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ミステリの祭典

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シャーロック・ホームズの帰還
シャーロック・ホームズシリーズ

作家 アーサー・コナン・ドイル
出版日1953年04月
平均点6.94点
書評数18人

No.18 5点 蟷螂の斧
(2024/07/01 13:03登録)
①空き家の冒険 4点 ホームズの復活。宿敵の部下との対決・・・シャーロキアンではないので悪しからず
②ノーウッドの建築業者 2点 富豪が焼死。遺産を受け取ることになった弁護士が逮捕される・・・この時代でもこのトリック(指紋ではない方)はダメでしょう
③踊る人形 7点 人文字の暗号に怯える夫人。夫が殺され・・・評価は密室と銃声。暗号は興味なし
④孤独な自転車乗り 4点 自転車に乗る美女。あとをつけ狙う男・・・恋してしまった
⑤プライアリ・スクール 5点 公爵の息子がスクールから誘拐され、教師が殺害された・・・公爵の先妻の面影
⑥ブラック・ピーター 5点 銛で串刺しにされた元船長・・・現場の違和感
⑦恐喝王ミルヴァートン 3点 令嬢が恐喝され・・・復讐者
⑧六つのナポレオン像 4点 胸像が盗まれ破壊された・・・予想通りの展開(苦笑)
⑨三人の学生 4点 奨学金試験がカンニングされた・・・粘土の塊
⑩金縁の鼻眼鏡 5点 現場にあった証拠品・・・評判ほどでもなかった
⑪スリー・クォーターの失踪 5点 大事な試合の前に選手が失踪・・・結婚と相続
⑫アビイ屋敷 6点 夫が殺害された。夫人は縛られ、強盗が入ったと証言・・・罪を問わず
⑬第二のしみ 6点 秘密文書が盗まれた。容疑者が殺された・・・構図は⑦と同じ。ラストのユーモア「外交上の秘密」

No.17 6点 レッドキング
(2021/12/22 09:25登録)
「空き家」 ホームズ復活! お、密室殺人・・ではなかった。What is「バリツ」?
「ノーウッドの建築家」 「モリアーティ亡きあとのロンドンは全くつまらない・・」ホームズ本音をつぶやく。
「踊る人形」 暗号物で、密室殺人で、カー「三つの銃弾」原型で・・ドイルのオリジナルなのかな、この暗号。
「孤独な自転車乗り」 「タイピストに精神的な深みはない」・・ホームズ、職業差別発言!
「プライオリ・スクール」 「ぼくは貧乏人でして」・・出せる奴からは貰うべきだよな、報酬。
「ブラック・ピーター」 手撃ち銛で串刺しにされた元船長。現場状況と遺留品からのWhoロジック。
「C.A.ミルヴァートン」 The Bad(モリアーティ)でなくThe Ugly(卑劣漢)相手のホームズワトスン冒険活劇。
「六体のナポレオン像」 「五粒のオレンジ種」連想させて中身は「青い・」、島荘「切り裂きジャック」原型でもあり
「三人の学生」 この時代はまだこんな犯人像で読者を・・やめとこ、背丈のロジックを買おう。
「金縁の鼻眼鏡」 メガネのロジックは見事。もうひとねじりあれば「顔のねじれた女」とかで傑作だったかも。
「失踪したラグビー選手」 普通は探偵の仕事って、こういった行方不明探しだよなあ、今も昔も。
「アビー農園」 普通の強盗殺人と聞いたとたんに興味を失うとは・・いかにもホームズらしく。
「第二の血痕」 国際的危機に至る紛失した手紙を取り戻す痛快な締め。養蜂家ホームズの作る蜂蜜、旨そうだな。

No.16 6点 虫暮部
(2021/12/14 10:38登録)
 「踊る人形」の “単語ごとの区切り” の印が不思議だ。まず第一に、英文はつなげて書いても概ねきちんと読めるので、暗号を使う側にとっての必然性があまり無い。第二に、あんなに文字数の少ない暗号文で(人形は18種類しか登場しない。印付きは5種類)、印が別の文字ではなく区切りを表すと推理するのは論理的ではない。第三者による解読を読者が納得し易いように作者が用意したヒント、てな感じだ。
 「恐喝王ミルヴァートン」の展開には意表を突かれた。この話、好きだな。

 角川文庫の新訳版。訳者は駒月雅子。時々、“現代風の言い回しに寄り過ぎ” と感じることが無きにしも非ず。

No.15 9点 Kingscorss
(2020/10/06 09:25登録)
いうまでもなく、『冒険』は最高でした。で、その次の『回想(思い出)』は著者が嫌々書いてた&早くホームズシリーズを終わらせたかった事情からかファン以外にはかなりイマイチな出来になってました。そして、10年空いた後の短編の新作(一応長編のバスカヴィル家の犬が間にある)である今作はどうかというと…

『冒険』に負けないくらい十分に納得できる質&内容で面白かったです!

