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ミステリの祭典

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ALFAさんの登録情報
平均点:6.63点 書評数:246件

プロフィール| 書評

No.226 5点 絞首商會
夕木春央
(2025/09/01 07:13登録)
チェスタートン張りの逆説に満ちた快作・・・になるはずだった。

ユニークな着想の足を引っ張ったのは文体と構成。
生硬でギクシャクした文体に加えて、古風なアレンジもあって読みにくいことおびただしい。いくらデビュー作でもいかがかと・・・フォローしておくと次作以降はまずまず。
物語は冒頭と終盤はいいが途中は冗長。こちらは構成の問題。
キャラ造形はいい。元泥棒紳士の蓮野はまだ近作ほど颯爽とはしていないが晴海社長は絶好調。

楽しいアイデアなんだから大幅改編でもう一度読みたいなあ。


No.225 8点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2025/08/31 07:50登録)
数十年ぶりに再読。

法廷を舞台にした"He did'nt it."(コナレないなあ笑)。
初読時には気になった凶器の不合理性も、フーダニットは付け足しと割り切ればこれで良し。
今回はHM卿もさることながら、精緻を極めた原告側の白旗論告が印象に残った。
それにしてもトリックの「ユダの窓」、意味深な名称に似合わぬ現物のショボさに笑える。

異色作にして傑作。


No.224 6点 ある詩人への挽歌
マイケル・イネス
(2025/08/30 07:26登録)
大昔の初読では引用される詩の読み込みに手間取った。英国教養派などという妙なレッテルに気負ったのかもしれない。若気のいたり・・・

今回再読した印象は、丁寧に作り込まれたオーソドックスなミステリー。伏線もいいし適度にベタなユーモアもある。
ただ、ゆったりと長い導入部に比べて終盤は慌ただしい。せっかくの多重解決もまともに驚くヒマもない。構成がアンバランス。
まあ、時代を考えればやむを得ない・・・とはいえない。同じ年に絶妙の構成で知られるクリスティの傑作が出ている。


No.223 6点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2025/08/28 14:46登録)
数十年ふりに再読。
申し分のないツカミ、ジミ目の解決、そしてエピローグに至って洗練されたホラーになる。
しかしこの手のハイブリッド形ホラーミステリーは、近年国産の名作が数多くあるからなあ・・・


No.222 7点 満鉄探偵 欧亜急行の殺人
山本巧次
(2025/08/22 16:53登録)
鉄道とミステリーは相性がいい。運行ダイヤを元に緻密なトリックを仕掛ける「時刻表ミステリー」、あるいは列車そのものを舞台にする「列車ミステリー」等々、どれも魅力的。後者は、区切られた時間と空間に旅情も加わってまとまりのいい物語になる。

今回は、満鉄(南満州鉄道)が舞台。かつて、広大な中国東北部を満州国として日本が統治したなんてファンタジーのようだがこれは史実。ロマンをかきたてられる舞台ではある。
満鉄はただの鉄道会社ではない。満州国統治の中枢だった。
その満鉄社内でたびたび書類が紛失する。
実在した豪華寝台列車に乗り合わせるのは、調査を命じられた社員、軍特務将校、憲兵、謎の美女、そしてソ連のスパイ。道具だては華やかだが荒唐無稽ではない。最後にはそれぞれの謎にちゃんと落とし前がつけられている。
ただ、本命より脇筋の話の方がでかいという欠点はある。
冒険スパイアクション+本格ミステリー+歴史風味でなかなか美味しい。

映画に向いている。大連駅でそれぞれの人物が乗り込むシーンはまるでオリエント急行。


No.221 5点 白い兎が逃げる
有栖川有栖
(2025/08/21 07:15登録)
表題作の中編+3つの短編。
「不在の証明」が気に入った。ありがちな双子ネタを作者がどう料理するか推測しながら読み進めると楽しい。
「地下室の処刑」の動機は想定外で面白いが、カルトの描写は絵空事っぽい。
表題作は、唐突かつ好都合に「指紋の一致」が出てきた段階でテンションが下がってしまった。
全体に生真面目に書かれてるなあ、とわかってしまうのはいいのか悪いのか・・・


