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ミステリの祭典

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大いなる眠り
フィリップ・マーロウ

作家 レイモンド・チャンドラー
出版日1956年01月
平均点5.82点
書評数17人

No.17 3点 ボナンザ
(2024/03/31 18:50登録)
マーロウのかっこよさにしびれる本であって本格要素やサスペンスを期待してはいけない。村上訳は必要以上に淡々としていて逆に鼻につく。

No.16 2点 レッドキング
(2021/06/03 07:28登録)
世界で二番目に有名な探偵、フィリップ・マーロウ第一弾。老富豪から娘の恐喝者と話をつける仕事を引き受け、乗り込んだエロ本屋のオカマ店主が殺され、富豪のお抱え運転手は死体で見つかり、恐喝屋の蜘蛛男が現前で殺され、店主の美形稚児、賭博元締の白イタチ男、情報屋の小男、さらには峰不二子級のエロい女が三人四人跋扈して、筋だけ追うとまるでハードボイルド・・・ん? が、春樹チャンドラーの、修飾過剰な一人称語りとキザに凝り過ぎたセリフが、疾走感にブレーキかけて、「ブンガク(全然やぶさかではないが)」してしまうのね。
※「Go ○○○○ Yourself!(テメえで××××しな!) 」・・・当時はモザイクだったのね、あの四文字言葉。

No.15 8点 Kingscorss
(2020/11/03 11:04登録)
ハードボイルドの古典であるレイモンド・チャンドラーのデビュー作で氏の1,2を争う傑作である本作を初めて読了。

フィリップ・マーローの探偵小説は翻訳の違いで印象が変わってくると思われるので、わざわざ双葉十三郎さん訳を選びました。村上春樹さんの文章は超苦手なので。。。

いやはや、紛れもない傑作です。あとがきにも書いてありますが、チャンドラーが本作を書いた時代背景では、”本格もの”はリアリティが感じられずキャラクターがペラペラ、”キャラクターが重厚なもの”はミステリー部分が弱いと感じる、ような旨を語っていたようで、その両方が一定以上のレベルのものをということが本作の根底にあったようです。

自分も本格は嫌いではないのですが、トリックや謎を重視するあまりに現実味が薄いのはどうかという同じようなことを思っていた(もちろん作品による)のでチャンドラーのフィリップマーローシリーズはドンピシャです。しかし、ミステリー部分に関してはチャンドラーがいうほど濃厚ではないので、そこを期待していると主役の探偵が格好つけてるだけで少々薄味に感じるとかと。
(;´∀`)

本シリーズのフィリップ・マーローは無理にかっこつけてるふうでもなく、にじみ出るダンディズムが超かっこいいので当時ハードボイルド旋風を巻き起こし、その後も牽引したのも納得です。本自体も300ページもなく読みやすいのでサクッと終わりますし、まだ未読の人には超オススメです。

翻訳のことを少し書いておくと、少し日本語が古いが双葉さんの訳は結構いいと思います。映画評論家でもあった氏ですから直訳ではなく、キャラに似合った意訳がうまいのだと思います。ただ、何箇所か死語みたいなのがあるのでその辺だけはご寛容を。。。(”合点承知の助”は許せても”モチ”と”うふう”だけは特に残念な訳)

No.14 6点 ◇・・
(2020/04/11 14:35登録)
マーロウは私立探偵として報酬のために、堕落した裕福な階層の人々の間で孤独に生きるが、そうしながらも欲に溺れた彼らの赤裸々な人間性を見、その真実に迫っていく。金、セックス、暴力の支配する社会の中で、自己の誠実さを保つタフな彼は、現代に生きるヒーローである。誰からも依頼されていないことへ自ら係わっていくマーロウの行動は意味深い。
1930年代の雰囲気を彷彿とさせながら、そのまま現代に通じる作品であるのは、都市の非情さをマーロウが一身に受け止めていいるせいであろう。そこから作者独特のハードな詩情が漂い出てくる。

