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ミステリの祭典

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三つの棺
ギデオン・フェル博士シリーズ

作家 ジョン・ディクスン・カー
出版日1955年02月
平均点7.52点
書評数40人

No.40 10点 愚か者
(2024/09/19 13:54登録)
私の中では密室といえばカー、カーといえば密室なのである。
その中でもベストはこれ。濃厚な不可能興味が全編に横溢している。
トリックは非常に複雑で読み応え十分。
伏線もこんなところまで張っていたのかと判るし、解決も意外性に富んでいる。

10点満点で採点し直しました。5点→10点

No.39 7点 okutetsu
(2023/08/26 18:31登録)
有名な密室講義でのいきなりの爆弾発言に笑ってしまうが、この時代にメタ要素を入れてるのは素直に感心する。
全体的なトリックは強引やありえないだろって部分はあるけど結構好き。
特に時刻の誤認のさせ方は賛否ありそうだが個人的にはああいうさりげない描写を伏線にするのは大好物である。
ただ密室に関してはあんまりかな。
単純に密室ものがそこまで好きでないこともあるけど、やっぱりネタがわかるとがっかりしちゃうもんだよね。
ただそこらへんも見越して密室講義で言及してるのはさすがと言える。

No.38 5点 虫暮部
(2023/06/09 12:45登録)
 この作品、〈密室講義〉で徒に知名度が高くなって、そのせいで(まず読まれないと評価が下されないと言う意味で)過大評価されてない? 持ち上げた江戸川乱歩に抗議したい。
 作者の目的は、分類の一番目に “さまざまな偶然が重なる例” を挙げることで本作中のトリックの御都合主義をフォローすることだと思う。

 とは言え、トリックの構造は面白い。まず拳銃で一発 → 加害者被害者双方が現場から離れようとしてドアを開けたらまた鉢合わせ。これは笑うところだ。血塗れの笑劇である。
 時計の件。この錯誤は(作者が)大胆だな~と感嘆した。私は肯定的。
 あと、フーダニットが良かった。“意外な犯人” など既に出尽くし読み尽くした心算でいたが、近年はこの程度の軽い捻りで大いに驚いている自分に気付く。一周回って素直になれたか。

 一方で、判りづらい記述があちこちに見られ、内容を読み取るのに余計なストレスがかかった。“何を書くか” ではなく “どのように書くか” の重要さが逆説的に表現されている。作者にもっと文才があればな~。

No.37 10点 ひとこと
(2023/06/05 19:23登録)
あらゆるミステリー作品で言及されるこのタイトル 満点以外考えられません

No.36 9点 ◇・・
(2022/09/10 06:15登録)
本書の魅力は、密室トリックの解明にあるというより、読者を錯覚させるカーの手腕の巧みさにあるといえる。それはまさに芸術と呼ぶにふさわしい情報提示の巧みさであり、また棺やトランシルヴァニアというガジェットの使い方の巧みさである。

