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戦後の講談社と東都書房
原田裕/インタビュー・小田光雄
伝記・評伝 出版月: 2014年07月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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論創社
2014年07月

No.1 7点 人並由真 2018/07/10 13:55
 講談社で雑誌「キング」最後の編集長を務め、叢書「ロマン・ブックス」の発刊も企画&担当。さらには講談社の系列組織・東都書房に移籍して「東都ミステリー」「日本推理小説大系」などの企画も推進。後年は乱歩賞の予選選考委員も20年以上担当した名編集者にして、日本推理作家協会の名誉会員でもある原田裕(本書刊行時点で90歳)へのまるまる一冊インタビュー本。論創社の叢書「出版人に聞く」シリーズの一冊でもある。

 日本ミステリ史に(わずかばかりの)関心を持ちながら、浅学の徒である評者などには初めて教えられる情報や逸話が満載の驚嘆すべき一冊であった(特に坂口安吾の絶筆を高木彬光が補作した『樹のごときもの歩く』についての逸話などとても興味深い)。
 原田氏の半世紀近くに及ぶ編集者生活の中から生み出されたミステリ関連の叢書には評者もそれぞれ何らかの形で、受け手の末席から接しているが(さすがにひとつの叢書を丸々全巻読破、あるいはコレクションしているというものは全くないが)、この人のお仕事から得たものの大きさを改めていろいろと思い知った。
 長大な編集者歴の割合には、作家側やほかの編集者の出版業界内の噂的な話題がやや少ない気もしたが、これはこれだけヘビーで充実した人生を送っていれば、ご当人周辺のことを語るだけで十分に一冊の本なんか作れるという実証であろう。昭和の激動の出版界の中を駆け抜けた、まったく羨ましいご生涯である(もちろん余人なんかには窺いしれないご苦闘も山のようにあるんだろうけれど)。
 本書の終盤の方に、作家(ミステリ作家)の自伝や評伝はそれなりにあるが、ミステリ文化を支えた編集者や出版社の方はそれほど語られない、という主旨のインタビュアーとの対話があり、それはまったくその通りだと思う。その意味でも貴重な一冊。

 なお、インタビューは「出版状況クロニクル」で著名な小田光雄氏が担当。原田氏との弾む会話のなかで小田氏はついミステリマニア&研究家としての自分の心情を多分に吐露してしまい、そのあとで「インタビュアーが(取材対象者の談話を差し置いて)自分のことを多く語りすぎるのは恥ずかしい」という主旨の釈明をしている。そんな真面目さというか文筆家としての矜持のほどが何とも頬笑ましい。本サイトのミステリ各作品のレビューなどでも、しばし自分の話題で饒舌になる評者なんか、肝を冷やすような部分ではあった(汗・笑)。
 ちなみに東都ミステリーの作家紹介の部分で、垂水堅二郎=芳野昌之という事実については、なぜか触れられていない。今はそっとしておく事項なのかしらん。