No.13 5点 蟷螂の斧
(2019/12/25 20:48登録)
東西ミステリーベスト100(1986年版)第43位。一言でいえば、「筋はごちゃごちゃしているが、主人公のキャラは際立っている」ということでしょうか。本作は「長いお別れ」を抑え、英では2位、米では8位と断トツに人気のある作品ですね。追い込まれても、へらず口を叩くタフな探偵・フィリップ・マーロウの初登場ということが理由でしょうか?。私的には「長いお別れ」の方が数段上位にあると思いますが・・・。さて、次はハードボイルドの原形となったと言われるダシール・ハメット氏の「血の収穫」「マルタの鷹」に取り掛かってみようかな。

No.12 8点 弾十六
(2019/09/23 23:30登録)
1939年出版。創元文庫の双葉御大(1910年生)訳で読みました。ちょっと古めかしい日本語ですが、むしろ時代に合ってると思います。(頻発する「モチ」は抵抗ある人いるかもね。) キビキビした上質の翻訳。なお私は村上春樹が嫌いなので、春樹訳がチャンドラーのスタンダードのような扱いをハヤカワ文庫がしてるのは気にいりません。(柴田元幸さんには申し訳ありませんが…) 片岡義男先生談「彼にはわからんところをテキトーに処理する悪いクセ」があるようです。(実は嫌いすぎて春樹訳を全く読んでないので私に言う資格はありませんが。)
本作の映画(1946, Howard Hawks監督)の方をずっと前に観ていて、(タルコフスキー『ストーカー』の頃だから1980年あたりか)原作は今回が初めて。記憶が薄れてますが、時々フラッシュバックのように映画のシーンを思い出しながら読みました。幸いにも犯人とか結末は全く覚えてなかったです。
冒頭からわかりやすい描写。裏のある会話を上手く演出しています。描写が巧み。人物も情景もスッと頭にイメージが浮かびます。それにしても事件が目まぐるしく発生して目が回ります。面の皮が厚く腕っ節が強くて口が減らず失言もミスもしないヒーローなんて実在が疑われますが、この作品内ではギリギリ成立してるような気がします。(金銭的に圧倒的に不利なディールを選ぶやつは異常者と疑われても仕方ないのが米国なので、そこら辺でファンタジーになっちゃうという不満はあり。でも敢えてそーゆーヒーローを書きたくなる切実さが当時の大恐慌から復興しきれてない米国にあったのではないか、ということも言えるでしょう。)
良く考えると変テコな物語なんですが、傑作です。情感が素晴らしい。チャンドラーのつもりでは次は普通の小説を書くはずだったんじゃないかな?
以下トリビア。現在価値への換算は米国消費者物価指数基準(1939/2019)で18.46倍、1ドル=1959円。
本作はブラックマスク掲載の短篇を長篇に仕立て直したもの。“The Curtain”(1936)と“Killer in the Rain”(1935)を中心に“Finger Man”(1934)などからシーンを拝借。
原文はThe Annotated Big Sleep (2018) ed. by Owen Hill, Pamela Jackson & Anthony Dean Rizzuto (Kindle版)、[ABS]以下はこの本の注釈が由来という意味。ここで取り上げてるのはほんの一部(全部で注釈は672項目)で、地名などの説明が充実しており当時の建物の写真や広告などのイラストも豊富なのでチャンドラーファンなら持ってて損はないと思います。
ただし銃の説明は中途半端で物足りなかったので、私のオリジナル。
登場するのは、まず「黒いリューガー拳銃(black Luger)」正式名Pistole Parabellum P08。続いて「警察用の黒い三八口径(a black Police .38)… コルト」Colt Police Positive(1907)かColt Official Police(1927)。ロサンゼルス市警は1933年にはOfficial Policeを採用してます。さらに「骨柄の自動拳銃(bone-handled automatic)」詳細不明。象牙のグリップということでしょう。根拠はありませんが感じとしては32口径くらいのポケットタイプ。そして「小さな拳銃(リヴォルヴァー)… 真珠柄のバンカー特型で、22口径(Banker’s Special, .22 caliber, hollow point cartridges. It had a pearl grip)」Colt Banker’s Special 銀行員が金の移動に使うような銃身2インチで隠し持てる銃。22LR, 32 S&W Longと38 S&W仕様あり。Special称号つきの銃には珍しいことなのですが38スペシャル仕様はありません。訳から漏れてる「ホローポイント弾」は内部に空洞があり体内で炸裂する悪質な弾丸。威力を増すことと後ろに抜ける2次被害を防ぐのが目的。軍事用は禁止だが警察用や狩猟用としては使用可能。他にも銃が出てきますが具体描写がないのでこのくらいにしておきます。