No.35 9点 弾十六
(2021/08/09 21:34登録)
1935年出版。フェル博士第6作。私の妄想では1933年出版予定だったジェフ・マール第6作&バンコラン最後の事件(第5作)。早川文庫の新訳で読了。翻訳について、ハドリーのフェルに対するセリフは、もっとタメ口で良いのでは?という感じ以外は文句なし。
さて、冒頭を読んで確信しました。我が妄想を裏付けるような記述が堂々と。
これってJDCの『黄色い部屋』本歌取りだ!完全密室プラス通路での消失トリック、というのは、間違いなく『黄色い部屋』の大ネタを意識している。じゃあ『黄色い部屋』のラストの大ネタ、犯人像は?と考えると、JDCの初期構想では『黄色い部屋』を超えるものを用意していたはず。まさにバンコラン最後の事件が相応しい。
あんまり詳しく書くと多方面でのネタバレになるのでやめておくが、私の妄想の中ではグリモー=バンコラン、ミルズ=ジェフ・マール(これなら証言が確実であることを文章内で保証する必要は無い)で決まり。バンコランの謎の過去が暴かれ、素晴らしい血みどろのフィナーレ…
まあこれ以上は私の正気が疑われるので書きません。
実際の本作に関しては、小説中にも出て来るが、非常によく出来たマジックの種明かしを読んでる感じで、やっぱりこれが探偵小説の醍醐味だろう。ある部分、がっかり感もあるが、でも素晴らしい力技だよね(空間をねじ曲げる重力場じみたパワー)。そしてがっかりが当たり前なんだよ、嫌な奴は探偵小説なんか読むな!という後年の自作に対する評価への先回りの言い訳と思われるようなフェル博士のセリフが微笑ましい。(p289の「密室講義」冒頭の堂々たる(異常な)宣言は、40年ほど前に初めて読んだ時、物凄い衝撃を受けたものです…)
さて『毒のたわむれ』にちょっと書いたフリードリヒ・ハルム『マルチパンのリーゼ婆さん』(Die Marzipanliese 1856)の紹介(水野光二1990明治大学)だが、そこに書かれてるあらすじ(梗概)を読んだらさらにびっくり!これ絶対JDCが本書のネタにしてる。というわけで是非Webにある論文を読んでいただきたい。登場人物の名前ホルヴァート(Horvath)だけでない類似が見つかるはず。(HalmのほうはHorváth)
トリビアは銃に関するものだけをあげておこう。
「銃身の長い三八口径のコルトのリボルバーで、30年前の型(a long - barrelled .38 Colt revolver, of a pattern thirty years out of date)」が出てくる。本作の年代は「2月9日土曜」とあることから1935年。約30年前の38口径コルト製リボルバーならNew Army and Navyと呼ばれた原型が1892年製のものだろう(マイナーモデルチェンジがあって他に1894, 1896, 1901,及び 1903の各モデルがある)。これらは38 Long Colt弾を使用するモデルだが1908年以降はお馴染み38 Special弾対応のThe Colt Army Special(海軍用はNavy Specialと呼ばれたようだが同じもの)が製造されている。本書の銃は後者の38 Special用だと思う。(原文のout of dateを「時代遅れになった」と捉えると前者New ArmyモデルがArmy Specialに切り替わったこととまさに合致するから、New Army説が良いのかなあ。私はp389の説明から38 Special説としたのだが…)(追記: 『ピストル弾薬事典』で確認したら38 Long Colt弾でもp389の話と矛盾しないことがわかったので、Colt New Armyで間違いなし!)

(追記2021-8-13) 上記を書いた後で、他の方の書評を読んで、特におっさんさまご指摘の新訳の誤訳が気になりました。おっさんさまが具体的に指摘している箇所とは別に、私も一件、ちょっと大事な部分の誤訳をお知らせしたいと思います。(他にはどんな誤訳があるのだろう…)
プロローグ、グリモーVSフレイのシーン。何やってんの?と思った場面です。
p18 [フレイは]手袋をした両手でグリモーのコートの襟を引き下げ(his gloved hands twitching down the collar of his coat)♠️最初のhisと次のhisは同一人物です。フレイは自分の顔をグリモーだけに見せる目的で近寄って、コートの襟元をちょっと下げた、という場面。「(自分の)コート」が正しい翻訳。(Webサイト「黄金の羊毛亭」さんちで教えていただきました) だいたい飲食店でくつろいでるグリモーがコートを着てるわけがないよね。
クリスティ再読さまは「改め」という用語で、本作品の本質をズバリ!流石です。

No.34 9点 クリスティ再読
(2018/12/08 22:01登録)
評者も調子に乗って「密室講義」してみようか?
「密室には2通りある。真相に密接に関わりあって、そのストーリーでしか実現できない密室と、どんなストーリーにでも付加できる密室である」なんちゃってね。もちろん本作、「このストーリーでしか実現できない密室」の典型例で大掛かりなものである。大きな真相の逆転が、副次的に不可能現象を作り出した、ということなんだ。これをね、偶然頼りとかいうのは違うと思うよ。マトモな犯人だったら、密室なんて意図して作るもんか。
なので本作、カーも「これしかないストーリーにこれしかない密室」に自信を持ってたのか、本当に余計なことをしていない。事件の記述と、奇術でいえば「改め」(密室講義も「改め」のウチ)だけだ。このストイックさを評者は好感する。おっさんさんが「長い短編」と指摘されているのはまさにその通り。だから本作、できれば一気に読むことをオススメする。
評者は「密室嫌い」を自認するんだけど、それやっぱり、全体と結びつかないような「思いつきの密室」に食傷したせいでもあってね、だからこういう「ストーリー一体型密室」は例外。リアリティがなんだっていうの。「小説自体が仕掛けモノ」の感覚で読んで傑作じゃない?

