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ミステリの祭典

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小原庄助さんの登録情報
平均点:6.64点 書評数:267件

プロフィール| 書評

No.47 5点 自殺予定日
秋吉理香子
(2017/10/22 10:28登録)
主人公の女子高生は、フードビジネスで成功した父親の数億円もの生命保険を手に入れるために、継母が父親を殺したと確信したのだが、肝心の証拠がなかった。
そこで死をもって継母の罪を告発しようと考えていく。
やや風水の話がうるさいが、意表を突く設定、ホラー的要素、ラノベ的キャラクター造形、料理と占いとビジネスに関する蘊蓄、そして友情と恋愛を盛り込んだ温かな結末と、現代エンターテインメントの販売戦略にのっとったかのような小説。


No.46 6点 怒り
ジグムント・ミウォシェフスキ
(2017/10/22 10:23登録)
海外ミステリーの原産国としては珍しい、ポーランドの作品。
ポーランドの地方都市で、検察官シャツキが難事件を追う物語。工事現場で白骨死体が掘り出される。シャツキは、第二次大戦中の死者の遺体だと考えた。だが、検視で意外な事実が明らかになる・・・とここまではスタンダードなミステリである。
だが、事件の真相が浮かび上がるにつれて、物語は途方もない展開を見せる。最後には、唖然とさせるところに着地する。
物語を支えているのは、検察官シャツキの人物造形だ。筋の通った偏屈者で、上司も部下も困惑させる。大事なものを守るためには手段を選らばない。
陰惨な事件を描きながら、ユーモアを感じさせる語り口も魅力的だ。


No.45 6点 真夏の雷管
佐々木譲
(2017/10/18 16:14登録)
「笑う警官」に始まった北海道警察シリーズの最新作で、安心して読める佳作。
前半、少年たちの万引き事件や、万引きする少年の家族の背景などを捉えていて、個々の挿話は面白いものの、一体どこに話が向かうのかと思っていると、別々に起きた事件が次第につながり、ある爆破計画が浮かび上がってきて、物語が熱を帯びてくる。刻限サスペンスになり、刑事の佐伯たちが爆破犯の狙いを推理して各地へ奔走し、未然に防ごうとするが、どこで、どのような仕掛けで爆破するのか容易に見えない。
物語の心地よい疾走感と緊張感に包まれ、一気読みしてしまった。
とりわけチーム佐伯の交流をユーモラスに綴るエピローグがニヤリとさせて面白く、実に読後感もいい。


No.44 6点 地上最後の刑事
ベン・H・ウィンタース
(2017/10/18 16:05登録)
半年後に小惑星が地球に激突し、人類は滅亡すると予測されている近未来を舞台としている。
主人公はある事件に違和感を覚え、同僚の失笑にもめげず地道な捜査に取り掛かる。その誠実さ、ひたむきな正義感、若く傷つきやすい感性が物語の大きな推進力になっている。
人生の期限を切られ苦悩する登場人物たちの姿に、あらためて生と死をしみじみと考えさせられる。
地球の終末期を描いた作品は少なくないが、本作は悲壮感のさじ加減が程よく、会話も軽妙で、なによりも主人公が魅力的で惹きつけられる。


No.43 6点 フォマルハウトの三つの燭台<倭篇>
神林長平
(2017/10/18 15:59登録)
最先端科学は難解だ。たとえば人工知能(AI)が人間の知性限界を超える「シンギュラリティー」以降の世界がどうなるのか見通すのは、文字通り人智を超える。あるいはそれは、日常生活と魔術や神話が地続きになったような世界かもしれない。
この作品は、伝説の燭台を巡る物語。この燭台を一つともせば自分自身を知り、二つともせば他者の視線で自分が見え、三つともせば世界の真の姿を体感できるという。
そんな神話ファンタジー風な序文で始まる小説の舞台は、なぜか近未来の長野県松本市周辺。おまけに登場人物の多くはとぼけた中年男たち。そこに伝説の燭台や、角のあるウサギ「ジャカロップ」、そして変な機器たちが登場して、型破りな事件を繰り広げる。
人間と機器たちの対話は、ちぐはぐで漫才のようだが、魔法の燭台が照らし出す世界像は衝撃的なものだ。


No.42 6点 消えた修道士
ピーター・トレメイン
(2017/10/10 10:10登録)
7世紀のアイルランドは、現代のわれわれから見れば異世界と言っていい。
だが、その世界を律する法は、男女の平等や民主的な手続きなど、現代的な特徴を備えていた。
アイルランド南西のモアン王国。王と、敵対する大族長とが和平を結ぼうとしていたが、何者かが両者を襲うという展開。
本作は権力者たちの謀略劇であり、裁判シーンでクライマックスを迎える法廷ミステリでもある。謎の戦士たちの襲撃に秘宝の争奪戦と、法廷ミステリらしからむ冒険活劇風の見せ場もたっぷり。
読者を異世界に誘いつつ、襲撃者の正体をめぐる謎解きを楽しめる作品。