p6 十月の半ば(mid October): 何年のことだかは手がかり無し。
p7 いま流行の侍童型(the current fashion of pageboy tresses): wikiにはThe pageboy hairstyle was developed and popularized for women in the 1950s.とあるので本格流行の前のファッション先取りか。当時の映画女優の写真を見るとやや長めのbobに移行してる感じ。[ABS] 20年代のフラッパースタイルと比べ、30年代はだんだん長くなった。
p8 ダグハウス・ライリー(Doghouse Reilly): 現代生活に適応できないで愚痴る孤独な老人、という定義がUrban DictionaryのDoghouse Rileyにありましたが… スペルがやや違い、意味もしっくりこないし、年代も合うのかも不明。[ABS]in the doghouseで不名誉な、とか嫌われ者とか。
p8 拳闘家?: [ABS]上の名前がリングネームっぽくて、当時多かったアイルランド系ボクサーを思わせる姓(Reilly)だから、こーゆー連想になったのでは?とのこと。
p9「うふう」: p24にも出てきます。原文はUh-uhとUh-huh。(それ以降にも。喋りたくない時のマーロウの口癖ですね。)
p11 椅子車(wheel chair): 能『車僧』由来の語。昔は「車椅子」よりこちらの表記が多かったのか?
p12 フォージュ谷のように冷たく(cold as Valley Forge): なぜcoldなのかはwiki「バレーフォージ」参照。
p13 「三十三歳。カレッジに通って… 地方検事の捜査課に雇われ… 結婚はしていません。理由は、巡査の女房にロクな奴はいないから」: マーロウの自己紹介。最後の部分はI’m unmarried because I don’t like policemen’s wives。
p16 五千ドル: 980万円。
p20 一日25ドルと雑費(twenty-five a day and expenses): 48975円。マーロウ探偵の料金。クール&ラム探偵事務所(1944)の料金は1日20ドルプラス必要経費、消費者物価指数基準(1944/2019)で30945円。ドレイク探偵事務所(1963)は1日50ドル&必要経費、消費者物価指数基準(1963/2019)で44465円。各私立探偵の料金比較も面白そうなネタですね。(誰か既にやってないかな?)
p23 悩まし型だ(She was trouble): ここらへんの女体に絡みつく視線が男作家のもの。マクロイさんに足りないなぁと思った部分です。
p26 色は浅黒く: 原文you big dark handsome brute!なので髪の色のことでしょうね。御大も浅黒派か…
p29 ハリウッド図書館(Hollywood public library): この名称では見つからず。[ABS] The Hollywood branch of the LA Public Library was established in 1907 at the corner of Hollywood Boulevard (then Prospect Avenue) and Ivar Avenue.
p30 股(もも)は長く(She had long thighs): long legsと同意だと思いますが、太腿のふくらみが魅力的、という含意もあり?ここの女性描写も男目線の典型。
p32 三角法の授業(my trigonometry lesson): 数学の先生という設定なんでしょうね。誰もが何の役に立つ?と思ってるsin, cos, tanの三兄弟が登場する奴です。
p38 チャーリー・チャン式の口ひげ(Charlie Chan moustache): Warner Olandのイメージか。初主演Charlie Chan Carries On(1931)で当りをとりシリーズ16作を数えた。
p41 免許証入れ(the license holder): 多分、自動車登録証のこと。ペリー・メイスン(1947)情報ですが、州法で自動車のハンドルの柄に取り付けるきまりです。[ABS]当時の自動車にはowner’s licenseをハンドルのシャフトかダッシュボードに保管するフレームがあった、となってました。
p46 ググゴテレル(Gugutoterell): 小鷹さんと片岡さんのトークショー(2014年8月)で、これはYou_Go_To_(the)Hellと解読すべし、という話題があったそうです。(サイト「るうマニアSIDE-B」から記事を引用。豪華なトークショー、羨ましいなあ。) [ABS] 元の短篇“Killer in the Rain”では“G-g-go-ta-hell”。
p63 百九十ポンドの体重: マーロウの自称。