マイナス点は仕方ないとはいえ、大人の事情で無理やりホームズを再登場させた手法がやはり残念な感じでした。『回想』で終わったはずの物語からできるだけ無理なく再登場させるにはあの方法しかなかったかもですが…

全てが傑作というわけではないのですが、全体的には面白い話が多く、『踊る人形』や『6つのナポレオン』等有名なエピソードも満載でファン以外でも必読です!

No.14 7点 クリスティ再読
(2020/09/23 13:26登録)
評者は半七と並行して読んでいるせいか、「半七ってホームズ、だなあ」なんて思わせるものがある。たとえばこの短編集だと「金縁の鼻眼鏡」が半七の「お化け師匠」に「化ける」わけで、古典ってそういう普遍性なんだな、なんて思う。「鼻眼鏡」今でも皆さん評判がいいようだから、綺堂の眼のつけどころが、優れているわけでもある。

だからね、ホームズの遺伝子というのは、いわゆるパズラーの名探偵以上に、半七もそうだけど、たとえばコンチネンタル・オプなんかにも強く流れているようにも感じるわけだ。たとえば、「恐喝王ミルヴァートン」とか推理とか特にないけども、名悪役を巡るアクション中心に皮肉な結末に終わる話で、書き方を変えたらハードボイルド?という気がしなくもないんだよ。あとたとえば「ブラック・ピーター」で犯人を呼び寄せる「逆トリック」とか、どっちかいえばパズラーでは廃れて警察小説で復活した手法になるわけだ。ホームズの遺伝子の広がり、みたいな視点でミステリを大きく捉えるのが、評者は好きだ。

あというと「踊る人形」。ポオの「黄金虫」が文字出現頻度+連結出現傾向から換字表を割り出す解読法だから、これは本当にコンピュータを使って解読するのと同じやり方なんだよね。でも「踊る人形」は暗号文が短すぎてとてもじゃないけどシステマティックな数理的解読法が適用できないから、宛先の名前からうまく解読してみせる、というヒューリスティックな解読法を示している。ドイルは模倣じゃなくて、ちゃんと新機軸を示していると思うんだ。ポオがこのシステマティックなやり方を示したのはもちろん凄いけど、小説での応用は「踊る人形」の方がいろいろできて面白いんじゃないかな、なんて思う。

やはりね、100年以上前の短編1つでも、その後のいろいろな小説の萌芽を豊富に含んでいる...と見ると、さらに趣が深いように感じられる。

No.13 6点 バード
(2020/01/12 18:38登録)
がちがちのロジックを期待して読んだ結果、『冒険』では肩透かしをくらったので、本作は初めからホームズのキャラクター小説として読んだ。そのおかげか『冒険』よりも楽しめた。『帰還』>『冒険』という趣味嗜好は本サイトの平均点(2020/1/12時点)とは逆ですが、個人の嗜好なのであしからず。

延原謙さんの解説には『六つのナポレオン』と『金縁の鼻眼鏡』の二編が人気とあるが、これには私も同感である。(自分にはホームズ物を読むセンスがないと思われるので、この一致には一安心。)また、上記の二作品以外だと『踊る人形』と『第二の汚点』が面白かった。

各短編の平均は5.5点だが、出来のよい二作品が後半にあり、飽きを感じにくい良い構成と思ったので短編集としては6点。


各話の書評

・空家の冒険(5点)
事件そのものよりも、ホームズの復活が重要な話。復活の仕方は今の作家がやったらぶっ叩かれそうな後出し方式で、作者の苦闘を感じさせる。こんな無理やりな復活劇を書かされた作者にゃ同情の念も沸くので1点おまけ。

