Kingscorssさんの登録情報 | |
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平均点:6.42点 | 書評数:96件 |
No.96 | 9点 | 野獣死すべし ニコラス・ブレイク |
(2020/11/15 21:35登録) 同名タイトルの日本の小説があるのでもしかしたらこっちが本家で、日本版がオマージュ作品か何かかな?と思ってたんですが、全く違う作品でした… (;´∀`) 日本のやつは復讐モノだとおもいますが、こちらは復讐モノに見せかけた本格ミステリーでした。最初に一人息子をひき逃げされた推理作家の復讐の告白日記みたいなのが半分占めてて、その後は本格謎解きミステリーという変わった構成。法月綸太郎の『頼子のために』と同じ手法ですね。こっちのほうが発表が早いですが。 内容を詳しくは書きませんが、大変面白かったです。もちろん古い作品なので、この手のトリックや構成は手垢にまみれてる気がしますが、気無しで読んでたため最後まで犯人もわからずに、大変楽しんで読めました。作者は有名な桂冠詩人なので文章もうまかったです。 難点を言えば、逆に作者が詩人であるがために、少し気取った文章(英語原文だと特に謙虚に)と取られる傾向があること、変に教養をひけらかすような部分(探偵が初登場時の意味不明な質問の数々)があること、探偵のナイジェル・ストレンジウェイズのキャラクターが少し弱いこと(シリーズ物みたいなのでたまたまこの作品だけかもしれませんが)と完璧ではありません。 とはいえ、『野獣死すべし』という無骨なタイトルから大味な復讐アクション巨編みたいなイメージが先行して読むのをためらっていた(自分もそうです)方、上質な本格ミステリーなので是非読んでみてください! |
No.95 | 8点 | マルタの鷹 ダシール・ハメット |
(2020/11/14 03:10登録) 少し前にチャンドラーの『大いなる眠り』を読んだので、その流れでハードボイルドの古典ともいうべき今作を初読了。割と最近の翻訳版で読んだので読みやすかったです。 まずはじめにこの作品は探偵小説ですが、推理とか謎解きみたいなミステリーはほぼ皆無です。最後少しどんでん返し的なことありますが、基本ただのハードボイルド活劇とも言うべき小説です。主役である探偵、サム・スペードのキャラクターを満喫するための小説なので”推理”小説を望んでいるならあまりおもしろくないかもしれません… さて、それを前提にして、最初から最後まで謎に満ちた依頼人とそれを取り巻く悪党どもから探してほしいと依頼されているお宝を見つけ出して取引するというエンターテイメント活劇で、まるで一本の映画をそのまま活字にしたような作品です。70年近くたった今でも全く色あせない骨太なつくりで、当時ハードボイルド旋風を巻き起こし、日本でもやたらとこのスタイルが流行ったのも納得です。セリフから所作までとにかくかっこいいですもん。 内容的は類似作品が多発したおかげで今では特段珍しいものではないですが、ハードボイルド御三家、ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドの有名所は読んでおきたいですね!それぞれの作品での探偵のハードボイルド度を比較したいです。(*´ω`*) |
No.94 | 7点 | 郵便配達は二度ベルを鳴らす ジェームス・ケイン |
