home

ミステリの祭典

login
帝王死す
エラリイ・クイーン

作家 エラリイ・クイーン
出版日1955年10月
平均点5.10点
書評数10人

No.10 5点 HORNET
(2022/01/04 16:23登録)
 世界的大富豪である軍事企業の主、キング・ベンディゴに殺害予告が寄せられる。内容を細切れにして送られてくる脅迫状は、最終的に殺害日時を明確に指定したもの。捜査を依頼され呼ばれたクイーン親子だったが、脅迫状の出所を突き止めるのはいかにも簡単で、脅迫者はキングの弟であるジュダと判明。本人もあっさりそれを認め、しかも予告通り殺害を決行するという。そして衆人環視の中起きたのは、壁を隔てた別室で撃った拳銃によって、向かいの部屋のキングが撃たれるという不可能犯罪。犯人は明白(?)、しかし犯行方法は不可能。そんな状況の中、キング兄弟の出身がエラリイに縁深いあの場所だと分かり―

 あまりにも奇妙な犯行様態だが、常識的に考えればそれしか方法はないだろう、というのがそのまま真相ではある。犯罪が仕組まれた背景と真の犯人像も、まぁ思い描いていた通りと言える。真相を看破する手がかりは確かに面白かったが、長編に耐えうる仕掛けとは言い難い。
 現在の、「起こった犯罪」に対する推理よりも、その背景を読み解くことに多くが割かれるタイプの作品で、しかもそれが大戦時という歴史的背景も重なるため、読む意欲を維持するのがなかなか難しい作品だった。

No.9 5点 レッドキング
(2020/06/23 18:54登録)
なんと予告密室殺人。「密室」出すとポイント高いよ。二部屋の完璧な密室。一部屋には自称犯人と凶器の銃、別の部屋に撃たれた男と気絶した妻、いったい銃はどうやって移動し・・・でも種明かしには何の外連味もなく、「アメリカ銃の秘密」「孤島の鬼」の方がマシな位のレベルのトリックで・・・クイーンにカーを期待してもなあ。

No.8 7点 虫暮部
(2017/11/28 13:58登録)
 特殊かつ限定的な状況を作る為の工夫が面白い。不可能犯罪の魅力的な様相に比して真相はたいしたことないし、帝王一族以外のサブ・キャラクターがあまり生かされていないきらいはあるが、話としては結構好き。

No.7 3点 クリスティ再読
(2017/06/12 00:14登録)
市民ケーンかハワード・ヒューズか、それともドクター・ノオか、というような超権力者「キング」の島の、超堅牢密室の事件なんだけど...こりゃ、ダメだ。SFかファンタジーか007かという事件の舞台、ライツヴィルでの過去の因縁、3兄弟の確執、密室謎解きが、てんでバラバラの方向を向いてる作品で、すべてにおいて中途半端。そもそもリーの小説スタイルはリアルな方に向いてるから、こういうファンタジーはダメだよ。
ま評者密室殺人嫌いを公言してるわけだけど、要するに手品はネタをバラさないからファンタジーが成立するのであって、密室のトリックをばらしてドラマがうまく動く長編作品なんてまずないと思うよ。
最後バタバタと死と脱出でオチが付くけど、苦し紛れにしかみえないや。とにかく小説としてこれはクイーン最低の部類。取り柄は密室のハッタリの見せ方がイイことと、密室トリックは小粒でも実行可能なことくらい。この人も国際政治ネタをリアルに描くことが無理な資質なんだね....(クリスティだと「死への旅」みたいなものか)

No.6 6点 青い車
(2016/11/09 14:24登録)
 やはり、クイーンはどの時代でもパズルとしてのミステリーに拘りを持っていたことがわかります。今回も不可能犯罪のテイストを取り入れつつ、あくまで論理的な思考でエラリーは真相を解き明かします。伏線のそつない張り方と、終盤でのそれらの回収は相変わらず見事です。マイナスなのは、島という舞台装置を持て余し気味に感じること、事件が起きるまでの起伏に乏しい展開、そして(あくまで相対的にですが)初期ほどの推理のキレが見られないことです。

