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[ 本格 ]
忙しい蜜月旅行
ピーター卿シリーズ/別題『大忙しの蜜月旅行』
ドロシー・L・セイヤーズ 出版月: 1958年01月 平均: 7.40点 書評数: 5件

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早川書房
1958年01月

早川書房
1984年12月

早川書房
2005年06月

東京創元社
2020年02月

No.5 8点 クリスティ再読 2024/12/21 20:43
大まかにだけども、評者も執筆順で読もうかと思っていたから、セイヤーズの長編ラストは本作。ピーター&ハリエットの男女物語としてはやはり順を追わないと「腑に落ちる」ことにはならないだろうね。だから最低でも「毒」「死体をどうぞ」「学寮祭の夜」本作は、この順番で読むことをおすすめする。

「学寮祭」のラストでようやくプロポーズを受けたハリエットが、本作冒頭でゴールイン。晴れて「レディ・ウィムジイ」とか呼ばれてしまう。

「はい、おそらくは、奥さま」
〈奥さま〉−こんな事態をバンターが受け入れてくれるとは、彼女は考えてもみみなかった。ほかのみんなはともかく、バンターだけは無理なはずだった。だがどうやら、そうではなかったらしい。

評者も思わず目頭が熱くなる。新婚旅行はハリエットが子供時代を過ごした村で、憧れの家を借りてのものになるはずが....不測の事態に見舞われて、新婚夫婦の間にもいろいろと波乱も起きる。コージーというには筆がしっとりとしているし、ユーモアにしてはハイブラウ。シェイクスピアを引用しまくりでロマンチックな「いいムード」になったところにお邪魔虫が...という笑える場面もあるけども、お互い若くはない新婚夫婦ということで、気遣いすぎて遠慮めいてしまう感情もあれば、シリーズの中で隠れたテーマでもある「ピーター卿の弱さ」を「強い女性」のハリエットが受け入れるというシリーズ全体としての「決着」もある。

いやこのシリーズ、ピーター卿って、弱さを克服して「強く」ならないことに、その「独自の個性」があるんだろうな。その「弱さ」に開き直るのでもなく、否定するでもなく、自然に受け入れるあたりに、このシリーズの良さでもあり、単純な「名探偵」小説にしないセイヤーズの見識が伺われる。

創元のオマケの「〈トールボーイズ〉余話」では、三人の男の子に恵まれたピーター卿夫妻の後日談が語られる。長男のブリードンの悪戯から、男の子の自然な「強さ」みたいなものがテーマかな。だから、父になったピーター卿が我が子のために「子供に帰る」姿に、妙に泣けるものがある。+1点したいな。

さてこれでセイヤーズも長編はコンプ。来年は短編集を3冊片付けたい。大体ピーター卿登場作はカバーできるみたいだ。

No.4 5点 ボナンザ 2019/02/24 01:00
シリーズ最終作。前作同様半分ミステリで半分恋愛小説。とりあえずシリーズを追いかけてきた読者には満足できる結末ではないでしょうか。

No.3 8点 2017/02/03 21:45
ポケミス版の深井淳訳での読了ですが、初版1958年という古さにもかかわらずこなれた訳は気持ちよく読めました。しばしば引用されるシェイクスピア等で使われる古語もかえってアクセントになっていると思えます。
実はセイヤーズ、恥ずかしながら初読です。それなのに最終作からというのも、単なる気まぐれでして。食わず嫌いだったわけではなく、セイヤーズが次々に創元から翻訳されていたのが、個人的にミステリから離れていた時期にちょうど重なっていたせいなのです。
「推理によって中断される恋愛小説」というサブタイトルを付けたり、作者前書きの中で「この恋物語は探偵小説にはまったくの余計な筋だという人もありました。わたしもその一人です」なんていうふざけた調子を楽しんでいたら、真相解明後の祝婚後曲ではぐっとシリアスになってくれます。Tetchyさんみたいにシリーズをずっと追っていなくても、充分楽しめました。

No.2 6点 nukkam 2014/09/03 15:08
(ネタバレなしです) 人気絶頂期ながらセイヤーズ(1893-1957)の長編ミステリー最終作となった1937年発表のピーター卿シリーズ第11作の本格派推理小説です(映画化もされたそうです)。作者が序文で「謎解きはちょっぴり、恋愛の要素はいやになるほどたっぷり」と断っているので推理色の薄いコージー派的なミステリーなのかと思いましたが十分謎解き小説として成立しています。かなりのページ分量がありますがユーモア溢れる文章のおかげで読みやすいです。あちこちで炸裂する文学作品引用癖も好調で、この種の趣向を得意とする作家は結構多いですけど文学知識に自信のない読者にも楽しく読ませる点ではセイヤーズを超える作家はいないと思います。エンディングもまた感動的な余韻を残します。ところで本書は戯曲版と小説版が存在します。あのトリック(やや強引に感じますが)は確かに舞台映えしそうだが果たしてどうやって再現しているのでしょうか?

No.1 10点 Tetchy 2009/03/04 23:04
ピーター卿シリーズ最終巻にして傑作。
しかしこの評価は客観的な評価ではないかもしれない。シリーズをずっと追ってきて、ピーター卿とハリエット・ヴェインの2人に感情移入してしまっているからだ。
つまり、本作を存分に愉しむには『誰の死体?』から始まるピーター卿シリーズ全11作(短編含まず)を読むのが肝要だ。

本作は2人の新婚旅行で訪れたハリエットの生まれ故郷で自分たちが事前に購入していた屋敷で死んでいた死体と出くわし、その事件の捜査に巻き込まれるという、実にシンプルな内容。
それを630ページもの分量で語るわけで、随所に散りばめられたエピソードがその事件の外側を飾り立てている。
とはいえ、ピーター卿自身が事件よりもハリエットとの夫婦生活について思考を向けたり、トールボーイズ屋敷を取り巻く人間たちの関係を描いたりでなかなか話が進まない部分があり、正直、中だるみする部分があるのは否めない。

が、今回セイヤーズはかなりの試みをこの作品で行っていることが最後で判明する。
それは本格ミステリにおいて語られることのなかった「人が人を裁く」という意味についてかなり掘り下げて書いてあるのだ。

既に長くなっているので詳細は省くが、コージーミステリの如き始まったピーター卿が最後にこのような重い結末を迎えるとは思わなかった。
しかしこの結末だからこそ、ピーター卿は血肉を得たのだと思う。
ピーター卿と執事のバンターとの関係性などが明かされ、まさにシリーズの集大成と云える作品。
そしてセイヤーズがなぜ21世紀の現代においても評価が高いのか、その証拠がこの作品に確かにある。


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