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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ディミトリオスの棺
チャールズ・ラティマー/旧訳名「デミトリオスの棺」
エリック・アンブラー 出版月: 1953年10月 平均: 6.50点 書評数: 6件

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早川書房
1953年10月

早川書房
1972年01月

早川書房
1976年04月

No.6 5点 ことは 2023/05/13 17:28
めずらしくスパイ小説の古典を読んでみた。
予想外に地道に人の証言をきいてまわる展開で、この読み心地は私立探偵小説だなと思った。印象に残るのは、プロットよりも、聞き込みで出会う人物の肖像や、主人公のディミトリオスの肖像だった。
プロットとしては、目を引くものはないが、それは本作を参考に作られた作品を多く目にしているからなのだろう。たぶん、きっと、小説よりも映画でたくさん。
興味深かったのはラストシーン。
事件は終わり、知人からもらった手紙を読む主人公。そこには国際情勢の記述があり、不穏な空気が感じられるのだが、語り手のミステリ作家は、次の小説の構想を練り始める。
「冒険から平穏な日常に帰るラスト」と読みとれるのだが、舞台が1930年代後半、第二次大戦前夜なので、「平穏な日常には戻れないのだ」という皮肉に見えてしまった。(書かれたのが1939年なので、書いた当時に作者が考えていた訳ではないが)

No.5 5点 蟷螂の斧 2021/03/26 17:25
(英24位米17位)第一次世界大戦後の混乱の時代を背景に犯罪人ディミトリオスの生きざまを描いた作品なのでしょう。著者は主人公を通して「ディミトリオスは邪悪ではない」と言わしめていますが、どうも合点がいきません(苦笑)。時代背景がと言いたいのだろうけれど、どんな時代でも極悪人はいるし・・・。ルポタージュ方式の前半100頁まではかなりつらかった。肌に合わないなあ、なんての読書でした。スパイ小説の傑作とのことで、期待が多すぎたのかもしれない。後半、主人公に近づいてきた謎の男の正体が判明するあたりから、かなり面白くなってきます。この点はお勧めできますね。東西ミステリーベスト100(1985年版)で71位にランクされていますが、2012年版ではランク外。やはり、前半のとっつきにくさが原因なのかも?

No.4 8点 クリスティ再読 2017/02/23 22:54
本作を読むと、アンブラ―という作家は、たとえばオーウェルとかマルローの同時代人、という印象を強く受けるのだ。この1900年~1910年くらいまでの生まれの西洋人というのは、ソビエトのプロパガンダの洗礼を、青春の多感な時期に受けた世代なんだよね。コミュニズムへの共感を底流に持ちながらも、それが独ソ不可侵条約やスペイン戦争を通じて裏切られた思いを持ち続ける...そういう世代の作家として、アンブラーはスパイ小説に登場したわけだ。もちろんグレアム・グリーンも(面白いことにイアン・フレミングも)同じ世代に属するのと同時に、キム・フィルビーのようなリアル・スパイさえも同じ世代になる(さらに言えば、アンブラーやグリーンの作品を好んで映画化した監督たちも、赤狩りにひっかかった世代で同世代になる)。というわけで、この1900~1910年生まれの世代は「スパイの世代」なのだ。
本作のアンチヒーローであるディミトリオスは、第一次大戦後の混乱した東欧の中で、交錯する各種政治勢力の合間を縫うかのように、悪のキャリアを積んでいく。非情に利用し、利用されるのがアウトローの世界だとはいえ、その活動のバックにはそういう国際政治が強く絡みついているために、ディミトリオスの営業活動には「スパイ」も含まれる...決して荒唐無稽な悪の秘密結社でも、非政治的なギャングでもなく、リアルな政治も一つの道具であるような「悪」である。この小説のポイントはストーリーでもプロットでも何でもなくて、このディミトリオスの肖像そのものなのだ。「20世紀的な悪」のイメージをこのディミトリオスの姿として結晶できたことが、この作品の価値であろう。
(...じゃあ日本だと?面白いことにアンブラーと松本清張は同い年(1909年)生まれである。本作とかアンブラーの「けものみち」かもね。)

No.3 8点 2010/09/23 19:22
アンブラーといえばスパイ小説の大御所としての評価が定着していますが、本作を読み直してみて、スパイ小説の枠組みには納まらないというのが率直な感想でした。確かにすでに引退した大物スパイは登場します。しかしそれはエピソードの一つに過ぎません。
主役であるミステリ作家ラティマーは、ラストで新作のプロットを練っているところからするといかにも英国古典的フーダニットの作家です。その彼がディミトリオスという悪党の過去の足取りを15年も前のトルコからヨーロッパ各国を回ってていねいに追っていくストーリー。前半退屈だと言う人がいるのもわかりますが、クロフツ等が好きな人には充分楽しめるでしょう。このじっくり型調査過程があればこそ、政治社会的な事件を背景にして強盗殺人や政治家暗殺計画、スパイ、麻薬密輸などで冷酷に立ち回ってきたディミトリオスにリアリティが感じられるのでしょう。
最後には命を賭けたアクションもあります。それはクロフツだって時々やっていることですが、やはりアンブラーの方が自然です。

No.2 6点 kanamori 2010/07/21 21:03
トルコを訪問中の英国人作家が、死亡した国際的犯罪者・ディミトリオスの過去に関わるうち、謀略に巻き込まれるというストーリーでまずまず面白かった。
ディミトリオスの造形が少しづつ明らかになるにつれ、人間としてのスパイ像が浮き上がってきます。
荒唐無稽でないスパイ小説の先駆的作品。

No.1 7点 mini 2009/01/04 11:11
年が明けて今年はアンブラー生誕100周年
去年がフレミング生誕100周年だったから、スパイ小説の巨匠二人は年齢が一つ違いだったわけだ
スパイ小説と言っても前期のアンブラーは素人探偵が調査をする捜査小説の形態に近く、この「ディミトリオス」などは典型的なパターンだろう
初期の素人巻き込まれ型だと「あるスパイへの墓碑銘」のようなCC的なパターンの方を好む人もいるとは思うが、私はクローズド・サークルものには興味が無い読者なので、「ディミトリオス」みたいに国際的に広がりのある舞台設定の方が好きだ
本格が好きでもクロフツ風の地道な捜査小説は苦手みたいな読者だと前半を退屈に感じるかも知れないが、まさに前半の地味な調査場面こそが面白さのツボ
かえって後半のだんだんと真相が見え出してからの方が魅力が薄れた
私の好みでは「あるスパイへの墓碑銘」よりも、警察小説的な調査場面に終始する「ディミトリオス」の方を推したい


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エリック・アンブラー
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