(2020/11/12 17:02登録) 映画化もされてて超有名このタイトルをな2014年版の新訳で読了。とても読みやすかったです。 ミステリー要素的には倒叙ミステリーであるのも手伝ってかなり薄め。どこにでもいる男と女のありふれた犯罪小説として、本作はリアリティーもあり質は高い。 どこがすごいとか言われると言葉に困るのだが、なんとなくスラスラ読めてなんとなく面白かったみたいな読了感… 最後の終り方も好き。なので刺激を求めるミステリーファンにはあまり面白くないかも… 一番の謎であるタイトルの”郵便配達員”が最後まで全く出てこないのでどうなっているかと思った(もしかして印刷ミスとかで抜けてる?とかも思った)が、あとがきにその辺の事情が書いてあったので興味深かったです。まさかそんな理由でタイトルがこれになったとか… 正直本作の内容よりもこのタイトルがつけられたバックストーリーのほうが衝撃だった。 |
No.93 | 5点 | 鱈目講師の恋と呪殺。桜子准教授の考察 望月諒子 |
(2020/11/11 14:42登録) 前作同様に学園で起きた怪事件を桃沢桜子とそのラボ生たちが解決するシリーズ第二段。今回は怪事件がもう日常の謎のレベルを超えてて完全に事件になってます。 このシリーズは基本的に桜子准教授の視点で話されているので、キャラクターを際だたせるために文体にクセが強く、読んでて不快になってくる人もいるかもしれません。自分は特に気にしてなかったんですが、前回に続いて二冊目なので、流石にお腹いっぱいで途中で読むの辛くなって、早く普通の落ち着いた文章読ませてくれ…ってなりました。 ミステリー的には前回同様大したものではなく、犯人とかは最初からひねりもなくすぐわかるので面白味は薄いかもしれません。ただ、このシリーズは謎とかミステリーとかではなくキャラクターものなので、作中の登場人物が活き活きと動く様を楽しめるかどうかで好き嫌いが分かれる作品だと思います。 それを踏まえた上でですが、今回は主役である桜子准教授が語り手の役目以外ではかなり空気な存在です。考察も最後少しまとめただけで大したことはしてません。と、いうか前回と違い仕事(大学関係、翻訳副業ともに)してる描写がほぼないです。語り手として存在してるだけであり、その語り口に万人受けしないアクというかクセがあり、どちらかといえば全体に展開がのろいので読んでて最後の方は疲れてくるんです… ただ、最後の五〇ページぐらいは展開も早く、疾走感もあって少し持ち直します。ラノベチックですが、まぁキャラクターものとしては悪くはなく、ページ数も250ページぐらいでサクッと読めるし、前作が気に入った方はこちらも楽しく読めるんじゃないでしょうか。難しいミステリー読んで頭が疲れているときに読むのにちょうどよかったです。 |
No.92 | 6点 | 密室蒐集家 大山誠一郎 |
(2020/11/10 22:45登録) 単行本から改定された文庫版で読了。 (´ε`;)ウーン 悪くはないんですが、色々と指摘したいところは山盛りにあります。 まず、密室収集家のキャラクター。喪黒福造みたいな不思議系キャラ設定には好感が持てるんですが、設定以外はキャラクターが全く描かれておらず、ただの血の通ってない謎解きロボットと化しています。この辺は著者の他の作品も全て同じで、キャラクターを魅せようという志がそもそもないのかもしれません… そして肝心のトリックの方なんですが、本格として、ただのパズルとしてみればそれなりに仕上がっていると思うんですが、やはり、すべてのトリックが偶然頼みなのが個人的にいただけなかったです。ちょっと現実味のない、あまりにも超偶然の産物ばかりなのが… もとから密室トリックは現実面で難しく、読者を驚かせるためには偶然を取り入れるしかないかもしれません。でも、ちょっとやりすぎな気がしました。特に最後の雪のやつ… ありえなさすぎ。 今まで大山誠一郎さんの著者を四冊拝読しましたが、個人的には『アルファベット・パズラーズ』がダントツで、『赤い博物館』がそれなり、『密室蒐集家』はイマイチ、『アリバイ崩し承ります』が残念…という感じです。『ワトソン力』も機会があったら読んでみたいです。 |
No.91 | 7点 | 不連続殺人事件 坂口安吾 |
