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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
夜来たる者
エリック・アンブラー 出版月: 1958年05月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1958年05月

No.1 7点 クリスティ再読 2018/05/04 00:02
遺作の「The Care of Time」が未訳なので、訳のある長編小説としては評者としても最後になる。本作はアンブラーの作品の中でも、ドキュメンタリに近い肌触りでかなり異色だ。
舞台は実質インドネシアの一部である「スンダ共和国」。その奥地のダム建設に従事していた主人公が、帰国間際にクーデターに遭遇する話である。ドキュメンタリ風だが、小説的な構成や仕掛けがしっかりあって、
1. 主人公が一時滞在のために借りた部屋が放送局のビルの上階にあって、まさにその部屋が反乱軍の秘密司令部に接収されてしまい、捕虜まがいの待遇を受けつつも反乱司令部の動きを直接見聞できる。
2. イギリス人の主人公だけなら単身脱出もあるかもしれないが、一緒にいたガールフレンドが欧亜混血で人種差別から気まぐれにでも殺されかねない懸念があって、心ならずも反乱軍に協力せざるを得ないこと。
3. 反乱軍の一員にダム工事で知り合った少佐がいるのだが、その少佐、どうも政府軍がわに通じているらしい...
と小説的な興趣のポイントがいろいろあって、ただリアルなだけではない芸の細かさを見せる。たしか実際のクーデータ事件をアンブラー自身現地取材に行って書いたんじゃなかったっけ。そんな話を読んだ記憶がある。
反乱軍との駆け引きが後年の「グリーン・サークル事件」を連想するとか、クーデターの背景などが「武器の道」でも採用されているとか、それまでどっちか言えば東欧に強い印象のあったアンブラーがアジア・ラテンアメリカの旧植民地国へ視点を広げるきっかけになっている作品であるとか、アンブラーの折返しポイント的な重要作である。アンブラー論をするならまさに必読の作品。

本作でアンブラーもとりあえずコンプ。ベスト5は「インターコムの陰謀」「武器の道」「シルマー家の遺産」「ドクター・フリゴの決断」「グリーン・サークル事件」。要するにね、今更「墓碑銘」とか「ディミトリオス」なんてお呼びじゃないと思うんだよ。戦後のアンブラーって戦前と比較したら2ランクくらい作家的実力がアップしている感があるわけで、戦前の作品なんて歴史的な価値くらいしかないと思うんだがいかがだろうか?


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エリック・アンブラー
2008年09月
グリーン・サークル事件
平均:8.00 / 書評数:2
1982年11月
ドクター・フリゴの決断
平均:7.00 / 書評数:1
1980年09月
薔薇はもう贈るな
平均:6.00 / 書評数:1
1979年02月
ダーティ・ストーリー
平均:6.00 / 書評数:1
1973年01月
暗い国境
平均:6.33 / 書評数:3
1972年01月
インターコムの陰謀
平均:8.00 / 書評数:2
1967年01月
汚辱と怒り
平均:7.00 / 書評数:1
1963年01月
真昼の翳
平均:6.50 / 書評数:2
1960年01月
デルチェフ裁判
平均:5.00 / 書評数:1
武器の道
平均:8.00 / 書評数:3
あるスパイの墓碑銘
平均:6.50 / 書評数:4
1958年05月
夜来たる者
平均:7.00 / 書評数:1
1957年12月
裏切りへの道
平均:6.00 / 書評数:1
1954年10月
シルマー家の遺産
平均:7.50 / 書評数:2
1954年05月
恐怖への旅
平均:6.00 / 書評数:2
1953年11月
恐怖の背景
平均:5.00 / 書評数:1
1953年10月
ディミトリオスの棺
平均:6.50 / 書評数:6