No.33 10点 レッドキング
(2018/05/21 22:37登録)
あえて過大評価しよう。これぞ、トリックたるべきものがあってほしい姿。

追記:あらまほしきトリック。不可能現象「A」と不可能現象「B」が提示され、この二つを誤連動させることで不可能現象「C」を錯視させるようなトリック。

No.32 6点 いいちこ
(2017/11/06 20:56登録)
ご都合主義的なプロットと、登場人物の不可解な行動をもってしてもなお、フィージビリティに疑問が残り、犯行プロセスが複雑すぎるが故に、真相解明時のカタルシスに乏しい。
冒頭に示される不可解な謎に、果敢に挑んだ意欲は買うが、よく考えられたミステリパズルという印象

No.31 8点 ねここねこ男爵
(2017/10/19 12:37登録)
とてつもなく魅力的な謎の設定と、それに曲がりなりにも解決を与えたので。密室講義なんて飾りです。

No.30 7点 yoko07
(2017/05/14 21:37登録)
カー作品を最近ちょこちょこ読み始めてます
この作品は評判通りトリックに感心させられました
カー作品はほんとに犯人が最後まで分からない。
確かに死の間際の断片的な言葉や
部屋に残されたトリックに使われた最も大事な道具が最後まで隠されてるなど、
いくつかミスリードしてるような箇所があるし
現実的じゃない、ありえないトリックという評価もわかります。
私も犯人がここまでの頭脳と体力があるのなら
こんな面倒な割にバレたり失敗するリスクの大きい方法普通とらないのでは・・と
だれかに殺させてから、うまく口封じするとか、完璧に事故に見せかけて殺害する方が
簡単だし安全と思いましたが
でもそこは現実ではなくお話なので、作者は単純なものではなく誰もが想像しない
あっと驚くトリックを披露したいのだろうし
それが無理がなく可能ならば私は素直に評価したいと思う。
作者も話の中でしつこくそのことは言ってましたね・・・
全体的に新訳は読みやすかったです。
それにしてもカーの話は、殺された側に同情できないのはいいんですが
復讐する側の人生が可哀想で・・・
それも報われて終わるんではなく、ちょっと悲しい終わり方が多い気がする(まだカー作品は数冊しか読んでないですが)
私はあっと驚くトリックや大どんでん返しと同じくらい
後味がすっきりする話が好きなので、ハッピーエンド?であればもっと評価高かったかな。

No.29 10点 nukkam
(2016/08/27 08:49登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のフェル博士シリーズ第6作で、最高傑作とも評価されることもある本格派推理小説です。これでもかといわんばかりの謎の提示と圧倒的なまでにスケールの大きな謎解きの前にはため息が出るばかりです。確かに問題点も多いです。アンフェアっぽいところもある、ご都合主義もある、証拠として弱い手掛かりもあるなど気になる点がぞろぞろです。これが合わないという読者がいるのも納得です。しかしながらよくぞここまで考えたものだと私は感心しました。完成度の高いミステリーはもちろん大好きですが、本書のように完成度を超越した魅力をたたえた作品も私は大好きです。

No.28 7点 sophia
(2016/05/11 01:26登録)
早川書房の新訳版を読みましたが、決して読み易くはなかったです。
この作品の最大の瑕疵はやはり時刻に関する部分ですよねえ。誰も気付かなかったというのは苦しい。ここを可とするか不可とするかが評価の分かれ目になりますかね。足跡を残さずに家に入った方法も読者には推理不可能でしょう。フェル博士が被害者の来歴を推理する箇所も論理が飛躍しすぎです。あとこの作家は錯覚のトリックに○を使うのが好きなんでしょうか。
最後に本筋とは関係ないですが、この作品にテッド・ランポールという人が存在する意味はあったんでしょうか。フェル博士やハドリー警視とずっと行動を共にしているようなのに、何かの伏線なのかと思うほど存在感が全くない。