(2020/11/09 21:09登録) 内容的には申し分ないのだが、やはり登場人物が多すぎて頭が回らない。本屋で試し読みして買おうとする人は最初の5ページ読んだだけでかなりの確率で買うのを断念するはず。 ただ単に人数が多いだけならここまで混乱しないのだが、すべてフルネームで登場し、夫婦なのに名字が違ったり、上の名前で呼ばれたり、下の名前で呼ばれたり、あだ名で呼ばれたりする上、登場人物の関係がこれでもかというぐらいぐちゃぐちゃで極端に把握しづらい。例を挙げると、あるキャラクターは、以前は主役Aの父親の妾で今はAの友人B(語り手)の妻でAの父の他の妾との間に生まれた娘と仲がいい設定。これだけでも混乱するが、このようなキャラクターが20人近くも登場し、作中で一箇所に集まり半月を共に過ごし、好き勝手に動き回るので斜め読みなんてしようものならすぐ誰が誰だかわからなくなる。 当然のごとく人物相関図みたいなものはないので、50ページぐらいまで読んでから登場人物表を(人生で初めて)自分で作って最初から読み直しました。 (;´∀`) 前半はとにかく登場人物が多いので読むのが大変ですが、後半は人がガンガン殺されていくので人数も減り、そうなって初めて内容を把握できて面白さを実感。純文学の巨匠が書いたとは思えない本格ミステリーでした。 登場人物の多さ以外で内容に不満だったのは、登場人物たちが周りでガンガン殺されていくのに最後の方まであまりにみんな無警戒すぎ。もう、本当にノーガード。何事もないように生活しているのに違和感。明らかに共同生活してるやつらの誰かが殺人鬼とみんな認識してて、殺人動機もわからない、次のターゲットもわからないというのに、みんな気にしなさすぎ。のんきに逢引したり、街をぶらついたり… 普通ならいくら警察に言われてても怖がってこの家を出てくとか、頭がおかしくなるとかするはずなのに… あと、警察が無能すぎ。すごい数の人が期日までに殺されて、犯人も内部犯行とわかっているのに全く特定できず、登場人物全員が逗留している家を警戒しているのに次の殺人も全く防げない。その上で最後まで結局犯人わからないとか。 最後にまとめの総評的なことを少し書くと、登場人物が把握できるかどうかで面白さが変わってくる作品だと思います。トリックや動機とかは現実味があって(その分人によっては淡白に感じるかもですが)好みでした。どちらかと言うと、完全に熟練された本格マニア向け作品でした。 |
No.90 | 9点 | 谷崎潤一郎 犯罪小説集 谷崎潤一郎 |
(2020/11/07 16:21登録) 文豪、谷崎潤一郎氏のミステリーのなかでも傑作を厳選して集めた短編集(実際は短編三つと中編一つ)。一見どれも地味だが、読み終えて、後からじわじわ良さがわかる。 予備知識無しで読んでほしいので内容は割愛しますが、特に後半2作品は素晴らしく、この時代に今では当たり前の手法を踏襲していたのにはおどろくばかり。超有名なあのトリック(構成?)とかはアガサクリスティーの”あの”作品の発表より五年早いらしい。 (´゚д゚`) 逆に言うと最近のミステリーを熟読してる人にはトリック等はものたりないかもしれませんが、古典という理由だけではなく、単純に素晴らしい作品群なので未読の人はぜひ読んでほしいです。二〇〇ページぐらいですし、この時代の小説家にしてはかなり読みやすいのでサクッと読めます!超オススメ。 |
No.89 | 6点 | 田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察 望月諒子 |
