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ミステリの祭典

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逆ソクラテス

作家 伊坂幸太郎
出版日2020年04月
平均点5.75点
書評数4人

No.4 6点 猫サーカス
(2023/12/08 18:14登録)
表題作は、小学六年生の「僕」が転校性の安斎君の呼びかけに応え、担任の久留米先生をやっつける作戦を繰り広げる。草壁君本人を含む即席チームに共有されているのは、この計画は久留米先生が自身の先入観を疑うことなく教職を続けていった場合、害されることになる未来の後輩たちを救うために立案されている。ここで繰り出すロジックをまとめると、加害者の心の杭を打つことで未来の被害者を減らす。第二編以降も小学生を主人公に据え、先入観をひっくり返す物語が、ミステリの律動に乗せて語られていく。誰しもが加害者に成り得るならば、排除の論理を振りかざせば自分もいつか排除されてしまう。最終話では更なるロジックを展開し、自分が加害側へと傾かないよう、他者の監視を受け入れることが重要なのだと。加害の可能性を意識しながら日常を過ごすことは、萎縮であり不自由だと感じるかもしれない。だがそれは熟慮であり優しさなのだと本書は教えてくれる。名探偵ならざる市井の人々が、学校絡みの事件に立ち向かう過程で見出す、未来をよりよくするための冴えたロジックの数々を堪能できる。

No.3 5点 E-BANKER
(2022/09/11 14:27登録)
本作はすべて子供を主人公に書かれた内容となっている。
単行本の作者あとがきで、作者自身が子供を主人公とするのは難しくて、こういう作品ができたことが自分の作家としての経験値の賜物というような表現をされている。そういやー今までなかったかなぁ?
2020年の発表。

①「逆ソクラテス」=確かに! 声の大きい人の評価に引っ張られやすいのが俗世間というもの。それに反する奴はエライ!
②「スロウではない」=運動オンチの大抵が嫌いなもの。それは運動会! 分かるやつは分かる。
③「非オプティマス」=トランスフォーマーのことだよ! 先生も大変だわ!
④「アンスポーツマンライク」=これが本作ベストだな。再度登場する「磯憲」がまるで安西先生のように見える!
⑤「逆ワシントン」=最後の場面でニヤッ!っとさせられる。こいつは絶対にアイツだ!因みに、この「ワシントン」は偉人の方です。

以上5編。
冒頭で「子供主役ってなかったかなぁ?」って書いたけど、今までも伊坂作品にはよく「親子」、特に「父子」が登場していて、実際ふたりの息子を持つ身にとっては実に身につまされる場面に出くわしたりする。
本作もそうだった。
別に「こうありたい」とかいうんじゃないけれど、父-子ってこうだよな、とか、こういうことってあったなぁーっていう何だか懐かしい気分にさせてくれる。

大人は当然大人目線で子供を見るけど、子供は子供なりに十分考えてるんだ、というのが今更ながら分かる(思い出される?)本作。
きっと、読者のなかでも過去の自分自身の姿を投影したりするんだろう。
いつもの伊坂作品ほど緻密な伏線やら、軽快な会話群はないけれど、それはそれで実に味わいのある作品ではあった。

No.2 6点 ぷちレコード
(2021/11/05 22:23登録)
人物たちの企みと齟齬、事実の開示の意図的な遅らせ、予想外の展開、意外な真相など語りとプロットに捻りをきかせて予測させない。日常の何でもない一場面ですらサスペンスを高めて語る。
いじめ、スポーツにおける頭ごなしの叱責、家庭内虐待、不審者による理由なき暴力などが主題になっているが、見事なのは小学生の話なのに広がりと豊かさを兼ね備えていることだろう。人間のコミュニケーションにおいて重要なものは何かという視点が貫かれているからで、大人まで考えに耽る要素を十分に持つ。

No.1 6点 sophia
(2021/04/06 00:34登録)
ノスタルジックで切ない前半の2つ「逆ソクラテス」「スロウではない」がよかったですね。後半の話はちょっと物騒でした。こういう連作短編集の常として、そして特に伊坂幸太郎という作家の特性を考えると、最後にそれまでの話に登場した人物を再登場させて締めるのだろうなと予想はしていたのですが、あの人物ですか。うーん、あの人物は違うんじゃないですかねえ。そんなに改心するようなことがありましたっけ。最後をもっとふさわしい人物が締めていればプラス1点というところでした。他にも複数の話に登場する先生がいますが、この先生を使い回す必然性があまり感じられませんでした。リンクをもっと効果的に使って欲しかったです。

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