p65 探偵雑誌(a horror magazine): 御大がわかりやすさを考慮して訳したんでしょうね。ホラー系のパルプ雑誌で有名どころはWeird Tales, Fantastic Adventures, Horror Stories, Thrilling Mysteryなどなど。当時チャンドラーを掲載してた探偵雑誌はDime Detective Magazine。
p65 一ドル: タクシー運転手に尾行の手間賃。当時流通の1ドル札は1928年からのSmall size(156.1x66.3mm)、銀兌換Silver CertificateとUnited States Noteの二種類。ほぼ同じデザインです。肖像はワシントン、裏はグリーンバック。
p67 自動昇降機(automatic elevator): すぐ後の「エレベーター」はelevatorの訳。律儀に使い分けて訳しています。automaticは「エレベーター係が乗っていない」という意味だと思います。
p68 十五ドル: 29385円。洒落た女性用帽子の値段。
p69プルースト… 変質者の目利きには一流: 上手いことを言いますね。
p77 切り出し方: 確かに質問下手な人っている。
p96 銀行ゲームのトランプの配り手(a faro dealer): 詳細はwiki「ファロ (トランプゲーム)」で。
p154 足をもんだ(tried to catch up on my foot-dangling): 前にも「足をもむ」みたいなのが出てきてるのですがメモ忘れ。正しい意味がよくわからず、何か気になる表現。
p175 『へへえ』はよしてよ、下品じゃないの(“Don’t say ‘yeah.’ It’s common.”): [ABS] As with her reference to Proust in Chapter Eleven, Vivian plays the card of class superiority, reminding Marlowe (albeit playfully) who’s boss.(よくわからんのでそのまま注釈の全文を引用。)
p178 ルーガン… 拳銃を持った男という意味さ(a loogan... A guy with a gun): [ABS] loogan: A thug or goon. Probably from the Irish.
p185 ベッドがおりていた(The bed was down): [ABS] Marlowe’s apartment has a wall bed, or “Murphy bed”ということで、サム・スペードのアパートもWall Bedだそうです。
p185 土曜日の晩のフィリッピン人みたいにすてきだよ(Cute as a Filipino on Saturday night.): [ABS]当時1920〜30に三万人のフィリピン人移民があり、家族持ちはほとんどおらず若い男ばかりで稼いだ金の使い道が無く、着物やダンスや享楽にたっぷり使った。そのため「ダンディ」という一般的な印象があったのだろう、とのこと。
p192 めちゃくちゃにベッドをぶちこわした(tore the bed to pieces savagely): 「引き裂いた」のが正解だと思うのですが… 次のシーンでは寝てるしね。
p192 バーミュダの司教(Bishop of Bermuda): バミューダ(トライアングルで有名)。英国教会の職。当時はArthur Heber Browne(1864-1951)が就任(1925-1946)。「夜の生活を意見」とあるので、何かそういう記事があったのか。検索するとサンガー女史との関連で産児制限に反対した人、というのがありました。バミューダの黒人人口が急激に増えるのでGovernor Hildyardが1936年に非公式にbirth controlを採用しようとしたら人種差別だ、と騒ぎになったらしい。こーゆーのこそABSに載せて欲しいネタですね。
p194 恋の夕(訳注 香水): Soirée d’Amour [ABS]には英訳“Evening of Love”とあるだけで実在とは記載してない。架空のブランド名か。
p253 シャーロック・ホームズ… ファイロ・ヴァンス: この二人の登場にはちょっとびっくり。[ABS]にはPhilo Vance... Chandler called “probably the most asinine character in detective literature.” Hammett didn’t like him either. He said that Van Dine wrote “like a high-school girl who had been studying the foreign words and phrases in the back of her dictionary.” ハメットに座布団一枚。

