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ミステリの祭典

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叙述トリック短編集

作家 似鳥鶏
出版日2018年09月
平均点4.55点
書評数11人

No.11 3点 いいちこ
(2024/10/02 16:05登録)
「叙述トリック」という用語に確立された定義は存在しないのかもしれないが、本作のなかには一般に「叙述トリック」と解されていない作品が含まれているのではないか。
また、著者は「『叙述トリックが仕掛けられている』と宣言することで、フェアといえる」と述べているが、仮に叙述トリックの存在が明かされたとしても、その内容や配された手がかりの量・質によっては、必ずしもフェアとはいえないのではないか。
作品を楽しむ以前に、本作の立ち位置、拠って立つ考え方そのものに強く違和感を感じた。
作品の内容そのものも「背中合わせの恋人」以外は、到底水準に達しているとはいえず、この評価

No.10 3点 バード
(2023/01/05 06:28登録)
挑発的なタイトルに惹かれてトライ。その結果は採点の通り。
既読作品の感想も合わせると、似鳥さん作品は自分と相性悪そう。


<以下ネタバレあり>
「貧乏荘の怪事件」より前の話まではまあまあ楽しんでいたが、この話がターニングポイントで、以降は読むのがめんどくさくなってしまった。登場人物の名前を長くして読者を混乱させるなんて技は、決して作者が喜々と語る技法ではない。
「ニッポンを背負うこけし」での別紙ネタは綾辻さんの『奇面館』の改悪だな。助手の正体についても名前が不自然に伏せられていたので読めた。
「あとがき」までいくともう何が面白いのか分からなかった。ヒントを出していた、としたり顔で言われても、あの書かれ方で単にヒントを順番通り並べているだけだと思う人いないだろう。

総括すると作者が読者を小馬鹿にしている感が強く出ておりイマイチ。(叙述トリックがそういうものだと言われたら反論はしないが。)
ただし全ての話がイマイチというわけではなく、「背中合わせの恋人」、「閉じられた三人と二人」は上手いと感じた。この2話は他の人にも推薦したい。

///余談/////
とある漫画のキャラが叙述トリックものとの出会い方について
「こっちから出会いを求めるんじゃなくてあくまで向こうから自然にやってくる形で運命的に出会うのが理想なんです」
と言っていたが、本作を読んでみてこのセリフの真価を理解できた気がする。

No.9 2点 suzuka
(2022/10/15 21:34登録)
正直どのトリックも魅力的なものとは思えませんでした。
短編というのは、伏線のタメを必要とする叙述トリックとは相性が悪く、叙述トリックの使用を明示するのも、面白さに繋がっていないと思いました。
表紙を見ながらいろいろ想像しているときがこの作品の面白さのピークでした。

No.8 7点 ミステリーオタク
(2021/12/29 18:23登録)
ヨダレが出そうなタイトルの短編集。
いつの間にか文庫化されていたことを知り遅ればせながら食いつく。

《ちゃんと流す神様》
前例のない叙述トリックではないが、これはこれで面白くできている。
ただ解決ファクターの1つが後出しジャンケンだったのが残念。

《背中合わせの恋人》
80ページと長めの短編だが、なかなか面白い「コンバインド叙述トリック」。
詳しくは述べないが、作者らしいストーリーと言えるのではないかな。

《閉じこめられた三人と二人》
作者らしからぬ(?)「不可能犯罪+クローズド・サークル」だが・・・途中で何となく方向性は嗅げてしまった。でも巧いし面白い。

《何となく買った本の結末》
これも「トリックの分野」は途中で見当がついてしまう。
前作同様、ミステリとしてのクオリティを犠牲にしてオリジナリティだけを追った作品。

《貧乏荘の怪事件》
これはちょっとねぇ・・・古い禁じ手に読者の集中力を削ぐ空気を撒きまくったようなトリックだな。

《ニッポンを背負うこけし》
事件が起きた時点で犯人と動機は分かった。
当たったが当たらなかった。
当たるわけがない。
ふざけやがって。

《あとがき》
必ず最後に読むこと。前6作のネタバレあり。


さて、昨年に続いて今年も最終書評は似鳥作品になってしまったが全くの偶然です。

残念ながら今年も我々は病原ウイルスの脅威から離脱することはできませんでした。
でも日本は厳しい逆境の中で、オリンピック・パラリンピックや高校野球甲子園大会を成し遂げました。
そして新型ウイルスに対するストラテジーも着実に前進しつつあります。