・踊る人形(6点)
ホームズと暗号ものは相性いいのかもと思った。
暗号を解くにあたっては膨大なデータベースとひらめきが重要と思うが、ホームズはこの二つを備えているので瞬時に暗号を解いても違和感がないからである。そういったシナジーもあり、この話は面白かった。
(延原謙さんの解説によると人形の暗号にはドイルの転記ミスがあるようだが、自分は暗号ものを真面目に考えずに読むので、言われるまで気が付かなかった。)

・美しき自転車乗り(5点)
・プライオリ学校(5点)
・黒ピーター(5点)
これら3つはコメント無し。良いとも悪いとも思わなかった。

・犯人は二人(4点)
なんの工夫も無く単に忍び込んだだけ。つまらなかった。

・六つのナポレオン(7点)
犯人が何かを探しているという話の腰が『冒険』の『青いガーネット』に似ている。明るい所で像の破壊を行った理由は納得できたし、犯人が探し物をしていることの伏線としてもシンプルで上手いと思う。

・金縁の鼻眼鏡(8点)
実行犯が教授の部屋から現れるというサプライズを決めつつ、唐突感がですぎないよう伏線が張ってある。眼鏡を失ったら細い草の上を歩けないという推理には非常に説得力があるし、ホームズの捜査も意図が明快で読んでてストレスが無かった。非常に出来が良いと思った。

・アベ農園(4点)
犯人が真相を語った後で、ホームズが犯人特定にいたった材料(船員特有の紐の結び方など)を開示するので後出し感が強い。伏線を事前に張っていた『金縁の鼻眼鏡』に比べると書き方が下手かと。話の内容は嫌いじゃないですが。

・第二の汚点(6点)
法律を超えた自分の正義を持っているホームズのキャラが好き。
事件の解決を含めストーリーが面白かったので6点。

No.12 8点 ALFA
(2017/04/09 13:36登録)
聖典第三弾。粒ぞろいの第一弾に比べると玉石混交だが、秀作だけを見ると負けていない。
フェイバリットは「六つのナポレオン」。一見小さな謎が大きな犯罪につながっていくところは「赤毛連盟」にも似ている。
グラナダTVのシリーズではシチリアマフィアの家族模様をうまくフューチャーして見ごたえあるドラマになっていた。珍しくレストレイドの出番も多い。事件が解決し、レストレイドから正面切ってほめたたえられたホームズのひきつった照れ笑いがおかしい。ここはジェレミー・ブレットの名演。
さらにおすすめは「恐喝王ミルヴァートン(犯人は二人)」
平凡な冒険譚に過ぎない原作を、重厚な長編に改変して見ごたえ十分。名優ロバート・ハーディ演じるミルヴァートンの存在感が圧倒的。柔和な表情に決して笑わない目で、モリアティ教授をしのぐ悪党ぶり。その分最後のカタルシスは大きい。
ドラマ二編は評点10。

No.11 10点 青い車
(2016/08/24 00:04登録)
 少し前にようやく出たカドカワ版の新訳で読了。ずっと小さかった頃に少年向けで読んでいたものもありましたが、大きくなった今読むとまた違った発見があり、実に楽しい読書でした。
 昔はシャーロック・ホームズというと勝手に完全無欠で冷徹、推理機械の代名詞のように思っていましたが、新訳の短篇集を三冊読んでみると案外人情味のある人物だと気付きました。特に『プライアリ・スクール』や『三人の学生』の最後のセリフはぐっとくるものがあります。その他心に残ったのはポウの某作から影響を受けたと思われる『踊る人形』珍しいホームズの失敗を描いた『恐喝王ミルヴァートン(犯人は二人)』などです。
 また、『ノーウッドの建築業者』『金縁の鼻眼鏡』など、推理小説初心者でもとっつきやすく、かつ論理的な推理もある短篇も入っています。古き良きイギリスのノスタルジーに浸りながら読んでも楽しめるので、必読の書という評価は伊達ではありません。

No.10 8点 nukkam
(2016/08/23 18:08登録)
(ネタバレなしです) 13の短編を収容したシャーロック・ホームズシリーズの第三短編集(1905年出版)です。第二短編集「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)中の「最後の事件」で一度はホームズシリーズの筆を折ったドイルですがこれに対する世間の反響がすさまじく、長編「バスカヴィル家の犬」(1902年)と本書に収容されている「空家事件」(1903年)でホームズシリーズを再開しました。「最後の事件」で退場させたホームズを復活させる「空家事件」のストーリーはかなり苦しい出来栄えだと思いますが、またホームズの新作が読めるという喜びの前には些細な問題でしょう。本格派推理小説要素の濃い「ノーウッドの建築業者」や「金ぶち鼻めがね」、暗号小説の傑作「踊る人形」、ユニークな犯罪の「六つのナポレオン胸像」など読み応えある作品が多数揃っています。