No.27 8点 青い車
(2016/02/13 18:36登録)
カーが不可能犯罪ものの可能性を突き詰めた結果生まれた名作。大がかりな奇術的トリックが圧巻で、恥ずかしながら100パーセント理解できたとは言えませんが、とにかく凄かったと覚えています。
本作の一番の問題は不可能性を深めると同時に、犯人を隠蔽することになったあの錯誤です。これはどう考えてもご都合主義な偶然で支えられたもので、怒り出す読者もいるかもしれません。ただ、そこも何でもアリで大いに結構、というカーのサービス精神の表れでもあるのでしょう。僕個人としてはちょっと納得いかないのも確かなので最高点を付けるのは控えました。

No.26 8点 ロマン
(2015/10/20 18:09登録)
密室殺人は本格推理の醍醐味。ありえないと分かっていても。ある夜、謎の客人の訪問を受けた教授は胸を打ち抜かれ、鍵のかかった部屋に他の人間はいなかった。辺りを覆う雪にも痕跡はない。続いて、やはり不可能と思われる殺人が起こる。犯人はどうやって犯行を行なったのか。主眼が置かれているのはハウダニットだが、被害者を始め登場人物の背景に漂う幻想的な雰囲気が、パズル的興味だけでなく小説として読んでも面白い。”密室講義”は「こんな昔にこんなことを…!」と、ある意味トリック以上に驚愕の一章(笑)。確かに古典であり名作。

No.25 9点 斎藤警部
(2015/06/12 11:10登録)
誠に大事(おおごと)ですなあ、この物語に登場するトリックの全貌は!! 
密室トリックとアリバイトリックが不可分に補完し合っておりますし、
犯人の意志と偶然の成り行きも絶妙に組み合っておる、
おまけに被害者と犯人が。。 更に○○○。。 そこにちょっぴりおばかさんな大物理トリックまで彩りを添え(ここまでやっといてトリックの中心じゃないってのも凄い)、全ての背景には相当に暗くて深い過去のおぞましい因縁が。。。。

こりゃ作中の「密室講義」なる戯れ(意外とあっさりで驚き)であらかじめハードルを思いっきり上げておくのもなるほど納得、むしろそれくらいして読者に心と頭の準備をさせておかないと本作のトリックが想像外にこってりがっしりし過ぎでおいそれと一発理解出来なくなってしまう、という事なのではないか?

真相解明に至るまでの物々しくも皮相な物語はさして夢中にさせるものでは無かったが、このただ事でない「何時(いつ)、誰が、何処で、何を、何故、如何様に為していたのか!」をあらためて反芻してみるに、小説の愉悦にやや乏しいにしては破格のこの様な点数を付ける外は無しとする心境に至った。

No.24 9点 とみすけ
(2015/06/01 20:00登録)
本作は乱歩の影響なのか密室講義や自身をフィクションの人物であると明言したフェル博士の言葉とともに語られることが多いが、私に言わせればそんなことはどうでもいいことである。したがってminiさんの書評はよくぞ言ってくれたと喝采を送りたい。この作品の本質は密室をメイントリックの目くらましとして使っている点にある。これは現実と非現実の差異はあれど火刑法廷にも通ずるものがあり、後に刺青殺人事件において(上手くいったか否かはともかく)高木彬光が主張するところの密室の利用法である。カーといえば密室というのは間違ってはいないし、実際に密室の謎を(しばしば強引に)解明して終わりという作品も少なくないが、本作はそれを逆手に取ったという点で他の多くの密室ものとは一線を画しており、文句なしにカーの代表作の一つであると考える。

No.23 6点 makomako
(2015/05/10 09:02登録)
 あまりにも有名な推理小説ですが実は私は読んでいませんでした。カーの小説は多少は読んだのですが、翻訳が悪く?とても読みにくい印象があり、ちょっと遠ざかったいました。私には外国の推理小説はしばしば登場人物に共感が持てない、とんでもないとしか思えない人の集まりの小説の感もあって(とんでもないからとんでもない話ができるのですがね)、手が伸びなかったのです。
 最近かなり読みやすい翻訳が発行されて、すごいお話がいっぱいあったことに気づき、遅ればせながらちょこちょこ読むこととしました。
 昔私の感性にひっかかった変な人物の集団も、日本の作品でもしばしば見かけるようになり、免疫ができたようです。
 それにしてもこのお話はトリックのみで出来上がっている、「トリックのための小説」といった感が強い。とんでもない状態で人が死んでいる。殺人事件として絶対こんなことは無理でしょうと思わせる。すごいねえ。
 ただ小説の中でも述べているが、すごい大魔術の種をあかすと多くの人はなーんだつまらないといった反応をするから、魔術師は種をあかさないといわせているが、推理小説で種をあかさないなんてありえないので、トリックだけでできている本作などはなかなか大変です。
 私はトリックの内容は分かったようなわからないようなぐらいなのですが、こんな不可能な話を作りだし、合理的?解決をして見せたのはやはし歴史に残るすごさなのでしょう。

