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ミステリの祭典

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春にして君を離れ
メアリ・ウェストマコット名義

作家 アガサ・クリスティー
出版日1973年01月
平均点7.00点
書評数10人

No.10 6点 Kingscorss
(2020/10/12 14:49登録)
厳密に言えばミステリーではないのだが、ある意味しっかりミステリーしてる。あるいみ心理ホラーか?

なんというか、途中からどんどん主人公の現実との乖離性に怖くなっていき、最後にはしっかり肝を冷やすという構成はさすがクリスティ。男性よりは主に女性が読むと思い当たる節がなくても怖くなる話。ミステリーではないので変にそういうのを期待すると面白くはないかも… イヤミスっていえばイヤミスっぽいかも。

細かい内容は実際読んで肝を冷やす読後感を味わってほしいです。

No.9 5点 ボナンザ
(2019/08/29 21:20登録)
クリスティならではの毒親、毒妻の描き方だと思う。ミステリでなくしたことでしっかり彼女の内面を描写しつつ、ラストでやっぱりね、となるのが印象的。

No.8 10点 ことは
(2019/08/29 01:25登録)
私はあまりいいクリスティー読者ではないです。(20作以上読んで、クリスティーとはお話の好みが違うところが多いと感じている)
それは学生時代からそうで、その頃にいくつかのクリスティー作品を読んで「いまひとつだな」と思っていました。
そして「クリスティーは(アイルズの「殺意」みたいな)心理サスペンスを書いたら面白そうなのに」とも思っていました。
そのときにこれを読んで、「クリスティー、やっぱりこういうの面白いじゃん!」と夢中になりました。
この作品、ここ数年でじわじわと評価が高まっているように思いますが、10年後には、クリスティーの「そして誰も……」と並ぶ最有名作になっていると思います。
伊達に「クリスティー攻略作戦」で「未読は俺が許さん!」とかかれていないな。
マイ・オールタイム・ベストの1作。

No.7 6点 バード
(2018/12/30 20:55登録)
楽しめた・・・のかなぁ。巻末の解説の言葉で書くなら、哀しい話と感じたねぇ。
暗いというか、哀しみが先行して、満足感みたいなのは皆無で、苦手なタイプの話だった。しかし苦手と思った私から見ても、この手の小説の中では非常にレベルが高いと思う。途中で一度真実に気づかせた上で、あの結末に落とすというのは、リアルというか、容赦がないというか・・・。作者の腕が光ったシナリオだね。
楽しくない小説なので、個人的な点数は2点引いて6点。(小説のレベルは8~9相当と思う。)

No.6 6点 蟷螂の斧
(2018/11/16 22:58登録)
ミステリーではないので評価が難しい。現代では、あえて心理ミステリーとでもこじつけることは可能かもしれません。著者自身はミステリーとしてとらえていなかったようですね。それは、別のペンネームで出版し、推理モノを求める読者を失望させないよう、クリスティと同一人物と分からぬよう箝口令を敷いていたということからも窺えます。また自伝によれば、「この小説に私は『春にして君を離れ』という題をつけた。シェークスピアの十四行詩の冒頭の語「われ、そなたと春に遠からざる」から取った。この小説がどんなふうなものかは、もちろんわたし自身にはわからない。つまらないかもしれない、書き方がまずく、全然なっていないかもしれない。だが、誠実さと純粋さをもって書いた、本当に書きたいと思うことを書いたのだから、作者としては最高の誇りである。」ともあります。名作、しかしミステリーではない。悩んだ挙句、6点としました。

No.5 8点 tider-tiger
(2017/01/05 13:12登録)
バクダッドにいる娘夫婦の元を訪ねた帰りに天候不順のため砂漠の真ん中で足止めを食ったジョーン。自分は幸福な家庭を築き上げたと信じている裕福な女性がなにもない砂漠に取り残され、やることがないので自分を見つめ直してみたところ……これだけの話です。それが読ませる。さすがとしか言いようがありません。
いつだったか、ミステリしか読まない友人が「俺はあんまり好きじゃないけど、おまえは好きそう」と言って貸してくれたのですが、読み終わった後、自分で購入しちゃいました。
一般的なクリスティのイメージからは遠く遠く離れた作品です。そもそもこれはミステリではないでしょう(ゆえに採点は減点あり)。書評されている方が何人かいらっしゃるので便乗しますが、どなたも登録されていなければ書評しなかったであろう……名作です。
クリスティの初書評作品がこれというのはどうなんだろうとは思いましたが。 

読み始めて早々に作者の狙いが見えました。テーマを前面に押し出した作品です。ただ、序盤は哀しいとか怖いというよりも笑いが先に立ってしまいがちでした。登場人物の造型が誇張され過ぎに思えて(夫の物分かりの良さと妻の洞察力の無さ)、いくらなんでもそんなバカなという気がしたのです。テーマをくっきりと映すためだろうとは思いましたが、うーんやり過ぎかなという感じ。
前半は「地味な話ながらもなかなか面白い」という感想。

