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ミステリの祭典

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アクロイド殺し
エルキュール・ポアロ/別題『アクロイド殺害事件』『アクロイド殺人事件』ほか

作家 アガサ・クリスティー
出版日1950年01月
平均点7.78点
書評数76人

No.76 6点 みりん
(2023/05/17 23:57登録)
御多分に洩れず、この超有名作は既にトリック・真犯人共にネタバレされている状態で読みました。
ミステリはそれだけで魅力半減…かと思いきや一周目から作者の仕掛けにニヤニヤするのも悪くないなと。
やはりクリスティのアイデアは革新的 

追記
と思っていたら日本人の純文学作家が『アクロイド殺し』より前にほぼ同じトリックを書いていたみたいですね。読んでみようかな。

No.75 7点 弾十六
(2021/01/17 15:58登録)
初出は夕刊紙The Evening News [London] 1925-7-16〜9-16 (54回、連載タイトルWho Killed Ackroyd?) 単行本: 英版William Collins(1926-6) 米版Dodd, Mead(1926) いずれもタイトルはThe Murder of Roger Ackroyd。ダストカバーは英版が若い女性が電話の乗った書類机の一番上の引き出しをあさっている場面、米版は短剣を握った手。
早川クリスティー文庫の新訳(2003)で読了。新しい訳にしては、あまり多くはないがちょっと気になる日本語がちらほら。まあ私のトシのせいかもね。
コリン・ウィルソン『世界不思議百科』によると売れた部数は3000部程度(2021-1-20追記: Charles Osborne “Life and Crimes of Agatha Christie”によると5000部)。
でも新聞連載してたのだから結構、有名だったのでは?(この新聞の推定部数(1914)は60万部。アガサさんにとって『茶色の服』に続く二回目の同新聞での連載だった。) 失踪事件直後発表の『ビッグ4』は9000部売れたらしい。
巷で言われてる、発表時、大騒ぎになった… というのは当時の批評文が見つからないので実態がよく分からない。この文庫の解説は笠井潔さんだが、引用されているヴァンダインのもセイヤーズのも後年1930年代の発表じゃないかなあ。ただしノックスやヴァンダインの探偵小説のルールはどちらも発表が1928年で、この小説がフェアプレイ概念に大きな影響を与えたことが伺える。
私が最初読んだ時はネタバレしてたかなあ。もう思い出せないが、この小説には良い印象をずっと持っていた。今回45年振りくらいに再読したら、ああ、結構、工夫してんのね… とちょっと感心。あのネタ一発の作品ではなかった。いつものように大甘な恋人たちが沢山登場。まだ夫の不倫に気づいてない頃に書いたのかなあ、と感じてしまった。
さて意外にも長篇ではポアロ・シリーズ第3作目。ポアロ&ヘイスティングス・シリーズは短篇では1923年に25作品(と1924年に『ビッグ4』の12エピソード)を発表していて、このコンビは、もーお腹いっぱいだった、と後に『自伝』に書いている。それで前作『ゴルフ場』(1923)でヘイスティングスをアルゼンチンに旅立たせてしまった。でも私は今回再読して、本作は、最初ヘイスティングスを語り手として構想したのでは?と妄想してしまった。少なくとも、ちょっと頭の片隅をよぎったのでは?と思う。アガサさんの探偵にたいする幕引き(『カーテン』)を考えると、あり得ないとは言えないんじゃないかなあ。
もう一つのお楽しみはミス・マープルの祖型キャロラインの描写。なるほどね、というキャラだが、ちょっと表層的なイメージ。これもアガサさんが実人生から深みを学んでキャラが完成したんだなあ、と少々感慨深い。
というわけで、世間知らずの若奥様アガサさんの最後を飾る記念すべき作品。
ミステリとしては、最重要容疑者が最初から一切疑われない!という大きな欠点はあるが、起伏に富んだ上出来な構成。登場人物をサラッとスケッチして、如何にも、とキャラを際立たせる技は、天性のものだ。
あとこの機会にエドマンド・ウイルソンのWho Cares Who Killed Roger Ackoyd?(1945-1-20)を読んだ。タイトルに上げられてるが本書とは全く関係なし。探偵小説なんてクズで、読んでるやつは中毒患者だ!と宣言している不愉快な内容。なんでウイルソンはそんなに苛立ってるのか?と思ったら、紙不足の時代にくだらない本が印刷されてるのは許せない… ということらしく、ちょっと同情。でもみんな気晴らしを求めてたんだよね。
トリビアは後で徐々に埋めます。
(以上2021-1-17記載)
p9 九月… 十七日金曜日(Friday the 17th)♣️直近は1926年。連載時には違っていたか?前述の通り1925年9月16日水曜日に新聞連載が終了している。とすると日付が誤りで1924年9月19日金曜日未明の事件なのだろうか。(インクエストが月曜日に開かれているので、曜日に誤りは無さそう。)
p18 古くさいミュージカル・コメディ(an old-fashioned musical comedy)♣️翻訳では「最近は風刺劇(revues)がはやっている(ので廃れた)」としている。musical comedyはギルバート&サリヴァンみたいな喜歌劇で、revueはAndré CharlotやC. B. Cochranが1920年代から1930年代に公演していた歌あり踊りありのヴァラエティ・ショーのことだろう。
p29 推理小説の愛読者(been reading detective stories)♣️黄金時代の特徴。探偵小説への自己言及。
p30 『七番目の死の謎』(The Mystery of the Seventh Death)♣️架空のタイトル。それっぽい感じ。
p35 最新の真空掃除機(new vacuum cleaners)♣️スティック型の方が古く、1924年以降ポータブル・タンク型が家庭用として販売され始めた。ここで言ってるのはポータブル・タンク式のことなのだろうか。
p39 鳶色の髪(auburn hair)♣️『スタイルズ荘』、短篇『安アパート』などに出てくる表現。
p48 浅黒い美しい顔(a handsome, sunburnt face)♣️浅黒警察としては、日に焼けた、として欲しいなあ…
p54 シルヴァー・テーブル(silver table)とか呼ばれる家具♣️Web検索したがsilver tableは固有名詞ではないようだ。
p55 まぎれもない本物のイギリス娘(A simple straightforward English girl)♣️正真正銘の金髪、青い目。北欧系のアングロ=サクソン、と言う意味?
p60 《デイリー・メール》♣️Harmworth兄弟が1896年に創刊した日刊紙。本作が連載されていた夕刊紙The Evening Newsも同兄弟が1894年に買収し支配下に置いていたので、一種の楽屋落ちなのだろう。
(以上2021-1-17記載、未完)