(追記2019-11-11)
ホークスの映画『三つ数えろ』(1946)を久し振りに観ました。バコール若い。何がなんだかわからないストーリーをそのまま生かした構成も素晴らしい。カッコいいセリフはブラケット女史の手柄とのこと。トリビアp41のハンドルの柄につける車検証が二種類も実見出来たのが嬉しかった。あと若い女性がやたら登場するのも楽しいですね。(タクシー運転手まで娘さんになってたけど、実際に当時のLAではそうだったのかなあ)

No.11 6点 いいちこ
(2019/02/28 18:49登録)
本作は複数の短編を組み合わせて作られたらしく、プロットは錯綜かつ破綻気味で、ミステリとしての完成度は低い。
ただ、これまでに読了した作品の中では、作者特有の抒情性が最も十全に発揮されており、その点を評価したい

No.10 5点 Akeru
(2018/06/21 20:13登録)
村上訳 ネタバレなし。


うーん、これ、クソ訳なのでは?
正直、村上春樹は好きでも嫌いでもないです。 読んだことないので。
ですけど訳者としてどうなんでしょうね。
「ブランデーをどのように飲むかね?」
「いかようにも」
とかあって、ずっこけました。
「どんな飲み方がすきかね?」
「なんでもいい」
くらいにならなかったんですかね。 他にも細かいところが目について目について…。
チャンドラーといえば清水俊二氏ですが、彼も訳者として超一流だとは到底思えません。 そもそも映画畑の人ですし。
けど、それでも清水訳のほうが数段上だろこりゃ。 本作は何故か清水訳が存在しません。 彼が訳してくれてれば。

双葉訳を借りてこよう。 これよりマシだといいんだけど。


追記:内容的にも目立っていいとも思えませんでした。 悪くもないんですが。
いわゆる「歴史的意義を考えれば傑作」という類。
現代視点からすればジョンダニングとか読んだほうが楽しい時間を過ごせるのでは、と思います。

No.9 7点 tider-tiger
(2016/09/10 13:10登録)
初読時は途中で読むのを断念しました。
「モチ」でイヤ~な気持になり、「うふう」でズッコケ、「承知之助」で投げたような気がします。他の作品をすべて読んでから再読したのですが、やはり当時はどうにも乗れませんでした。
高校時代の私は今よりもユーモアに理解なく、他者に厳しかったのかもしれません。若さゆえの潔癖とでも申しましょうか。
それはともかく、他の作品とは読み味がかなり違うなあと思いました。訳者の違いが大きいとは思いますが、行く先々に死体が転がっているプロット、やけに元気なマーロウ(拳銃を手にする機会がやけに多く、使う気マンマンという風に見えたし、実際に使った)という具合に実際に他の作品とは異なる肌触りがあります。これは訳文のせいだけではないと思います。あとがきにはハメットの影響ウンヌンということが書いてありましたが、当時の私は平行して読んでいたミッキー・スピレインに近いような気がしました。
※小学生の頃に読んだ名探偵に挑戦だかなんだかという本に探偵紹介のコーナー(銭形平次が名探偵という扱いでした!)があったのですが、「マイク・ハマーの登場で『こんな殺し屋みたいな奴が探偵なんて、推理小説もおしまいだ』などと嘆く人もあった(うろ覚え)」との記載ありました。子供心にマイク・ハマーってどんな人なんだろうと好奇心を持ちました。高校生になってから実際に読んでみて、この人のどこが殺し屋みたいなのかと首をひねりましたが。

私はやはり清水訳に思い入れがありますね。ただ、今回再読してみてこの訳もけして悪くはないくらいの意識改革はできました。ただ、こういうプロットはあまり好みではないかも。それから思い入れのある登場人物があまりいないなあ。6点と思ったのですが、彼女の正体が……昨今では手垢にまみれた人物設定ではありますが、物語の閉め方としては本作が一番好きです。大いなる眠り、そういうことだったのね。そんなわけで、7点にします。
なんだかんだチャンドラーは好きですし。

