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ミステリの祭典

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慟哭

作家 貫井徳郎
出版日1993年10月
平均点6.54点
書評数87人

No.87 7点 みりん
(2022/12/17 15:22登録)
新興宗教にハマりこんでしまうまでの流れが真に迫っていてとても引き込まれました。

No.86 6点 雪の日
(2022/12/11 19:50登録)
トリックはある程度ミステリ読んでたら気づいてしまうだろう、話は面白かったので+1

No.85 8点 虫暮部
(2022/03/10 11:31登録)
 冷静な記述を連ねて苦悩する心情を炙り出す書きっぷりに引き付けられた。
 その誠実な書き方の裏にあんなトリックを仕込むのもびっくり。自分の筆力を前提として飛び道具に使ったなら天晴れだし、自覚無しでやったならそれはそれで凄い。
 ところで物語ラスト近く、彼の愛人の言動がどういう気持からなのか判らなかった。あの痴話喧嘩が最大の瑕疵。

No.84 7点 Tetchy
(2022/01/18 23:30登録)
1993年の鮎川哲也賞の候補になり落選しながらも刊行されることになった貫井徳郎氏デビュー作である本書はその年の『このミス』で12位にランクインするなど好評を以て迎えられた作品だ。
そんな期待値の高い中で読み進めた本書だったが、最後まで読み終わった感想は微妙というのが正直なところだ。それについては後ほど述べよう。

さて本書は北村薫氏をして「書きぶりは練達、世も終えてみれば仰天」と驚嘆させたと当時評判だったが、確かにその内容と筆致はとても新人の作品とは思えないほどどっしりとした重厚な読み応えを備えた作品だ。

本書は幼女連続誘拐殺人事件の捜査を進める警察の話と心に大きく空いた穴を埋めるために新興宗教へとのめり込む30代の男性の話が並行して語られる構成で進む。

まずメインの警視庁捜査一課のキャリア出身の佐伯課長が陣頭指揮を執る捜査の内容は新人とは思えないほどの抑えた筆致で、キャリアとノンキャリアの確執、もしくはキャリア同士の確執、さらには佐伯の微妙な生い立ちと現在の立ち位置など縦割り文化が顕著な警察組織の中で軋轢を上手く溶け込ませ、よくもデビュー前の素人がここまで書けたものだと感嘆した。
それは後者の新興宗教にのめり込む30代の男、松本の話も同様で、新興宗教の内情とそこに所属する人々の描写は実に迫真性に満ちている。この細やかな内容は経験しないと判らないほどリアリティに富んでいる。

そんな実に読み応えある作品なのだが、読後感が微妙だった理由は大きく分けて3つある。

第一に本書の真犯人についてあまり腑に落ちなかったのだ。
そして2番目の理由は最も微妙な読後感を残す、主人公佐伯が捜査していた連続幼女誘拐事件が解決されないということだろう。
この結末をどう捉えるかで評価は大きく分かれるだろう。ミステリとは即ち謎が解け、事件が解決する物語である。しかし貫井氏はなんとデビュー作でそのセオリーを破ったのだ。つまりある意味読者の先入観を裏切った形の斬新なミステリを書いたのだ。
私は恐らくこの警察が捜査していた事件が解決されないと云う結末が鮎川哲也賞を受賞できなかった理由ではないかと推察する。

ただこの構成には説明がなされなかったことが多すぎて、それが十全に納得できない理由にもなっている。
まず佐伯が今回捕まるのは自身の後任の捜査一課長の娘を誘拐しようとしたことだ。彼もまた同じように娘を誘拐され、殺されているのになぜ同じようなことをするのか、それがよく判らない。

そして3番目の理由はこの佐伯という男が全くの見掛け倒しであることだ。
ヴェテラン刑事の部下丘本からは時折見せる鋭い眼光と本質を見抜いた的確な指示から一目置かれていたが、結局捜査は遅々として進まず、次から次へと犠牲者を出し、最後には自分の娘もその犠牲者になってしまう張り子の虎のような無能な指揮官である。
特に妻から家を見張る不審な人物の話を受けても、警察を一個人のために貸し出せないと拒否し、さらには娘が帰ってこないと泣き叫ぶ妻の声に動揺しながらも事件の陣頭指揮を執ろうと自分の娘の捜索に警察官を動員しようとしない、杓子定規なやり方にはその愚かさに思わず罵倒の声を挙げてしまった。
特にフリージャーナリストの愛人篠伊津子との関係を知られてもマスコミに弁解もせず、そのせいで娘が幼稚園でいじめられるようになることに思い至らない身勝手さ、さらにはその愛人に娘を思う気持ちを悟られ、自分が子供ができない身体であることを打ち明けられて別れを切り出されたりと、相手に対する配慮に欠ける傍若無人さばかりが目立つ。
これほど読者の共感を得られない主人公も珍しい。

タイトルの慟哭とは娘を喪った佐伯の心の慟哭を意味する。しかしその慟哭に対して誰が共感できようか、誰が同情できようか。
哭きたければ勝手に哭け。これほどまでに突き放したくなる主人公に出会ったのは初めてだ。
自分が経験した慟哭をなぜ他の夫婦に強いるのか。微妙な読後感の後に訪れたのは一人の身勝手で無能な男に対する大いなる憤りだった。

