ROM大臣さんの登録情報 | |
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平均点:6.07点 | 書評数:149件 |
No.109 | 6点 | 愛して殺してマイアミで ポール・リヴァイン |
(2023/05/18 13:15登録) 売り出し中のテレビキャスター、ミッシェル・ダイアモンドがある夜自宅で首を絞められたうえ、コンピュータのモニターに顔を突っ込んで殺されていた。そしてさらに第二、第三の殺人が起きる。 本書は読者の意表を突く趣向や伏線がたっぷり盛り込まれており、特に事件の鍵は、ジェンダーが重要なポイントになっている。 殺人現場に残された詩の解釈をめぐって、あれこれ推理するくだりなどは、ややもすればペダンティックになりかねないところだが、向こう見ずの行動とジョークに満ちたおしゃべりで、相手を煙に巻きながら解決に突き進む弁護士ラシターの活躍が、この作品を一気に読ませる魅力あるものにしている。 |
No.108 | 6点 | 水よ踊れ 岩井圭也 |
(2023/05/18 13:06登録) 一九九七年、中国返還を間近に控えた香港。二十歳の交換留学生・瀬戸和志は、十三歳から十七歳まで暮らしたこの地を再訪する。その地にはかつて想いを寄せた少女・梨欣がいた。彼女は三年前、マンションの屋上から落ちて死んだ。警察は自殺と結論づけたが、和志はその場から慌てて立ち去る男を目撃していた。その真相を求め、香港に戻ってきたのだ。 不器用な青春、激化する民主化運動、複雑な民族問題、格差の現実、濁った政治、そして揺れ動く香港の熱気が濃密に絡み合い、真に迫った描写で綴られていく。しかもある箇所で本作の主題が明らかになると、より物語の厚みが増し、さらに梨欣の死についての答えが示されてからの猛烈な熱量には大いに圧倒された。 |
No.107 | 5点 | テロリストよ眠れ レグ・ギャドニー |
(2023/05/18 12:55登録) M15への転身で新しい人生の道に進もうとしていた恋人メアリを、テロリストの銃弾により目の前で狙撃されたアラン・ロスリン。復讐のために手掛かりを得ようとするが、残された日記に記された彼女の姿は疑念を生じさせる。 日記を読むということによって生まれるメアリの愛への疑念を、事件の捜査によって払拭しようとするロスリンの心の葛藤は、絶えず続く。その緊迫感と重圧感は独特の空気を生んでいる。 複雑な心理描写と社会的な腐敗を通してそれぞれのキャラクターを描くが、やや類型的になっている面が惜しい。 |
No.106 | 6点 | 匣の人 松嶋智左 |
(2023/05/18 12:48登録) ある事情で刑事課から交番勤務に移動した貴衣子。部下に配属された新米警察官の里志は、とらえどころのない性格で彼女を困惑させる。大事件など起きない平穏な町で技能実習生が殺される事件起き、里志の性格も災いして、彼にある疑いがかけられる。 事件そのものは小粒だが、その転がし方が実に巧妙。殺人事件以外にも、外国人の技能実習生に関するトラブル、老人の徘徊と、小さな町の抱えた多彩な問題を絡めて描き出す。それぞれに困難を抱えた人々が救いを得る畳み方も、温かい読後感を残す。 |
No.105 | 6点 | 脅迫、空港閉鎖! ジャック・トロリー |
(2023/05/18 12:35登録) リンドバーグ空港は、住宅をかすめて飛ぶ飛行機の引き起こす騒音が公害化し、市全体が停滞した状態に陥っていた。そのサンディエゴ市内で連続殺人が起こった。 犯人の動機が多かれ少なかれ、住人が持つ飛行場への不満の鬱積である点が目新しい。犯人の動機が、最初のうちは荒唐無稽のように思えるのだが、逆に現実離れした犯人の行動の異常性を身近に感じさせる効果を上げている。 飛行機の騒音という解決されない重苦しいテーマを掲げながらも、独特の軽みを帯びたタッチで作品の雰囲気が暗くなるのを防ぐ作者の手腕は評価されてもいい。 |
No.104 | 4点 | 冬のさなかに ホームズ2世最初の事件 アビイ・ペン・ベイカー |