(2020/11/04 19:54登録) 望月諒子さんのラノベチックなライトミステリー。桃沢桜子准教授のラボと関わりある田崎教授の事故死と、昔からある七不思議的怪事件を結ぶ日常系ミステリー。 ラノベチックといってもやや癖が強いながらも筆致はきちんとしており(腐葉土の著者だから当然)、チャラチャラした恋愛要素も皆無で読みやすく、ページ数も少ないのでサクッと読めます。ミステリーの内容的には薄味ですが、桜子准教授のキャラクターが活きており、なんとなく生きてきてなんとなく今の地位についてしまって、なんとなく仕事をこなしていて、なんとなく独り身の感じがよく出ており、最後まで楽しく読ませてもらいました。 ミステリー部分や結末は日本のテレビドラマみたいな感じなので、過度に期待して読むとがっくりくるかもですが、自分の大学時代を懐かしむことができたのを加点して6点で。 |
No.88 | 8点 | 大いなる眠り レイモンド・チャンドラー |
(2020/11/03 11:04登録) ハードボイルドの古典であるレイモンド・チャンドラーのデビュー作で氏の1,2を争う傑作である本作を初めて読了。 フィリップ・マーローの探偵小説は翻訳の違いで印象が変わってくると思われるので、わざわざ双葉十三郎さん訳を選びました。村上春樹さんの文章は超苦手なので。。。 いやはや、紛れもない傑作です。あとがきにも書いてありますが、チャンドラーが本作を書いた時代背景では、”本格もの”はリアリティが感じられずキャラクターがペラペラ、”キャラクターが重厚なもの”はミステリー部分が弱いと感じる、ような旨を語っていたようで、その両方が一定以上のレベルのものをということが本作の根底にあったようです。 自分も本格は嫌いではないのですが、トリックや謎を重視するあまりに現実味が薄いのはどうかという同じようなことを思っていた(もちろん作品による)のでチャンドラーのフィリップマーローシリーズはドンピシャです。しかし、ミステリー部分に関してはチャンドラーがいうほど濃厚ではないので、そこを期待していると主役の探偵が格好つけてるだけで少々薄味に感じるとかと。 (;´∀`) 本シリーズのフィリップ・マーローは無理にかっこつけてるふうでもなく、にじみ出るダンディズムが超かっこいいので当時ハードボイルド旋風を巻き起こし、その後も牽引したのも納得です。本自体も300ページもなく読みやすいのでサクッと終わりますし、まだ未読の人には超オススメです。 翻訳のことを少し書いておくと、少し日本語が古いが双葉さんの訳は結構いいと思います。映画評論家でもあった氏ですから直訳ではなく、キャラに似合った意訳がうまいのだと思います。ただ、何箇所か死語みたいなのがあるのでその辺だけはご寛容を。。。(”合点承知の助”は許せても”モチ”と”うふう”だけは特に残念な訳) |
No.87 | 5点 | 三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 倉阪鬼一郎 |
(2020/10/28 21:49登録) 初めて氏のバカミスを読んだ人以外には今回も面白味にかけると思う。他の方が既に評しているように、氏のどのバカミスもすべて同じ系統で、トリックの種類や言葉遊びの方法が違うだけでほぼ全部同じ思える。バカミス大好きな自分でも擁護不可なほどのマンネリ感… トリックのネタはわりと面白いとは思うのだが、完全に無理があるのと、トリックの種明かしが終わってからの待ってました!とばかりの言葉遊びとエピローグのつまらなさは完全に蛇足だと思う。個人的にメタ発言が嫌いなのもあるが、言葉遊びは労力と面白さが完全に釣り合ってない。ドヤ顔で独りよがりの言葉遊びの解答を粛々と読ませれても少しも感動も驚きもない。 氏の他のバカミス全部に言えることだが、言葉あそびの制約のせいで色々と内容をつまらなくせざる得ないのは本当にすごくもったいない。折角の良いバカミスのアイディアがあるのに台無しにしているので、そろそろバカミスネタ一本で勝負してもらいです。 氏のバカミスの中で一番おもしろいと評判だが、個人的には『新世界崩壊』がアイディアといいバカさといい一番だと思う。 |
No.86 | 4点 | 四神金赤館銀青館不可能殺人 倉阪鬼一郎 |
