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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1603件

プロフィール| 書評

No.883 7点 傑作ミステリーベスト10
事典・ガイド
(2010/11/02 21:47登録)
ミステリのガイドブックは星の数ほどあるが、これは週刊文春が1977年より実施している年末恒例のミステリーベスト10の、1999年度までのデータを集めたものである。
『このミス』はこのランキングのアンチテーゼとして生まれたものだが、こうして通して見てみるとさほどランキングの内容は変わらない。確かに『このミス』は『柳生十兵衛死す』や『影武者徳川家康』などの歴史物が時折ランキングされるが、それ以外はほとんど差がない。
確かに作家たちがランキングの投票に参加する関係上、その年の乱歩賞受賞作やその他ミステリ賞受賞作がランキングされることになりやすいが、近年のデータを見るとそれが顕著ではなく、寧ろ『このミス』と大同小異である。つまり『このミス』とこのランキングの投票者が重なる傾向にあるのだ。
何にせよ、ランキングは読書の一つの指標であり、その年の世評の鏡でもある。その結果について是非を問うのは子供のすることだろう。ここは、単にミステリ愛好家たちの集まりに参加し、その雰囲気を愉しむような感じで読むのが正解。そして私は愉しんだ。


No.882 7点 海外ミステリ・ベスト100―ハヤカワ文庫名作ガイド
事典・ガイド
(2010/11/01 21:12登録)
本書のランキングには自らも投票し、参加したため、いつも受身で見ているミステリのベストランキングよりも興味深かったのが正直なところ。今となっては自分がどのようなランキングで投票したのか、詳細は忘れたが、『長いお別れ』を1位に推したのは覚えており、本書もまた同様な結果になり、出版当初小躍りしたのを憶えている。
あとは『罪なき血』のような一風変わった作品も投票していたのが反映されており、ロス・マクの『縞模様の霊柩車』、『象牙色の嘲笑』あたりが入ってなく、定番の『さむけ』、『ウィチャリー家の女』が入っているのが普通すぎて残念。
内容は募集した内容の結果を発表するだけでプラスアルファの要素としては作家による愛着のある作品・作家のエッセイが5編あるのみ。以前出ている『ミステリ・ハンドブック』ほどの充実ぶりはない。
しかし、アンケートに参加するだけで本書が送られてくるとは思わなかった。買わずに待っていれば、2冊ダブらずに済んだのに。


No.881 3点 裏切り
ブライアン・フリーマントル
(2010/10/31 16:15登録)
最愛の人が政情不安定な異国の危険地帯で拉致されたら貴方はどうしますか?
本書の主人公ジャネット・ストーンはCIAや関連組織に連絡を取ってもなしのつぶてだったため、マスコミと政治家を味方につけ、世論を巻き起こし、さらに若き女性のみでありながら単身、現地へ乗り込むことを選択する。

しかし何かにつけ女性蔑視だと決め付け、それに対し激しく嫌悪し、激怒するジャネットはなかなか読者の共感を覚えるキャラクターではなく、境遇は解るものの、物分りの悪い上昇志向の自意識過剰のヒステリックな女性としか見えず、応援しようと思えないのが本書の欠点だろう。

また後味も悪く、どうしてこんな作品を書くのだろう?英国人はこういう苦いジョークが好きなのだろうか。不思議でならない。


No.880 7点 犬の力
ドン・ウィンズロウ
(2010/10/30 16:42登録)
麻薬。この現代の錬金術とも云える、人を惑わす物質はそれに関わる人々の人生を流転させる。正義を謳い、悪を征する側に付いていた者は賄賂と便宜にまみれた一大情報ネットワークを構築し、巨大組織を殲滅せんとする。が、しかしそのネットワークが次なる麻薬王誕生の足がかりとして悪用され、正義が巨悪へと転ずるのだ。
本書のドン・ウィンズロウは最初からフルスロットルだ。ゴッドファーザーといえばイタリア系マフィアが有名だが、ウィンズロウはメキシコ人の血よりも濃い“家族(ファミリー)”の絆を描く。赤茶けた砂漠と土塊で作られた建物が林立する埃立つ町並みが、常に汗ばみ、黒々と日に焼けた皮膚で佇む男どもの体臭が、そして灼熱の太陽が行間から立ち上ってくるようだ。

しかし面白いとは思うものの、世評の高さほどには愉しめなかった。先にハードボイルド路線に徹した作品『歓喜の島』というのがあるが、私が楽しめなかった作品の1つでもある。この作品の出来栄えの素晴らしさは認めるものの、何かを残す作品ではなかった。しかしこれは全く好みの問題。恐らく『ゴッド・ファーザー』が好きな人は本書を21世紀版のそれとして読み、愉しむことが十分出来る濃厚な作品である。