ちなみに私は妹の方が好きです。『マール、じゃなかった、カーメンは愚かでいささか病的だが、可愛いところがある。だがしかし……』

運転手を殺した真犯人がどうしてもわからず、自分が物語をきちんと理解できていないのだと思って再読、再再読してみましたが、結局わからず。自分の読解力の無さに絶望したのはいい思い出です。

No.8 4点 クリスティ再読
(2016/05/29 23:06登録)
以前ネットを見ていたら、「ハードボイルドって映画と関係があるんですか?」というような質問を見かけたんで、評者ズッコケたことがある。一応評者とか70年代にミステリにハマった世代なこともあって、まだこの頃には翻訳ミステリ・洋画・モダンジャズが軟派なインテリの三つ揃いだったセンパイ方がたくさんいらしたわけだよ...というわけで、評者に言わせれば「映画はハードボイルドのもう一つの自我」と言いたいくらいのものなんだ。
でまあとくにチャンドラーだ。そもそも代表作の紹介者が「ぼくの採点表」の双葉十三郎だったり字幕の帝王清水俊二だったりするわけで、言ってみりゃ「映画な小説」なんだよね。だけど今回は「長いお別れ」に味を占めて、新しい村上春樹訳で読むことにした....ダメだこりゃ。

双葉訳「おれたちゃこの町から逃(ふ)けたいんだ。アグネスはいい女(こ)だ。おまえさん、彼女(あれ)に一丁文句(いちゃもん)つけるなあ罪だぜ。この頃は女の暮らしもらくじゃねえからな」

村上訳「おれたちは街を出なくちゃならん」彼は言った。「アグネスはまっとうな女だ。何事にも値段ってものがある。今どき、女が一人で生きていくってのは簡単じゃないからな」

この「大いなる眠り」って作品は言ってみれば「威勢のイイ」作品なんだが、村上春樹だと語義の正確さに力が入りすぎて、一番大事な勢いを殺してしまっているようにしか見えないや(チンピラのセリフに見えん...)。まあ比較して読むと双葉訳は取り違えをしているようなところも多いし、訳した結果の日本語のスラングが昭和死語の世界に入っているとはいえ、この小説の即物的な良さを殺さずに、「映画を見るように読む小説」として訳せているのは偉いよ...
そもそも、で考えたときに、映画の即物性やモンタージュによるスピード感を、小説に置き換えたのが「ハードボイルド」というもんなんだろうよ。ここには映画というようやく充実期に入った新メディア(ロシア・モンタージュ派の影響も実は考えてもいいかも...)が与えた衝撃が今なお響いていると思うのだ。

あ、作品内容は今更なんだけど、評者は好きな作品。なので無理してでも村上訳ではなくて、双葉訳で読んでほしいと願うのである...今回の4点は村上訳への点数。双葉訳なら7点。
(けど村上訳だとガイガーの蔵書は組合員御用達みたいに読めるんだが、そういうことなのかなぁ...気になる。)

No.7 5点 斎藤警部
(2015/06/11 17:40登録)
私は姉の方が好きです。
それと、あまりに比喩表現の得意な兄さんが出て来てびっくりしました。彼は体もタフです。 
話の筋がちょっと絡まってるけど、ザワザワした感じで悪くないです。

No.6 7点 E-BANKER
(2014/10/26 20:46登録)
原題“The Big Sleep”。1939年に発表されたR.チャンドラーの長編第一作。
ということは、つまりフィリップ・マーロウが登場する長編としても初の作品ということになる。
最近早川書房で復刊された、村上春樹新訳版にて読了。

~私立探偵フィリップ・マーロウ。三十三歳。独身。命令への不服従にはいささか実績のある男だ。ある日、彼は資産家の将軍に呼び出された。将軍は娘が賭場でつくった借金をネタに強請られているという。解決を約束したマーロウは、犯人らしき男が経営する古書店を調べ始めた。表看板とは別にいかがわしい商売が営まれているようだ。やがて男の住処を突き止めるが、周辺を探るうちに三発の銃声が・・・~

