[ その他 ] ノースライト |
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横山秀夫 | 出版月: 2019年02月 | 平均: 7.33点 | 書評数: 3件 |
![]() 新潮社 2019年02月 |
![]() 新潮社 2021年11月 |
No.3 | 8点 | 麝香福郎 | 2019/12/27 19:55 |
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横山秀夫は、誇り高き「仕事人間」の奮闘を描き続けてきた作家といってよいのではないか。
「陰の季節」、「動機」、「クライマーズ・ハイ」「64」など職種や状況こそ違え、そこに一貫していたのは、職務に忠実であるがゆえに孤立せざるをえない男たちの怒りと悲しみである。彼らの圧倒的な存在感をつくり出したものが、作者自身の誇り高き職業意識だったことはいうまでもない。 「64」から六年ぶりに刊行された本書も無論例外ではない。青瀬稔は大学の建築科を中退して大手建築事務所で働いていたが、バブルの崩壊と同時に失職した。所沢で小さな設計事務所を経営する学友に拾われ、注文に合わせて図面を引く日々。久しぶりに血をたぎらせたのは信濃追分のY邸の設計だった。「平成すまい200選」にも選ばれた自信作だったが、施主一家はなぜか新居に住んでいなかった。 無人の家に一つだけ置かれていた「タウトの椅子」を手掛かりに「Y家の謎」と建築家ブルーノ・タウトの足跡を追う青瀬の前に、やがて意外な真相が明らかになる。 この物語の結末は比類なく美しい。小説の名手、横山秀夫は健在である。 |
No.2 | 8点 | HORNET | 2019/09/01 20:32 |
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一級建築士の青瀬は、バブル全盛期こそ羽振りのいい事務所で稼いでいたが、バブル崩壊後は経営の傾いてきた事務所を辞め、個人的に拾ってくれた事務所で心を殺して仕事をしていた。そんなある日吉野という男から信濃追分に建てる家の設計を頼まれる。オーダーは「青瀬さんに任せる。青瀬さんの住みたい家を作ってください」という、全てを委ねる依頼だった。青瀬は建築家としての魂を揺さぶられ、渾身の思いで独創的な家を建てる。その家は「住みたい家200選」に選ばれ、青瀬の名を業界に知らしめるものとなった。
ところが、そんな評判から吉野の家を見に行った別のクライアントから「誰も住んでいないみたいだった」との知らせが入る。実際、家はもぬけの殻で、建築後誰も住んでいる様子はなかった。なぜ?吉野はどこへ行ったのか?真相を知るべく、青瀬は個人的に調べを始める― 警察小説の名手である著者の、「建築業界」というまた違った角度からの新作。もちろん私は全くの素人で、知識も何もないが、著者の持ち前の筆力・人物描写力で非常に興味深く、面白く読める。そうした建築業界のドラマに、離婚した妻と、離れて暮らす娘との家族ドラマも上手く絡め、さらに後半には、所属する事務所の所長・岡島の贈収賄疑惑というストーリーも加わって、非常に厚みのある話になっている。 「人が住んでいなさそう」という展開から、そこに死体があって一気にミステリとなっていくのかと思っていたが、そうではなかった。そうではなかったが、期待外れにはならなかった。 期待に違わない安定感。 個人的には「短編を書かせたら日本一」と思っている作家さんなので、また警察もののシリーズ短編も書いて欲しいなぁ。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2019/05/05 20:10 |
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(ネタバレなし)
妻と離婚し、現在は中学生の娘と月に一度ずつ会う許可を得ている45歳の一級建築士・青瀬稔。そんな青瀬は大学時代の学友・岡嶋が創設した建築事務所に所属するが、そこに「以前に青瀬が設計して建築関係のムックにも名デザインとして紹介されている家、あれと同じようなのものをお願いしたい」という依頼がある。青瀬はその新規の依頼を機にかつての仕事に思いを馳せ、自分が設計した吉野家を見に行くが、そこに現在も暮らしているはすの一家の影はなく、ほとんどの家具類も撤去されていた。ただひとつ、20世紀半ばに絶大な業績を遺したドイツの名インテリアデザイナー、ブルーノ・タウトの椅子のみを置き去りにして……。 横山作品は初読み。噂に聞く名作群はいずれ読んでいきたいと思うが、久々の6年ぶりの新刊という本書を、まずは試みに手に取ってみた。430頁弱の本文で読むのに2日間くらいかかるかと思っていたが、とんでもないリーダビリティの高さで半日で読了。 結論から言うと普通に面白かったが、一方で筆力のある人気ベストセラー作家の方ならこのくらいの秀作は想定範囲という思いもある。横山作品のビギナーが生意気を言ってすみません(汗)。 ミステリとしては消えた一家の行方、残された椅子の謎などが表向きの眼目だが、読み物としての眼目は、青瀬や岡嶋たちの事務所の事業ドラマ、さらには周辺の群像劇の方で、そっちの方が非ミステリの小説として面白い。 特に348~349頁の、あるキャラの描写なんか、あーうまいな、テレビドラマ化したら、ここでこの該当キャラを演じる俳優は本当に芝居のやりがいがあるだろうな! という感じ。こういうシーンを良い意味で抜け目なくちゃんと挿入しておけるのが、きっと横山センセが人気作家である証だろうね(まあその一方、こういう性格&文芸設定のキャラだったら、こんな事態の発生は想定内ではないのか? という思いもなくはないのだが……。) それでも最後は上手い具合にミステリらしく着地するし、その秘められた真相の開陳と小説としての燃焼感との相乗は、しっかりとこの作品の魅力になっている。筆の立つ作家が書いた21世紀のヒューマンドラマミステリなのは、間違いないでしょう。 評価はかなり迷うところがあるけれど、本サイトでも評価の高い横山先生の久々の大作・新作ということを勘案して、やや厳しめにこの点数。フツーの作家さんだったら、四の五の言わずに絶対にもう1点あげてます。 |
横山秀夫
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