No.879 7点 日本ミステリー最前線①1989~1994
事典・ガイド
(2010/10/24 20:52登録)
本書から『このミス』の創刊とあいまってくるため、ベスト・ミステリに選出される作品も何かと似てきており、また年代が進むにつれ、筆者もそれを意識したコメントを発するようになる。
それに関して私は特に是非はない。『このミス』と似おうが似まいがそれはあくまで結果であって単なる指標に過ぎないのだ。だから香山氏にはそれとは別に己のベストを貫いてほしい。
ここで云う意味は従来注目してきた作家たちに対して常に誠実であってほしいのだ。昨今、不況にも拘らず新人作家のデビューが相次ぎ、ミステリ及びエンタテインメント関係における出版の洪水を促進させている風潮がある。そんな中、パッと現れパッと消える作家も多い訳で、新し者好きの書評子達の作家の使い捨て現象が起きている感が強い。
この香山氏もその傾向に傾きつつあるのはどうしても否めない。下世話な女性作家優先の法則、新人作家優先の法則など定義せず、良いものは良い、未熟なものは未熟だと明言する事が彼らの本分ではなかろうか。


No.878 7点 日本ミステリー最前線①1983~1988
事典・ガイド
(2010/10/23 23:08登録)
本書は現在も『小説推理』誌上で連載されているミステリー書評国内編を集めたもので、ガイドブックとしては新奇さはない。ただ対象年代が’80年代ということで私がミステリーに没頭する以前の作品群をリアルタイムで論評している点で買える。
筆者は『創元推理』誌上で論評している超マニアックな書評子と違い、主に『このミス』誌上等で書いているメジャー(?)な書評家で云わば、私をミステリーに引き込んだ方々の1人と云ってもいい。
当時と違い、私もこなれてきたせいか、100%愉しめるほどにはいかなかったものの、この自分の好きなミステリを自由に論ずるスタイルはやはりいいものである。若干自分の好みのペクトルと違う所はあるが、それは筆者の個性である。
最近は書名を連ねるのに精力的になっているような感があり、残念だが、本書はミステリに対するこだわりが存分にあり、若々しい。


No.877 7点 新刊めったくたガイド大全
事典・ガイド
(2010/10/22 22:35登録)
北上次郎のガイドブックは相変わらず純口語体で、何よりもそれが裏腹のなさを示しており、結構好感が持てる。
前回の『余計者文学の系譜』の時よりは『本の雑誌』書評の編集本ということもあり、作品の選択が一般的で愉しめた。
ただやはり書評家としてよりも一読者としての好みが全面に出ているきらいがあり、そこがいやに目に付く(まぁ、それが書評家北上の個性とも云えるのだが…)。また全体的にのめり込んだ本についての書評が長く、1つのコラムのバランスが非常に悪い。これならいっそ1冊に絞り込んで徹底的に評したらいいと思うのだが。
惜しむらくはこの本を読んで触手の伸びる新たな本が見つからなかったこと。でも自分の関心の高い作品についての感想を読むのはやはり愉しい。


No.876 6点 バカミスの世界 史上空前のミステリガイド
事典・ガイド
(2010/10/21 21:41登録)
以前から『このミス』誌上、または『この文庫がすごい!』誌上で語られてきたバカミスを系統立てて一冊の本に纏めたのが本書。
とはいえ、上の二誌ではリアルタイムな作品を語るのが専らだったせいか、本書はミステリの歴史上から俯瞰してバカミスを語っている。そのせいか後半に渡りすぎてディープに語る一歩手前で終わっている。
まあ、恐らくはこのメンバーでディープに語るとマニアック過ぎて読者がついてこられなくなるのだろうが。


No.875 7点 海外ミステリー作家事典
事典・ガイド
(2010/10/20 21:44登録)
最初、作家達の未訳作品が作品リストに載っていることでこの事典の充実ぶりに胸躍らせ、更に日本未紹介の作家が紹介されていることでこの事典の価値が俄然高まった。

が、しかし、そこまではよかったのだが、既訳作家の作品リストが全てリストアップされていないことに失望を覚えた。
「事典」であるからには述べられている項目に漏れがあっては台無しであるし、読者各々に思い入れの強い作品はあるのだから、その思いを反故にするのはなんとも云い難い。
という事で、やはり世界ミステリー事典に期待しよう。


No.874 4点 このミステリーを読め![海外編]
事典・ガイド
(2010/10/19 21:22登録)
押並べてガイドブックたるものは如何に読者に紹介した作品に読む意欲を起こさせるかにかかっていると思う。
つまりそれだけ選者の選択眼、文章力というのが問われるのだが、この郷原宏に関しては日本篇も含め、あまりにオーソドックスで心の深奥に届いて来ないのだ。
従って読書の指南書としては物足りないので座右の書ともなりにくい。作者の意見が5~10行でその後に作品の要約、著者の略歴という紹介方法に、何処に魅力を感じると思います?