No.9 6点 斎藤警部
(2015/06/04 18:56登録)
「回想」より派手めの印象なのは「踊る人形」等の超有名作比率が増えているせいだと思いますが、出来不出来のムラも見えます。 「冒険」「回想」と並べて格段に点は辛くなりますが、、やはり必読でしょう。

No.8 7点
(2014/10/20 09:49登録)
ミステリー的な意味合いでいえば不足点も多いが、どれだけ印象に残るかという観点でみれば、秀作ぞろい。「冒険」に匹敵するかもしれない。

「空き家の冒険」。ワトスンとの再会シーンは堪らない。歴史に残る作品。ついに復活ののろしがあがった。
「踊る人形」。工夫があっていいのだが、こういうのは他の作家に任せておけばよいのに。
「美しき自転車乗り」。ドラマ版の記憶が頭に焼き付いているということもあるが、映像的な一面があってはずせない逸品。ただ、本格ファンには受けはイマイチかも。
「プライオリ学校」。しっかりと記憶に刻まれた作品。図面が載せてあったせいだろうか。ホームズもワトスンもよく頑張った、という印象。
「黒ピーター」。じつは思い出せない。典型作品との声もあるが、もしかして飛ばしてしまったのか(笑)。
「犯人は二人」。ちょっと意外な展開にびっくり。物語性は抜群。タイトルも良し。
「六つのナポレオン」。タイトルのみの記憶はあったが、数ページ読めば簡単にオチを思い出す。そこが残念。でも出来は良い。
「金縁の鼻眼鏡」。イチオシ作品。鼻眼鏡を見つけてすぐに自身の推理をスラスラと開示する。そこがホームズらしい。
「アベ農園」。依頼をいったん断った後、引き返すところがおもしろい。なんとなく雰囲気が好き。
「第二の汚点」。現代のミステリーにも通じる。タイトルもすこし今風。ホームズ物にはたまにたいそうな背景話(たとえばボヘミアの醜聞)がある。社会派絡み本格物とでもいうべきか。

新潮版なので以上の計10編。
やっぱりホームズ物は長編より短編だな、とつくづく感じた作品集だった。

No.7 8点 itokin
(2013/12/15 20:28登録)
短編集だがどれも、ホームズとワトソンの生活感が出ていていいですね。100年以上前に連載された当時本当にホームズが探偵としてロンドンに住んでいると思った読者が少なからずいたというがさもあらんと思いました。大きな無理のあるトリックもなく、時には犯人側に立って解決し犯罪に目をつむる、また時には多大な報奨金も平気でせしめる等人間味あふれているのがいいですね。

No.6 7点 mini
(2012/03/05 09:59登録)
おっさんさんの書評拝見して、特に収録作中どの作を評価するかの点について意見の近さを感じたので私も書評したくなってしまいました、『帰還』はずっと後回しにしていたんだけど(苦笑)

おっさんさんお薦めの2作、「六つのナポレオン」「金縁の鼻眼鏡」は私も同感で客観的に見た場合の集中ベストだと思いますね
前者は謎解きもさることながら、評価したいのはプロット構成力がシリーズ初期に比べて進歩している点
この真相だとナポレオン胸像6体の内、どうしても重要な1体だけが主眼となり他の5体が軽く扱われがちなんだけど、この作では狙いが空振りする他の5体にもそれぞれに万遍なく役割が与えられているのが上手い、他の5体が無意味じゃないんだよね
後者「金縁の鼻眼鏡」は昔からシリーズ随一の読者挑戦ものとの評価が有る作で、たしかに読者に手掛りが与えられている
読者が推理出来るかどうかにやたらこだわるタイプの読者もこの作なら文句を付けられないのでは
客観的な集中ベストは上記の2作だが、個人的な好みでの№1は「プライオリ・スクール」、この短篇集収録作だけでなく読んだ第1~第3短篇集までのシリーズ短篇中でもベスト5に入るくらい好き
この作も昔から論理の誤謬があるとして有名な作で、自転車の轍の重なり具合に関する推論は明らかに作者の勘違いだろう
しかしそんな瑕疵には目を瞑ろう、私は地道に足取りを巡る捜査小説というパターンが好きなのだ
シリーズ中でも地味っちゃ地味だが、地味好きな私としてはこの痕跡を追う地道な調査が嗜好に合う
自転車と言えば「美しき自転車乗り」もヒロインの造形のモダンさが良い、ドイルは女性を描くのが紋切り型であまり上手くない印象があるが、この作では珍しく活き活きしている