No.5 6点 了然和尚
(2016/04/11 18:39登録)
本作については犯人をネタバレされてもかまいませんが、犯人の出自については絶対秘匿ですね。この意外な展開は本当に驚いて、嬉しかったです。国名シリーズから、たまたま本作へ飛んで読んでしまったら全く感動がない作品になってしまいそうです。「災厄の町」から順番に読むことをお勧めしたいですね。国名シリーズ、ポワロもの、カーとかはどれから読んでも、大して変わらないと思いますが、後期のクイーンは順番は大事ですね。
で、また今回も探偵クイーンは踊らされる(しかも親子で)わけですが、単純に結論に飛びつくわけではなく、なぜ踊らされているのかを考察し、本格パズルを組み立てています。この辺の推理についても、連作で読んでいれば読者の意識とシンクロして楽しめます。

No.4 5点 E-BANKER
(2012/09/28 22:25登録)
1952年発表。後期クイーンの有名作。
ライツヴィル・シリーズではないが、架空の都市「ライツヴィル」が作品世界に影を落とす一作。

~第二次世界大戦当時の機密島を買い取り、私設の陸海空軍を持つペンディゴ帝国に君臨する軍需工業界の怪物キング・ペンディゴ。彼のもとに舞い込んだ脅迫状の調査を求められ、クイーン父子は突然ニューヨークから拉致された。その強引なやり方と島の奇妙な雰囲気にとまどいながらも、エラリイはついに意外な犯人を突き止めた。しかし次の瞬間、父子の眼前で不可解な密室殺人が起こる。冒険小説風に展開する奇抜な不可能犯罪の謎~

魅力的な舞台設定と腰砕けの真相。
本作の「密室」は他のどの作品にも負けないほど「超堅牢な」密室。
どこにも隙間のない特別製の部屋が完全に密閉されたうえ、ドアの前にはクイーン警視ほか1名の目が光る。しかも、犯人と目される人物の前にはエラリイがいる・・・という状況。
にもかかわらず、犯人と目される人物が持つ拳銃から放たれた銃弾で殺人が起こってしまうのだ!
これはJ.Dカーや島田荘司もびっくりの超抜トリックか! と思いきや、なんとも小粒なトリックが開陳されてしまう・・・

派手な設定が目立つ本作なのだが、作者の狙いはそんなところにないのだろう。
国家をも凌駕する軍需産業を率いるキング・ペンディゴという人物を通し、そんな人物ですら(そんな人物だからこそとも言えるが)出自や弱点から逃げられないという人間の弱さというかはかなさを示してくれる。
三兄弟の名前に込められた暗喩とともに、何とも言えない読後感が残った。

ただ、ロジック全開の初期作品を志向する読者にとっては(私もそうだが)、実に物足りない作品という評価になるのはしょうがないかな。
(正しくは、ライツヴィルシリーズを先に読むべきなんだろうなぁ・・・)

No.3 7点 Tetchy
(2011/01/26 21:40登録)
今までのクイーン作品の中で最も舞台設定が凝っており、後期クイーンの諸作で深みが増した人間ドラマの一面にさらに濃厚さが増した、リーダビリティ溢れる作品だ。
しかもドラマチックな設定の中、密室で銃で撃たれるという不可能犯罪が起こる。
しかしこの魅力的な謎の真相は正直期待外れの感は否めない。

そして忘れてはならないのは今回の事件に翳を落としているのはあのライツヴィル。

しかしなんとも暗喩に満ちた作品だ。ベンディゴ兄弟の名前はもとより、探偵クイーンに相対するのがキング。しかも題名は“The King Is Dead”。色々な意味合いが込められたこれらのメタファーに物語以上の重みが感じられてならない。

No.2 3点 CRYSTAL
(2010/01/22 23:13登録)
大好きなクイーンで、しかも密室だから期待し過ぎた感もあったけどいまいちでした。トリックも何かパッとしてないし。
やっぱクイーンは、密室モノが下手なんでしょうかねえ。

No.1 4点
(2009/04/11 11:31登録)
風変わりな設定と奇妙な事件。聖書とのアナロジーはクイーンらしいテーマだと思うのですが、やはり不可能性を前面に出したプロットが得意な作家ではないな、という認識を新たにさせられるできばえだと思います。途中で、トリックはそのうちわかるだろうとエラリーが言っているのでは、不可能興味は盛り上がりませんし、実際のトリックの出来もいまひとつです。しかもその事件では殺人が不成功に終わり、最終的には犯人がクイーン親子を利用した意味がない結末を迎えてしまうという、どうも釈然としない作品でした。

10レコード表示中です 書評