No.873 8点 Jミステリー
事典・ガイド
(2010/10/18 21:38登録)
注目されているミステリ作家もしくはエンタテインメント系作家、そしてそれらの礎となり、今も第一線で活躍するミステリ作家達の作品を総称して「Jミステリー」と名付け、兎にも角にも評論、論議しまくったムック。
とはいっても東京創元社の出版する『創元推理』、『本格ミステリ・ベスト10』に見られるマニアによるマニアのためだけに編まれたような排他的、無機質なイメージはなく、また『このミス』のようなヴァラエティ番組的派手さもないが、寧ろそれだけ真正面からミステリを論じている感があって非常に心地よい一冊。
ただ惜しむらくは「Jミステリー」と言う造語を面白ければ何でもミステリだとも云わんばかりに定義付けている趣もあり、結局実体のない浮いた言葉になってしまいそうな危険性を孕んでいるのが気になった。しかしずっと手元に置いておきたい一冊である。


No.872 4点 このミステリーを読め![日本編]
事典・ガイド
(2010/10/17 21:26登録)
読書の素人に向けて書いたミステリ入門のためのガイドブックの体裁をとっているため、原尞、麻耶雄嵩といったディープな作家から内田康夫、西村京太郎といった定番作家をも紹介しているという広範さが特徴的。
そういった意味では今まで読んだことのないガイドブックだったがかえってそれがための“浅さ”がやはり物の足りない。
自分自身の趣味がマニアックなせいか、ガイドブックの作品の選定に選者の拘りを期待してしまうし、またそれらに対する選者の思いの強さを共有することで「ああ、ミステリは素晴らしい」とか「ミステリを読んできて本当によかった」と感じられるのだ。このカタルシスが欲しかったんだけどなぁ。


No.871 10点 夜明けの睡魔
評論・エッセイ
(2010/10/16 23:46登録)
これは史上稀に見る大傑作評論・エッセイである。全てのミステリ評論家は本書をバイブルとして座右に置く事を義務付けるべきだ。
入り込んでいきやすい文章と作品に対する着眼点の鋭さ。これは本書が13年前に書かれた事実を忘れさせてしまう。
特にロス・マクドナルドは本格ミステリ作家であるだなんて提言は、昨今正にそのような再評価が成されている状況を鑑みるとその先見性に驚嘆そして戦慄を覚えたし、『赤毛のレドメイン家』の分析も、正に眼からウロコ物であった。

享年51歳。改めて早過ぎる死だと痛感した。


No.870 5点 ダブル・ダブル
エラリイ・クイーン
(2010/10/15 22:39登録)
実に摑みどころの無い事件である。殺人事件とも思えない連続的な事故に対し、エラリイは誰かの作為が介在して意図的に起こされた殺人なのだと固執して事件の関連性を調査するというのが、本作の主眼なのだが、なんとも地味な内容なのだ。そしてエラリイが周囲の反対を押し切って捜査を続ける理由が、“金持ち、貧乏人、乞食に泥棒・・・”と歌われる童謡どおりに事件が起きている事実、それのみ。

前作『九尾の猫』との奇妙な符号についても触れておきたい。
『九尾の猫』は無差別殺人と思われた連続殺人事件に、一貫したミッシングリンクを探し出し、犯人を炙り出そうという趣向の作品だった。翻って本作は一見偶発的に起きた事故としか思えない町の人たちの死亡事故が、童謡という符号(リンク)があるがために実は隠された意図で起きていたことを見出すのが趣向だ。どちらも複数の人の死を扱っていながら、テーマは表裏一体だ。しかし次々と人が殺されていく『九尾の猫』は物語としても実に派手であるが、本作は事故としか見えないものをエラリイが無理矢理事件にしようと苦心し、足掻いているだけに実に地味だ。『九尾の猫』が陽ならば本作『ダブル・ダブル』は陰の作品といえよう。

前作のエラリイの探偵廃業を決意するまでに絶望に落ち込んだ彼は一体何だったんだと叫びたいくらい、立ち直りが早い。まあ、これはよしとして次作がもっと面白いであろうことを期待しよう。


