いいちこさんの登録情報 | |
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平均点:5.68点 | 書評数:558件 |
No.538 | 3点 | 叙述トリック短編集 似鳥鶏 |
(2024/10/02 16:05登録) 「叙述トリック」という用語に確立された定義は存在しないのかもしれないが、本作のなかには一般に「叙述トリック」と解されていない作品が含まれているのではないか。 また、著者は「『叙述トリックが仕掛けられている』と宣言することで、フェアといえる」と述べているが、仮に叙述トリックの存在が明かされたとしても、その内容や配された手がかりの量・質によっては、必ずしもフェアとはいえないのではないか。 作品を楽しむ以前に、本作の立ち位置、拠って立つ考え方そのものに強く違和感を感じた。 作品の内容そのものも「背中合わせの恋人」以外は、到底水準に達しているとはいえず、この評価 |
No.537 | 5点 | 新 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉 |
(2024/09/24 14:23登録) 非常に低調なデキであった前作から一転して、本格度をかなり回復したように感じられる。 反面、執事の毒舌は洗練を失って、丁寧な暴言という印象になっており、結果として通常の安楽椅子探偵ミステリに近づきつつある。 いかにも小品であるがゆえに、これ以上の評価は難しいが、気軽な読書のお供として悪い作品ではない |
No.536 | 3点 | 彼女は存在しない 浦賀和宏 |
(2024/09/23 17:22登録) 多重人格というガジェットを活用すれば、いかようにでも荒唐無稽なストーリーが創作できるが、それに読者が感嘆する訳ではなく、そもそも地の文がすべて信用できないという重大な副作用を招くだけ。 それでいて、予定調和というか、読者が想像する範囲内の真相。 多重人格を登場させた時点で、とりうる選択肢が限られているとはいえ、正直に言ってもう少しがんばってほしかった。 4点または3点で悩んだ末に、本作に対してやや批判的な立場から、3点の最上位とした |
No.535 | 4点 | 逆ソクラテス 伊坂幸太郎 |
(2024/08/15 16:02登録) 取り扱っているテーマに目新しさがないうえに、あまりにも踏み込みが浅いので、大人の心に何かを残すレベルには達していない。 あまり批判的な立場に立つべき作品ではないし、そんなつもりもないのだが、いかにも小品という印象が強く、4点の上位 |
No.534 | 5点 | 十戒 夕木春央 |
(2024/08/15 16:01登録) この作品も真犯人に意外性が感じられないが、これは作品のプロットそのものに起因する問題。 つまり本格ミステリとして堅牢性に乏しい、ユルユルの造りにしているから、誰でも犯人にできるような印象を受ける。 本作をフェアネスという点から問題視する向きもあるようだが、そこは減点しておらず、また一旦読了したうえで、2周目の読書が面白いという評価もあるようだが、そこは評価対象としていない |
No.533 | 4点 | 忌名の如き贄るもの 三津田信三 |
(2024/08/15 16:00登録) 意外な真犯人像を追求しすぎて、却って意外性が感じられないという点が最大の難点。 そのうえで、犯行のフィージビリティは低いというより、やや無理を感じるし、真相を解明・補強するために必要な手がかりの配置という点でも不満が残る。 4点の下位 |
No.532 | 6点 | さらば長き眠り 原尞 |
(2024/06/24 17:09登録) 本作の全編にわたってタバコが登場するが、火を付けるライター・マッチの音、煙の匂いまでが漂ってくるような筆致から、著者の文筆家としての力量の高さは疑い得ない。 探偵の捜査プロセスを丹念に追うプロットには好感がもて、提示された謎のすべてに合理的な説明が与えられており、非常によくできたハードボイルド作品と評価したい。 ただ、きわめて高い世評、すなわちオールタイムベスト級の傑作というほどの印象は受けなかった |
No.531 | 8点 | 方舟 夕木春央 |
