆力のせいなんだろうけど小型飛行機が飛んでいる内部のシーンでは文章の間から常に飛行機のエンジン音や振動が伝わって来る、もちろんそれなりの距離を移動しているという感覚も伝わる、そのへんにも大いに感動させられ、また驚かせてもらいました。 などと言いつつストーリーは見事に忘れておりますが。。 結構なツイストやサプライズもいくつかあった気が。 邦題は、ちょっと下手かな。 |
No.1 | 5点 | 空 | 2014/05/02 13:48 |
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ライアルの第1作はやはりパイロットを主人公にした航空冒険小説、というかこれまで読んだ3冊の中では最も冒険小説らしい作品でした。ラストに向けての嵐の中の飛行など、さすがに迫力があります。また整理があまりよくないとはいえ、様々な意外性も用意されていて、ミステリ要素も盛り込まれています。ただし主人公自身も含めて、登場人物たちの思考・行動にどうも納得できないところがあるのです。大量の宝石を巡る争奪戦というのがストーリーの骨子ですが、その正統な持ち主であるパキスタンの藩主にしても、資産に比べて考え方がけちくさすぎて、リアリティーが感じられません。
邦題は、最後の方で主人公の「空のまちがった側にいた」という台詞が出てきて、これが基になっているわけですが、タイトルとしては意味不明でしょう。思い切って「違法空域」とでも訳せば、わかりやすいのですが、それでは森村誠一っぽくなってしまうかな。 |