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ミステリの祭典

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阪堺電車 177号の追憶

作家 山本巧次
出版日2017年09月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 ALFA
(2025/08/14 09:03登録)
「無理もないわ。もう八十五歳やもんな。」独白は阪堺電車の177号車両。実在の路面電車を狂言回しに据えたユニークなミステリー連作短編集。
新車で導入された昭和8年から戦中、戦後、高度成長期、バブル期、そして運用停止解体となる平成24年までの6話。
電車の語り口はユーモラスだが、事件はシリアス。本格、社会派、ハードボイルド、日常の謎と多彩で楽しい。

圧巻は第5章「宴の終わりは幽霊電車」。地上げで家庭を壊された女のハードボイルド復讐譚。
ときは平成3年。バブルがピークアウトして地獄の釜の蓋がソロリと開き始めたあのころ。身に覚えのある人は背筋が凍るだろう。ホステス3人組の軽妙な会話とは裏腹のダークなドラマが展開する。「徹底的に行くんやね」姐さんたちのセリフ怖!!
敵役ながら極貧から成り上がって破滅する男の哀感も滲みる。この一話、長編に仕立ててもいいくらいの読みごたえ。エンディングの一捻りもワサビ味。

各編をまたいで登場する人物もいるので長編の味わいもある。構成の良さで1点加点。

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