皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 本格 ] 夜の熱気の中で ヴァージル・ティッブス刑事 |
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ジョン・ボール | 出版月: 1967年01月 | 平均: 6.40点 | 書評数: 5件 |
早川書房 1967年01月 |
早川書房 1972年01月 |
早川書房 1976年05月 |
No.5 | 7点 | 人並由真 | 2020/04/04 01:03 |
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(ネタバレなし)
これも大昔にポケミスを購入して、ウン十年もずっと読まずにいた一冊。 ほんのつい昨日読んだが、それまでぎりぎり、1963年という刊行の時代色やこの主人公探偵のキャラクターと、ズバリ南部を舞台にしているという舞台設定も鑑みて、もっと人種差別テーマに絞り込んだ、剛球の社会派警察小説なのだろうなと勝手に思い込んでいた。 しかし実際に手にとって通読すると、当然のごとくくだんの主題は必要十分以上に書き込まれている一方で、思っていた以上にパズラー成分が豊富な作りに軽く驚かされた。 ポケミスで本文180ページ足らず、じっくり付き合っても3時間前後で完読できる長さだが、中身の密度感は高い。菊池光の流麗な翻訳も心地よく、実に充実した読書体験が満喫できる。 しかしティッブスがたまたま事件に遭遇する、カロライナ州ウェルズの町。南部の現地は当然のごとくレイシストたちの巣窟であり、ウェルズ警察署にもその手の人間(白人警官)がにぎわうのだが、そんな捜査陣のなかでも署長のビル・キレスピイと青年警官のサム・ウッドの2人がクローズアップされる。 読者目線でも、彼らの役回りは早々と「浅薄なレイシストだが、決して救いようのない悪人やゲスではなく、次第にティッブスの器量と人間味を理解して浄化されていく、根は善人の田舎者の連中」だと察せさせられる。 だったら、そういうポジションのキャラはひとりでいいよね? なんで二人も登場させるの? と軽く疑問に思っていたら、作者はそれぞれのキャラに別個の役どころを振ってきた(あんまり書くとネタバレになってしまうので、ここらへんで)。 その辺りの過不足のないキャラ配置と、そんな人間関係の綾に見合った物語の組み立てが実にうまい作品である(別の流れからミスディレクションまで用意されている)。なるほどこれは名作だよ、と納得。 特にこれまでのレビューでみなさんまったく触れていないけれど、一番ジーンと来たのは174~175ページのあの心情吐露のくだりね。ここまで書き込んだことで、この作品は、そして彼は、なんというか裏表のないホンモノになった感じがあった。 |
No.4 | 6点 | 蟷螂の斧 | 2012/08/28 22:32 |
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書評を読んで、これは映画「夜の大捜査線」(1967年・主演シドニー・ポワチエ氏)では?と思い手に取りました。黒人の犯罪捜査官が人種差別と闘いながら事件を解決してゆくものです。ミステリー度はそれほどではありませんが、当時の人種差別がよく描かれています。映画では警察署長役のロッド・スタイガー氏(白人)がどういうわけかアカデミー主演男優賞を受賞しています。どう見たって助演だろう!これこそ人種差別ではないかと、当時憤慨したことを思い出しました。 |
No.3 | 7点 | nukkam | 2012/08/14 16:56 |
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(ネタバレなしです) 米国のジョン・ボール(1911-1988)は1950年代後半から作家活動を始めていますが最初の成功作は1965年発表の黒人刑事ヴァージル・ティッブスシリーズ第1作の本書で後年には映画化もされました。ティッブスが人種差別と戦いながら捜査をする、国内作品なら社会派推理小説に属する作品かと思い込んで長らく敬遠していましたが読んでみると違いました。人種差別描写は確かに、それも結構強烈に描写されており、奴隷制時代からの悪しき風習が米国南部にいまだ根強く残っていることにはカルチャーショックを受けました。しかしそれをハンデとはせず、自身の人間的魅力と探偵としての才能で解決へと前進するティッブスが実に格好いいです。社会問題の解決を期待する読者には勧められませんが、本格派推理小説の謎解きを純粋に楽しみたい読者になら勧められます。 |
No.2 | 6点 | 空 | 2011/11/17 20:31 |
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ジョン・ボールは本作が評判になる前にも、何冊か小説を書いていたそうです。しかしどれもミステリではないらしく、翻訳されたものもありません。中に"Judo Boy"なんて作品があるのは、日本通で、本作でもヴァージル・ティッブスに柔道だか合気道だかの技を披露させていた作者らしいところです。
ティッブスはカリフォルニア警察の刑事ですが、初登場の舞台は本拠地ではなく、人種差別のはげしい南部の町です。久々に再読してみると、事件の内容はきれいさっぱり忘れていたのですが、彼の登場の仕方と上記格闘のところは記憶に残っていました。差別テーマについては、今回、差別意識の強い警察署長の視点が中心となっていたことに気づきました。差別する側の意識を問題にしているわけです。 本作については謎解きの要素も兼ね備えているという評価が多いようです。確かにティッブスはホームズ流の細かい観察による推理をしているのですが、最後の犯人指摘の推理は、かなりあいまいです。 |
No.1 | 6点 | mini | 2010/08/10 09:50 |
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* 夏だからね(^_^;) *
黒人刑事ヴァージル・ティッブスのシリーズ第1作 ジョン・ボールは冒険小説も書いているが、日本ではほぼこの1作のみで知られていると言っていいだろう 作者はもちろん白人なので、やはり黒人の描き方に少々のわざとらしさは感じるものの、この作が書かれた当時は根強かった人種差別に対する黒人への温かい眼差しは好感が持てる 謎解き面でも多分にこれもわざとらしいミスリードを入れて、読者の目を真犯人から逸らす工夫がされている まぁ、ちょっと勘の良い読者なら中途で見抜けてしまうが 長編としては短い分量なので小粒感は否めないが、山椒は小粒でぴりりと、と言うのはこういう作品を指すのだろう |