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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
インターコムの陰謀
チャールズ・ラティマー
エリック・アンブラー 出版月: 1972年01月 平均: 8.00点 書評数: 2件

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早川書房
1972年01月

早川書房
1975年03月

No.2 9点 クリスティ再読 2017/03/05 21:43
評者の見るところ、本作は「ディミトリオスの棺」を上回る出来である。アンブラーでも代表作級と言っていい。「ディミトリオス」で主人公を務めたチャールズ・ラティマーが再登場するが、あまりキャラの連続性は感じられないわけで、シリーズもの、という感じではない。
本作のテーマは、情報をめぐるアナーキズムである。アンブラーが今生きてたら、絶対ウィキリークスを題材に選んでたろうね...スパイ戦は国家によって厳格に管理された非正規戦だ..というイメージを、スパイ小説とか映画によって刷り込まれているわけだけども、その間隙を縫って小国のスパイ戦担当者によるアナーキーな「私利私欲のためのゲリラ戦」が可能である、というちょっとした逆説が直接的な題材になっている。
ジュネーブで発行される「噂の真相」的なトンデモ系政治情報誌インターコムが、突如NATOや東側の軍事機密をダダ漏れにさせた「正しい」情報を垂れ流すようになったため、CIAもKGBも右往左往。この情報は謎の新社主から流れてくるらしい...その狙いは?という話だが、インターコムの編集者である主人公カーターの反骨っぷりも楽しい。KGB・CIAにイジメられればイジメられるほどファイトを燃やし、問題を紛糾させていく....
叙述はこのカーターと、これを題材としたドキュメンタリ小説を書こうとしたラティマーの間の書簡やラティマーによる関係者のインタビューなどを構成した格好になっており、これの臨場感が半端ない(叙述トリック未満の仕掛けもある...)。まあ本作は「真相の完全解明がないミステリ」の例としてよく引かれる作品なんだが、スパイ小説だったら「真相が闇の奥に消えていく」のは完全にアリだ。最後にカーターはラティマー失踪の真相を、目的を達した黒幕に聞くのだが、なぜラティマーが死ななければいけなかったのか、もどちらか言えば恣意的な理由のようだ。というわけで、本作のリアリズムは「小説のお約束」が嘘にしか見えないようなレベルに達している。
リアルかつアナーキーな視点をスパイ小説に持ち込み、キレイごとではない業の深さを感じさせる傑作である。が...ひょっとして、本作の出版自体が、ラティマーの背後に身を隠した作者アンブラーの仕掛では?というメタな読みも可能かもしれない(ヨミスギww)。

No.1 7点 2010/10/15 20:48
『ディミトリオスの棺』では主役を演じたミステリ作家チャールズ・ラティマーが再登場するといっても、彼の出番はほとんどありません。まずプロローグで、ラティマーが失踪したことが明かされますが、その後は彼の短い手紙が途中にはさまれるだけです。
今回の主役は、ごく小規模な雑誌「インターコム」の編集長カーターで、彼がその雑誌を利用したスパイの謀略に巻き込まれる話です。カーターからラティマーへの手紙や、ラティマーが執筆した断片、様々な人物のインタビュー回答などを継ぎ合わせた構成は、確かに異色作と言えるでしょう。
最初からネタをほぼ明かしているので、真相の意外性はありません。何人かの謎の接触者たちについては、たぶんKGBだろうとかCIAだろうという予想の域を出ないまま、小説は終ってしまいます。そういう意味では、ミステリとしては欠陥があると言えるのかもしれませんが、作者の狙いは別のところにあります。本当にドキュメンタリーを読んでいるような気分にさせられる奇妙なリアリティが魅力となっている作品です。


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