いやぁー、やはりF.マーロウは最初からマーロウだったわけですなぁ・・・
(当たり前の話ですが)
後の作品よりは若干若さが目立つ設定&書き方だし、訳文のせいかもしれないけど、いつもよりも“やさぐれ感”が強いようにも思える。
しかし、やはりマーロウはマーロウだなと思わずにはいられない。

チャンドラーの作品には毎回印象的な女性が登場するが、本作では依頼人の娘であるヴィヴィアン&カーメンの姉妹がそれに当たる。
二人とも美貌の持ち主であり、かつあまりにも奔放な女性として登場する。
当然ながら、マーロウは二人の奔放さに巻き込まれながら、頻発する犯罪と対峙することになる。
三つの殺人事件(ひとつは○○自身が起こしたものですが・・・)があらかた片付いたあと、マーロウと二人の間には更なる運命が待ち受けている。
そのシーンこそが本作一番の山場。
ラストはちょっと唐突に終わったなぁという感じだが、マーロウのカッコいい台詞&アクションは今回も強く印象に残った。
そして、終章で判明するタイトルの意味もなかなか味わい深い。

他の方も指摘されているが、本作はややプロットが錯綜気味で、ミステリー的にいうとロジックは殆ど無視されている。
そこを“粗さ”もしくは弱点と捉えることもできるが、訳者である村上春樹氏はあとがきで「それがチャンドラーの持ち味」ということで擁護されており、個人的にはその考え方に賛成したい。

これでマーロウものの長編作品は全て読了したことになるが、個人的ベストは世評通り「長いお別れ」かなぁー
ただし二番手は難しくて、「高い窓」や「湖中の女」も捨てがたいが、本作も独特の味わいがあって、これを押される方もいるのではないかと思う。
いずれにしても、記念すべき「一作目」として、決して外すことのできない作品なのは間違いない。

No.5 6点 mini
(2012/12/07 09:54登録)
本日7日に早川書房から「大いなる眠り」の新訳版が刊行される、翻訳者はもちろん村上春樹だ
題名がカタカナ書きじゃないのだね、原題直カタカナのものと従来の題名に準拠したものとでは、村上さんにとっては何を基準に仕分けしているんだろうね?、こういう不徹底な面がノーベル文学賞逃した理由とか(あっ、冗談です)

早川でのチャンドラーの旧訳版と言えば清水俊二訳が定番である
この清水訳、マーロウを卑しき街を行く孤高の騎士みたいに描いて、確固たるヒーロー像を創りあげたわけだ
これが正しいのかどうかは従来から議論されるところで、マーロウってのは生意気な口を叩く不良っぽい兄ちゃんという姿が正しい解釈なんだと言う説は根強く有るしね
「大いなる眠り」の旧訳は早川じゃなくて創元文庫の双葉十三郎訳なんだけど、結構双葉訳の方が本来の味わいなのかもね
私は戦後のハードボイルドを文学論的に解釈するのは間違いだとずっと思っていて、そもそも戦後のハードボイルド作品を”ハードボイルド”と呼ぶのは日本だけで、アメリカでは”私立探偵小説”と呼ぶ
戦後のアメリカでのジャンル分類法は、ただ主人公の職業がアマチュアかプロかで単純に仕分けているのが基本で、例えばコージー派なんてのはアマチュア探偵役の進化系みたいなものだしね
文学的分類でないので味気ないかも知れないが、アメリカでは探偵役の職業だけが重要な分類基準となっている面は否定出来ない
そう解釈すると、通俗ハードボイルドやネオ・ハードボイルドも説明出来るんだよな、要するに職業が私立探偵であればいいんだから
つまりアメリカでは文学的視点ではなく、単に”主役の職業が私立探偵である”という意味の作品がハードボイルド作品として綿々と書き続けられてきただけなんである
ただし戦前の場合は話が別ですよ、ハメットとヘミングウェイとは同時代だしね、でもチャンドラーは戦後だからねえ
ところで実はチャンドラーの方がハメットより年上だって知ってました?、ハメットが若書きだったのに対してチャンドラーはデビューが遅かったんだよね