No.41 5点 少女は夜を綴らない
逸木裕
(2017/10/10 10:03登録)
身近な人間の殺害計画をノートに書いている中3の理子と、理子の秘密を知る中1の悠人の共犯関係を描いた青春ミステリ。
「恐るべき子供たち」というのは、文学でも映画でも昔からあるテーマだが、悠人の姉の死をきっかけに、理子が誰かを傷つけてしまうのではないかという「加害恐怖」の強迫観念にとらわれているというのが、まず新鮮。
さらにそんな理子を、自分の父親殺しに導く悠人の存在も不穏な様相を濃くして緊迫感を強めている。
特に面白いのは、理子が殺人計画を周到に練る点だろう。悠人に主導権を握られていたのに、いつの間にか逆転して、計画を実行に移そうとするが、予想外のことが起きて物語がねじれていく。
サスペンスとしても厚みがあるけれど、読者の胸を焦がすのは、少年少女の痛々しいまでの自意識、不安、孤独、絶望、罪悪感でしょう。
自分の居場所探しというと、聞こえは安っぽくなるけれど、精いっぱい生きていこうとする理子の切々たる思いが最後に響き渡り、ラストは感動的である。
余分な書き込みもあるし、プロットはいびつであるけれど、注目に値する作品だと思う。


No.40 6点 書架の探偵
ジーン・ウルフ
(2017/10/06 15:45登録)
ナボコフ、ボルヘス、ジョン・バース、スタニスワフ・レムなど「本についての小説」を書く作家は多いが、ウルフもその系譜に連なる重要な作家だと思う。
1931年生まれながら、今もなお旺盛な筆力で新奇なる小説を生み出し続けているこの作家が、84歳で発表したこの作品の舞台は、世界人口が10億人まで減少してしまった22世紀。小説家の生前の脳をスキャンすることで、その記憶と人格と能力を備えるにいたった複生体(リクローン)を、<蔵者>として図書館に収蔵しているという設定が秀逸な「本についての小説」になっている。
殺人事件の謎を追ううちに、世界の成り立ちをめぐる謎の扉まで開いてしまうというスケールの大きさ、騙りの技巧を駆使した語りの妙が堪能できる異色のSFミステリ。


No.39 6点 現代詩人探偵
紅玉いづき
(2017/10/06 15:34登録)
詩を書いて生きていきたい人たちが集う「現代詩人卵の会」が10年後に詩人として再開することを約束するが、10年後再び集まった時、9人のうち4人が亡くなっていた。
当時「探偵」という詩を書いた「僕」は25歳になり、探偵として彼らの死因を探っていく。
幼い子供を残して亡くなった男の死因を探る第2章が本書の白眉だろう。
人が人を失うことの悲しみとつらさを、幼き者のまなざしと詩を通して切々とうたいあげている。
いささか堂々巡りの感情の塗り絵の部分もあるし、諦念に富む老成した観察を求める読者もいるかもしれない。
しかし若いがゆえに敏感で傷つきながらも、相手に寄り添う姿は胸を打つし、何よりもまぶしいまでの青春というフィルターを通す生々しい苦悩と悲哀が清新でたとえ不安と絶望があっても生きていく価値があることを静かに教えてくれる。


No.38 7点 カルニヴィア1禁忌
ジョナサン・ホルト
(2017/10/06 15:24登録)
前回、評したタイトルと同じ「禁忌」だがこちらはかなり読みやすい。
ベネチアを舞台にした3部作の1作品目。
カトリックでは女性に許されていない司祭の祭服をまとった死体が発見される。
捜査を担当する憲兵隊大尉のカテリーナ、イタリア駐在米軍の少尉ホリー、ソーシャルネットワーク「カルニヴィア」創設者のダニエーレ。
それぞれの視点から物語はテンポよく進み、やがて3人の道筋が交錯、隠されていた暗い真実が浮かび上がる。
行動力があり、上司との道ならぬ恋も辞さないカテリーナに、真面目で芯のあるホリー。はつらつとした2人の女性とは対照的に、女性を蔑視し抑圧してきたカトリックの教義や、ユーゴスラビア内戦時から現在に至る女性迫害の事実が生々しくつづられる。
行き場のない怒りと悲しみがページに渦巻いているようだ。
その重苦しさを払拭するラストでの女性たちの活躍と凛とした生き方に、心の中で喝采を送らずにはいられなかった。


