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[ 短編集(分類不能) ] 人影花 |
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今邑彩 | 出版月: 2014年09月 | 平均: 6.20点 | 書評数: 5件 |
![]() 中央公論新社 2014年09月 |
![]() 中央公論新社 2014年09月 |
No.5 | 6点 | パメル | 2025/08/04 19:20 |
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ホラーとミステリの境界を描く独特の世界観が特徴的なバラエティ豊かな、ショートショートを含む9編が収録されている。
「私に似た人」主人公が受けた一本の間違い電話。つい、からかいたくなり適当に受け答えしてしまう。すると思わぬ方向に話が進む。最後の主人公側の真実が明らかになる展開が切れ味鋭い。「世にも奇妙な物語」的な味わいがある。 「神の目」ペット禁止のマンションで「猫を飼っている事実を告発する」と、神の目なる人物から手紙が届く。謎自体は気付きやすいが、探偵二人のやり取りがコミカルで楽しい。 「疵」婚約者に自殺され、打ちひしがれる主人公。そこに一通の手紙が届く。そこには自殺ではなく殺されたという内容が綴られていた。静かながら悲しみと狂気を感じさせる。 「人影花」椿が咲く家に住む自分の妹とその夫。夫は自分の幼馴染でもあるがある時、妻が書き置きを残して家を出て行ってしまったという知らせを受ける。椿の花の言い伝えがミステリアスな雰囲気を盛り上げるのに一役買っている。ラスト一行は息を飲む。 「ペシミスト」ある日、主人公のもとに友人が訪れる。友人は職を失ったばかりか、結婚生活も終わりを告げていた。わずか4ページのショートショート。オチのブラックユーモアが効いている。 「もういいかい・・・」老人が語った幼き日の残酷な思い出。これも短いエピソード。読者の想像に任された部分が多い作品。 「鳥の巣」友人に誘われて保養施設を訪れた主人公。到着してみると友人はおらず、代わりに和子という女性が現れる。和子はかつて、鳥の巣を雛鳥ごと焼き捨てた話をする。予想可能な展開でも、描写の巧みさで読後に背筋が冷たくなる余韻を残す。 「返してください」ある日、主人公は留守番電話にメッセージが入っていることに気付く。聞き覚えのない女性の声で、「あれを返してください」と訴えるものだった。常軌を逸した内容であり、留守番電話の謎が解けたと思ったら、もう一つの真実が明らかになり、それが鳥肌もの。 「いつまで」娘の結婚式が無事終わり、安堵感と寂しさを嚙みしめる夫婦。そんな中、妻が夫に離婚を切り出した。妻はかつて、こっそり産んだ子を餓死させてしまったことがあるという。化鳥伝説を通じた夫婦の贖罪が「怖さと切なさ」の両方を喚起し、ラストにほのかな救いを感じさせる。 |
No.4 | 7点 | 虫暮部 | 2023/10/12 12:54 |
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厳選したと言うだけあって、“没後の落穂拾い” と言うエクスキューズは不要な高品質作品集(そういうのって玉石混交になりがちじゃない?)。どれも良くありそうなパターンながら、上手く料理している。他愛のないショートショートで一息つくことさえ必然的な流れに思えたりする。
「疵」にはすっかり騙された。“目の前のビルと互いに丸見え” と言うのが伏線になるかと思ったけど……。 「いつまで」は予想を微妙に裏切り続けて、“可愛いという気持ちさえも~” に辿り着く展開に共感。ストレートに感動してしまった。 |
No.3 | 7点 | E-BANKER | 2016/08/14 10:42 |
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2014年、作者の死後に発表された短編集。
これまでどの作品集にも収録されたことのないものを集めた記念碑的作品。 ①「私に似た人」=“間違い電話”をプロットの軸に置いた作品はたまに見かけるが、その中でも出来の良い方だと思う。ほんのちょっとした出来心が思わぬ方向に・・・だけで終われば普通の作品だが、ラストは作者らしいオチに。 ②「神の目」=いわゆるストーカー犯罪がプロットになった一編。ごく普通に終わるかと思われた矢先に示されるサプライズ・・・まさに短編の見本というやつだ。登場する探偵コンビもなかなかいい味出してる。 ③「疵」=これも一見して軽いホラーかと思いきや、ラストは見事な反転にヤラレタ・・・っていう感じになる作品。まぁ作者の作品を読みなれていれば大凡の予想はつくかもしれないが・・・ ④「人影花」=タイトルは「椿」の別名のこと。椿という花はそこにいる人の数だけ花を咲かせるという言い伝えがあるという・・・。妹夫婦の仲に危険の萌芽を感じた兄が恐ろしい予感にかられたとき・・・ ⑤「ペシミスト」=気の利いたショート・ショート。 ⑥「もういいかい・・・」=気の利いたショート・ショートその2。でもこちらはホラー風味。 ⑦「鳥の巣」=これは実に作者っぽい一編。鳥の化身とも思える女の姿にゾッーと思ってるうちに、更なるサプライズなラストを迎える・・・(こういうオチなのね) ⑧「返してください」=これも反転の効いた作品なのだが、ちょっとパンチ不足気味。 ⑨「いつまで」=ホラー版「ちょっといい話」・・・っていう感じ。 以上9編。 実に達者だ。前述したとおりだけど、作者らしさが良く出た作品集。 ホラーという調味料をうまい具合に絡ませながら、サプライズ&反転というパンチの効いた後味を出す・・・ 料理で表現すればまさにそんな感じ。 こんな佳作が今まで未収録だったこと自体、作者の力量を表しているのではないか? 返す返すも若くしての逝去が惜しまれる。 まだ多少未読作品が残ってるので、順次手に取っていくつもり。 (ベストは⑦かな。次点が①or②。ショート・ショートの2編も実によい) |
No.2 | 5点 | まさむね | 2016/03/19 22:03 |
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これまで作者の個人短編集に収録されたことのない作品をまとめた短編集。サスペンス溢れる展開の中、ホラーとして着地するのか、反転があるのか…と、ついつい読み進めさせるあたりは流石です。
「疵」、「鳥の巣」、「神の目」の3短編が好み。他の作品のレベルはまちまちといった印象ですが、氏らしさを感じることのできる短編集と言えましょう。 |
No.1 | 6点 | kanamori | 2014/11/06 18:35 |
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昨年亡くなった作者の、個人短編集に未収録だった作品を集めた文庫オリジナル短編集。
ホラーっぽい謎解きミステリから、サイコサスペンス風のもの、サプライズ系のホラー、しゃれたオチのあるショートショートまで、充実した良質な作品が揃っており、落穂ひろい的なものではない。 収録作のなかでは、間違い電話の相手との通話が予想外の展開を見せる「私に似た人」と、婚約者が変死した札幌のホテルを訪れた女性が知る意外な真相の「疵」、山中湖の保養所で女性が遭遇する悪夢「鳥の巣」の3編が特に印象に残る。 また「神の目」は、謎のストーカーの意外性と不可能興味で読ませるが、長編『大蛇伝説殺人事件』の男女私立探偵コンビが再登場、このコンビのやり取りも楽しい。 謎解きミステリがどんでん返しで着地するのは当然ですが、ホラーやサスペンスものでも最後にサプライズを仕掛けてくる今邑作品の面白さを再認識できるハイレベルな短編集になっていると思う。 |