No.220 6点 夜歩く
横溝正史
(2025/08/20 08:53登録)
かなり本格に振った上に例の趣向をメタ的に取り込んでいて、意欲は大いに買うんだけどなあ・・・
小説作法上の横溝らしい癖がここではマイナスに出ている。
その一、「饒舌」。最終盤の犯人のセリフが冗長かつ説明的。読者を驚愕させる大一番なのに。
その二、「ご都合主義」。○○病が遺伝して皆さん○○病だなんて・・・
その三、「障害について」。他の作品にもみられるが、身体障害を必然というより雰囲気づくりに用いている。時代性を差し引いても面白くない。
ここは編集権限で改編できないものかなあ。
クリスティの場合は著作権者の了解のもと、「ニガー」→「インディアン」→「兵隊」人形と正式に改編している。
金庫に入れてダブルロックした刀が、結果的にアリバイ破壊になるロジックなどは大好きなんだけど。


No.219 4点 メグレの打明け話
ジョルジュ・シムノン
(2025/08/19 07:13登録)
十数年ぶりに再読。
警察小説としての味わいはあるが、いくらメグレでも解決のないお話ではねえ。
ミステリーを読む快感とは無縁の作品。


No.218 8点 阪堺電車 177号の追憶
山本巧次
(2025/08/14 09:03登録)
「無理もないわ。もう八十五歳やもんな。」独白は阪堺電車の177号車両。実在したモ161形路面電車を狂言回しに据えたユニークなミステリー連作短編集。
新車で導入された昭和8年から戦中、戦後、高度成長期、バブル期、そして運用停止解体となる平成24年までの6話。
電車の語り口はユーモラスだが、事件はシリアス。本格、社会派、ハードボイルド、日常の謎と多彩で楽しい。

圧巻は第5章「宴の終わりは幽霊電車」。地上げで家庭を壊された女のハードボイルド復讐譚。
ときは平成3年。バブルがピークアウトして地獄の釜の蓋がソロリと開き始めたあのころ。身に覚えのある人は背筋が凍るだろう。ホステス3人組の軽妙な会話とは裏腹のダークなドラマが展開する。「徹底的に行くんやね」姐さんたちのセリフ怖!!
敵役ながら極貧から成り上がって破滅する男の哀感も滲みる。この一話、長編に仕立ててもいいくらいの読みごたえ。エンディングの一捻りもワサビ味。

各編をまたいで登場する人物もいるので長編の味わいもある。構成の良さで1点加点。


No.217 6点 伯林-一八八八年
海渡英祐
(2025/08/13 08:08登録)
舞台は1888年、統一成ったドイツ帝国の首都ベルリン。留学中の森林太郎(鴎外)を主人公にエリス、宰相ビスマルクまで登場するサービスぶり。第13回江戸川乱歩賞はこの設定の妙によるところも大きいだろう。
密室トリックもちゃんとしている。
林太郎から鴎外への成長物語としても味わい深い。
ただ、歴史ミステリーの秀作がたくさんある現代視点からすると評点は控えめ。
この犯人なら違う手段をとったはず、なんてヤボは言わない・・・


No.216 10点 ナイルに死す
アガサ・クリスティー
(2025/08/12 11:01登録)
そういえばまだ書評していなかった。
文句なしの代表作。
殺しそのものはオーソドックスなトリック。だがこの作品のキモはそこにはない。
人間関係の中に大きな企みがあるから前半の長さは必要不可欠。
そしてクリスティのことだからサイドストーリーも楽しく読める。

映像は観た限りでは映画2篇とTVドラマ1編だが、ドラマのD.スーシェ版がいい。1978年の映画は巨漢のユスティノフポワロがあり得ない上に、せっかくのオールスターキャストがガチャガチャとぎこちなく、ルメット版「オリエント急行」のような洒落っ気がない。最新のケネス・ブラナー版はシリアスなプロローグがチグハグ。