No.37 6点 禁忌
フェルディナント・フォン・シーラッハ
(2017/09/25 10:02登録)
前半では没落した名家に生まれ、やがて有名な写真家となるエッシュブルクの半生を描く。中盤で殺人事件が起き、彼が殺人犯として逮捕され、後半で裁判の経緯が語られる。
検事と弁護士の攻防が生み出す法廷ミステリらしい展開とは異質の驚きがある。
結末の衝撃を消化するために、そして主人公の思惑を追体験するために、再読を促す小説といえる。
無駄をそぎ落とした鋭利な文体もまた、本書のそうした趣向を支える。饒舌と対局を、読者が自ら補完することを求められる文章である。
登場人物への共感を誘い、読者の心を揺さぶる小説とは異なる、冷たい静けさに満ちている。
感情よりも理性に訴えかけており、一読して戸惑い、再読して没入する。そんな作品。


No.36 7点 武蔵
花村萬月
(2017/09/22 10:28登録)
剣豪・宮本武蔵を主人公にした歴史小説はたくさんあるが、本作は極めてオリジナリティーが高い。武蔵の出目や、彼と佐々木小次郎の関係など、今までにない着想が盛り込まれている。本書の前半は、白月尼という美貌の尼僧に溺れながら、修行行脚をする武蔵が描かれている。剣の高みに上っていく武蔵の肖像と、彼に魅了された人々との交流が、なんとも気持ち良い。
ところが中盤に、作者らしい衝撃の展開が待ち構えている。そして吉岡一門との戦いを経て、小次郎との対決へとなだれ込んでいく。密度の濃いチャンバラシーンに、何度も興奮させられた。
さらに実験的ともいえる、文章表現にも注目したい。例えば、吉岡一門を武蔵が切る場面だが、100人をどう切ったか、100通りの文章で説明している。これにより、武蔵の行動と心情、さらには吉岡一門の絶望まで伝わってくる。
作者のチャレンジにより、小説の表現方法は無限だと、あらためて確信できた。
感想は6巻のみだが、採点は1巻から6巻までの総合評価にしました。


No.35 5点 偽りの楽園
トム・ロブ・スミス
(2017/09/20 09:45登録)
離れて暮らす両親からある日突然、不穏な連絡が届いたが、なぜか父と母の言い分は全く異なる。
文章の大部分を占める母の語りが、この小説の核になっている。
妄想なのか告発なのか?田舎の閉塞感、母の遠い記憶、ほのめかされる危険。
不安な気配が物語を駆動し、読者を引き込むサスペンス。
決してハートウォーミングな物語ではないけれど、最後の一行を読み終えた後の、胸に迫る独特の温かみが忘れがたい。
派手さはないが、じっくり読ませる小説。


No.34 7点 泣き虫弱虫諸葛孔明
酒見賢一
(2017/09/17 20:01登録)
長年にわたり、「三国志」をテーマに書き継いできた小説が、ついに第5部で完結した。冒頭は、前巻までのストーリーのおさらいなのだが、作者は、登場人物たちを、ラーメンチェーン店の勢力争いに見立てて説明する。「これぞラーメン赤壁の戦い」などの文章が当たり前に出てくるから、大笑い。
でも、それは単なるおふざけではない。作者があたかも講釈師のように現代の目線で語ることによって、物語の自由度を獲得している。
本書は諸葛孔明の南征北伐と、彼が陣中で没するまでが描かれている。孔明に7度捕らえられたかが解放された末に恭順した孟獲との絡みを中心にした南征の経緯などは、実に克明。粗筋だけを取り出すと、オーソドックスな歴史小説に見える。
しかし作者の奔放な語りは、本作を特異なものにしている。そこから歴史小説の、さらなる可能性が浮かび上がってくる。日本人が好きな「三国志」を手玉に取った、快作にして怪作。作者ならではの、史実と人物に対する解釈を、楽しませてくれた。
感想は第5部のみだが採点は1部から5部までの総合評価にしました。


No.33 6点 拾った女
チャールズ・ウィルフォード
(2017/09/14 09:18登録)
ストーリーは極めて単純だが精緻な仕掛けによって、初読時と2回目以降とでは、全く異なる世界が見える。
男と女の運命的な出会いが、それぞれの人生を転落に導いてしまう。
そんな悲恋と破滅の物語を読み終えた瞬間、そこに隠されたもう一つの風景が現れる。
作中のちょっとした描写も、読み返せば新たな意味が加わる。
哀しみに彩られた物語を支える、洗練された技巧を堪能できる。