(2023/03/09 13:50登録) シャーロック・ホームズと「ボヘミアの醜聞」に登場するアイリーネ・アドラーとの間に生まれた娘、論理学者のマール・アドラー・ノートンの活躍するシリーズ第一作。本編では、シリーズの語り手兼ワトスン役を務めることになる、フェイ・タリスとマールとの出会い、二人を巻き込んだ最初の事件の顛末が語られる。 本書がホームズのパスティーシュであることは、作者の前書きで明かされるが、それがなければ、ごくありきたりの現代米国ミステリに見えてしまったかもしれない。というのも、舞台が米国というのがピンとこないし、時代色もうまく出ていない。また、当時の婦人解放運動に作者の主張を反映させているところが、いかにも現代の米女流作家らしいが、それがどうにもホームズの世界と結びつかない。 作者の意欲は認めるが、いろいろ詰め込みすぎた結果、全体としてかえってまとまりを欠いてしまった。 |
No.103 | 5点 | 魔女の鉄槌 ジェーン・スタントン・ヒッチコック |
(2023/03/09 13:41登録) 魔女狩り、猥書と魔術書が充満するヴァチカンの秘密図書館、ナチとヴァチカンの裏取引など、世界史の陰惨なエピソードが積み重なった果てに炙り出されるのは、キリスト教の反動性と男尊女卑思想の恐るべき共犯の構図。 おぞましい真実を知るにつれて、最初は印象が薄かったビアトリスが行動的に変貌してゆく様は見もので、後半での思い切った振る舞いには驚かされる。 だが、本書の最も恐ろしいところは、作中に登場する「マレウス・マレフィカールム」なる書物が実在し、十五世紀に刊行されて以降、数世紀にわたって実際に魔女狩りの手引書として用いられてきたという点にある。一般に考えられている以上に米国という国には宗教的色彩が濃厚なだけに、荒唐無稽な絵空事と一笑にふせない、リアルな恐ろしさ感じる。 |
No.102 | 6点 | 見知らぬ人 エリー・グリフィス |
(2023/03/09 13:32登録) クレアは、イギリスの中等学校タルガース校で英語教師を務めながら、ヴィクトリア朝時代の作家、R・M・ホランドの伝記を執筆している。実はこの学校の旧館は、怪奇短編「見知らぬ人」で知られるホランドの邸宅だったのだ。ある日、クレアと親しい同僚のエラが自宅で何者かに刺殺される。遺体の傍らには、「地獄はからだ」のメモ書きが。それは「見知らぬ人」に繰り返して出てくるフレーズだった。そしてクレアの日記にも「ハロー、クレア。あなたはわたしを知らない」という謎の書き込みが。 クレア、事件を担当する部長刑事ハービンダー、クレアの娘ジョージアの三人の視点と作中作「見知らぬ人」を駆使して語られ、やがて連続殺人事件へと発展していく本作における一番の読みどころは、フーダニットミステリとしての完成度の高さ。裏をかいて見せる手際には脱帽。さらに最後に用意されたある趣向にもご注目。 |
No.101 | 6点 | 七人の愛国者 スティーヴ・ソーマ |
(2023/03/09 13:21登録) 一九九一年、アメリカ大統領は冷戦の終結に伴って、米軍をヨーロッパから引き上げるという軍縮政策を宣言した。だがそれと同時に、軍内部の愛国者たちが不穏な動きを取り始める。 ホワイトハウスの爆破、地球規模に及ぶ戦略警戒態勢、ワシントンの厳戒令、と緊迫の度を増していく。本書に描かれているのは、わずか十三時間の出来事だが、衝撃的かつ不可解な事件が立て続けに起こり、圧倒されるばかり。 構成的には、複数の人物と並行して描くグランドホテル形式をとっているが、探偵役ともいうべきクリスティのパートは謎解きミステリの要素が強く、叙述トリックまで用意されている。軍事ものを敬遠しがちな本格ファンにもおすすめできる。 |
No.100 | 5点 | 彼女は僕の「顔」を知らない 古宮九時 |