No.74 4点 mediocrity
(2020/12/18 12:26登録)
<ネタバレあり>



ちょっと自分はレアなパターンだったようだ。
ヘイスティングス大尉が出て来ない時点で、今回は大尉でなく医者の手記なのだと勝手に思い込んで読んでいた。
で、ヘイスティングス大尉が出ない理由は、ヘイスティングス役が犯人だからなんじゃないの、とほぼ決めつけていた。
ゆえにこれほど驚けなかった作品も珍しい。
そのあたりの事情を別にしても、『スタイルズ荘の怪事件』や『ゴルフ場殺人事件』に比べストーリー展開も面白くなかったので低評価。
キャロラインのキャラクターとジェームズ医師との会話が一番楽しめた。

No.73 8点 Kingscorss
(2020/08/26 16:05登録)
言わずとしれたアガサ・クリスティーの傑作中の傑作。
内容に関しては少しも書けないのでただただ読んでとしか言いようがない。

書評的には衝撃的なラストを活かすために淡々とした語り口で事件が進むのであまり面白さを感じにくいのがマイナス。ただ、それはもう仕方がない。あのネタを活かすためなのだから。

今なおフェア、アンフェアの議論が絶えないのは別の視点でいえば名作の証拠。99.9%の作品は世に出て1年以内に語られることはなくなるのですが、この作品は人類が滅ぶまでミステリーファンの間で語られることでしょう。

この空前絶後の結末は一部の人には壁本となるかもしれませんし、昨今ではこのネタをパクったトリックやプロットが溢れているので目新しさを感じない方もいるでしょうが、この手の騙しの原点というべき古典なので是非、是非読んでほしいです。

No.72 9点 まつまつ
(2020/03/02 00:05登録)
約束事が守られていないのは、ミステリファンなら最初から分かっていること。いいちこさんのように、これを許容できないようでは、昔のミステリは読めない。いち早く、その発想をしたことが素晴らしいと思う。

