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ミステリの祭典

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ボンボンさんの登録情報
平均点:6.51点 書評数:185件

プロフィール| 書評

No.65 10点 一八八八 切り裂きジャック
服部まゆみ
(2015/12/18 14:44登録)
史実とおびただしい数の実在の人物のプロフィールを、作者創作の主人公2人を動かすことで綴り合せて、1888年(と1923年)を目の前に出現させてしまう神業。スマホを片手に出てくるものを調べながら読み進めると、大筋どころか、細々としたことの一々が綿密に調べられた資料を見事に活かして書かれていることが分かり驚かされた。
ヴィクトリア朝の霧のロンドンの世界観を楽しむも良し、誰も彼もが疑わしい中から真犯人を追うも良し、制限時間を横目に疾走するサスペンスにドキドキするも良し。
また、鬱々グズグズのモラトリアム青年の、目が覚めるような成長物語としても、心潤う読みごたえがあった。

そして、(多少のネタバレになるのかな?真犯人とは直接関係ない話だけど・・)
第1部の小説と第2部の日記、プロローグとエピローグを含めた構成自体が、全編を通して語られる裏テーマである「物語のすばらしさ」にも関わってくるのだが、最後の最後に繰り出される柏木の名言「だって君・・・小説とはそういうものだろう?」には、ひっくり返った。
そもそもが100年以上前の「実在」の未解決事件を基にした「物語」なのに、その中で「日記」を下敷きに「小説」を書き、さらにそこから抜け出して、前述の台詞を言うのだから、まさに迷宮、すべてはロンドンの霧の中となる。これは、私の中で一、二を争う名台詞となった。


No.64 9点 アクロイド殺し
アガサ・クリスティー
(2015/12/08 18:10登録)
予備知識一切なしで読んだ。しかもポアロ初体験。本当に傑作だった。
後で振り返れば、途中で、あれ?説明が少ないなとか、おや?唐突だな、などと感じた部分がちゃんと罠になっている。結果を知って読み返しても、矛盾がなく、文句のつけようがない。
物語としては、犯人に好感を持って読んでいたので、この結末は悲しかった。都合よく使われていた面白キャラのキャロラインがどん底に放置されるその後を思うと憐れ。
また細かいことだが、翻訳これでいいのか?と気になるところが多かった。主語がなかったり、「この」や「その」の使い方がおかしかったり、台詞部分がぎこちなかったりで、少し残念。


No.63 7点 正三角形は存在しない 霊能数学者・鳴神佐久に関するノート
二宮敦人
(2015/11/29 22:04登録)
あまりの少女漫画表現に前半はドン引いた。しかし、ぐんぐん盛り上がっていき、最終的には大満足。そうか、なんかおかしいと思っていたんだ、なるほど、なるほど、と膝を打つこと請け合い。
心霊の特徴について、数学やその他の非常に巧い例え話でスラスラと説明する鳴神佐久のキャラクターがいい。変な理屈に丸め込まれて納得してしまう。
隅々まで大変よく出来ているだけに、今の時代、売れるためにはここまで軽々しくしなければならないのかと、少し勿体ないような気もする。面白いからまあいいけれど。


No.62 6点 蟻の菜園-アントガーデン-
柚月裕子
(2015/11/27 00:14登録)
作品紹介にある「連続婚活不審死事件」は、本作のほんの一部でしかない。たくさん詰まった素材や大道具小道具はどれもありふれたものだが、全体として緊迫感のある大河ドラマに仕上がっている。どこか既視感のあるネタのオンパレードで、あっと驚くものがないにもかかわらず、組み立ての妙でぐいぐいと読ませる。
現実社会に溢れている「悲惨な境遇」について、よく調べられていて、巧みに小説として再現されていると思う。
ところで本筋には全然関係ないが、この作者は、主人公が1日3食どこで何を食べたか、どんな喫茶店で何を飲んだか、きっちり書き込んでくる。特に夜の飲み屋の様子や選んだお酒の描写が具体的。好きなんだろうなあ。


No.61 5点 ちょっと今から仕事やめてくる
北川恵海
(2015/11/19 19:15登録)
仕事に疲れ果てている人は必読。すっきり爽やかな心のデトックスになる。
ブラック企業に殺されないためのハウツー本をミステリー風味で仕上げた程度のものなので、謎解きの材料が提示されるたびに、いちいち答えが判ってしまうのだけど、何とも言えない魅力があって無視できず、ついつい作品登録してしまった。
「ヤマモト」の関西弁に心を鷲掴みにされる。あー、余韻が頭を離れない。自分、相当疲れているな。