No.215 7点 蟬かえる
櫻田智也
(2025/08/09 08:36登録)
表題作から始まる5編の短編集。
各話ともどこかシュールな雰囲気があるのは主人公のキャラによるものだろう。昆虫オタクでピュアな青年。これほど控えめな名探偵もめずらしい。

なかでもお気に入りは2編。
「蝉かえる」は謎解きのあとに本当の驚きが来るプロットが新鮮。
重量感のある謎解きは「ホタル計画」。本格パズラー + 社会派 + バイオ風味。
時間軸を遡っているから、これを4話目に置くことで連作短編としての奥行きがでる。

そして第5話が直近ということになるのだろう。主人公はすでにキャリアを積んだ社会人になっている。
5話を通して読者は、つかみどころのないエリ沢くんを少しは捉えることができる。巧みな構成で読ませる連作短編集。

(蝉の旧字とエリが変換できないのでご容赦)


No.214 6点 幻坂
有栖川有栖
(2025/08/08 08:18登録)
「天王寺七坂」をテーマにしたホラー七編+歴史物二編。

お気に入りは、哀しくも希望の見えるホラーファンタジー「真言坂」。冒頭の英文フレーズ
がエンディングの一言に対応する構成は見事。
もう一編は「天神坂」。恋に破れて死んだ女が、不思議な割烹で美味しい料理と酒に癒されて成仏する話。それにしては真田十勇士がいつまでも常連客なのはなぜ?味音痴なのか!
実在した今はなき料理屋の蘊蓄も楽しい。こちらは心霊探偵濱地健三郎物。

多くは薄味でオドロオドロしい怪異は出てこない。



No.213 7点 開化鐵道探偵
山本巧次
(2025/08/07 09:00登録)
職歴30有余年の元鉄道マン山本巧次による鉄道ミステリー第一作。

時は明治12年、鉄道の黎明期。ところは大津、逢坂山のトンネル工事現場。
すでに開通している大阪京都線をさらに延伸する重要地点で怪事件が頻発する。
鉄道局の高官から捜査を委嘱されたのはなんと元八丁堀の切れ者同心。考えてみれば維新から10年あまり、元同心はたくさん居ただろうから不思議はない。
助手にあてがわれたのは鉄道局技手見習。こちらも貧乏御家人の息子。
江戸者の探偵コンビに、長州閥の鉄道局、薩摩閥の警察、大阪の商社、掘削を担う生野銀山の鉱夫たちが入り乱れての本格ミステリー。
テンポのいい文体で物語が展開する。
個々のトリックはまあそれなりだが、黒幕を含めた事件の構図には説得力がある。

終盤の真相開示は「さて、皆さん・・・」のポワロスタイル。
見事に犯人を挙げた元同心に、敬意と悔しさ混じりの敬礼をして犯人を引っ立てていく薩摩出の警部は、まさにホームズとレストレイド。
考証も確かで読みごたえのある鉄道ミステリーの快作。


No.212 6点 江神二郎の洞察
有栖川有栖
(2025/08/06 06:29登録)
学生アリスシリーズの第一短編集。
京都の英都大学を舞台に、新入生アリスとEMC(推理小説研究会)の出会いから、一年後のマリアの入部までを背景にした9編。多くは日常の謎系。
なかでは「四分間では短すぎる」が気に入った。このサークルらしいロジックの展開が愉快。作中で「点と線」がネタバレ気味に扱われているから未読の人(いないか!)は要注意。
全体にミステリー濃度は薄いがシリーズキャラたちと付き合うつもりで読めば楽しい。
とはいっても切れ味鋭い本格短編をもう少し読みたかったなあ。


No.211 5点 日本扇の謎
有栖川有栖
(2025/08/02 06:45登録)
海岸で記憶喪失の青年が発見される・・・なかなか魅力的な導入部。文体はなめらかだしキャラ造形もいい。
そして惨劇が、とここまでは本格ミステリーの醍醐味たっぷり。
しかし終盤、指摘される犯人に意外性はなく動機は平凡でがっかり。
もとよりこの作家に衝撃の犯人、斬新なトリック、大どんでん返しなどは期待していない。有栖川氏の真骨頂は鋭利な刃のようなロジックにある。
ところがここではその切れ味も今一つ。
犯人の哀しみを深く掘り下げていればまた別の味わいがあったかもしれないが・・・
というわけで物語性豊かな王道ミステリーのはずが、薄味過ぎるエンディングとなって残念。