(2020/10/27 11:27登録) (´ε`;)ウーン… どうなんでしょう、これ? 先に同著者のバカミス、『不可能楽園』『新世界崩壊』『五色沼黄緑館藍紫館多重殺人』を読了している上での感想です。なんというかバカミス何でしょうが、特に面白いところもなく、事件もこのトリックをやりたいために用意しただけの内容が薄いもので、出てくるキャラクターのほぼ全員が完全に名前だけの個性もなく、読み物としてはあまり面白くはないです。 最後に種明かしを聞いても、完全に予想外のものにもかかわらず、特段驚きはせず、ただただそんなだったら無理じゃん…(´Д`)ハァ…と軽く突っ込みたくなるだけで、感動も高揚もなく読み終えました。既に倉坂さんのバカミス三冊も読んでるのもあるとは思いますが。 例の言葉遊びはメタ要素少なめで、量的にも少なくて逆に良かったとは思います。いつも病的にしつこいぐらいに多く、そのせいで肝心の内容のほうがスカスカになるという悪循環でした。ただ、今回、言葉遊びが少ない分事件やトリックが秀逸かといえば、そんなことはなく、相も変わらずスカスカの内容なのがいただけないです。特にひどいと感じたのは金赤館での事件がものの見事に内容がなく、せっかく2つの館の情景、事件が交互に場面が描写されるのに赤金館は空気同様で、こんなに人が死んでるのに誰一人伝わってこず、登場人物がほぼ全員ただの紙上の上の漢字の羅列記号にしか過ぎないという事実のみ実感するという悲しい読後感でした。 バカミスはどちらかと言うと大好きなんですが、倉阪さんのバカミスは仕掛け重視なのかどうも本自体はあまり面白くないやつが多い気がします。こういう仕掛け遊びが好きな方にはピンズドかもしれませんが… |
No.85 | 8点 | アルファベット・パズラーズ 大山誠一郎 |
(2020/10/25 22:02登録) 文庫版(短編『Cの遺言』追加、全体的な改稿あり)で読了。先に同著者の『アリバイ崩し承ります』と『赤い博物館』を読了済み。 いや、デビュー作らしいですが、他の既に読んだ新し目のやつ二冊より面白かったです。もちろん本格ミステリーゆえの細かい整合性のなさとかトリックや動機等に強引なこじつけとかはあるんですが、まぁ許せる範囲だと思いますし、何より全体的にうまくまとまっているのが良かったです。この著者の特徴?でもあるキャラクター性は相変わらず弱目なんですが、『アリバイ』、『赤い博物館』よりは気になりませんでした。 今回は3つの短編、一つの中編で構成されているんですが、どれもおもしろく、特に最後の中編『Yの誘拐』が素晴らしかったです。おおまかなあらすじの構成は多分すでにある有名な古典とかが骨子なんでしょうが、それをふまえても出来がよく、グイグイ最後まで読めました。最後のオチも素晴らしい。 また、文章自体も全体的に改稿したためか、とても読みやすく素晴らしい筆致で大変おすすめの一冊です。特に『Yの誘拐』での絶筆手記の文章がとてもよく被害者の心情が出ていてよかったです。 まだ未読ですが密室蒐集家も楽しみです。 |
No.84 | 7点 | 赤い博物館 大山誠一郎 |
(2020/10/20 14:33登録) 文庫版で読了。先に最新作の『アリバイ崩し承ります』を読んでおり、そちらは正直イマイチだったんですが、これは面白かったです。 トリックや動機、プロットに強引なこじつけ感があるのが多いですが、『アリバイ』よりはこちらのほうがうまく馴染んでいるせいかそれほど気にはなりませんでした(『アリバイ』は結構こじつけ感や無理やり感がひどかった) 全体的に楽しんで読ませていただいたんですが、トリック等以外で少し残念だったのは、ヒロインの緋色冴子のキャラがかなり薄っぺらいことでしょうか… 『アリバイ』の時乃もかなりペラペラでしたが、こちらも負けじと『ただ頭のいい美人』にしただけといった感じです。大山さんの特徴でしょうか… 個人的に好きだったエピソードは『復讐日記』と『炎』。作者が文庫化の際に手間をかけて改稿を重ねた『パンの身代金』は一番イマイチでした… 本格モノなので、強引なこじつけや、現実的ではないが物理的に可能なら心理的に不可能でもトリックに組み入れちゃうのはしょうがないと思いますので、その辺に目をつぶれば楽しい読後感になるのではないでしょうか。 |