(2024/05/31 17:55登録) すでに各所で散々批評されているとおり、叙述そのものは、文筆家としてあまりにも稚拙・拙劣と言わざるを得ない。 それゆえに、特殊きわまる舞台設定・状況にもかかわらず、緊迫感・リアリティがまるでなく、違和感だけを感じる読書が続く。 一方、終盤で展開される探偵による真相解明は、非常に堅牢かつロジカルで、よくできている。 そして、エピローグで明かされる真相は、近年まれに見る抜群の奇想。 以上のとおり毀誉褒貶が非常に激しい作品だが、これらを総合すると「きわめてよくできたライトノベル」というような印象を受けた。 8点の下位としたい。 この内容で平均的な作家が執筆していれば、さらに高い評価としたことは間違いない |
No.530 | 4点 | 赤い霧 ポール・アルテ |
(2024/05/16 14:59登録) 犯行プロセスにフィージビリティが感じられず、かつ密室・消失トリックにもほとんど見るべきところがない。 切り裂きジャックの正体についても、序盤から示される伏線、犯人と思しき人物によるゴシック体の独白等により、半ば明らかであり、かつアイデアそのものに目新しさがない。 あとは、この奇妙な味わいのプロットをどのように評価するかが焦点であるが、消化不良というか、あまり練られていない印象が強く、4点の最下層と評価 |
No.529 | 7点 | レイトン・コートの謎 アントニイ・バークリー |
(2024/05/05 17:13登録) 本作の直後に執筆した「毒入りチョコレート事件」において、多重解決ものとして結実した著者の信念、すなわち物的証拠といえども、さまざまな解釈が可能であり、人間心理の洞察こそが重要という考え方が強く投影している作品。 したがって、個々の手がかりに対する探偵の推理には鋭さが感じられるのだが、それが容易に決定打とはならず、試行錯誤を繰り返す過程が、平易な叙述と相まって実に読ませる。 作品全体を貫く、明るい、ユーモアに満ちた雰囲気にも好感がもてる。 明かされる真犯人は、登場人物が少なく、また与えられた手がかりから、現代の読者にとっては意外性が感じられないものの、執筆当時とすれば相当に衝撃的な設定であったろう。 犯行プロセスのフィージビリティに若干の苦しさを感じるものの、全体に好意的に評価できる佳作 |
No.528 | 5点 | 化石少女と七つの冒険 麻耶雄嵩 |
(2024/05/05 17:11登録) いくつかの先行作と同様に、既存のミステリの枠組みに挑戦する野心的な作品。 その心意気は大いに買うのだが、それが作品の面白さにストレートにつながっていない。 本作の立ち位置を批判するつもりはなく、むしろ好感がもてるのだが、どの短編にしても、プロットの作りこみが緩いので、著者の匙加減一つで、いかようにでも着地できるという印象が強く、この評価 |
No.527 | 6点 | 死の扉 レオ・ブルース |
(2024/04/22 15:01登録) 事件後における犯人の不用意な言動等には違和感を感じるものの、プロットがそれらを巧みに隠蔽している。 その骨格は現代の読者には既視感があるものの、二人の被害者の人物設定や犯行の状況が絶妙で、非常に強力なミスリードとして機能している。 与えられた解決は、死体の移動や「右足を引きずる男」の謎を十全に説明するもので納得感がある。 単調な真相解明プロセスを退屈させないユーモアも感じられ、水準以上の作品と評価 |
No.526 | 5点 | 奇想ミステリ集 山田風太郎 |
(2024/03/31 16:53登録) ミステリというより、ダークなテイストで、ツイストを効かせた短編小説集という印象。 前半の作品群は、それなりの水準にあるものの、後半はやや平凡というか、いかにも小品に映る。 ただ、これが作品そのものの出来・不出来によるものか、似たような球筋の変化球を見続けたことによるものかは、判然としない。 解説によると、本作の出版時点で絶版となっていた作品を集めたという経緯のようで、著者の代表的な作品群には、一歩も二歩も及ばない。 ただ、それでもこの水準にあるというのは評価されるべきであろうし、とくに当時の風俗を鮮やかに描き出す筆力はさすがの冴え。 5点の最上位 |
No.525 | 4点 | 霧と雪 マイケル・イネス |
