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ミステリの祭典

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メグレの打明け話
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1978年04月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点
(2018/06/28 16:29登録)
 メグレ警視シリーズ1950年代最後期に当たる作品。リドルストーリー仕立てですがそれほど徹底してはいません。むしろ一旦裁判に軸が移れば、直接担当の捜査主任でも容疑者とは容易く面会できない状況、及び世論に押し流されて生じる捜査の歪みなどを描きたかったのだと思います。当時のフランス社会で実際に起こった事件の影響もあるかもしれません。徐々に捜査官から権限が取り上げられ、検察側の管理体制が強まってゆく様子は、この前後のメグレ物の中で繰り返し語られます。
 メグレが無罪前提で証拠を精査したのはやはり、刃物でメッタ刺しという残虐な犯行が、実際に当たった容疑者の人物像とはかけ離れていたからでしょう。ただし彼の心象がどうあろうとも、変化してゆく警察制度はもはや彼に充分な捜査の余裕を与えません。そのあたりの憤懣も仄見えています。
 いろいろと問題作ではありますが、それ以上の出来ではありません。これを受けたであろう次作「重罪裁判所のメグレ」の方が、物語としてはより充実しています。

No.1 6点
(2011/11/24 21:04登録)
訳者あとがきにも書かれていますが、メグレもの長編の中でも珍しくリドル・ストーリー仕立てにした作品です。どちらかというと一方の解釈に傾いているような終り方ではありますが、結局はあいまいにしています。こういうパターンは同じシリーズで何度も繰り返すものではないでしょうが、作家としては1回ぐらいはやってみたいと思うのかもしれません。
裁判によって人を裁く場合に不可避の問題提起は、裁かれる者の視点から書かれた『青の寝室』等にも見られますが、本作はいわば裁きの中間地点にいる警視の立場から捉えられたリドル・ストーリーにすることで、そのテーマを効果的に描けていると思います。
タイトルどおり「打明け話」ということで、過去に手がけて不本意なまま終っていた事件について、メグレが友人の医師に語る構成になっているのも、異色と言えるでしょう。前作『メグレと口の固い証人たち』ではすでに引退していたコメリオ判事が在職中の時期設定です。

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