No.83 7点 名探偵ジャパン
(2019/03/24 22:00登録)
作者は本作がデビュー作だとか。新人離れした文章と構成も、作者ののちの活躍を見れば納得出来ます。
恐ろしいことに、本作は鮎川哲也賞応募作で、受賞を逃したのだというではありませんか。昔は凄かったのですね(今が悪いというわけではありませんが。時代の流れというのもありますし)

ヒントも多く記述されているため、ミステリずれした読者ならば、結構早い段階で「仕掛け」を看破してしまうでしょう。ですが、途中で「仕掛け」を見破ったのだとしても、事件と主人公の行く末を見届けたいという思いが読者を突き動かすため、興が削がれるということはありません。
加えて本作は、ある意味「ラスト一行の衝撃」ものでもあります。「えー?」と思わず心の中で叫んでしまいました。

No.82 5点 レッドキング
(2019/03/05 07:15登録)
某有名作と真反対のトリック。あっちは✕✕人物を〇〇人物として、〇〇時間を✕✕時間と誤認させるトリックだったが、これはその全く反対のトリック。ひょっとするとあの作品、これにヒントを得たのかな、こっちの方が先だし。残念ながらあっち先に読んじまったから、どうしてもインパクトは薄れる。もっともいくらでも前例あるんだろうな。こういうのって。
トリックは それとして別に評価したいが、小説自体としては「後悔と真実の色」の「習作」みたいなもんだ。それに この事件て半分しか解決されてないじゃん。

No.81 7点 パメル
(2019/01/23 13:15登録)
第4回鮎川哲也賞の最終選考に残り、受賞は逃したがデビュー作とは思えない出来栄え。
連続幼女誘拐殺人事件の犯人を追う捜査一課長の佐伯と、救いを求め新興宗教にはまっていく松本という人物のパートが交互に描かれている。
佐伯は捜査が一向に進展しないことや、家庭内の問題で世論や警察内部の批判を浴び、またマスコミまで執拗に追われ苦悩する。その様子が丁寧に描かれ好印象。
2つのストーリーが、どのように絡み合うのか、どのように着地するのかが読みどころ。
●●トリックと知っていて読むのと、知らないで読むのとでは大きな差があるのではと感じさせる作品。結末は重く悲しく、何故タイトルが「慟哭」なのかが明らかになり衝撃的。タイトルは秀逸。

No.80 8点 HORNET
(2018/09/02 08:57登録)
<ネタバレ>

 大きく2つの意味での「どんでん返し」がある作品だと思った。

 一つ目は当然、交互に描かれる場面が、実は同じ時間軸ではなかったという叙述トリック。こちらについては、特に最近ではよく用いられる手法なので、ミステリに読み慣れている人ならばひょっとして途中で気付くかもしれない。私もそうだった。

 ただ、仕掛け自体はなんとなく推理できても、その真相、真犯人は予想外だった。それは、読者の主人公への共感をひっくり返すという、もう一つの意味での「どんでん返し」があるからだ。
 孤立しながらも冷静さを失わず、自身の信念のままに捜査を進める捜査一課長・佐伯にほとんどの読者が共感するだろう。そして、最後には周りの風評をひっくり返して事件を解決し、留飲を下げるという展開を期待して読み進める。
 そういう読者の期待を完全に打ち砕き、真逆に落として物語を絞めるという、こちらこそが本作の「どんでん返し」のメインではないか。
 これまでの書評にあるように、この展開は非常に賛否両論であろうことが予想される。「読後感が悪い」という感想もうなずける。
 だが、ある意味「孤軍奮闘する刑事が、最後に真相にたどり着く」というオーソドックスな不文律をぶち破った本作は、なかなかない読者への(私としてはよい意味で)裏切りで、傑作だったのではないかと思う。

No.79 4点 ニックネーム
(2016/01/10 12:21登録)
トリックは途中で気が付きました。
非常に後味が悪いです。
読み返す気にもなりません。

No.78 9点 ハッター
(2015/09/13 14:29登録)
仕掛けを見抜いたという読者が多いようですが、改めて読み直してみるととても入念に作り込まれていて矛盾もなく、非常に完成度が高い作品だと思います。

No.77 7点 斎藤警部
(2015/05/28 17:22登録)
とてもとても悲しい物語。
犯人が誰なのかは割と早くに見えましたが、今回ばかりはいつもの様に「お前がやったんだろう!」とサディスティックな気持ちで「追い詰め読み」する気になれませんでしたねえ。。
仕掛けに気付かず最後の最後で大いに驚きたかった気もしますが
すぐ気付いたからこそ心に響く人間ドラマとして読めた側面もあります。

No.76 7点 あびびび
(2014/08/13 09:48登録)
デビュー作にしては重厚な文章だと思ったが、日時のずれや、過去を明かさない寡黙さでだいたいのストーリーが掴める。あとはいつ露見するか、我慢比べのような感じになった。