来年こそは希望溢れるハッピーイアーになってもらいたいと思います。

皆さん、よいお年を。

No.7 4点 モグラの対義語はモゲラ
(2021/11/29 23:53登録)
読んだのはノベルス版。
多分冷静に読み返せば悪い出来では無かったとは思うのだが、題名や前書きでハードルが上がってしまっていた。故に楽しめなかったわけではないのだが、あまりよくない方向の肩透かしを食らい続けてしまった。もっとうまく騙して欲しかったし、もっと「ここで気づけたのに!!」と悔しがらせて欲しかった。強盗に巻き込まれる話は、このタイプのは初見だったのでちょっと膝を打ったのだが、それくらいだろうか。
なんというか、題名で叙述トリックと謳っているから許される出来、といった感じだろうか。自ら「叙述トリック」と宣言することでフェアさを補っているというか、いやもしかしたら若干補い切れていないというか。まあでもちゃんと解き明かそうと各編腰を据えて挑んだ読者には、「叙述トリックと宣言すれば叙述トリックを用いてもフェアな本格ミステリ足り得るだろう」という予想通りの作品になったのかもしれない。私には痒いところに手の届かない、欲しい工夫のない作品だった。意欲的ではあるのだが。
あとは、これは正直この手の実験作に対しては非常に野暮な意見だと分かっているのだが、小説としての出来に満足いかなかった。幾つかの篇から、どうにも社会派的な要素を詰め込みたいようだというのは伝わるのだが、それがあまりフェアを掲げる本格ミステリ的な内容にも、大きな事件の起きない日常系ミステリの雰囲気や文章にも合わなかった。「本格派」「日常の謎系」「社会派」の三つの要素を、いずれも遊離することなく入れるのは難しいと思われ、結果この作品は最後の要素が浮いて目に付くものになってしまった、と思う。連作短篇という器に、何もここまで無理に注がなくてもいいのでは。もしかして、実は書きたい方向の作品ではないのか。と、失礼極まりない邪推をしてしまうぐらいには浮いていた。
実験をするなら、それ単体で終わらせている作品の方が私には望ましい。そうした実験作の裏にも、テーマやメッセージが欲しい人には受けがいいのかもしれないが。でもどうせなら大長編で語れよなー。

No.6 7点 虫暮部
(2019/11/30 16:12登録)
 私が叙述トリックを好むのは、やはりその一行を境に頭の中のヴィジュアル的イメージが一変する快楽ゆえである。
 細心の注意を払ってアウトにならないギリギリのラインに配置された言葉をドミノ倒しの如く崩さぬよう慎重に読み取るスリル。そこに於いて作者と読者は出題者 vs 回答者と言うよりも緩やかな共犯者になる。真相を見破る悪意ではなく、上手く騙される読者としてのスキルも重要だと思う。
 但し、叙述トリックがあると言う予備知識が無いとその共犯関係は築きにくく、かと言って予備知識があるとネタバレで面白さを殺ぐ、と言うジレンマがあり、解決策として予め『叙述トリック短編集』と名乗ってしまうのはコロンブスの卵だ。しかも個々の短編がハズレ無しでこの身も蓋もない企画に見合ったレヴェルを維持出来ている。拍手。

No.5 5点 名探偵ジャパン
(2019/08/14 23:54登録)
帯の惹句でハードル上げすぎ、という作品には数多く出会ってきましたが、タイトルそのものでハードルを上げるというものに初めて遭遇しました。
で、この手のハードル上げものの御多分に漏れず、本作も自分で(本作に至ってはタイトルで上げているので、編集者とか無関係に本当に作者自身でハードルを上げています)上げまくったハードルを越えることは出来なかったと感じました。
このタイトルで勝負するならば、ダムコップさんがおっしゃるように「時系列誤認トリック」は必須項目であると思います。普通に連作短編になっているので、全然違ったタイトルで出してもよかったような。新人ではない、名前も売れてる作家ですので、奇をてらう必要はなかったのではないかと。
(と、ここまで書いて、「作者自身がタイトルでハードル上げすぎ」の作品に、ドラマ化もされた『推理小説』というのがあったことを思い出しました)。

