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ミステリの祭典

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書架の探偵

作家 ジーン・ウルフ
出版日2017年06月
平均点5.75点
書評数4人

No.4 5点 八二一
(2024/06/02 20:30登録)
図書館同士の取り決めで海辺の小さな図書館に送られた主人公のミステリ作家スミスが、病に臥す女性の依頼で行方不明の夫を探す。
案件がほぼ片付いた後に、奇妙な展開をしていくが、それは唐突に途切れる。謎に満ちていて、ユーモラスでエロチックな一冊。

No.3 6点 麝香福郎
(2024/03/20 21:23登録)
作家の脳をスキャンし、その記憶を写した複生体たちが図書館の書架で生活し、貸し出しを待つ日々を送っていた。SFミステリ作家の複生体であるE・A・スミスもその一人だ。ある日、彼はコレット・コールドブルックに長期で借り出される。彼女は最近になって父と兄を亡くしていた。その兄が死の直前に手渡してきたスミスの著書「火星の殺人」に何らかの秘密が隠されていると考え、作者自身であるスミスに接近してきたのだという。しかしスミスには、自分がその「火星の殺人」なる本を上梓したという記憶がなかった。
私立探偵小説のプロットを応用すると同時に、本に関する小説というビブリオ・ミステリの性格を備えた意欲作である。ミステリに関する造詣が深いがために自著にまつわる謎解きに主人公が駆り出されるという話の構造に自己言及の要素が含まれており、現実とその複製である虚構との関係について、各処で思いを馳せることになる。

No.2 6点
(2018/06/27 16:32登録)
 世界人口が10億人にまで減少した22世紀、過去の著作者のクローン体として図書館に収蔵されている元推理作家(人権ゼロ)が借り出されて殺人事件の謎を解く話。ウルフには珍しく事件の真相がストレートに語られます(反面物足りないとも言えますが)。
 話が進むに従って「なんじゃこら」になります。秘密の扉を開けると唐突に劇場版ドラえもんになりますが、それはそれとして最終的にはキチンと収まりがつきます。作者もいい年なのでそこまでひねくった事は出来ません(御年84歳)。
 それでもハメットのオマージュと思しき部分がそこかしこに散見されますが、凝り過ぎはこの人の病気ですからいちいち確認しませんでした。他の作品ほど手に負えない訳ではないですけど。
 ちょっと展開の甘さは目立ちますが、骨子は驚くほど普通のハードボイルド。あくまでウルフ入門者向けで、ディープな作品ではないです。最後に原子炉をメルトダウンさせてチャラにするのはご愛嬌。

No.1 6点 小原庄助
(2017/10/06 15:45登録)
ナボコフ、ボルヘス、ジョン・バース、スタニスワフ・レムなど「本についての小説」を書く作家は多いが、ウルフもその系譜に連なる重要な作家だと思う。
1931年生まれながら、今もなお旺盛な筆力で新奇なる小説を生み出し続けているこの作家が、84歳で発表したこの作品の舞台は、世界人口が10億人まで減少してしまった22世紀。小説家の生前の脳をスキャンすることで、その記憶と人格と能力を備えるにいたった複生体(リクローン)を、<蔵者>として図書館に収蔵しているという設定が秀逸な「本についての小説」になっている。
殺人事件の謎を追ううちに、世界の成り立ちをめぐる謎の扉まで開いてしまうというスケールの大きさ、騙りの技巧を駆使した語りの妙が堪能できる異色のSFミステリ。

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