No.32 6点 たんぽぽ殺し
アルフレート・デーブリーン
(2017/09/11 10:26登録)
短気から杖でたんぽぽの頭を切り落としてしまった男が、常軌を逸した妄想に駆られるようになる表題作をはじめ、24編が収められている。
死神に恋をする年老いた修道女、愛が何たるかを知りたかっただけなのに、憎しみだけを募られることになってしまう勘違い男といった強烈なまでに個性的な面々が、「愛」の周辺でじたばたした揚げ句、力尽きたり、たががはずれたりと現実から逸脱しがちな人物による奇行のオンパレード。
意想外の方向に跳びはねる物語と、整合性にこだわらない独特な文体が癖になる一冊。


No.31 7点 あなたが消えた夜に
中村文則
(2017/09/08 10:02登録)
いうまでもなく作者は芥川賞作家であるが、物語の中心に犯罪を置いて圧倒的な人間ドラマを作るため海外では犯罪小説の作家として読まれているらしい。
各種のミステリランキングをにぎわせた「去年の冬、きみと別れ」あたりから技巧にも磨きがかかり、ひねりやどんでん返しを効果的に採用するようになった。
本書も例外ではなく、第一部の最後に驚きの真相を用意し、第二部ではさらに別の地点へと読者を運び、第三部では手記を使ってさらなる混沌を生み出す。
警察捜査小説から犯罪小説、犯罪小説から宗教文学への接近をはかる。
とことん暴力的で退廃的で悲惨だ。悪に惹かれ、罪を犯し、精神を病む者たち。
殺人と自死の願望に引き裂かれながらも、不安と絶望と孤独のなかで、それでも必死に生きようとする。
このぎりぎりのところでの営為が胸を打つ。
ただし好き嫌いがはっきり分かれる作品であることは間違いない。


No.30 6点 新任刑事
古野まほろ
(2017/09/03 11:17登録)
1950年代にスタートした警察捜査小説の名シリーズ、エド・マクベインの「87分署シリーズ」などは、供述書や捜査報告書などを入れてリアリズムを高めたものだが、近年、調書の類を作る作家がいなくなり、寂しい思いをしていた。
だがこの作品は、供述調書、指紋等確認通知書、捜査報告書、捜索差押調書などの文書を挿入して、リアルな警察の捜査活動を生々しく伝えている。
物語は、警察官になって6年目の原田巡査長が署長の命令で、「時効完成」のXデーまでの3カ月の警官傷害致死事件を担当し、全国指名手配犯の女を追跡する話だが、いささか冗舌。
というのも、元警察キャリアの作者は、ドラマや小説で無視されていたり誤解されたりしている仕事の細部を深く掘り下げて、実務の様子をたっぷりと紹介していくからだ。(ただ冗舌とはいえ、警察の実務上、時効前の送致は3カ月前が望ましいという新鮮な話も多々)。
軽快でコミカルでリアリスティックな警察小説だが、作者は元々メフィスト賞出身の本格派。
丹念な謎解きにより、意外な真相を明らかにして真犯人に迫る終盤は実にスリリングで読み応え十分。
少しケレンがありすぎて失笑する場面もあるけれど、これは作者のサービス精神のあらわれでしょう。


No.29 5点 青鉛筆の女
ゴードン・マカルパイン
(2017/08/31 10:13登録)
本書には三つのテキストが入れ代わり立ち代わり現れる。
ひとつは「改定論」という小説で、真珠湾攻撃の前夜に始まる、妻を殺された日系米国人男性の物語。
もうひとつは、「オーキッドと秘密工作員」という小説。
朝鮮系米国人の探偵が、日本のスパイ組織と戦う。
そして、何通もの編集者からの手紙。
二つの小説と編集者からの手紙を読み進めるうちに直接語られることのないもうひとつの物語が浮かび上がる。
二つの作中作も、それぞれ異なるスタイルで読ませる。
双方の物語がシンクロするつくりも印象深い。
短い中に、刺激とたくらみを詰め込んだ一冊。


No.28 7点 無罪 INNOCENT
スコット・トゥロー
(2017/08/28 10:31登録)
1987年のベストセラー「推定無罪」の続編。
法廷で追訴する検察官は「推定無罪」で彼を起訴し、裁判に敗れ、証拠の扱いが不適切だったとして処分されたモルトだった。
今度こそ敵を仕留めようと、前作に劣らぬ迫力満点の法廷ドラマを繰り広げる。
法廷シーンに劣らず読ませるのは、数人の視点から語られる人生模様。
信義を貫くためにはどうしたらいいのか、愛する者をいかにして守るか、己の弱さをいかに克服するか。全員があがき、悩み、傷つくさまが赤裸々に描かれていく。
ラストで明かされるサビッチの決断と生き方が心にしみた。

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