No.71 5点 ◇・・
(2020/03/01 16:06登録)
面白いが大きな不満があるのも確か。
いきなり私という人物の言行になっていて、その言行が客観的に正しいかどうかという前提が明確になっていない。
手記を書くという動機づけが曖昧なのが弱い。

No.70 4点 imnottheonlyone
(2020/02/04 13:27登録)
頭が固いと思われるでしょうが、アンフェアっぽいと思う。というかそこまでして犯人を隠して意味あるのか?って。
あと事件が地味。

No.69 7点 バード
(2019/12/15 10:40登録)
(ネタバレあり)
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「普段読むジャンルからは外れるので、クリスティはあまり読んでない。
せいぜい有名作(『そして誰もいなくなった』など)と数冊だけ。
そんな自分が言うと生意気で、角が立つかもだけど、『アクロイド』のストーリーは、事件が起き、探偵が地道に手掛かり集めて、最後に容疑者たちの前で推理するという、こてこてものすぎる。
探偵小説に慣れてる人にとっては、退屈なんじゃないかな。

どうせ当たらないだろうし、犯人が誰かは、そんなに考えずに読んだ。直感では少佐が犯人かと思った。(理由は、他の登場人物よりはまだ意外性があるかな~と思ったから。ひどい推量とは、自分でも思う(笑)。)
でも、『そして誰もいなくなった』みたいに途中で死んだ人もいないし、誰が犯人でもそこまで意外性がないような、とか心配してたら・・・、最後にやられたよ。物語を語ってた、わたしが犯人!?こんなのあり!?
完全に意識外だったから、びっくりした後、色んな箇所を見直しちゃったよ。

意表を突くという、なぞなぞの本質を、小説形式でここまで表現できるんだな~と感心したね。












というわけで、『アクロイド』凄く面白かったわ。
やっぱクリスティって凄い作家なんだね。」

私「うん、そーだね。でも、まだそれ読んでない・・・。」

友人「(゚∇゚ ;)エッ!?」

私「」 友人「」

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悲しい事件でした。
友人はSF、私はミステリと棲み分けていたので、まさか私がこれほどの有名作を読んでないとは思わなかったのでしょう。
本作は完全ネタバレをくらった作品の一つです。ネットでのネタバレは今も昔も自衛していますが、リアルで不意を突かれるとどうしようもない(笑)。

以上が、「『アクロイド』殺し」の顛末です。


(以下書評)
友人の意見と同じで、現代のファンからするとストーリーが退屈な気はする。また、仕掛けの性質上やむを得ないのだが、全体的にあっさりとした書きっぷりで、人間ドラマもそこまで盛り上がらず。結局、件のトリックが楽しめるか否かが、本作の評価を決めるのだろう。
よって、ネタバレ済み、再読時はそんなに・・・という本かと。種が割れていると、犯人が紡ぐあからさまな描写を探して、にやにやしながら読むくらいしかできないので。(まぁ、答え合わせのようなもので、それも楽しいっちゃ楽しいですが。)

ただ、この手の作品の中では本書は圧倒的にフェアだと思うので、個人的には技巧を称えて加点したいっす。
笠井潔さんの解説(早川書房2003年版)の通り、本作の文章は犯人が手掛けた文章なのだから、極端なことを言えば、本文中に嘘があってもフェアなんですよね。
その中で、事件に関する嘘の記述は無く、かつ犯人特定パートの前に作中作であることのネタばらしまでするので親切すぎるくらい。

残念ながら、ネタバレ済みで読んだ私には評価不可なので、本音は「点無し」ですが、ネタバレせずに読んだらおそらく9点という気がするので、ストーリーの5点との間をとって7点としておきます。

No.68 7点 虫暮部
(2019/08/30 10:06登録)
 “アクロイド”って何だろう? セルロイドやアルカロイドからの連想で普通名詞だと考えたのだ。“~殺し”と言うからには、被害者の何らかの属性を示す語に違いない。モンゴロイドのように人種を表すのか。悪のアンドロイドって意味ではまさかあるまい。えっ、単なる被害者の名前? なーんだ。
 そんなことを思った小学校時代、幸いネタバレ無しで読めたので結末で驚愕、海外のミステリを読む大きなきっかけになった。
 さてそれを今読み返したところ、意外な程に面白い。物語序盤にそんな兆しは欠片もないのに何故あの人があの人を殺すのか? また、言動の不可解な人物が幾人も見受けられる。
 つまり、メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧――そんな状況が、本書を優れた倒叙ミステリに変貌させたのだった。