逆に有名な作で過大評価だと思うのが「ノーウッドの建築業者」と「踊る人形」
「ノーウッド」が名作と言われてきた原因はまたもや乱歩、シリーズ中最もトリッキーな作として乱歩が高く評価したというわけだ
結果的に不思議な謎になるというパターンでなくして、犯人側の方からはっきりトリックらしいトリックを仕掛けるパターンはシリーズ中には案外と他に無いので、トリック好きな乱歩の目に留まったのだろう
しかしアメリカっぽい陽気な雰囲気が何となくミスマッチ
「踊る人形」も暗号と人間ドラマとの融合がミスマッチで、これならポーの「黄金虫」の方が雰囲気と合っている

いずれにしてもホームズが復活してからの作はレベルが落ちるみたいに言われがちだけど、小説創りの面などはシリーズ初期よりもむしろ上手くなってると思う
年代的に見ると、第2短篇集『回想』から10年間ものブランクが有るのだが、決してそのブランクが無駄ではなかったという事だろうか、個人的には『冒険』に比べてもそれほど劣っているようには感じられなかった

No.5 9点 おっさん
(2012/03/04 11:50登録)
ホームズもの第3短編集 The Return of Sherlock Holmes (1905)の翻訳です。
筆者が読み返しに使っている、光文社文庫の<全集>版では、訳題が『シャーロック・ホームズの生還』なのですが、レヴューにあたっては、本サイトの登録題名にならいました。

英国の月刊誌『ストランド』(と米国の週刊誌『コリアーズ』Collier's Weekly 他)に、1903年から04年にかけて読み切り連載された(約一年かけて、ホームズ短編を集中的に発表する、という試みとしては、これがドイルの最後の成果となった)13篇をまとめた、待望の、名探偵復活篇です。
巻頭の「空き家の冒険」で明かされる、ホームズ“生還”の種明かしは、さっと読んであまり考えないことw

「初期の短編にあったホームズの分析的推理の面白さが影をひそめ、劇的な要素が中心になってきたことにより、読者が違和感をおぼえ始めた」(日暮雅通氏の「訳者あとがき」より)という指摘もありますが・・・
う~ん、でも面白いですよ、この本。
ノスタルジックなムードを醸成し(舞台を“現代”ではなく、19世紀末からの近過去に設定し)、そこから繰り出すドイルのストーリーテリングは、円熟の域に達しています。
たとえば、前段のゆったりした探索行から、後段、俄然緊迫の展開へ移行する、「美しき自転車乗り」や「プライアリ・スクール」のチェンジ・オブ・ペース。

たしかに、「踊る人形」の暗号解読パートなどを見ると、“分析的推理”の弱さ(ポオの「黄金虫」との対比。二番煎じが駄目なのではなく、「ご存じのとおり、英語のアルファベットのなかでいちばんよく使われるのがEで(・・・)」に始まる、検証なしの押しつけが安易)を痛感させられたりはしますが・・・
もともと初期のホームズ譚ですら、その傑作性は、謎・サスペンス・意外性の、トータルな演出力の勝利であって、推理自体が鮮やかな印象を残すのは、「名馬シルヴァー・ブレイズ」(『回想』所収)や「技師の親指」(『冒険』所収)といった少数の作にとどまりますからね。

それに本集でも、「六つのナポレオン像」と「金縁の鼻眼鏡」の二篇に関しては、謎解きに着目しても一級品だと思います。
前者において、次々に同一モチーフの石膏像をたたき壊す犯人の目的は? というホワイダニットを創造するにあたって、リスクを犯して×××場所まで運び出すという行為をまぎれこませることで、ストレートなサイコ犯の可能性を排除する論理構成は見事。
フェアプレイに裏打ちされた謎解きの収束と言う点では、後者はさらに整然としており、トリッキーさで人気がある(ものの、逆にトリック部分の弱さで大幅減点される)「ノーウッドの建築業者」などに比べて知名度はイマイチでも、これは筆者の考える本巻のベストです。