そして、長女の不倫騒動。震えがくるほど素晴らしい場面だと思いました。
ジョーンの夫ロドニーが長女を説得します。言葉の内容もいいのですが、ここに至るまでにクリスティの入念な下準備があり、とにかく計算が行き届いているのです。伏線、人物造型、小説内での人物配置、テーマ、これらが混然一体となっています。
尋問とか説得のシーンは作者の頭の出来が如実に出ます。クリスティはろくでもないお涙頂戴で泣き落すようなことはしません。説得する側、される側の人物像を考慮しながらの大論陣。さらに、ジョーンに落とされる爆弾。クリスティの頭の良さをまざまざと感じました。
この場面で本作の評価は「なかなか読ませるなあ」から「名作だな」に変わりました。

ジョーンは悪人ではありません。頭が悪いわけでもありません。社会にはなに一つ迷惑をかけず、むしろ有益な人でしょう。
主観(自分)による自分と客観(他人)による自分があまりにも異なっていること、そのことにふと気付いて立ち止まること、怖ろしい。
そして、ロドニー。嫌な人だとはまったく思いませんでしたが、見方によっては無能な人間です。
結末が如実にそのことを示しているように感じました。

そんなわけで名義違い二連発で書評初めをば。今年のテーマは「変身」とでもしておきますか。
本年もよろしくお願いいたします。

No.4 9点 クリスティ再読
(2016/04/11 21:25登録)
評者実はウェストマコット名義の作品って読んでなかった...で本作霜月蒼氏の「完全攻略」で絶賛していることから気になってたので、ウェストマコット1番手として選んだのだが....すまぬ、今までこれを読んでなかった不明を恥じる。そのくらいの名作&重要作である。
今どき「日常の謎」ってジャンルがあるくらいのもので、ミステリの範囲は広がっているわけだから、本作だって「日常の謎」として読んでいけないわけでもなかろう。そうしてみると、本作だったら「私は本作の探偵で、かつ犯人で、しかも被害者で裁判官でもあります。私は誰でしょう?」なんて「シンデレラの罠」みたいな解釈もできるかもしれないね。
しかも、本作は中期の「死との約束」から後期に差し掛かる時期の「無実はさいなむ」で追及された、「抑圧的で干渉的な母性」を、その母性の側から描くという、ここらの作品の核心部分を徹底的やっているクリスティ・ハードコアな作品なんである! でしかも「探偵=犯人」を成立させる最大の要素、自己意識が繰り広げる歪んだ自画像の問題(勿論これが晩年の名作のキーポイントになる)まで追求しているのだ....
繰りかえすが本作はクリスティを理解するうえで超重要な必読書である。こんな作品があるなんて、クリスティは奥深いなぁ。

No.3 6点 makomako
(2015/12/18 21:19登録)
 この作品は推理小説ではない。クリスティーも発表当時メアリ・ウェストマコットの名義で発表し、長くクリスティーの作品であることを秘密にしたとのこと。
 私はそう言ったことを知らず、推理小説であろうと読んでいて、あれ?といった感じでした。
 主人公やご主人のキャラクターは今日の日本の夫婦でも極めてありがちなことなので、しばしばわが身に置き換えて読むこととなりました。
 ご主人のロドニーの気持ちは自分もそういった環境に置かれておるところもあるのでとてもよくわかる。解説の栗本薫さんのご主人はいやなやつと感じたらしいが、私は自分不本意ではあるが、それを選ばざるを得なかった環境の中で、精一杯働いた彼は立派だと思います。成功しても本意ではないが、でも文句は自分の中に納めて力いっぱい働いて世間的には成功したのですから。
 一方主人公のジョーンはちょっと嫌いだなあ。優等生であることが人生の目標でありそれ以外は決して認めようとしない(全然見えないというべきか)。こんな人が自分を見直すことなど本当にあるのかなあ。

No.2 9点 take5
(2011/08/10 23:23登録)
クリスティの作品は皆さんたくさん読まれていて、
そして正当な(と信じますが)評価をされている事と思います。
時代背景を鑑みずとも人間を描く事を続けるというのは大変な作業ですから、作品の質が押並べて高いのはすごい事です。
さて『春にして君を離れ』は、そんな中で心理ミステリーとして読みました。
これまでのクリスティと違う雰囲気というだけできっと自分には合ってしまったのでしょう。
あくまでも個人的な採点として、そしてクリスティの人生をその裏に投影しての採点です。

No.1 5点 あびびび
(2011/06/20 23:17登録)
クリスティなのにミステリではない。今までこの本を手にした方たちはあえてこのコーナーで紹介をしなかったのではないか。

嫁いだ娘の健康状態が悪く、母親がイギリスからバクダッドまで行く。娘の健康が落ち着き、それからイギリスに帰るのだけど、当時は大陸を通って、一週間ほどの旅だった。その矢先、交通の不都合で、砂漠のど真ん中の宿に何日間足止めされる。

持って行った本はすべて読んでしまい、なにもやることがない。それで砂漠の中で今までの人生を振り返る。それはすべてが自分自身のわがまま、自己中心的な人生であることを示していた。夫も3人の子供たちも自分の事を鬱陶しく思っているに違いない。

イギリスに帰ったらまず夫に謝ろう、そして…。蜃気楼にも似たその思いが、心の中で激しく揺れて行く。

それを読者(自分自身)に例えたら、本当に怖い。

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