home

ミステリの祭典

login
おそろし 三島屋変調百物語事始
三島屋変調百物語

作家 宮部みゆき
出版日2008年07月
平均点6.50点
書評数6人

No.6 6点 びーじぇー
(2023/04/25 22:01登録)
古風な百物語に少し変わった趣向を加え、設定自体は謎めいた魅力を秘めた小説。地の文にも会話にも、現代では使われなくなった書き方や言い回しがさりげなく散りばめられており、それによって江戸の人情や情緒がいい具合に醸し出されている。
しかし、構成や描写に長けている作者でありながら、主人公・おちかの背負っている悲しみの秘密は途中で早々と明かされてしまうし、百物語という設定上、語りの中にさらに語りが重ねられたりしており、読んでいて混乱することさえしばしばある。ただその構成が逆に読者であるこちらを落ち着かなくさせ、不安にさせる効果を上げているのだと分かると、その筆力に感心させられる。
繰り返し語られる人間の心の持つ性の哀れさが、小説の構成と語られる怪異と重なって、何層にも増幅されて、こちらに伝わってくる。この作品の隠れたテーマとして、人とその人の語るという行為の関係、というこれまであまり捉えてこなかった視点があるといえる。百物語という古風な習俗を主体にした作品ながら、この作品が古臭くないのは、こういうポイントを押さえているせいだろう。

No.5 7点 ALFA
(2022/03/02 10:13登録)
連作の「三島屋変調百物語」の第一巻。
お気に入りは第一話「曼殊沙華」。殺人犯を身内に持ってしまった男の複雑な心を描いてホラーというより現代の心理小説の趣がある。緻密で物静かな書き出しは長く続く連作のプロローグにふさわしい。
客を招いて一人一話の怪異譚を聞くことが、語る側と聞く側のセラピー(癒し)にもなることが早くも暗示されている。

第二話「凶宅」と第五話「家鳴り」は続きもの。壮大なエンディングは大交響曲のコーダ(終結部)のようなしつこさで笑える。楽しめる話だが第一話の緻密さとは異質。

No.4 6点 猫サーカス
(2020/09/02 20:00登録)
サブタイトルにあるように、宮部みゆき版百物語。ある事件がきっかけで人間不信になったヒロインのおちかが、叔父の元を訪れる人々が体験した不思議な話を聞くうちに「世の中には、恐ろしいことも割り切れないことも、たんとある」ことを知り凍り付いた心が徐々に解けていく。人間の醜さや悲しさが、卓越した比喩を多用した独自の文体によって炙り出されていく。切なくも美しい時代ホラー小説。

No.3 6点 メルカトル
(2016/11/23 21:55登録)
第一話はかなり怖い、オチが素晴らしい。しかし残念ながら次第にトーンダウンしていく気がする。どれも今一つ捻りが足りないというか、ストーリーをすんなり落としすぎという感じがしてならない。
とは言え、文章の流麗さ、情感あふれる描写力、臨場感、どれをとっても一流と言って差し支えないだろうと思う。
ホラーとしては第一話を除いて、それほど怖さを感じないが、このシリーズはそういう問題ではないのだろう。人間の業の深さを鋭く抉り、その存在の儚さを幾度となく繰り返し指摘しているところを見る限り、宮部の怪談はその名の通り変調、変わり百物語だと言えるのではないか。

No.2 7点 ボンボン
(2015/11/02 16:34登録)
久々に怖い思いをした。これを百物語の初めの五話と言ってしまうのか。一話一話が重大すぎるだろう。
悪人ではないはずの普通の人が、結果的にひどい悪事を働き、取り返しのつかない悲劇を生んでしまう。悪いことをした人の側から見た、ことの経緯、心情というのは、確かに理屈があって、それはそれで憐れなものだとは思う。しかし、作品の中でも問い返されているように、では、何の咎もない被害者の立場は?
ということで、シリーズは続く。

※「あんじゅう」を読み始めようとしたら、「おそろし」の記憶が曖昧になっていたので、まず再読。

No.1 7点 白い風
(2011/10/18 18:11登録)
「ばんば憑き」・「あんじゅう」と読む順序が逆になったけど、十分楽しめました。話の原点の良助と松太郎のことも詳しく知ることも出来たしね。 まだまだ続巻が出てきそうだけど、最終話「家鳴り」の屋敷の家守の男の存在が気になりますね。最終的にはおちかが幸せになるまで続けて欲しいですね。

6レコード表示中です 書評