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ミステリの祭典

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地を這う虫

作家 高村薫
出版日1993年11月
平均点6.71点
書評数7人

No.7 7点 斎藤警部
(2021/10/27 19:00登録)
元ノンキャリ刑事達(年代はまちまち)、第二の労働人生に起きたサスペンスフルな事象を追う、四つの物語。
彼等の仕事は、警備員、サラ金取り立て、政治家運転手、守衛(昼夜掛け持ち)。

愁訴の花/巡り逢う人々/父が来た道/地を這う虫  (文春文庫)

文庫裏表紙に謳われる『深い余韻をご堪能ください』に偽り無し。 主人公の過去から繋がる、現在の不可解な或いは違和感光るインシデントを看過出来ず、今なお消えない刑事魂に突き動かされ巻き込まれ正面から取り組む男達。 背後から吹き付ける冷たいサスペンスと、人間ドラマを邪魔しない匙加減の絶妙なツイスト。 読後に持続するじんわり感は強力。
短篇集で表題作だけ異色の作、ってのはままある事ですが、本作の場合もそれですね。 最後の「地を這う虫」は際立ってミステリ色強く、ある種幾何学パズルの趣も窺える。ユーモア有り(ろんさん同様”台帳”には笑いました)、まさかのアクション有りで、人間ドラマも割と明るい側面を押し出す。 だが決して先行三作に較べ軽くも浅くもなく、むしろ個人的にはこの表題作がいちばん心に残りましたね。 (ミステリ色の強い作品、実はもう一つあります。 まあ四作どれも充分ミステリですが。)

No.6 7点 ボンボン
(2015/10/10 00:00登録)
元警察官(刑事)の第2の人生を集めた短編集。
高村薫らしく、自尊心が傷ついた辛く苦しい気分をベースに、それでも気持ち上向きに終わる話が4つ。すごい謎がある訳ではないが、展開はとても楽しめる。
表題の「地を這う虫」では、あの合田雄一郎的危なさが堪能できる。
高村さんの小説の登場人物は、暗く、精神的に参っているように見えて、実は人生を懸命に生きる人たちなので、読後はいつも励まされたような気になる。

No.5 7点 E-BANKER
(2011/12/25 21:06登録)
「守衛」や「代議士のお抱え運転手」、「サラ金の取立屋」など、日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの周りに起こる事件。
作者らしいやや硬質な文章が光るノンシリーズの作品集。

①「愁訴の花」=主人公はある警備員。以前の「職場」で殺人を犯した同僚の男が出所してきたとき、過去の事件が再び脳裏に蘇ってきて・・・。「上からの圧力」って奴には弱いよねぇ、宮仕えなら・・・
②「巡り遭う人々」=主人公は中小サラ金会社の取立屋。東京郊外の工場経営者の元へ取立に出向くが、そこで起こるちょっとした事件と、中央線の電車の中で偶然出会った旧友の謎。終盤、それが結びついたとき・・・
③「父が来た道」=主人公は大物政治家のお抱え運転手。毎日毎日、政治家や秘書たちにアゴで使われる日々だが、男にはある秘密があった・・・。永田町の腐りきった権力闘争や実父の辿ってきた道に嫌悪感しか抱いてなかった主人公が、やがて気付く本当の「大人の想い」とは・・・。なかなか「深い」ね。
④「地を這う虫」=主人公は2つの現場を掛け持ちする守衛。この男、とにかく几帳面で目にしたことや、考えたことをすべて手帳にメモしなければ気が済まない。そして、身の回りで頻発する空き巣事件の謎に気付いたとき、男は行動を開始する。確かに、こういう几帳面さは必要だとは思うが、決して真似できない!

以上4編。
①~④とも実は主人公が「元警察官」という共通項を持つ話。それぞれ、やむにやまれぬ事情で警察官を辞し、生活のため今の職業に就いている男たち。(①は退官だが)
ということで、どこか世間に対し、正直になれないところを持ちながら、やはり一人の「人間」「男」として「矜持」を持ち続けている・・・
最近弱いんですよ、「矜持」という言葉に・・・。
辞書によれば「矜持」=自負心とかプライドという意味なのですが、どこか「孤高の男」というイメージのある言葉のように感じてしまって、どこか自分自身を重ね合わせたがってるのかな?
本作の主人公たちも、心に傷を抱えながらも、腐ることなく己の本分を貫いているわけです。
そんな男たちの姿を、深い余韻とともに浮かび上がらせている作者の筆力はやはりスゴイ。
コンパクトな作品集ですが、一読の価値はあります。
(③がベストかな。他もまずまず。)

No.4 6点
(2011/02/07 13:03登録)
「愁訴の花」「巡り逢う人びと」「父が来た道」「地を這う虫」の4短編が収録してある。主人公がみな理由あって日陰の職に就いている元警察官の悲哀ただよう物語。
第1編を中盤まで読むと、構図の大逆転があるのかなと期待させるような展開だったが、この作家にかぎってそんなことはないだろうと思い直したら、やはり、ラストには大きなサプライズはなかった。他編もみな同じ程度でトリッキーな内容ではなかった。
舞台設定が身近なせいか、作り物のハードボイルドという感じはしなかった。したがって安心して気楽に読めた。ミステリー性が低めとはいえ、途中のサスペンス(というよりも話の中途の展開)にはけっこうワクワクもした。
かつて高村作品は読みづらくていやだったが、歳を食ってきたせいか、著者の思想に少しは近づいてきたせいか(絶対それはないか!)、硬質な筆致、執拗すぎる描写も受け入れることができ、むしろ読みやすくさえ感じた。高村薫という作家を身近に感じてしまった。
ミステリーとして高得点を付けるほどではないが、今後他の作品を読みたいと思わせる短編集だった。

No.3 5点 yoneppi
(2010/11/27 21:34登録)
マークスの時にも感じたが、ちょっと文章が読みにくい。でもそれなりに楽しめた。

No.2 9点 ろん
(2003/05/23 10:10登録)
とっても味のある話で、読了後は唸る作品ばかりです。個人的には「父が来た道」が良かったです。しかし、「地を這う虫」の小学校の時のあだ名が"台帳"ってのは無理がありますが、逆に笑えるので良しですかね。

No.1 6点 由良小三郎
(2002/08/15 00:43登録)
警察官をやめた男たちを主人公にした4つの短編です。ジャンル分けが難しい。ハードボイルドでしょうが題材は主人公たちの生き方のほうに振られていて、ミステリの線引きからはみ出しているような気もしました。小説としてはおもしろいですが、このサイトでの採点基準にはなじまない作品のような気がします。

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