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ミステリの祭典

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ALFAさんの登録情報
平均点:6.67点 書評数:190件

プロフィール| 書評

No.170 7点 牧師館の殺人
アガサ・クリスティー
(2024/05/02 09:23登録)
本格派フーダニットの見本のような作品。
丁寧に伏線が張り巡らされている。容疑者候補もたくさんで楽しい。
ただ、話者がニュートラルな人物のせいもあって全体に地味。

後期の名作のようなドラマチックな展開はない。


No.169 6点 陰陽師 女蛇の巻
夢枕獏
(2024/04/24 08:18登録)
この巻で第一巻から実に31年経過。
晴明も博雅もすっかりジジイに・・・なってはいない。変わらず酒を愛で、「ゆこう、ゆこう」と徹底したワンパターン。
初期の謎解き要素は影を潜め、怪異とあっさりとした真相開示で一種のホラーファンタジーに。淡いエンディングは禅味すら感じさせる。
そんな中、辛口の逆説が効いて怖いのは「相人」。現代的な主題である。

賀茂保憲が連れている黒猫の名をわざわざ「沙門」と紹介していて引っ掛かったが多分「MON CHAT」かな。漠先生、別の巻では月の満ち欠けを司る仙人の唸り声を「むーん、むーん」としてたし。


No.168 5点 時計泥棒と悪人たち
夕木春央
(2024/04/23 08:42登録)
大正シリーズ第三弾。
本格のミステリー短編集と意気込まずに、時代設定とシリーズキャラを楽しむつもりで読めばいい。
ただそれにしてはこのキャラ、それほど魅力的でもない。元泥棒紳士の蓮野はまあいいとしても、主人公たる画家の井口は影が薄い。脇役の晴海氏に負けている。
「サーカスから来た執達吏」の『ユリ・鞠』コンビで脱力感満載の短編を読みたいものだ。
第一話「加右衛門氏の美術館」はチェスタートン張りの逆説が面白い。


No.167 5点 水魑の如き沈むもの
三津田信三
(2024/04/21 08:29登録)
ホラーとミステリーのハイブリッドが謳い文句の刀城シリーズ。
人気作「首無」や「忌名」は凍るようなホラーと緻密な謎解きが融合した傑作で、このサイトでもすでにレジェンド。

長編第5作となる本作品はホラー描写がややマイルド。起こる怪異も、霊感の強い人物による幻視幻聴とも読める。一方のミステリー部分は犯行実現性(フィジビリティ)が弱い。
導入部が刀城とお仲間キャラの怪異談義というのもツカミとしてはぬるい。
一方、主人公たち母子家族の放浪物語は読みごたえがある。
エンディングもいい。大洪水のあとにまるで虹が掛かるようなエピローグは神話的。
ところでこの方言、何だか違和感があるんだが。


No.166 8点 十戒
夕木春央
(2024/04/18 17:24登録)
大ヒット作に続く「旧約聖書」シリーズ第二作。それにしてもクローズドサークル二連発とは大胆な。

今回は登場人物の描き分けも的確で、落ち着いて展開を味わえる。
終盤、緻密なロジックで開示されたあげくの反転は見事。こちらは情が絡まない分、好ましい。
そして「・・・いっつも、自分が助かることしか考えてないかも。」ウーンこの趣向、嫌いではない・・・
考えようによっては今回の方が大技かも。
曖昧な書きようだが、そういえば何かが奥歯に・・・  ウ~ン高評価。


No.165 6点 亜愛一郎の狼狽
泡坂妻夫
(2024/04/14 16:04登録)
キッチュで楽しい、作り物感に満ちた短編集。と思ったら、そういえば作者はマジシャンでもあった。たしかにマジックショーのような作品が並ぶ。
お気に入りは本格風味の「曲がった部屋」と設定がユニークな「掌上の黄金仮面」。

ただ、どの作品も構成はモッサリと単調。冗長な展開部と名探偵亜による急転直下の謎解き。「DL2号機事件」などチェスタートンばりの逆説なのに構成で興が削がれる。
どの作品も本筋と関係ない部分が妙に可笑しい。


No.164 5点 サロメの断頭台
夕木春央
(2024/04/14 15:24登録)
シリーズ最新作。
精緻なロジックが張り巡らされているが、そもそもの謎、つまり「誰が何のために贋作を描いたのか。」の真相があまりに貧弱。
そのためせっかくの多彩でドラマチックなトピックが活きてこない。
これでは富豪ロデウィック氏も登場のしがいがないだろう。

大技一発の「方舟」や軽快なテンポの「サーカスから来た執達吏」に比べると今一つ締まりのない読後感になってしまった。


No.163 8点 サーカスから来た執達吏
夕木春央
(2024/04/10 09:42登録)
旧約聖書シリーズと交互に発表される大正シリーズの快作。

デフォルト状態の子爵家に乗り込んだ借金取りのユリ子と、担保として身柄を拘束された令嬢鞠子との冒険ミステリー。
元サーカス少女ユリ子のキャラ造形がほとんど特殊設定レベルで愉快。
立派な黒馬の名前が「かつよ」だったり、「こんにゃくが入ってます」の置き手紙(読んでのお楽しみ)など笑いのツボもたくさんあるが、本筋はちゃんとした乱歩風味のミステリー。
ただ、時効狙いの「逆監禁」はいささか強引かな。

ミステリーも、トリックがどうのロジックがどうの、という前にまずは豊かな物語として楽しめるのが肝心。
ユリ子鞠子コンビの続編を期待!!