No.60 5点 マスカレード・ホテル
東野圭吾
(2015/11/17 16:56登録)
深みはないが、トリックは面白かった。いかにも怪しさ満点な人がオチにどうつながるか私にはヨメなかったので、結末では一応、なるほど、となった。
事件そのものの説明は、ごく簡単にし、一方で、ホテルに現れる様々な客については、本筋と関係あるのか無いのか判らないまま長々と書かれている。読みどころをそこにしてあるのだから、それで悪くはないのだが、そのために中盤までは何となく散漫な感じ。
ホテルで働く人々の心意気(商売中心主義の腹黒さも含め?)が爽快で、プロの機転の利かせ方、言葉の選び方は、お見事。こんなに頭が良く回ればいいだろうなと羨ましくなった。


No.59 7点 あんじゅう 三島屋変調百物語事続
宮部みゆき
(2015/11/07 23:49登録)
4話ともずっしりと重い。一冊として読むのに少し疲れた。
人間の身勝手、心の中の”鬼”の部分を含めての世の中だ、そういうものも様々身に浴びて、人とかかわっていくことで一人前になっていくのだ、というテーマがよりはっきりし、本シリーズの世界観が落ち着いてきたようだ。
どの話もいいが、特に表題作の「あんじゅう」は、なかなか奇抜な思い切った設定。くろすけの手触り、リアルな質感がすごい。結構荒唐無稽なのに深く納得でき、上質な余韻を残す。


No.58 7点 おそろし 三島屋変調百物語事始
宮部みゆき
(2015/11/02 16:34登録)
久々に怖い思いをした。これを百物語の初めの五話と言ってしまうのか。一話一話が重大すぎるだろう。
悪人ではないはずの普通の人が、結果的にひどい悪事を働き、取り返しのつかない悲劇を生んでしまう。悪いことをした人の側から見た、ことの経緯、心情というのは、確かに理屈があって、それはそれで憐れなものだとは思う。しかし、作品の中でも問い返されているように、では、何の咎もない被害者の立場は?
ということで、シリーズは続く。

※「あんじゅう」を読み始めようとしたら、「おそろし」の記憶が曖昧になっていたので、まず再読。


No.57 5点 マスカレード・イブ
東野圭吾
(2015/11/02 15:16登録)
なんの引っかかりもなくスラスラ読めました。ほとんど苦労せず、試行錯誤もなく、観察と推理で事件解決。
フロントクラークの山岸さんは、すっきりと強い、なかなかいい感じのキャラクターでした。


No.56 7点 地を這う虫
高村薫
(2015/10/10 00:00登録)
元警察官(刑事)の第2の人生を集めた短編集。
高村薫らしく、自尊心が傷ついた辛く苦しい気分をベースに、それでも気持ち上向きに終わる話が4つ。すごい謎がある訳ではないが、展開はとても楽しめる。
表題の「地を這う虫」では、あの合田雄一郎的危なさが堪能できる。
高村さんの小説の登場人物は、暗く、精神的に参っているように見えて、実は人生を懸命に生きる人たちなので、読後はいつも励まされたような気になる。


No.55 8点 ばんば憑き
宮部みゆき
(2015/08/04 00:15登録)
全く趣の違う6話の江戸の「ホラー」短編集。
趣向は違っても、どの話にも子どもからせいぜい10代の若い人たちがポイントとなって登場する。それがせつなかったり、可愛かったり、健気だったり、愉快だったり。
「百鬼夜行抄」(今市子)もびっくりの妖怪や物の怪が思い切りよく出てくる話が多いが、一番怖いのが人間の心理劇だったりする。
どの話も何度も読み返したくなる味わいがある。

※「ばんば憑き」を改題した角川文庫の「お文の影」を読んだ。


No.54 7点 検事の死命
柚月裕子
(2015/07/19 23:39登録)
前半では、このシリーズを通して少しずつ語られてきた、佐方検事の父の謎がついに明かされる。
後半は、「真っ当」であることを貫ける検事と、それを「青臭い正義」と言ってしまう弁護士の対決。
全4話が収録されているが、「業をおろす」や「死命を決する」などの題名のとおり、重い問題にみんな白黒ついて、本当にスッキリする。
こちらの想像する結末に、もう一つ裏が付き、さらに驚きの真実が加わる、という具合で本当によく出来ている。
(一つ引っかかったのが、井原弁護士は、敏腕のようでいて、実はちょっと迂闊過ぎ?プロの弁護士が裏を取らないで裁判しちゃうかなあ、というところ。)
ああ、佐方貞人シリーズ、どんどん続けてほしい。