No.83 | 6点 | アリバイ崩し承ります 大山誠一郎 |
(2020/10/15 23:25登録) はっきり言ってミステリー部分に関して言えば短編7つ中、第5話のおじいさんのアリバイと最後のダウンロードの話以外はかなりご都合主義&現実的に無理過ぎ感満載なので怒り狂う人が多いのもうなずける。二番煎じのトリックまで。 それだけならまだいいのだが、この作品が本格ミステリー・ベスト10で1位を取ったり、ドラマ化されたりしてるので余計腹が立って低評価してしまう人が多いのではないかと邪推してしまう。 ミステリー部分以外にも目を向けると、とにかくキャラクターが弱い。ヒロインの時乃や主役の刑事のキャラがとにかく薄い。特にヒロインの時乃は問題を入力してリターンキーを押したらすぐ答えの出てくるコンピューターのAIみたいな感じで全く共感や愛着がわかない。メディアやコミカライズ、ドラマ化などを狙ったためか、寒い決め台詞『時を戻すことが出来ました。犯人(または〇〇さん)のアリバイは、崩れました』と、機械的に毎回言うだけのマシンだ。いつ行ってもそこにいて、どんな事件も嫌な顔せず、たった5千円(警視庁の人権費、捜査費を考えると、はっきり行って桁が2つは足りないと思う)で天下の警視庁のエリートたちが解決出来ない難事件を0.1秒で解いてしまう、とても”都合のいい女”なのだ。 多くの人が感じるように、この本は”本格ミステリー入門クイズ集”という位置づけがぴったりである。悪いところばかり目が行くが、良いところも羅列するならラノベっぽいが、時計屋の若い女主人が毎回”アリバイ崩し”を請け負うというキャラ設定等は好感が持てる。ドラマ化や漫画化に向いている。ただ掘り下げ方が甘いせいで活かしきれてないだけなのだ。 そして、小説としてとても読みやすい。かと言ってラノベ等と違い筆致はしっかりしている。この辺を考慮して+1点加点で6点つけました。確かに本格ミステリー・ベスト10で1位になるような作品ではないと思いますが、そもそもああいうランキングは実力とか関係なく、ランキングをつける会社が”売りたい順位”なので(本屋大賞とか芥川賞とか露骨…)、あまりあてにはしないほうが良いかと思います。 |
No.82 | 5点 | 終りなき夜に生れつく アガサ・クリスティー |
(2020/10/12 14:55登録) なかなか事件が起こらず、最後の方まで淡々と少し変わった身分違いの恋愛話を読んでるだけな感覚に陥ります… 途中から多分○○○○なんだろうなぁと予想していたら、そのままその通りのひねりもないベタな展開で幕を閉じます。しかも最後の方の筆致は結構雑な感じ。 サラッと読めて、それなりなんですが、さすがに高評価をつけるには忍びない本だと思いました。(クリスティー自信は気に入ってる話らしいですが) |
No.81 | 6点 | 春にして君を離れ アガサ・クリスティー |
(2020/10/12 14:49登録) 厳密に言えばミステリーではないのだが、ある意味しっかりミステリーしてる。あるいみ心理ホラーか? なんというか、途中からどんどん主人公の現実との乖離性に怖くなっていき、最後にはしっかり肝を冷やすという構成はさすがクリスティ。男性よりは主に女性が読むと思い当たる節がなくても怖くなる話。ミステリーではないので変にそういうのを期待すると面白くはないかも… イヤミスっていえばイヤミスっぽいかも。 細かい内容は実際読んで肝を冷やす読後感を味わってほしいです。 |
No.80 | 5点 | シャーロック・ホームズの事件簿 アーサー・コナン・ドイル |