No.162 1点 容疑者Xの献身
東野圭吾
(2024/04/08 09:24登録)
まあ今さらの感もあるが・・・

ミステリーであるからには、落ち度もない人間を何かの都合で殺すことはあり得る。だからこの作品の胸くそ悪さはそこではない。

アリバイ作りのために身寄りのない人間を殺し、一方で自らの「献身」に酔う鈍感な犯人の造形や、一連の行為を純愛ものと読ませてしまうプロット。つまりは作者東野圭吾のアザトさが見えてしまう。
ミステリーとしての完成度が高くない上に、純文学風味のマーケティング志向が鼻につく。


No.161 7点 名探偵のはらわた
白井智之
(2024/04/03 08:38登録)
「津山三十人殺し」や「阿部定事件」など、現実の怪事件をネタに展開した4編からなる連作中編集。
「転生」という比較的馴染みやすい特殊設定で、精緻なロジックを楽しめる。人気作「名探偵のいけにえ」より本格味でいい。

テンポのいい文体で、心理や情景描写の味わいは薄いがノド越しがいい。


No.160 7点 秘祭ハンター 椿虹彦
てにをは
(2024/03/22 08:41登録)
清張の「日本の黒い霧」と平行して読んでいたので、文体のギャップにめまいがしそうだった。
B級的表紙絵、ラノベ文体、チャラいキャラ、にもかかわらず中身はなかなかのホラーミステリー。
マニアックな大学講師と富豪の女子学生が「秘祭」を巡る、三話の連作中編。
それぞれを三津田信三や知念実希人が長編化すればさぞ読み応えある名作になるだろう、と言えば雰囲気はお分かりいただけるだろうか・・・

残念なのは秘祭巡礼のきっかけとなる、女子学生潮のトラウマ幻影が解明されていないこと。これはもしかして続編への布石か。


No.159 8点 日本の黒い霧
松本清張
(2024/03/21 09:00登録)
小説ではない清張の代表作。
アメリカ占領下の日本で現実に起きた12の怪事件が主題。膨大な資料を読み込んで緻密に推理するという作法はミステリーに通じるものがある。
こんな作品を締め切りに追われる連載で書くのだから、やはり清張ただ者ではない。載ったのが文藝春秋というのも何だか今日の「文春砲」を思い起こさせて愉快。

最も読み応えのあるのは「下山国鉄総裁謀殺論」。ここにはミステリーのすべてが揃っている。
重厚なクライムストーリーだがラスボスの闇は「けものみち」や「点と線」の比ではない。



No.158 6点 孤島の来訪者
方丈貴恵
(2024/03/03 17:56登録)
「プロローグ  船上にて
竜泉佑樹はこれから人を殺すつもりだった。」

いや、申し分ない書き出し。本格の倒叙か、はたまたそれを装った新手の叙述トリックか・・・と期待するのだが。
実態は特殊設定パズラー版「誰もいなくなった」だった。読み口は本格風だが、真の動機を考えるとやはりSFなのでは?
プロットは精緻だが、もっと整理されていれば更に高得点。
それにしても特殊設定にする意味はあるかな。


No.157 7点 八点鐘
モーリス・ルブラン
(2024/02/17 09:29登録)
半世紀ぶりに再読。以前のは子供向けの抄訳版と思っていたがディテールに覚えがあるのでそうでもなかったのか・・・
なかでも記憶に鮮明なのは 「女をさらって逃げる時には、パンクなんかしないものよ」 ウーンそうなのか!そうなんだ!と深く納得した小学生でした。

8編の連作短編ミステリであり、ロマンチックな長編冒険小説にもなっている。
お気に入りは「塔のてっぺんで」と「テレーズとジュルメール」どちらも動機やトリックが現代的な本格味。
ミステリ味は薄いが「ジャン=ルイの場合」も皮肉が効いていて面白い。

モーリス・ルブランってコナン・ドイルに劣らぬトリックメーカーだったんだ。


No.156 6点 黒後家蜘蛛の会1
アイザック・アシモフ
(2024/01/16 08:47登録)
12編からなる有名連作短編集。
常にメンバー6人、給仕1人の閉じられた空間。提示される「日常の謎」(事件そのものは必ずしも日常的ではないが)。そして謎を解くのはいつも安楽椅子探偵(給仕なので常に立っているが)。