No.53 4点 臨床真理
柚月裕子
(2015/07/11 23:30登録)
なんだか、えぐかった。
序盤はグイグイ読ませるが、最終的に期待していたのとは大分違う方向に持っていかれてしまった。
悪者の造りに陰影がないのが、つまらなくなっている原因か。


No.52 7点 検事の本懐
柚月裕子
(2015/05/23 00:50登録)
面白かった。前作とは比べようもなく格段に巧くなっている。
全編をかけて佐方検事の人生の謎が解かれていく。
ことの本質、隠れた真実を、奇をてらわず実直に見つけ出していくという、かなり地味な味わいが胸にしみわたる。
まず、「検事の本懐」っていう言葉からして、熱いものが込み上げてくるなあ。
第3話「恩を返す」の緊迫のスローモーション場面が印象的だ。
ところで、柚月裕子というきれいなお名前の女性なのに、おじさんへの理解がとてつもなく深いのはなぜだ。


No.51 6点 珈琲店タレーランの事件簿4
岡崎琢磨
(2015/03/17 23:32登録)
なんだろう、岡崎琢磨さん。大変うまくなっている。今までで一番良かった。もちろん、またまた細かい日常の謎なのだが、叙述トリック満載で、結構単純に騙されてしまった。
副題「ブレイクは五種類のフレーバーで」のとおり、風味の違う短編がきれいに並んでいる。この作者は、今後、結構いろいろな小説が書けそうだ。


No.50 5点 最後の証人
柚月裕子
(2015/03/03 00:35登録)
ミステリとしては、可もなく不可もなく、平均点か。確かに、ノリが二時間ドラマ的。
でも、子を失い、妻を失いつつあったら、自分はどう考えるか、どう行動するのが一番いいのかについては、考えさせられる。
また、(法的にではなく、人間としての)犯罪者に対する社会的制裁についても、現実にあることだし。法律って何だろう、裁判って何だろう、とも考えさせられる。
ただし、文章が増長というか、クドイというか、一つのことを1.5倍くらいに書くので、その分薄くなってしまっている。もっとドライに、周りのことなどが詳しく書き込まれていれば、雰囲気も変わっただろう。


No.49 5点 模倣の殺意
中町信
(2015/02/15 13:42登録)
(ネタバレ気味?)
大きな箱に、謎解きの小箱がたくさん入ってるが、終盤で大きな箱のほうが見えてくると面白くなる。
最終的な犯人について、登場人物が推理小説のあり方について議論する何気ない会話の中で示されていたのが愉快だった。
全体にほとんど深みは無いが、二人の素人探偵については、好意的に見ることができた。


No.48 5点 ビブリア古書堂の事件手帖6
三上延
(2015/01/26 23:33登録)
古書好きの人は、皆こんなに自己中で、怖いのか。あっちでもこっちでも貴重な古書をダメにしてしまうとか。狭い世界でみんな親戚とか。それはないだろう、ということが多すぎる。
まあ、実はこういう理由で、と種明かしされてみれば、結構いい話だったりするのだけれど。
誰が犯人か、という面では、次々とトランプをひっくり返すように楽しめた。


No.47 6点 ビブリア古書堂の事件手帖5
三上延
(2015/01/11 08:17登録)
物語としては、まだ道の途中という状態。このシリーズ、1巻1巻採点する方式がいいのかどうか、分からなくなってきた。
どの話もよく出来ているが、あちらこちらの脇役の人に、「こんな人いるかな」「こんなこと考えるかな」「こんなことやっちゃうかな」というような引っ掛かりを感じることがある。
と言っても、全体としては緊張感があって面白い。


No.46 6点 小暮写眞館
宮部みゆき
(2014/12/23 09:30登録)
恋の話だった。宮部みゆきが書くとこうなるのか。ホラーなミステリも、宮部さんが書くとこうなるんだ。理不尽に辛いことがあっても前向きに温かく。
今回のアイテムは、写真と電車と映画とマラソンと・・・ほかにも随分いろいろ詰まっていて楽しかった。
キャラクターでは、テンコが魅力的。この人の心情は、ほとんど説明されないけれど、読む側でいろいろ推察できて深い。
やはり文章が巧くてスルスル読めてしまうので、とても良い作品なのに、爆発的な高得点にならない、じんわり系。

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