(2020/10/10 18:03登録) ついにホームズシリーズを完読(全てハヤカワ版)。楽しませてもらいました。 さて、今作ですが、『ソア橋』など有名な傑作もあるんですが、やはり全体的には質が落ちていて、ファン含めて不評なのも頷けます… 中にはおいおい、そんなオチでいいの?と心配してしまうぐらい内容的にダメダメなやつ(這う男)や、これ、どっかで見たなぁ…あ!『冒険』のあの話の二番煎じやん!と突っ込んでしまうやつまで… しかし、この短編集がホームズシリーズ最後なので、ファンなら関係なく必読です! |
No.79 | 6点 | シャーロック・ホームズ最後の挨拶 アーサー・コナン・ドイル |
(2020/10/09 00:47登録) 過去三つの短編、『冒険』、『回想』、『帰還』に続く短編集。ハヤカワ版で読了。 『回想』で入るはずだった”ボール箱”のエピソードがここに入ってます。時代的に他のエピソードとちょっと毛色が違いますが、昔の英語版でもこの『最後の挨拶』に入ってるらしいです。ただ、最近の英語版だと『回想』に入ってるらしい… まぁ細かいところは気にせずに読みました。 内容に関しては、今までで一番ミステリー要素や面白さが薄い… 個人的にですが、兄のマイクロフト(本当このキャラいらない…)の後付設定とかちょっとドン引きしました。やりすぎ。あるエピソードでは”完全にノックスの十戒破ってるやん!”とつっこんでしまった… 絶対このエピソード(ネタバレなので度の話とか何条とかは書きません)のせいでノックスの第〇条出来たんだなぁと想像… ただ、最後のエピローグの話は叙述入っててびっくりしたのと、読後感的にちょっとしんみりしました。(*´∀`*) 完全にファン以外は面白味が薄くて、イマイチ感が半端ないですが、それでもホームズシリーズというだけで読む価値はありますので! |
No.78 | 7点 | 恐怖の谷 アーサー・コナン・ドイル |
(2020/10/09 00:33登録) コナン・ドイルのホームズシリーズの長編はなぜかいつも2部構成。今作も例に漏れず完全に二つの物語が別個で入ってます。内容は第一部がホームズの事件簿、第二部が犯人?の過去物語。あれ?これ『緋色の研究』や『四つの署名』でも見たような構成じゃあ… (´ε`;)ウーン… コナン・ドイルはミステリーのネタ1本で純粋に長編を書ききるのが苦手なのだろうかと思ってしまう。それをおけば、ちょっと長めの短編が2つあると思えば気にならないです。内容の方も傑作とは言わないまでも高水準の出来。ミステリー的にみればトリックや展開がベタで確かに薄味ですが、話としてはどちらも面白いです。ただ、ファンサービスなのか、無理やり有名キャラクターのあの人を絡ませるのはどうかなぁと思いました。別にいらないのに… まぁファンじゃないとそこまで面白くないですが、佳作ぐらいの出来じゃないでしょうか… |
No.77 | 9点 | シャーロック・ホームズの帰還 アーサー・コナン・ドイル |
(2020/10/06 09:25登録) いうまでもなく、『冒険』は最高でした。で、その次の『回想(思い出)』は著者が嫌々書いてた&早くホームズシリーズを終わらせたかった事情からかファン以外にはかなりイマイチな出来になってました。そして、10年空いた後の短編の新作(一応長編のバスカヴィル家の犬が間にある)である今作はどうかというと… 『冒険』に負けないくらい十分に納得できる質&内容で面白かったです! マイナス点は仕方ないとはいえ、大人の事情で無理やりホームズを再登場させた手法がやはり残念な感じでした。『回想』で終わったはずの物語からできるだけ無理なく再登場させるにはあの方法しかなかったかもですが… 全てが傑作というわけではないのですが、全体的には面白い話が多く、『踊る人形』や『6つのナポレオン』等有名なエピソードも満載でファン以外でも必読です! |