徹底したワンパターンの枠組みで、読者が謎解きをする余地はあまりないが語り口の面白さで楽しめる。
各編ごとに付けられた作者のコメントもいい。


No.155 8点 底惚れ
青山文平
(2023/12/12 11:09登録)
短編「江戸染まぬ」をそのまま冒頭に置き、230ページを加えて長編化したユニークな作品。「江戸染まぬ」はじわりと滲みるサスペンス風味と捻りのあるエンディングが効いた秀作だった。
ここでは刺された男が・・・以下ネタバレします。



実は命拾いしていた。
半端者の自分を始末してくれた女の恩に報いようと知恵を絞るうちに、やがて身上がって女郎屋の楼主として成功する。デュマの冒険小説を読む思いがする。
人物の出し入れが実に巧み。
謎の鍵を握る信との再会。主人公に手を貸す銀次との出会い。それぞれの絡みによって、けっこう都合のいい展開が自然なものに見えてくる。
信の人物造形もいいし、銀次の因縁話もプロットに奥行きを与えている。

最後に謎解きがあるが、ミステリ風味は薄い。
万事めでたしとはならない、ふわりとしたエンディングがいい。


No.154 5点 泳ぐ者
青山文平
(2023/12/05 15:37登録)
徒目付片岡直人を主人公とする長編。
連作短編集「半席」から数年後、30歳近くなった直人が関わる三つの話。
離縁された女が元の夫を刺殺した件、大川を泳いで渡って切り殺された男の件、上司内藤から持ち掛けられる海防の話。

それぞれが無関係のまま終わる。ミステリ長編としては纏まりがいかにも悪い。
切り分けて連作中編に仕立てたらさぞいい作品になっただろう。
メインテーマである直人の内省的な物語も、そのほうが流れが良くなったのではないか。


No.153 9点 白樫の樹の下で
青山文平
(2023/11/29 15:39登録)
第18回松本清張賞受賞作。
作者は若者を描くのがうまい。この作品にも三人の若い武士が登場する。ともに少年時代から同じ道場に通う腕達者だが無役。彼らの屈託や青臭さや危うい情熱が丁寧な文体で綴られる。
もとよりただの青春譚にはならない。互いの亀裂は次第に深まっていく。「たぶん、俺たちがもう十歳ではないということだろう」主人公の登にかけた昇平の言葉が滲みる。
四人目の若者、巳乃介も魅力的である。富裕な商家の次男坊ながら剣の腕がたつ。気に入った刀を身近に見ていたいから、といって登に名刀を預けるが、これはやはりよくできた口実だろう。この時すでに養子縁組で武士になることは決まっている。身近にというなら自分が差せばいい。見ていたいのは在るべき処を得た名刀と、それを帯びた凛々しい登の姿ではないだろうか。このあとも巳乃介改め岡倉武明は献身的に登を支える。

大江戸の辻斬りという茫漠とした事件を、巧みな人物造形で精緻なミステリに仕立てている。途中で示されるダミー解もスリリングでいい。
唯一残念なのは・・・以下ネタバレします。





二つの事件の複合であること。


No.152 7点 遠縁の女
青山文平
(2023/11/29 07:13登録)
作者はあるあとがきに、「構成ではなく考証から始める」と書いている。
時代物に限らず、多くの作家はまず構成を考えてから資料を読み込むが、この作者の場合は徹底的に資料を読み込むなかでおのずとストーリーが降りてくるということだ。
今回は織物の流通、新田開発、藩の財政などの資料が読み込まれていると伺える。

中編3編のうち、お気に入りは「機織る武家」。
主人公の嫁、婿、姑三人が絡むドラマだが、主人公の心の持ちようで婿と姑の人物像が変容していく様が面白い。
ミステリの要素はないがウェストマコット名義の名作を読む思いがする。
表題作は唯一のミステリだが終盤の急展開がいささか慌ただしい。
遠縁の女の人物像をもう少し丁寧に描いてほしかった。主人公の人生を変えるほどの存在なのだから。


No.151 7点 やっと訪れた春に
青山文平
(2023/11/23 11:20登録)
端正な文体で綴られた長編時代物ミステリ。
情景描写、人物の造形、過去の因縁話、いずれも申し分ない。
冒頭、主人公が濠に落ちる話はミステリ的興趣があって面白い。

(少しネタバレ)
一方本筋の謎は、残念ながら犯人推定のプロセスが物足りない。なぜ暗殺者は鉢花衆でなければならぬのか。鉢花衆の残るひとりがなぜあの人物と推定できるのか。
クローズドサークルならともかく、町あるいは藩というオープンな設定においてはこのロジックではいかにも弱い。
さらにはいくら主君の命とはいえ、三代にわたってあの強烈な「斬気」を保ち続けられるのか。などミステリの根幹部分で腑に落ちないところがある。

とはいえ、上質な時代物としては十分楽しめた。

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