No.67 6点 レッドキング
(2019/02/07 14:01登録)
野暮な奴がミステリの悪口言う時「アクロイドやYの悲劇がどんなに面白いと言ったって、しょせん驚ろかしてそれで終わりだろ?」て引用する位に日本ではミステリを代表する作品だから、いまさらネタバレもクソもないと思うから書くけど、昔は広辞苑の類にも「アクロイド殺し:記述者即犯人という意表をついたアガサ・クリスティの・・」って項目があったはずだ。
高名な評論家が、「アクロイド」とか「Yの悲劇」は犯人が分かってから読み返す方が面白い、とか書いていたが・・実際たしかにそうだったが・・今、あらためて読み返しても「こんなもんだったか」が冷静な感想となる。ただ、作品への懐かしき思い入れを込めて点数にはオマケを付けたい。

No.66 5点 邪魅
(2017/02/25 00:40登録)
叙述トリックの開祖としての歴史的名作、とはいえ
現代の叙述トリック系の作品に多く目を通した状態で読むとさほど驚けなかったです
少し期待し過ぎたきらいはありますが

No.65 6点 パンやん
(2016/10/07 08:28登録)
クリスティーの古典的名作にして、叙述ものの歴史的意義のある本書。ほぼネタバレの為あえて避けてきたが、気にはなっていたので遂に読むに至った。さすがに驚きはないが、何気無い伏線の数々、ポワロの言動がとてつもなく面白い。白紙で臨みたかったなぁ〜(苦)。注意、反省!

No.64 6点 makomako
(2016/09/19 20:47登録)
 クリスティーの作品の中でもとりわけ有名なものと思いますが、ずっと敬遠していました。それというものなにで知ったのか忘れましたが、犯人を知ってしまっていたからです。それでも結構読めましたが、やはり知らない方が数倍びっくりすることでしょう。さらに多分を立てるかも。
 当時ヴァンダインもこんなのありかといっていたそうですが、そりゃそうだ。
 忘れっぽい私でもさすがにこんな犯人は忘れることができませんでした。
 推理小説は、ことにこの小説のように犯人がわからない、とても意外な犯人だったといったところが楽しみなのに、犯人を知っていては興味半減です。
 クリスティーの作品は映画化やテレビ化されることが多いので時々みてしまうのです。それなりに面白く見るのですが、本を読む前に見るのはやめよう。オリエント急行は映画が面白かったが、これもあまりにすごい結末なので忘れられません。そのため本は未読のまま。

No.63 8点 いいちこ
(2016/07/26 14:40登録)
事前にトリック・真犯人を了知したうえでの読書にも耐え得るクオリティは流石の一言

No.62 2点 synyster
(2016/07/21 01:06登録)
トリックを知らずに読んだが正直つまらなかった

フェアかアンフェアかという問題の前にポアロの推理に無理がありすぎる。
電話の問題で証人を得られたからそこで犯人を特定できたものの、
それ以外ではなんの根拠もなく◯◯でも犯行が可能だったことを示しただけ。
そもそも毒殺でもないのになんでちゃんとした死亡推定時刻がわからないのかが疑問だし、その情報が出てないのだからアリバイうんたらの話もなんの意味もないし、犯人がディクタフォンを使ってたというのもあくまで可能性の話。

このトリックを思いついたクリスティには感心するが、
このトリックだったら短編でよかったと思う。

No.61 9点 風桜青紫
(2016/07/10 23:39登録)
クリスティーのミスリード力が最大限に発揮された一作。同じトリックを使った横溝正史や高木彬光の某作とは比べ物にならないぐらい面白い。もっぱら読み比べてみればわかるんだが、あちらは単に事件の犯人の立ち位置が同じというだけで大した工夫がないのに対し、こちらは真相解明にいたるまでの疑問点を逐一説明して読者をどんどんミスリードにかけていくという仕組みになっているのでラストシーンの衝撃が段違いなのである。最後のなんともいえない後味も良し。ポアロがなんともかっこいい。

