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[ 本格 ]
五匹の赤い鰊
ピーター卿シリーズ
ドロシー・L・セイヤーズ 出版月: 1966年06月 平均: 3.86点 書評数: 7件

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東京創元社
1966年06月

東京創元社
1996年06月

No.7 4点 クリスティ再読 2024/05/17 10:38
皆さんも本作は苦手のようだ。
確かに本作ってセイヤーズの中で一番「実験的」な作品なんだと思うんだ。純粋探偵小説と呼ぶべきだろうか。フラットに描かれた6人の容疑者。そして被害者の死亡時刻と犯人の偽装行動を巡ってアリバイが細かく検討される。ピーター卿の初動調査のレベルで匂わされるとある証拠。警察関係者による6様の推理と、ピーター卿が主導する犯行再現....いやいや「毒入りチョコレート事件」にセイヤーズが回答してみたと捉えても、不思議じゃない作品だと思うんだ。
しかし、この不人気さの理由が面白いとも感じる。

なんやかんや言って「毒入りチョコレート事件」がうまくいったのは、推理によって様相が切り替わっていく「転換」の面白味だっとようにも感じる。話が推理によってダイナミックに動いていく面白味であり、そこでフェアプレーや緻密さはそれほど重視されていない。しかし本作は6人の容疑者を並行で同列に描く、というのを徹底したために、それぞれの推理が個性と印象を殺し合っているようにしか見えないんだ。容疑者は全員、男性の(ややディレッタントな)画家で、渓流での釣りとパブでウィスキーを飲んだくれるのが趣味。純粋に「ミステリの興味」を追求したのは天晴れでも、公平性に力点を置いて小説としては印象の薄いものになってしまうのは仕方のないことだろう。

まあだから次作の「死体をどうぞ」が本作でうまくいかなかったあたりの修正改善版だと見るのが適切だと感じる。「事件のイメージ」を読者がどれほどしっかりと現実的に捉えることができるのか、という「推理小説」の最大のポイントについて、本作はあまりに性急であり過ぎたのではなかろうか。
(鉄道事業の詳細を利用したリアルなトリックとか、大昔の海外の話になると読者的なリアリティもあったもんじゃないしなあ....ともボヤくよ)

No.6 3点 レッドキング 2023/09/29 06:52
ドロシー・セイヤーズ第六作。釣り人か絵描きしかいない(!)村。トラベルメーカーの画家が撲殺されて、容疑者は6つの原因・・民族感情、妻を巡る嫉妬、名誉、釣り場争い、敷地境界抗争、他一つ・・による六人の画家だが、うち五人はニセ物=「赤い鰊」。ニセ油絵アリバイ工作、巻頭詳細地図、丁寧な時刻表、オマケに異色の読者挑戦状まで付いている。にしても、超クロフツ、なんと退屈(必ずしも否定だけの意味でなく)なミステリ小説・・「黄色い部屋」「学寮祭の夜」なみに・・英国の暇な読書士ならば余裕演じて楽しめるだろうが・・
※「わっしは捜査しとるがです」「けんど濃厚だがでのう」等、和訳者工夫してるが、スコットランド方言のニュアンス再現難しいなぁ。我が国で、小地方の方言を笑い嚙み殺して「見下す」のと同様なのか、イングランド - スコットランド関係。なんか、違う気が・・・。

No.5 5点 ボナンザ 2018/08/09 21:24
セイヤーズにしては本格色が強いが、やや長すぎるきらいがある。
犯人に意外性はあまりないし、トリックにもそれほど目新しいものはなく・・・。

No.4 5点 nukkam 2016/09/04 09:55
(ネタバレなしです) 1931年発表のシリーズ第6作でセイヤーズの全作品中最もパズル要素が強く、一方でセイヤーズの個性が希薄とも評されています。題名に使われている「赤い鰊」は目くらましとか偽の手掛かりという意味らしく、また物語の序盤で「読者への挑戦状」(エラリー・クイーンのそれとは毛色が違いますが)が挿入されるなどまさに「本格派推理小説」にこだわった作品になっています。となると私の好みには適合するはずなのですがこれが結構読みづらかったです。クロフツ顔負けの細かいアリバイ崩しが延々と続いたからというのも一因ですが一番の理由は6人の容疑者をあまりにも均等に描き分けたからだと思います。もう少し容疑にメリハリを付けた方が読者をミスリードしたり意外性を演出できたのでしょうが、悪い意味で完璧になリ過ぎて(Tetchyさんのご講評で指摘されているように)誰が犯人でも同じだという気分にさせてしまっています。文章が上手いと言われるセイヤーズでさえこうなのですから謎解きの面白さというのは奥の深い、永遠の課題なんでしょうね。