“理”と“情”を兼ね備えた、「三人の学生」や「アビィ屋敷」の決着も美しく、ミステリとしては凡作でも、ドイルが義弟ホーナングのラッフルズものを意識したような異色作「恐喝王ミルヴァートン」(ホームズとワトスン、強盗を試みるの巻)のエンディングの鮮やかさは、心に残ります。

じつは、あらかじめ今回は、バランスを考えて少しキツめに採点しようか、などと考えていたのですが、いざ読み返してみたら、やっぱりモノが違うw
ブランクを感じさせない、コナン・ドイル、貫禄の横綱相撲でありました。

No.4 6点 E-BANKER
(2011/08/05 23:30登録)
「冒険」「思い出(回想)」に続くシャーロック・ホームズシリーズの作品集第3弾。
ライヘンバッハの谷底で死んだはずのホームズ氏が奇跡の生還を果たし、いつもの名調子で謎を解く。
①「空き家の冒険」=復活を果たしたホームズが、ライヘンバッハからの経緯を語る場面が興味深い。
②「踊る人形」=ポーの名作「黄金虫」の焼き直し作品。でも、こんな象形文字、書くのが大変でしょうに・・・
③「美しき自転車乗り」=やはり犯罪はお金と美人の周りで起こるわけで・・・
④「プライオリ学校」=新潮文庫版の巻末解説によると、状況証拠として取り上げられた自転車のタイヤ痕については作者の勘違いとのこと。
⑤「黒ピーター」=小粒だが、ホームズ短編の典型的作品だと思う。
⑥「犯人は二人」=人の弱みに付け込んで大金を強請り取る大悪人に対し、ホームズとワトスンの取った行動は?
⑦「六つのナポレオン」=有名作品の1つ。昔ジュブナイルで読んだときは、なかなか「鮮やか」と思いましたが、さすがに今読むと色褪せる・・・
⑧「金縁の鼻眼鏡」=これも有名作品。思わせぶりに殺人の舞台となった屋敷の見取り図なんかが挿入されてますが・・・ラストは??
⑨「アベ農園」=結婚したお相手がどうしようもない人物だった・・・というのはホームズものでよくある設定。
⑩「第二の汚点」=本来⑨で終わるはずが、読者のリクエストに押されて追加したのが本作。なんだか「盗まれた手紙」の逆バージョンのようなプロット。
以上10編。
本来は13編から成る作品集ですが、新潮文庫版では3編は未収録。
作品のレベル的には玉石混交という感じでしょうか。
名作「冒険」収録作にも劣らないような作品もある一方、惰性で書かれたような作品もある、っていうところ。
ポーの作品にヒントを得た二番煎じ的作品もありますが、まぁ一読には十分耐え得る作品集という評価はできそう。
(やっぱり⑦がいいかな。②の象形文字はかなり面白い!)

No.3 6点 okutetsu
(2009/08/21 07:18登録)
ホームズが生きてたってだけでなかなか感動したもんです
やっぱこの2人の掛け合いはいいなと実感

No.2 7点
(2009/06/21 12:44登録)
愛読者からの熱烈なアンコールに応えて、1903年ついに生還したホームズ。姿を隠していた言い訳はやはり苦しいですが…
代表作『ノーウッドの建築業者』において、ドイルが小説中に取り入れた「指紋」は犯人による偽装です。イギリスで指紋が犯罪捜査の個人特定に利用されるようになったのは1901年からだそうで(見えない指紋の検出技術はさらにかなり後でしょう)、その新しい技術もそのままでなくひねって使うのがミステリらしいところです。
充電期間をたっぷりとったためか、これも有名な『六つのナポレオン胸像』や『踊る人形』(一見子どもの落書きに見えるところが工夫)など他にも秀作が多い本短編集ですが、変わったところでは『恐喝王ミルヴァートン』も楽しい作品ですし、難解好みの読者からは不評ならしい『三人の学生』も、推理(特になぜ忍び込む気になったかの部分)が個人的には気に入っています。

No.1 4点 Tetchy
(2008/06/21 20:04登録)
小学校の頃、学校の図書館で読んだ「踊る人形」が入っていたのが懐かしく感じた。
しかし今読むと、ポーの『黄金虫』のほとんど二番煎じじゃないか?と思ってしまった。

「犯人は二人」のように義侠心からホームズとワトスンが窃盗を働くユニークな一編があるものの、やはり全体としては小粒。

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