No.22 9点 おっさん
(2014/07/26 16:52登録)
これからしばらく雑事に追われ、投稿ができなくなるので、余裕があるうちにと、気になる新刊『三つの棺』[新訳版]に目を通し、感想をまとめておくことにしました。
うだるような猛暑のなか、雪の夜の惨劇の物語を読み進めたわけで(版元も、もう少し出版の頃合いというものをだな・・・)、季節感も何もあったもんじゃなかったわけですがw

筆者は、ポケミスを読みはじめた中学生時代に、三田村裕の改訳版でまず同作を読みました。
ハヤカワ・ミステリ文庫になったものは、所持しているだけで未読。
作家の二階堂黎人氏の指摘で、同訳の誤訳問題を考えるようになってから、村崎敏郎訳の古いポケミス版を探して再読、合わせてイギリスのペイパーバックも入手し、こちらにも目を通しています。

ストーリーは、あらためて紹介するまでもないでしょうw
ゴチャゴチャしてるし、無理に無理を重ねてるし――率直に云ってアンフェアです(ディクスン名義の『殺人者と恐喝者』の、あの“叙述”に駄目出しをする人たちが、本作の導入部に文句をつけないのは変)。
でも、そうしたすべてのマイナスを帳消しにする、稀有のパワーを、筆者は『三つの棺』に感じます。
結末の謎解きにより、すべてが逆転し、真相を知った読者は、自分が作中キャラとともに、通常の本格ミステリとはまったく異質の時間軸の中を彷徨させられていたことに気づくのです。
その感覚は、SFでいうところのセンス・オブ・ワンダーに近い。

今回、読み返して改めて実感したのは、この小説って、プロローグ的な導入の「1 脅迫」をのぞけば、本題の事件自体は、2月9日(土)の夜に発生し、翌10日(日)の夜には解決しているんですよね。
象徴的なのが、「遅かれ早かれ、このことには誰かが気づいただろう」という、ラスト近くのフェル博士のセリフ。
不可能を可能にする、○○操作の魔法は、でも長くはもたない。“検死裁判”というリアルが介在してくるまえに、どうしても幕を下ろす必要があったわけです。
まるで、長い長い短編を読んだような、不思議な酩酊感が残ります。

カーで一作、ということになれば(好きな作品は他にあるとしても・・・)、やはり、これになるでしょうね。
まあ専門的な「密室講義」があったりするので、入門書としてはキビシイと思いますがwww

最後に。
[新訳版]の、加賀山卓郎氏の訳文について。
以前、筆者はこのサイトのレヴューで、同氏による『火刑法廷』の翻訳を、「全体としては、読みやすくなっていると思います。しかし、ところどころ首をかしげる表現が目について・・・ 」とクサしました。
同じことを、本書についても云わなければならないのは残念です。
『三つの棺』に関して過去に問題にされた、トリックの誤訳問題は解消しているので、これから本作を読もうという読者には、この[新訳版]を推薦してはおきますが・・・
前述のように、筆者は(まがりなりにも)原書でも読んでいる人間なので、いくつか別な箇所での、明らかに間違っている訳が気になってしょうがありませんでした。
加賀山氏は、『ハヤカワミステリマガジン』2014年9月号に寄せたエッセイ「『三つの棺』新訳に寄せて」のなかで、旧訳を擁護し「新訳に際してもいろいろ学ぶところがあった」と述べています。
でもねえ、加賀山さん、旧訳がちゃんと訳してるところを、あなた何箇所か、わざわざ誤って訳してますよ。何を学んだのかな?
いちゃもんでない証拠に、ひとつサンプルを。

「17 密室講義」のなかに、こんな文章があります。

 「別荘の壁の板と板のあいだから仕込み杖の刃が突き出されて犠牲者を刺し、すぐに引き抜かれるかもしれない」 (加賀山訳)
 