No.4 3点 yoshi
(2019/07/28 12:13登録)
こんなタイトル付けて、冒頭に読者への挑戦状まで持って来て、この出来はないでしょう。作品個別のコメントを付ける気にもならない。石黒正数のイラストが泣いてるよ。

No.3 4点 sophia
(2019/03/14 02:06登録)
●ちゃんと流す神様 6点・・・終わってみれば最初の話が一番マシという実に萎えるパターン。
●背中合わせの恋人 5点・・・勘違いの経緯に工夫がない。本当にただの思い込み。そして話が無駄に長い。
●閉じられた三人と二人 3点・・・これは酷い。
●なんとなく買った本の結末 4点・・・いや、通話記録は?作中作の作者の力量不足のせいにして逃げないで。
●貧乏荘の怪事件 4点・・・途中で呼び名が変わるから違和感しかない。倒れた酒瓶の論理もおかしい。
●ニッポンを背負うこけし 5点・・・ここまでの各章の人物描写でもっと丁寧に伏線を張っていないと驚けないです。微かな違和感を感じさせて来ないと。
●あとがき 採点不能

こんなタイトルの本を出されて叙述トリック好きとしては読まないわけにいかない、そう思って手を出したのですが失敗でした。冒頭の「読者への挑戦状」で上げに上げたハードルを全く越えられていません。ほとんどの話が酷いですし、伏線が足りていないため「やられた」と思えません。全編通して仕掛けられている叙述トリックに関して特にそう思います。主要人物の人物描写をあまりしていないのは敢えてのことだと思われますが、それは揚げ足取りを避けるための逃げの手段。攻めの姿勢を見せて欲しかった。「あとがき」による解説も野暮なような。結局、叙述トリックというものは宣言してから仕掛ける物ではないなと再認識しただけのことでありました。

No.2 7点 まさむね
(2019/02/12 21:57登録)
 何とも挑戦的なタイトルであります。「最初から宣言してますから、アンフェアではないですよね。で、どうです、読んでみます?」という、作者の挑戦心を感じますよね。私の琴線に触れまくるタイトルです。
 で、読後の感想としては、純粋に面白かったですね。嗚呼、俺ってやっぱり騙されるのが好きなんだよなぁ、と再認識。作者の、計算しつつの遊び心を楽しませていただきました。作者の筆致は元々好きでしたし。
 内容としても素敵だった「背中合わせの恋人」、ある意味で社会派の「ニッポンを背負うこけし」が(叙述トリックの出来は別として)印象的だったかな。叙述トリック的なベスト短編は…いや、敢えて申しますまい。
 こういった趣向を好まない方も多いかと思うのですが、まぁ、好き嫌いが分かれる作品というのも貴重だと思うので、できるだけ多くの方々の書評を拝見したいところではあります。

No.1 5点 HORNET
(2019/02/09 17:40登録)
 最後の作者の言葉(一応これも「小説」の一部なのだが)「またこういうふざけた企画でお会いできれば…」を紹介すれば、だいたいこの本の雰囲気は察せられると思う。各短編で叙述トリックを仕掛けることを冒頭に明言して、遊び心満載で仕上げた一冊、といった感じ。
 とはいえその「叙述トリック」自体はなかなか面白く、トリックそのものとしては「閉じられた三人と二人」が一番やられた。特に速読を信条としている方(そんな人はいないか)はやられやすい、うまいこと読者心理をついた仕掛けだと思った。
 話としては「背中合わせの恋人」がよかったな。ミステリとしてのネタバレにはならないと思うから書くが、読者が望む結末に普通に辿りついて安心した。
 いろいろな試行錯誤をしながら常に「今までにないものを」という作者の創作意欲はよく伝わってくる。

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