(ネタばれ?)だからラストも衝撃ではなかった。むしろ、そんなに子供を愛していたのか?という疑問が脳裏をかすめた。

No.75 8点 初老人
(2014/06/01 02:30登録)
ネタバレあり


時系列が違う事は、大方の読者はすぐに察しがつく事と思う。利き手などの伏線も豊富で、フェアプレー精神にあふれている。それにしても、わずか20代の若さでこれほどまでにレベルの高い作品を書き上げた作者に、羨望の念すら覚える。文章は淡々としていながらも30代か、もしくは40代のものと見紛うほど完成されており、その後の活躍は知ってのとおりである。本当に非凡な才能であると、脱帽するしかない。

No.74 5点 ボナンザ
(2014/04/08 01:32登録)
結末の意外さはさほどない。
後味の悪さのほうが印象的。

No.73 7点 アイス・コーヒー
(2013/12/12 11:09登録)
トリック自体は目新しいものではないし、伏線の張り方が鮮やかというわけではない。ただし、それでも本作の衝撃は大きかった。

連続する幼女誘拐殺人事件と捜査が一向に進まない警察組織のジレンマを描きつつ、家族に深刻な問題を抱える一課長の佐伯に焦点を当てる。テーマは家族愛なのか、それとも…

新興宗教や幼女誘拐などの話題のリアルさが際立ち、捜査とは別に語られる新興宗教に走る心に傷を負った男の姿が目に浮かんだ。そして、クライマックスは手に汗握る展開で、最後の一行まで読者の心をつかんで離さないところは作者のテクニックだ。警察小説と本格ミステリ、そして感動の融合だ。

No.72 8点 測量ボ-イ
(2013/10/19 14:53登録)
まず読みやすかったですね。
メイントリックはこのサイトをご覧の方なら殆どの方が
看破できるのでしょうが、例えそれに気づいたとしても
前に読ませるリ-ダビリティが秀逸。
今年読んだ中ではNo.1の評価をしても良いと思うの
で採点も甘めで。

No.71 7点 バックスクリーン三連発
(2013/10/10 10:32登録)
ネタばれあります

警察小説ですね。誰かのサイトのランキングに上位にきていたので借りてみました
主人公は警視庁捜査一課のキャリアの課長さん。
私は警察小説の人間関係の閉塞感というものが結構好きです
自分の職場ならたまったものではありませんが
建前と本音、メンツや職位の上下関係と年齢、いろんなもの
が混ざって閉ざされた感じが読むには好きです。
前半まで一気に読めました。非常にに読みやすいです。
幼女誘拐が発生しその遺体がかわらで発見されますが
手がかりが無い、捜査を仕切るのがキャリアの主人公です。
もう一つ同じ時系列で無職の男性が心の隙間を埋める為に
新興宗教に入信していくさまが章をはさんで捜査とこの
入信していく様が交互に展開されていきます。
この構成からするとこの無職の男性が犯人かと匂わせていますが
私の予想では彼は犯人ではなく、その新興宗教に入信して
かかわりを持った誰かであろうと予想を立てています。
それこそ「ロートレック壮事件」のように作者のミスリードだと
思っていました。次に気になるのはその無職の男性ですが
他人からは「松本さん」と呼ばれていますが
自分では名乗っていない、また説明では全て"彼"という
三人称が用いられているのは何故か
そのあたりが前半の謎ですかね。
そして後半、無職の男性が宗教に没頭していく
その目的は亡くした娘の復活、同時進行と思っていた捜査と男の
行動が実は時差があることがだんだんとわかり
私の予想が外れていることがわかる
そしてラスト、捜査員の丘本が最後の犯行の前に犯人を捕まえるシーンでは
「おぉ、やられた」の感想。最初の入りに固執したのでそこまでは考えて
いなかった。気持ちよくだまされました。
それにしても終盤にみせた伊津子と佐伯の部屋でのやり取りは
最初っから最後まで何のことかさっぱりわかりませんでした
私は一生、女心というものは理解できないのでしょう
私はお子ちゃま。

No.70 6点 smk
(2013/10/07 23:01登録)
そうじゃないかなぁ、やっぱりそうかと感じたトリック。まぁ、あまり騙そうという感じではなかったけど。
主人公がどうしてそこまで落ちてしまったのかという記述がなかったので、少し動機が弱かったかな。

No.69 8点 とあるミステリマニア
(2013/08/22 15:51登録)
トリックが見破れた鋭い方も多いが私は作者のミスリードに嵌まったままクライマックスを迎えた。
文才がある作者だからこそできたトリックだと思う。
フーダニットとホワイダニットが交差し交じり合った作品で読後感も他作品とは格別。慟哭の意味がより深く知ることができ、考えさせられる作品だったので8点。

No.68 5点 haruka
(2013/04/30 02:13登録)
小説として良くまとまっていると思うが、衝撃のラストではない。むしろこの構成でこの展開だとあのラストしかないわけで、それでも最後まで読ませる筆力は素晴らしいと思う。プロットとしては、どんでん返しを狙ったというより、主人公の「慟哭」をより効果的に表現するものと理解した。

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