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ミステリの祭典

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アフター・サイレンス

作家 本多孝好
出版日2021年09月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 5点 ROM大臣
(2023/10/18 15:22登録)
刑事事件の被害者やその家族と面談するカウンセラー・高階唯子が主人公。彼女の仕事はクライエントが胸に秘めた思いの「傾聴者」となり、「語るべき言葉」を引き出すことで回復の礎を作ること。
全五編中の白眉は、「迷い子の足跡」。未成年誘拐の被害者である高校生の少女が警察に語った犯人像は、信憑性に欠けるものだった。存在の尻尾すら掴めない、いわば「幻の男」だったのだ。唯子は、実母も含めた他の大人たちがみな疑う証言を信じ、少女の人間性を深く理解することで事件の真相に近づいていく。
記憶とは、唯一絶対のものではない。自他の心理の介入によって、たやすく書き換えられてしまう。だから傷つきもするが、だからこそ救われることもある。ミステリとしては座り心地の悪い結末となっているが、そこにメッセージは宿る。

No.2 6点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2023/08/25 16:10登録)
主人公は、大学の心理学研究室に籍を置く高階唯子。県警の「被害者支援室」だけではカバーしきれないカウンセリングを受け持つ臨床心理士であり、国家資格の公認心理師でもある。彼女が担当したクライアントそれぞれのドラマと、彼女自身のドラマが絡まり合って物語は進んでいく。
唯子が心を寄り添わせるのは、犯罪被害者の遺族だが、同時に加害者家族にも焦点が合わされていて、それは唯子が加害者家族でもあるからだ。彼女の父親は、殺人の罪を犯し服役中だった。
殺人が許されない罪であることは間違いないが、ではその罪に見合う罰とは何か。極刑なのか、仇討ち的な復讐なのか。被害者、加害者、双方の家族が心に抱えてしまう痛みと傷は、一朝一夕に癒えることなどない。しかしいつか、許し許される日が来ることもあるのではないか。そんな作者の祈りにも似た声が聞こえる。

No.1 6点 HORNET
(2022/01/16 19:00登録)
 事件被害者やその家族のケアをする警察専門のカウンセラー・唯子。夫を殺された被害者なのに、自身を罰しようとする妻。誘拐犯をかばい嘘の証言をする少女。姉を殺された復讐を企図する少年……しかし実は唯子自身が、父が殺人を犯して刑務所に服役している「加害者家族」だった。

 犯罪被害者やその家族のカウンセラーという特異な職業を題材とした連作短編。対象者の妙な反応から事件の真相や内情が明らかになるという仕組みは、目新しいものではないがよく練られていて面白い。後半は、唯子が人知れず抱えている、父親が殺人犯という事情に迫っていく内容に少しずつシフトしていくのだが、そこでの唯子の態度はやや頑なに過ぎる感があり、あまり好感はもてなかった。ただ本当の加害者家族の内実は知る由もないので、簡単なことは言えないが…。

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