(2024/03/03 17:28登録) すでに、さまざまなサイトで多くの読者に評されているように、翻訳があまりにもひどすぎる。 典型的な英語直訳調で、平素慣れ親しんでいる日本語の構文と、あまりにもかけ離れているから、筋が頭に入ってこない。 読みにくい文章を追っているうちに、集中力を失い、ミステリを楽しむという心境ではなくなっていった。 本作に対する正当な評価ではないことは重々承知しているが、この評価とせざるを得ない |
No.524 | 5点 | 魔眼の匣の殺人 今村昌弘 |
(2024/02/24 16:25登録) これほどまでに特殊な前提が設定されると、その解決に対し、当方のハードルが自然と上がってしまうところ、プロットそのものがいま一つで、それを華麗に超えたとは到底言い難い。 犯行動機にせよ、犯行の態様にせよ、著者の筆力の低さも相まって、説得力を欠いており、それを成立させるために少なくないご都合主義的な設定が置かれている点でも減点。 細部にわたって考え抜かれている点は伝わってくるものの、高く評価することは難しい |
No.523 | 5点 | 顔のない敵 石持浅海 |
(2024/02/08 15:33登録) 各短編とも、それなりに考えられているのだが、少しずつ違和感や無理を感じ、完成度としてはいま一つ。 4点も頭をよぎったものの、それほど批判的なスタンスに立つべき作品でもなく、5点の下位 |
No.522 | 7点 | 背徳のメス 黒岩重吾 |
(2024/01/26 12:59登録) ミステリとしては、いかにも小品であるが、サスペンス?ハードボイルド?としてとにかく読ませる。 昭和30年代の時代背景・風俗に加え、そこに暮らす人々の息遣いさえも伝える、生活感にあふれた描写と、乾いた筆致が実に見事。 本サイトの趣旨に照らし、これ以上の評価は難しいが、直木賞受賞作という宣伝文句に恥じない佳作 |
No.521 | 5点 | 十日間の不思議 エラリイ・クイーン |
(2024/01/08 17:52登録) 非常に評価が割れる作品であろう。 犯人が犯行の完全性を担保するため、犯行全体に「十戒」というコンセプトを導入することで、探偵の参画を敢えて促し、その意図せざるところで犯行に協力させるというプロットは抜群に面白く、また、この綱渡りのようなプロットを成立させるために、相当な工夫が見られる点は認める。 ただ、減点材料も決して少なくない。 まず、著者がいかに偽装工作を施そうとも、これだけ登場人物が少なければ、読者にとっては犯人は自明と言わざるを得ない。 偽の解決における犯人は、置かれた状況に受動的に、場当たり的に対応しており、これを自らの意志で十戒を計画的に破っていったとする推理にはかなりの無理を感じるところ。 そもそも本件プロットを成立させるためには、定期的な記憶喪失という、いかにもご都合主義的な前提条件が必須という点でも印象は悪い。 これだけ無理のあるプロットを読ませ切る力は見事であり、本作に対して、あたら批判的な立場をとるつもりもなく、中立的な立場から以上の点を総合的に評価 |
No.520 | 6点 | 捕虜収容所の死 マイケル・ギルバート |
(2023/11/30 14:59登録) プロットの独創性や、真相解明プロセスの緻密さは買うのだが、登場人物があまりにも多い点、舞台設定の説明がわかりにくい点、脱走場面におけるサスペンスの演出が今一つである点に難を感じた。 水準には達しているものの、世評ほどの大傑作であるとは感じられず、6点の最下層 |
No.519 | 5点 | 身代わり 西澤保彦 |
(2023/11/30 14:52登録) 全く無関係のように見える二つの事件を結びつける真相は、想定の範囲内。 その背景には、ある人物の途方もない意図が存在しているという構図には、多少ならず無理を感じるし、死亡推定時刻の四時間のズレについても、同様の印象である。 これらは重要な登場人物の大半について、十分に描写していないためであり、それが敢えて描かない作風を選択した結果であることは百も承知しているものの、やはりそれがゆえに、違和感が拭えないというか、十分に納得感が得られないのである。 作品全体に「そのような設定とすれば、説明は付きますけど、そんな人がいますかね?そんな行動をとりますかね?」という印象が強い。 それでも読了までもって行く筆力の高さは感じるが、1個の作品としては5点の下位 |