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[ SF/ファンタジー ]
異星の客
ロバート・A・ハインライン 出版月: 不明 平均: 7.00点 書評数: 1件

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女神の息吹


東京創元社
1969年02月

No.1 7点 クリスティ再読 2025/04/27 08:43
今でこそ長いエンタメは全然珍しくもないが、70年代くらいまでは「長いと読むのが面倒だし定価が高くなって売れない」こともあって、珍しかったわけだ。そんな中で創元の「自立本」として有名だったのが、「月長石」と本作になる。SF三大作家の一人ハインラインの超大作、「ヒッピーの聖書」とまで呼ばれたサブカル面でも重要な作品。最近X社(旧twitter)のAIが「Grok」と名付けられたわけだけど、この元ネタが本作の火星語「理解する」の意味。

とかいうとビビるよな、うん。

ハインラインというと変に「思想的」だったりするが、その思想というのもアメリカ〜ンなリヴァタリアニズム風のものだったりするが、しかし本作で描かれる火星人の思想というのは、自他境界の曖昧な「汝は神なり」が象徴的スローガンになるような、汎神論的ななものだったりする。そこはかとなく東洋趣味があり、そういうあたりがヒッピーにウケたわけである。
実践的には全てを共有する共産趣味なコミューン形成とフリーセックスであり、例のマンソン・ファミリーを地で行ったようなもの。実際にマンソンが本作を愛読していたというデマが流れていたくらい(マンソンは文盲に近い)。

まあだけど話自体はハインライン自身の代弁者でもあるスーパーマン的な小説家ジュバルが狂言回し。かつての火星旅行者の生き残りマイク・スミスが火星人に育てられたのが、改めて発見されて地球に帰還。その身は法律上火星の全権利を一手に握るような立場であると捉えられ、地球連邦との間で陰謀が渦巻く。ジュバルとその美女秘書たち、収容された病院の看護婦ジルなどはマイクの立場に立って頑迷固陋で貪欲な地球連邦の鼻をあかす。
しかし、このジュバルの周囲の人々はマイクが持つ「火星人の思想」に徐々に影響を受けていく...流行の宗教フォスタライト(新啓示派)教に誘われたマイクはその最高司教に会いに行くが?

大騒ぎのごちゃ混ぜ感が強い小説。まさに「ヘルタースケルター」かもよ(苦笑)そんな中で読者と作者を代弁するジュバルがパラドキシカルで皮肉な論評を長々と繰り広げるなど、「ガリヴァー旅行記」の現代版といったカラーもある。でも作者自身が前に出過ぎているし、やや散漫な部分も多いなあ。

で「ジーザス・クライスト・スーパースター」がオチになる。変な小説。

(どうもミステリって60年代末〜70年代初頭のアメリカの混乱をちゃんと描けている作品が少ないと思うんだ。SFの方がそこらへんに対処できているとも思う。あと亡くなった方の遺体を食べる、という葬礼習慣が広まらなかったのは、感染症などのリスクが高すぎるのが理由だと思うよ。人間ってのは人間にとって最大の「敵」ということでもあるか)


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