わたしたちが火の中で失くしたもの |
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作家 | マリアーナ・エンリケス |
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出版日 | 2018年08月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | ROM大臣 | |
(2023/07/07 12:35登録) 路上の汚い子、異形のものの気配を漂わす隣家の庭、川底からよみがえる死者の噂、自らの肉体に火を放つ女性たち。古典的、土俗的なモチーフと現代都市の闇を交差させ、これでもかと恐怖のバリエーションを作り出す手腕に舌を巻く。 作品には母国アルゼンチンの歴史が濃い影を落とす。著者が十歳になるまで軍事政権の支配下にあった。人が突如行方不明になり、拷問され、骨となって発見される。幼児期に見聞きした悪夢のかけらが時折顔をのぞかせる。あるいは数々の失政が生み出したブエノスアイレスの極貧エリア、ビジャを舞台とする物語に潜んでいる。 心に恐怖を呼び覚まされるとき、人は意識の奥底に押し込めた不安やおぞましい記憶と向き合う。だからこそ、豊かな文学の源泉なのだと再認識する。 |
No.1 | 7点 | 猫サーカス | |
(2018/12/18 18:29登録) ホラー小説と奇想小説の味わいを併せ持つアルゼンチンの作家のこの作品は、ただ面白いだけの短編集ではない。収録12編の多くは、アルゼンチンならではの歴史や社会状況、ジェンダーの問題を背景にしている。すでに自分の中に在ったのに、これまでは気づくことのなかった怖れの感覚を呼びさまされる。そんな類の物語。予定調和や共感より、新しさや驚きを求める方におすすめしたい。 |