No.210 6点 開化鐡道探偵 第一〇二列車の謎
山本巧次
(2025/08/01 06:53登録)
ときは明治18年。舞台は開業間もない日本鉄道の大宮から高崎。
脱線した貨車から一個の千両箱が発見される。
これをきっかけに謎の幕府埋蔵金を追って、警察、自由民権運動家、不平士族たちが入り乱れるミステリー。
捜査を委嘱される探偵が元八丁堀の切れ者同心というのが愉快。考えてみるとこの時期、元同心はたくさん居ただろうから不思議はない。

丁寧な考証で時代背景がよく味わえる。読みやすい文体で人物造形も確か。
ただ、読者が謎解きする手がかりが少なく、名探偵の真相開示を拝読して終わることになるのは残念。伏線がもう少し仕込んであればより本格度が増すと思う。


No.209 7点 女王国の城
有栖川有栖
(2025/07/30 09:55登録)
読みごたえのある大作。しかし・・・
映画でも小説でも尺の長さは「質」に関わってくる。プロットにふさわしい長さであることは名作の必須条件なのだ。
「孤島パズル」では明快な動機やシンプルなプロットがコンパクトにまとめられていたし、「双頭の悪魔」の複雑な仕掛けはあの長さを必要とした。
ところがこの「女王国の城」ではプロットに対して尺があまりに長い。無礼かつ乱暴な言い方をすれば初めの1/3に後半の1/3を継ぎ足しても十分成立する。

作者の文体はよく言えば知的でケレン味がない。語り口で読ませるタイプではないから、長い情景描写やサイドストーリーで読者を楽しませるには不向き。
UFO や地球外生命体の話も蘊蓄というより資料的だし、カフカの引用も浮いたようになる。せっかくのバイクアクションも冗長。(冒頭のキメ台詞は好き)

時間軸を取り込んだトリックや犯人指摘のロジックは前2作にも増して魅力的なだけに残念。


No.208 8点 孤島パズル
有栖川有栖
(2025/07/26 09:35登録)
デビュー第二作にして代表作の一つ。もはや古典となった王道の孤島物。

冒頭から110ページまでは異変は起こらない。この間、読み手は物語を楽しみながら登場人物の関係性やキャラクターを頭にいれることができる。ケレン味のない文体がいい。
そして嵐の夜、第一の事件が起こる。それも王道の密室で。あとはクローズドサークルの掟どおり疑心暗鬼の沼に・・・
暗合解きはいささかヌルいがタイヤ跡からのロジック展開は見事。この作品のハイライトだろう。

ベースとなるビターな青春物語が作品に奥行きを与えている。
キリッと引き締まった本格ミステリーの名作。動機が明快な分、大作「双頭の悪魔」より好み。

(以下、微妙なネタバレかも)
ある重要人物二人の行動とキャラ造形が乖離しているのは残念。歪んだ自我や卑しい欲望が存分に描かれていたら名作中の名作になっただろう。クリスティなら・・・と思ってしまう。
沖に浮かぶボートの描写で某有名作品を想起して感覚的な伏線になった。ロジカルではないから無論作者の意図ではないだろうが。


No.207 6点 Y駅発深夜バス
青木知己
(2025/07/25 15:57登録)
全く趣向の違う5編の短編集。
お気に入りは「九人病」。ベタな設定のホラーを読み進めてエンディングで現実の光が当たったと思ったら、最後はやはりホラーの沼に引きずり込まれるという転換の妙。
表題作は怪異体験の謎解きは面白いが、トリックそのものは無理筋。
「特急富士」の着想とコメディタッチは楽しいが、イヌネコの鳴き声トリックまで出てくるとちょっとアホらしくなってしまう。

読者の好みは多様だが、この短編集はバラエティに富んでいる分、どれかはササると思う。

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