No.4 6点
(2012/08/17 13:47登録)
翻訳のせいかもしれないが、会話文は身近で気取りがないように感じられた。案外、ハードボイルド小説ってこんなものかもしれない。地の文は叙事的な短文を連ねた描写が実にハードボイルド的であり、強烈に印象に残った。書き出しの一節は本当に素晴らしい。
一方、ストーリーは単調に見えるし、ややこしくもあり、決して面白いものとはいえない。しかし、話の根幹が依頼人がわであるスターンウッド家にあり、その人間模様を楽しめたし、マーロウをかっこよく見せただけのストーリーではないことも好印象だった。

本書は良くも悪くもチャンドラーのハードボイルドの原点的作品。「長いお別れ」とくらべれば極上のエンターテイメントとはいいがたいが、リアリズムを追求した秀作文芸ミステリーという評価にはちがいないと思う。

双葉十三郎の訳は評判がイマイチのようだが、作り物といったイメージがあまりなく、結構好み。ただ、村上春樹の新訳予定もあるようなので、そちらにも期待したい。

No.3 6点 kanamori
(2010/08/15 12:35登録)
私立探偵もののハードボイルド小説を確立させたといわれる著者の長編第1作。
冒頭の、マーロウが依頼人である富豪の屋敷を訪れるシーンから印象に残る場面の連続で、巧みな比喩表現とマーロウの洒落た軽口も併せて読ませます。
一方、不満点もいくつかあり、プロットが整理されていない点と、影の主役である失踪した長女の夫の造形が不足すること。後者は将軍の口からもっと明らかにしたほうがよかったと思う。
また、訳文も不満。感覚が古いのはやむを得ないとしても、特にマーロウの会話文で、自身を「僕」といってみたり、”off course” もしくは”yes”の意味で「もち」を連発させているのは相当違和感がありました。

No.2 7点
(2010/03/11 21:09登録)
「ところで殺したのは誰なんだ?」
この質問には、こう聞き返したいですね。「どの殺しのことだい?」
いや、実際のところ、本作ではずいぶん人が殺されますが、その一人はマーロウによって撃ち殺されるのです(警察では不問にしますが、正当防衛とは言えない状況です)。チャンドラー自身にさえ答えられなかった(!)のは、運転手の死の真相だそうです。
いくつもの事件がごちゃごちゃからみあっているわけですが、それらの事件に一貫した連続性がないのは、ハメットの小説構成(たとえば『血の収穫』)を思わせるところがあります。しかしチャンドラーには、ハメットほど様々な要素を自然な形でまとめ上げる全体的なバランス感覚がないことは否定できません。
それにもかかわらず、読後の満足度が高いのは、個々の場面にインパクトを与える叙情性ある文章力ゆえとしか言いようがないでしょう。
翻訳は有名映画評論家の双葉十三郎ですが、会話部分に多少気になるところはありました。ところで、氏は映画『三つ数えろ』をどう評しているんでしょうか。

No.1 8点 Tetchy
(2009/03/16 22:40登録)
冒頭の一節からチャンドラーの本作に賭ける意気込みがびしびしと伝わってくる名文が織り込まれている。

金満家の娘に訪れたスキャンダル処理を頼まれたマーロウが自分の納得行くまで調査を行う物語。つまりこの時点ですでにマーロウは騎士なのだ。

ストーリーは難解(というよりも捻くり回されている?)で映画作品『三つ数えろ』でマーロウ役を演じたボガードが原作を読んだ後、「ところで殺したのは誰なんだ?」とぼやいたのは有名な話だ。

本作はアメリカの富裕層の没落を犯罪を絡めて描き、一見裕福に見える家庭の悲劇を卑しき街を行くマーロウという騎士が自身の潔白さをかろうじて保ちながら浮き彫りにするという物語。このフィリップ・マーロウ第1作にその後ロス・マクドナルドが追究するテーマが既に内包されている。

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