No.60 9点 青い車
(2016/01/31 18:51登録)
この手のトリックを始めたのがクリスティーかどうかは不明ですが、おそらくもっとも本格的かつ巧妙な使い方を開発したのは彼女が最初だと思います。僕は運悪く犯人を知って読んでしまったため魅力は半減でしたが、伏線を確認しながらの読書も意外と面白いものでした。アンフェア気味な記述に走らず、読者に推理の余地をちゃんと与えているのも好印象で、いかに細心の注意を払って書いてあるかがわかります。ただ、その他のトリックは今読むと古びているところも多いので最高点は控えます。

No.59 9点 ボンボン
(2015/12/08 18:10登録)
予備知識一切なしで読んだ。しかもポアロ初体験。本当に傑作だった。
後で振り返れば、途中で、あれ?説明が少ないなとか、おや?唐突だな、などと感じた部分がちゃんと罠になっている。結果を知って読み返しても、矛盾がなく、文句のつけようがない。
物語としては、犯人に好感を持って読んでいたので、この結末は悲しかった。都合よく使われていた面白キャラのキャロラインがどん底に放置されるその後を思うと憐れ。
また細かいことだが、翻訳これでいいのか?と気になるところが多かった。主語がなかったり、「この」や「その」の使い方がおかしかったり、台詞部分がぎこちなかったりで、少し残念。

No.58 10点 ロマン
(2015/10/20 10:52登録)
(ネタバレ) 叙述トリックの代名詞というくらいの予備知識しかなく読み始めたが、読んでいるうちになんとなく「そういうことなのでは?」というのは感じられた。語り手でありワトソン役である登場人物が犯人であり、実は全てを語っていなかった、という叙述トリックはたしかに当時は斬新で賛否を巻き起こしたことだろう。ただ、嘘を書いていたりするのではなく、書いてある事自体は全て事実なので、当時これをやってのけたアガサ・クリスティーの目の付け所が素晴らしかった、ということだけは確かだろう。

No.57 7点 鳴門 冬扇
(2015/09/25 21:42登録)
ネタバレのようなもの有
 アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』は叙述トリックの黎明期の作品ながら、すでにその本質を明らかにしている作品である、と書くと多分20人中1人が「またミステリのMの字も分からないラノベ厨が何か……ってこれクリスティじゃない?」と思われるかもしれませんが、ご安心ください、ラノベつながりです。
 前回『愚者のエンドロール』の感想を書きましたが、作中で叙述トリックはクリスティの『アクロイド殺し』に始まる、と言う意味の事が書かれていたので、本当かな? という軽い気持ちで読み始めました。
 『アクロイド殺し』を読むにあたり、普段の「とりあえず最後まで読み進める」は封印して「叙述トリックを探しながら読む」と言う形に変え、気になる記述に遭遇すると読み返したりしながら問題の記述は見つけたものの、評者はポアロに犯人を指名してもらうまで自分の推理に疑念を持ったままだったのです。
 だってヘイスティングスが犯人だって誰が思います? 評者はポアロの「モナミ(わが友)」と言う言葉をずっと信じていましたよ!
 つまり叙述トリックはそれ自体のみでは駄目で、それを成立させるためにクリスティは叙述トリックを仕掛ける人物は読者に信頼されていなければならない、という原則をも確立していたのです。本作を読んで当時の読者が「アンフェアだ」と怒ったのもわかる気がします。
 しかしこれは諸刃の剣です。本作以降の読者は叙述トリックだと思えば作中一番信頼できる人物の叙述をチェックすればいいのですから。
 もちろん現代の作者側にもそれはきっと織り込み済みで、叙述トリックにはミスリードや信頼できる人物の設定等のトラップを仕掛けて来るでしょう。
 つまり、本作でクリスティは単に叙述トリックを仕掛ける人物は読者に信頼されていなければならない、という原則だけではなく、ミステリのトリックは一つに限らないほうが、複数の仕掛けによって獲物(読者)をより多く狩ることが出来るというアイデアを読者と作者に提示した最初の一人、と言えるのではないでしょうか。

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