No.3 1点 了然和尚 2015/08/20 15:25
この本の評価は難しい! ミステリーのレベルとしては5点(まあまあ)ぐらいで、6点でも良いかもしれない。しかし、私にはスコットランド訛りがひどく集中して読めませんでした。6人の中から犯人を読み解くという緻密な謎ときなので、これは痛かったです。ネットで検索したら原書が見つかったのですが、"Did ye hear aboot Mr. Campbell?" が「キャンベルさんのことを聞きなすったがですか?」の調子で一体どこの世界の方言なんだろうか(あ、スコットランドか) フレバー程度に語られるならまだしも、証言でも、現地のお巡りさんも訛るもんだから、まったく集中できない。翻訳者は趣味と工夫を見せたとして、編集者は通して読んでなんとも思わなかったのだろうか? 内容ですが、電車トリックはもちろん、他に船の移動のアリバイなんかも出てきますのでクロフツが意識されているようです。実際「マギル卿最後の旅」の書名がそのまま出てきているのはすごいですね。
 クリスティーの「5匹の子豚」と同じなのですが、容疑者が明示され、並行的に淡々と証拠調べが行われるスタイルは、フェアでリアリティーがあり推理しがいはあるのですが、反面、物語としては単調になる欠点があるようです。フレンチ警部のように、順次推理しつつ展開していく話とは対極ですね。

No.2 6点 HORNET 2014/02/16 17:25
レッド・へリングというんですか、こういうの。ある容疑者がさも怪しいように描かれながら、真相は別のところにあるという。完全に推理・謎解き主体で物語が進むので、好みではある。が、「5匹」は多いかな・・・。
 結局、それぞれが「均等に」怪しく描かれなければレッド・へリングにならないから、複数の容疑者それぞれについてそれらしい推理が組み立てられる分、物語が冗長になる。その上、本作品ではその推理に「アリバイ」が深く関わってきて、さらにその解明に電車の時刻や地理的な要素などが関係してくるので、非常に複雑だった。それぞれの関係性が一目でわかるよう表にまとめられているページとかがあるとよかったのだが……
 「ナイン・テイラーズ」で教会の鳴鐘術の知識が下敷きになるのと同様、この作品でも絵画美術に関する知識が真相に関わってくる部分があるが、それについてはそれほど苦にならずに受け入れられた。お酒を嗜みながら、気ままにキャンバスに絵を描き、日がな一日釣り糸を垂らすなんていう悠々とした雰囲気、ミステリ的な部分以外のそういう楽しさが、セイヤーズ作品にはあると思った。

No.1 3点 Tetchy 2009/02/27 00:00
その名が示すようにこれは推理小説でいうレッド・ヘリング物、つまり疑わしき潔白者が何人もいる小説で純粋本格推理小説である。
しかし、レッド・ヘリング物は誰も彼もが怪しいという趣向であり、とどのつまり、意外な犯人というものが真相にならない。
従って、途中で「もう誰が犯人でもいいや」というある種の諦観を抱くようになるのだ。
それは本作も例外ではなく、キャンベルという嫌われ者の画家が殺されるという1つの事件だけで、460ページ弱を引っ張るのはあまりにもきつい。

さらに今回は時刻表解析があったりと、好きな人は堪らないかもしれないが、興味がない、いや寧ろ苦手な私にとってみれば、退屈以外の何物でもなく、はっきりいってこの段階で興味を失したのはまず疑いない。
セイヤーズの小説は最後は素晴らしいカタルシスを提供してくれるので今回も期待したのだが、どうも読者を置き去りにしてしまった感が強い。


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