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ミステリの祭典

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伯林-一八八八年

作家 海渡英祐
出版日1967年01月
平均点6.71点
書評数7人

No.7 8点 虫暮部
(2022/02/22 13:52登録)
 本作には、作者の熱意と素材選びの良さが化学反応を起こして、実力以上の作品が生まれてしまったようなサムシングを感じる。根拠は無いが。
 ミステリとしての緻密さには欠けるものの、それが却って歴史小説としての重さを支えているかも。存在ではなく“不在” が最後の決定的な証拠になるのは上手い。別れ際の対話で語られるのは “自らの罪が罰されないことの哀しみ” である(その点で、犯人の表に出ないキャラクターがちゃんと作られていると私は思った)。

No.6 6点
(2017/10/26 19:54登録)
森鴎外は軍医でもあっただけに、ミステリには合いますね。というか本作の時代設定ではまだ医学のための留学中で、自分自身作家になるなどとは思っていなかったはずです。『舞姫』のモデルになったエリスも、殺人事件にこそ関与しませんが登場します。ミステリからは離れますが、彼女に対する林太郎の感情がなかなかおもしろいと思いました。
事件全体の構造から考えると、こんな複雑なことをする必要があるとは思えませんでした。また細かいことを言えば、鍵穴に布を詰めた理由は死体発見に至る流れから見て、やはり弱いと思います。それと関連しますが、19世紀末とは言え、医者が発見直後の死体を一応検めているのですから、トリックの重要部分にはその時点で気づくのではないでしょうか。
なお、読んだ講談社文庫版の巻末解説で中島河太郎氏、さりげなく真犯人について完全ネタばらしをやってくれています。ここはもっとあいまいな書き方ができたでしょう。

No.5 6点 nukkam
(2016/11/13 03:27登録)
(ネタバレなしです) 「海を渡った英雄」に由来するペンネームを使った海渡英祐(かいとえいすけ)(1934年生まれ)は国内スパイスリラーの人気が高まりつつあった1961年に「極東特派員」(私は未読です)でデビューして脚光を浴びますが、次に発表した「爆風圏」(1961年)(私は未読です)はどうも成功しなかったようでそれからしばらく沈黙して1967年に発表した第3作が本書です。今度はがらりと趣向を変えてタイトル通り作中時代を1888年、舞台をドイツ、森林太郎(後の森鴎外)とビスマルクという歴史上の人物を登場させた本格派推理小説です。kanamoriさんやisurrenderさんのご講評で指摘されているように発表当時はこういう歴史本格派は珍しかったと思います。若き留学生だった森の青春物語の要素も含んでおり、単なる第三者的な探偵役でないところがプロットで上手く活かされています。雪の降るドイツの古城で起こった密室殺人事件という古典的かつロマンチックな舞台も魅力的です。密室トリックはある意味不満もあるのですが決してトリックのためのトリックではなく、必要性まできちんと考え抜かれています。

No.4 6点 蟷螂の斧
(2012/10/02 16:02登録)
設定(森鴎外やビスマルクなど実在の人物が登場)は評価できると思います。ミステリー部分の二重の密室(密室+雪)の真相はそれほどの驚きはありませんでしたが、ビスマルクの存在は深みを醸し出していると思います。また青春小説部分(林太郎の恋)も楽しめました。

No.3 7点 isurrender
(2011/11/20 15:58登録)
森鴎外とビスマルクを中心とした推理小説というのは当時は斬新だったのだろうし、こういった歴史上の人物が探偵役を務める小説も多くなった現在でも面白いと思う
日本人なら誰もが知る『舞姫』を取り入れているのもユニークである
密室にしても悪くない水準で、佳作の部類に入る

No.2 7点 kanamori
(2010/08/01 20:04登録)
「東西ミステリーベスト100」国内編の76位は、乱歩賞の歴史ミステリ。
ドイツ留学中の森林太郎(鴎外)が雪の古城での密室殺人に遭遇し、鉄血宰相ビスマルクと推理を競うというプロットは、当時は斬新で非常に楽しんで読んだ記憶がある。
追随するような作品がその後いくつか出たが、歴史上の人物を探偵役に据えたハシリで、密室トリックもなかなか凝っていたように思う。

No.1 7点 測量ボ-イ
(2009/05/23 09:43登録)
作家森鴎外(林太郎)がドイツ留学時代に扱った事件という
設定。彼が探偵役を務めます。
ただこういう趣向が、当時はいくら珍しくとも今見ると何で
もないので、そういう意味では少し損(評価を低めに見られ
てしまう)な気がします。
けれども作品で扱われる密室トリックはなかなかのものと、
僕自身は評価しています。若い人では知る人が少かろう、古
典的名作。

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