 「あずまやをおおったツタごしに、仕込み杖の薄い刃で被害者を刺し、すぐに引っこめる」(三田村訳)

原文はこう。

 The victim may be stabbed by a thin sword-stick blade , passed between the twinings of a summer-house and withdrawn;

カーのような作家、まして『三つの棺』のような作品を訳すとなったら、英語力だけでは駄目なんです。
せめてG・K・チェスタトンのブラウン神父シリーズあたりは、全部読んでるくらいでないと。
もしミステリの知識がなければ、ある人に協力をもとめればいい。
いまの早川書房編集部に、それは期待できないのか(巻末の「ジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)長編著作リスト」は労作ですが、残念なミスも多すぎですし・・・)。

殿堂入り名作として、当然の10点を本書に献上できないのは、そうした翻訳への不満によります。

No.21 9点 mini
(2014/07/11 09:54登録)
昨日10日に早川文庫から「火刑法廷」に続いて加賀山卓郎訳による「三つの棺」の新訳版が刊行された、未だ立ち読みしてないので例の誤訳とかどう改善しているのか気になるところだ
「三つの棺」は既に書評済だが今回の新訳版刊行に合わせて一旦削除して再登録

カー作品は一部の有名作しか読んでいないが、私が読んだ範囲内での最高傑作は「三つの棺」である
当サイト以外でも世に数あるネット上の書評を閲覧して感じるのは、案外と評価が低いなという点と、ポイントがズレてる印象
思うにその最大原因は、この作品が”密室もの”という前宣伝につられて読まれてる傾向がある事で、密室という観点で読んだらピンとこなかったという理由が多いようだ
まだ初心者の頃に読了してすぐに感じたのは、これは”密室”が肝ではないのではないかという事、今でもその考えは変わらない
はっきり言ってしまうぞ、この作品の本質はずばり”叙述トリック”だ
いや~、カーって時々やるんですよ叙述!、例えば「貴婦人として死す」とか
「貴婦人として死す」は誰が読んでもいかにも叙述トリックなんだけど、「三つの棺」はあからさまじゃないから分り難い、でもこれやはり”叙述”ですよ、読者を狙い撃ちにしたね
これは最初から”読者に○○を錯覚させる”のが最大の狙いだと思う
つまり第1の密室事件の方が脇役で、だってあのアイテム使った視覚的奇術トリックなんて陳腐だしさ
でもあんな陳腐なトリック使ったのも仕方が無い、だって第1の事件がないと全体の構成が成立しないからね
当サイトでもE-BANKERさんが指摘されておられる、”密室より一種のアリバイトリックの方が素晴らしい”という御意見は本質を突いておられると思う
それと有名な”密室講義”の章だが、これはおまけ、省略してもいい
大体さぁ~、この密室講義の内容って案外と体系的には分類整理されて無くってさ、思い付いたまま羅列したような印象なんだよな
決して”密室講義”の章があるからこそ作品全体の価値が有るという風には思わない
敢えてこの章を挿入したのは、謎の仕掛けに対し、わざとらしいとか人工的や御都合主義だとかという非難が出る前に釘をさしておいたというところでしょう
今の読者って、社会派的要素を嫌い隔離された館とか孤島とかやたらと人工的な舞台設定を好むくせに、トリックや謎の仕掛けに対してはやれ非現実的だとか有り得ないとか非難する傾向があるが、私は矛盾を感じるなぁ
「三つの棺」について、人工的とか非現実的とかの非難は私は的外れに感じる、これは最初から人工的な仕掛けの極致を狙った作品だと思うから
大体ねえ私の長年のミステリー読者としての経験からすると、この作品に対して御都合主義という語句しか出てこなかったり極端に低く評価する読者にロクな奴は居ないという印象は有る

”仕掛けの為の仕掛け”に陥った作品は本来は私の嗜好からは外れているのだが、仕掛けやアイデアそのものが優れている場合は高評価する事にしている、例えばレオ・ブルース「ロープとリングの事件」とかクリスティ「葬儀を終えて」とか
「三つの棺」も、深みのある人物描写や人間ドラマなど全く無い仕掛けだけの作品だが、このアイデアに関しては高評価せざるを得ない、当サイトでの空さんの10点評価も分かります

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