(2023/03/09 13:12登録) 十年前に起きた放火事件を生き延びた少年と少女の物語。ミステリの枠組みを利用した青春小説で、謎解き自体の味付けは薄い。 他人の負の感情に過度に同期して、憂鬱になったり胃を痛めてしまう体質の良。同じ高校に転校してきた静葉は、良と同じく十年前のキャンプ場火災の生存者だった。だが、彼女は相貌失認(人の顔を識別できない病)だった。静葉の願いで十年前の真実を探ることに。 ミステリとしては薄めとはいえ、物語と仕掛けが響きあう構造は魅力に富んでいる。人間関係の中に埋められた秘密が明かされる展開は、謎の解明による快楽を満喫できる。秘密の解明が、主人公たちの関係を変えてしまう。その苦さと甘さが心に焼き付く。 |
No.99 | 6点 | フィアー L・ロン・ハバード |
(2023/03/09 13:04登録) 人類学者のローリーは、悪魔や悪霊を否定した論文がもとで学長の不興を買い、解雇を通告される。失意のまま友人宅を訪れた彼は、その後四時間の記憶と愛用の帽子を失い、呆然自失して愛妻の待つ我が家へ戻る。帽子を探しに再度、家を出たとたん彼は異様な世界へと落下し、異界の住人達から、帽子を見つければ命がなくなると警告される。 サイコ・ホラーの先駆ともいえる物語だが、失われた時間を求めて彷徨する主人公を取り巻く世界が、次第に現実と妄想ともつかぬものへと変容してゆく過程のリアルな描写は圧巻である。 現実を侵犯するフォークロア風異世界という趣向など、ジョナサン・キャロル流のダーク・ファンタジーをはるかに先取りしているともいえる。モダンホラーの知られざる原点として再評価に値する作品といえるだろう。 |
No.98 | 4点 | 捜査官ケイト ローリー・キング |
(2023/01/26 14:58登録) サンフランシスコのベイ・エリアには、タイラーズ・ロードと呼ばれるコミューンがあった。荘園住まいの現代風領主を気取っているジョン・タイラーの地所に当たるその地域には、電気も電話もなく、車の通行も週に二日しか許されていない。七十人以上の住民が俗世間から逃れ、平和な生活を享受していた。だが、そこで凄惨な幼女連続殺人事件が発生したのである。 主人公ケイトの捜査活動にどちらかといえば重点を置き、私生活の方はさらっと描いているので、読んでいてもさほど重たくはない。気になったのは、四九九ページの感動的な場面での「盗まれた手紙」という語句で、訳者はゴシック小説に結び付けた説明を行っているが、これはポーのかの有名な短編の、手紙の隠し場所のことを指しているのではないだろうか。訳者の解釈だと、この場面の性格がまるっきり違ったものになってしまうので、一言苦言を呈しておきたい。 |
No.97 | 6点 | ビッグ・ピクチャー ダグラス・ケネディ |
(2023/01/26 14:49登録) 主人公ベン・ブラッドフォードは、信託・遺産部門の弁護士。世間的には成功者として何不自由ない暮らしだが、プロカメラマンへの夢を捨てたという苦い思い出があり、心の中は満たされていない。ある時、妻の不貞を発見し、妻の不倫相手を殺害してしまう。 まず、殺人に至るまでの日常生活の描写にしびれる。ヤッピーの物質的には満たされた暮らしと、夢を失った心の不毛をじっくりと描く。うるさいくらいのカメラコレクションの蘊蓄も、後半への伏線になっている。 ブラックユーモアに満ちた死体処理の凄み。主人公の心象風景のような冬の北米大陸統合の旅。そしてひねりの利いた結末まで間然するところがない。 |
No.96 | 6点 | 茶匠と探偵 アリエット・ド・ボダール |
(2023/01/26 14:42登録) この作者は、フランスとベトナムの血を引いている。パリに住み、フランス語が母国語であるのに英語で書いている。内容も中国作家より中国的な感じがある。 アメリカ大陸を中国人が発見し、ヨーロッパの進行を阻止して生まれた「シュヤ」という世界を舞台にした作品を九編、日本独自にまとめた中短編集だ。 表題作と「蝶々、黎明に堕ちて」の二作は、歴史改変物ということになるだろうが、そのことが中心になっているのではなく、その改編の結果としてどのような状況が生まれ、そこからどのような未来が生まれたのか、ダークな世界観だがその細部を描くことによって、大きな背景が見えてくるという手法が効果的に使われている。 |
No.95 | 4点 | バビロンの影 デイヴィッド・メイスン |