No.869 1点 創元推理19
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/10/11 21:06登録)
もはや何を以って本書が届くのを愉しみにしたらよいのか判らなくなってしまった。どんどんマニアックになっていって、はっきり云ってついていけなくなった。
今回初めて評論を読み飛ばしてしまった。この行為がもうこの創元推理クラブとの訣別の象徴となってしまった感が胸に去来する。
私は確かにミステリが好きだ。だが本書に掲載されている内容は好きではない。ミステリに求める悦楽のヴェクトルが違うのだ。
過去に埋もれた、今では傑作とは呼べない代物を掘り起こして、さあ、読み賜えと振舞う所業に、私は何かしら戦慄を覚えてしまった。
さらば創元推理、これにて我、その下を去らん!


No.868 1点 推理日記Ⅲ
評論・エッセイ
(2010/10/09 22:24登録)
最も推理小説の謎、トリックといったものを含めたプロットにこだわり、しかも愛するこの作家が、このエッセイで他作家の作品の種をいとも簡単に暴露するなんて精神分裂症ではあるまいか?作品を生み出す労苦は己の身がよく知っているであろうに、何の断りも無く、あっさりとバラす。
エッセイを語る上でどうしても必要だからという理由は十分理解できるがその作品を未読の読者に対して一言事前に断りを入れておくのがマナーであり、エチケットであろう!それが無い本作は作者のエゴの塊にしか過ぎない。大変失望した!!


No.867 7点 推理日記Ⅱ
評論・エッセイ
(2010/10/08 22:51登録)
初めて『推理日記』シリーズに接したⅤの時よりも、読み手としての佐野洋に少々辟易したような感が残った。
それは都築との名探偵論争に顕著なように、あくまで自論を正当化させるためにありとあらゆる知識を総動員して論破しようとする点が今回特にくどく感じたからだ。時には偏屈爺の説教のようになり、食傷気味であった。
しかし、「同一トリックの再使用について」の見解は白眉である。平成の世に到来した新本格ムーヴメントを考えれば途轍もない先見の明である。
これだから『推理日記』は止められない。


No.866 7点 浪花少年探偵団2
東野圭吾
(2010/10/07 21:33登録)
シリーズ1作目同様、肩の力を抜いて楽しく読めるキャラクター小説である。こちらの独断かもしれないが、物語の構成が手がかりを提示した本格ミステリの風合いから次々と事件が起きて読者を愉しませるストーリー重視の犯罪物に変わっているように思う。
しかしあとがきにも作者自身が作風の変化を自覚していることを述べているからこの推察は間違いないだろう。読者の推理の余地がないので、本格ミステリ度は薄いが、逆に東野のストーリーテリングの上手さと、関係のないと思われた事象がどのように繋がっていくのかを愉しんで読める作品になっている。

大阪弁を前面に出した軽妙なストーリー運びと下町の姉ちゃんと呼べる威勢のいい女教師のこのシリーズ、シリアスな作品が多い東野作品の中でも異色のシリーズだっただけにたった2冊でシリーズを終えるのは惜しいものだ。現在押しも押されぬ国民的人気作家となった東野圭吾がこのシリーズを再開するのは限りなく0%に近いだろうけど、執筆活動の気晴らしとしてまたぼつぼつと書いて欲しいものだ。


No.865 7点 ミステリ・ベスト201 日本編
事典・ガイド
(2010/10/06 21:48登録)
海外ミステリを広く扱ったガイドブックは多数あるのに対し、日本のミステリに焦点を当てたそれは全くといっていいほど、無かった。そんな現状を憂うミステリ・ファンの声に応えて編まれたのが本書。

前に読んだ『本格ミステリ・ベスト100』の時も感じたある種の物足りなさは今回もあった。しかしやはりこうしたガイドブックでは十全に満足することは無いのではないか、いや満足してはいけないのではないかと思うようになった。十全に満足するガイドブックとはその人にはもはや必要ないのだ。自分の興味の無い本も紹介されているからこそ読む意味があるのだろう。


No.864 5点 ミステリ絶対名作201
事典・ガイド
(2010/10/05 21:51登録)
前作のミステリ・ベスト201では1ページに1作紹介し、上下2段の文章にぎっしり情報がつめられていたが、本書ではジャンル別になされた座談会が掲載され、作品紹介は1ページに2つと情報量が半減。初めて読むシリーズがこれならばアリだが、1作めを読んだ後では、面白さ半減。

選出された作品も絶版が多いのが残念。古本屋巡りの際の発掘本参考書とするのがいいのかもしれない。

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