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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
観光旅行
デイヴィッド・イーリイ 出版月: 1969年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1969年01月

早川書房
2004年06月

No.1 7点 クリスティ再読 2025/04/23 15:57
「奇妙な味」短編名手イーリイだけど、長編もいくつかあって、翻訳のある初期二作はすでに取り上げている。そのほかに翻訳された長編がこれで、これもまあ何というか「奇妙な味」の長編作品ということになるだろう(苦笑)

形式的にはアンブラーの「武器の道」っぽい巻き込まれスパイということになるんだけど、シニカルなテイストからグリーンの「おとなしいアメリカ人」とか「ハバナの男」といった雰囲気もある...さらにはイーリイ自身の代名詞短編である「ヨットクラブ」みたいな話でもあれば、奇抜な状況に反撃して自滅した「蒸発」みたいな雰囲気も。さらには中南米の「バナナ共和国」と自嘲される某国への「観光旅行」ツアーを舞台に、夜間のイグアナの襲撃事件やらカーニバルの乱痴気騒ぎやらが幻想的な筆致で描かれて、マジック・リアリズム風の「一枚フィルターの入った」幻覚的なイメージの連なりで描かれていく。

一応主人公として、観光旅行団の参加者フロレインタンが中心的に描かれるが、その周囲の人々が悪趣味かつ突き放した筆致で描かれて、あたかもブニュエルの映画を見るかのようなシュールだけど現実的な、とでもいったような印象。奇書っぽいカラーも出ているかな。ここらへん奇書っぽくはならないダールと大きく違うあたりだろうか。

でまあ、中盤でバレるから書いちゃうが、この汚職買収が横行する破綻国家バナナ共和国で、軍部とアメリカ政府が結託して、対ゲリラ戦ロボット兵器の実地検証を行おうという計画があり、フロレインタンがこれに巻き込まれることになる...でもさあ、国際謀略小説という雰囲気は少しも出ない。幻想的で不穏な雰囲気のまま話が進み、とんでもない結末が訪れる。

この「観光旅行」自体、意図的に起こしたアクシデントによって、参加者に「冒険」させることで、普通でない「観光」をおこなわせるという、金に飽かせたアメリカの大金持ちの背徳的な「娯楽」として行われているものであり、「ヨットクラブ」とも共通する。そんなアメリカ人の悪気のない悪徳っぷりが、風刺というよりも悪夢的なものとして描かれている。

まあ期待どおりのヘンな小説。


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デイヴィッド・イーリイ
2005年06月
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平均:7.00 / 書評数:1
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