(2023/01/26 14:35登録) 謀略小説と冒険小説の中間に位置する作品である。ハワードら九人の行動を精密に描いて、フセイン暗殺の準備をする過程に冒険小説としての魅力がある。また彼らの行動を軍事衛星で追って、阻止しようとするアメリカのアナリストたちの行動も同時に描いている。 しかし、登場人物が多いため、重要なキャラクターである九人の男たちが十分に描かれておらず、盛り上がるはずのクライマックス・シーンも淡々と描写しているだけに不満が残る。どちらにしても欠点がないわけではないが、ラストのどんでん返しはなかなか気が利いている。 |
No.94 | 5点 | 悪夢の八月 ティモシー・ウイリアムズ |
(2023/01/26 14:28登録) アパートの一室で発見されたその死体は、ひどく損傷を受けており、死後数日は経っていた。一方、時を同じくしてポー川で自殺騒動が起こる。二つの事件には関係があると睨むトロッティは、警部補のピザネッリを連れて独自の捜査を続ける。 癖のある主人公、悲しみを通り越した先に生まれた乾いたユーモア、どこか嚙み合わない会話、簡素でいて奇妙にずれた章大、耳慣れないイタリア語の人名や地名、八月のイタリアが持つうだるような暑さ、そういったものが混然一体となって作品世界を構築している。 |
No.93 | 6点 | 陸軍士官学校の死 ルイス・ベイヤード |
(2022/12/20 14:43登録) 舞台は一八三〇年のニューヨーク州。ウェストポイント陸軍士官学校である夜、一人の士官候補生の首吊り死体が発見される。一旦は安置所に保管された遺体だったが盗み出されてしまう。 重厚な文章でつづられた歴史ミステリでありながら時に軽みというか、脱力ものの趣向が飛び出すこともあり、被害者同士のミッシングリンクが明らかになった時は笑ってしまった。とはいえ、最後に明かされる事件の動機はロマンチックとは程遠く、とても生々しく哀しい。 |
No.92 | 5点 | 精密と凶暴 関俊介 |
(2022/12/20 14:37登録) 歴史の影で戦ってきた異能者「シノビ」が主役。内閣情報調査室の依頼で、特異な力で戦う男女二人の物語。 冒頭の犯罪組織の親玉を仕留める場面を読むだけで、超能力を活かしたアクションを中心に捉えようとしていることが伝わってくる。アクションと謀略で埋め尽くす物語は、とにかく緩むことなく突き進む。 日本の官僚機構を背景にした謀略の図式は、荒唐無稽に思えるぐらい派手である一方、うやむやに片付けられる物事が多い現実と重なり合って、妙な生々しさを感じさせる。 |
No.91 | 4点 | ストーカーズ ケネス・J・ハーヴェイ |
(2022/12/20 14:30登録) 物語は、ニューヨークの広告代理店に勤める美貌のキャリアウーマン・アクシスが、一人の男に尾行されているところから幕を開ける。男は、仮釈放されたばかりの殺し屋のスカイホース。スカイホースは、無言電話、留守宅への不法侵入と、ストーカーぶりを発揮していく。一方アクシスには、学生時代からのボーイフレンド・ダリーがいるのだが勝手に合鍵を作って部屋に押しかけてくる、もう一人のストーカーなのである。 作者は映画編集助手の経歴を持つだけあって、二つの物語をカットバック風に交互に進めていくあたり、読者を退屈させることがない。ただ、双方の結びつきが稀薄なため、ストーリーが完全に分離してしまっているのが残念。また、ストーカーによる恐怖を堪能することも難しい。 |
No.90 | 6点 | 女副署長 緊急配備 松嶋智左 |
(2022/12/20 14:22登録) 殺人事件の捜査を中心に捉えつつ、それぞれの悩みを抱えた警察官たちの姿が描かれている。狭い町での人間関係、親の介護に子育てといった身近な問題から、警察官としてのキャリアと矜持、そして殺人事件の意外な真相と、決して長大ではないのに、多彩な要素で読ませる。 主人公・田添杏美の存在も大きい。小さなコミュニティ外からやってきた者であり、警察組織でもマイノリティの女性であり、それでも臆せず言うべきことは言う。そんな彼女が赴任から間もない状態で組織を率いて問題に立ち向かう様子も本書の大きな魅力となっている。 |