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ミステリの祭典

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蟷螂の斧さんの登録情報
平均点:6.09点 書評数:1660件

プロフィール| 書評

No.980 6点 ロアルド・ダールの幽霊物語
アンソロジー(海外編集者)
(2016/11/08 22:04登録)
「BOOK」データベースより~「幽霊物語の目的はぞっとさせることにある。読者をぞくぞくさせ、不安な気持にさせなければならない―あるTVシリーズの企画のため、原作となる幽霊物語を選定することになったロアルド・ダールは、まずこのような基準を設けた。そして、この基準を厳格に守りながら、古今の作品を読みついでいった。諸々の事情で企画そのものは中止となったが、ダールの手もとには、14篇の宝石が残った。有名無名を問わず、本物の幽霊物語だけが放つ妖しい光。闇の向こうの恐怖が、あなたの安眠をさまたげずにはおかない。」~
ベストは「W・S」~絵葉書(差出人W・S)が、ある作家のもとへ届く。内容は作家を誉めているようでもあり、逆に悪意があるようにもとれる。絵葉書の発信場所が徐々に作家の住まいに近づいてくる。不安になった作家は警察に電話する。そして警官がやって来て氏名を名乗るのだが・・・。幽霊物語ということで、各作品の結末が予想されてしまう点がもったいない。前提なしで読んだら、結構インパクトのある作品集であると思います。なお、ダール氏自身の作品はありません。「女主人」(「キス・キス」に収録)は当初、幽霊物語だったようですが、その秘訣をつかんでいなかった為、結末を現在のように変えたとのことです。


No.979 6点 幻の女
五木寛之
(2016/11/08 22:00登録)
(再読)著者の作品「蒼ざめた馬を見よ」が登録されたのを機会に本作もということで・・・。表題作「幻の女」は女性の生理をメインにした珍しい作品です。デパートの売り上げを伸ばすため、生理休暇を1ヶ月停止するというもの。女性陣は当然反対するのですが、工作に負けてしまい、ある条件を飲むことになります。そこで主人公の女性が取った行動とは・・・。この作品の表紙はムンクの「叫び」です。作中のラストでも、ムンクの「叫び」を夕焼けの情景となぞらえて効果をあげていると思いました。なお、大河小説「青春の門」の続編を、新年より23年ぶりに再開するとのことです。84才お元気ですね。


No.978 6点 蒼ざめた馬を見よ
五木寛之
(2016/11/08 21:59登録)
(再読)直木賞受賞作品で、冷戦時代の賜物といったような感じを受けます。短篇なので若干物足りなさはありますが、筋は謀略物で今読んでも面白いですね。主人公が壁に飾ってある額をずらし、隣の部屋にいる重要人物を覗き見る場面があります。その額の絵は、ムンクの絵としか書いてありませんが、次の展開から予想すると、題名はあの有名な「叫び」ということになるでしょう。著者はムンクが好きで他の著書の表紙にも使っています。そんなことで「叫び」が表紙の「幻の女」を次の書評にしたいと思います。


No.977 4点 拾った女
チャールズ・ウィルフォード
(2016/11/08 21:54登録)
ノワールに分類されるようですが、どこがノワール的なのかよく分かりません。解説者の杉江松恋氏は「これは、ある男女のやりきれない恋愛物語である。」としていますが、どこが恋愛?(単なる出会いでは?)この辺もよく理解できませんでした。後半の違和感が伏線になっているとのことですが、「ああ、そうなんですか」という程度のものです。ミステリー的な伏線とニュアンスが違う気がします。結局のところ、掴みどころのない小説ということになるのでしょうか。


No.976 5点 図書館の殺人
青崎有吾
(2016/10/31 16:46登録)
うーん、犯人の行動が不自然です(苦笑)。著者の売りである「論理」を優先したあまり、結果として不自然な犯人像が出来上がってしまったとの印象です。つまり、無理やりに論理づくりをしたためではないでしょうか?。5つの条件に当てはまる人物、それが犯人である。それはいいでしょう。しかし、犯人に関する伏線が生きていません(まあ、数行あるといえばあるという程度ですが)。これでは「あっ、そうなの」で終わってしまいます。伏線の妙(おお!あそこが伏線か)があってこそ論理が生きてくるのでは?・・・。
理解できない犯人の行動は、①被害者の後をつける行動。非常に稀なケースです。②動機が弱いとの評が多いのですが、それは突発的な要因で犯行に及んでしまった、あるいは咄嗟の判断で保身を図った、ということで許容できるものと思います。しかし、精神的に動揺している犯人が、犯行直後に冷静に証拠隠滅を図るという行為が、どうもアンバランスで納得しにくいのです。③血のついた○をトイレで処理する。これはまったく理解不能です(笑)。そんなことをする人がいるのかなあ?。もっとほかの方法をとるでしょう。この行動が犯人特定の重要部分になっているので、個人的には大きなマイナスポイントになってしまいました。④ポケットに○○○○を戻す行為。さて何のため?。
その他の疑問は、①犯人が「鍵の国星」を読んでいるのかどうかは不明です。この点はいただけないですね。②それに関連し、「ラストの一行」的な意味での「く」を理解できる読者は果たして何人いるのでしょうか?。読者は「鍵の国星」を読んでいないわけだし、それほど伏線があったとは思えないし・・・。実は「く」ではなく「ク」でしょうか?。最後に”若き平成のエラリー・クイーン”の宣伝文句はどうなんでしょう。評価が高いので、あえて辛目の採点で。一行一行読むのではなく、サラッと流して読むタイプなので、読み落としによる理解不足があると思いますので、この苦言は気にしないでください。


No.975 6点 もう誘拐なんてしない
東川篤哉
(2016/10/25 13:11登録)
誘拐、偽金とくれば結果は予想しやすいのですが・・・・。やくざの物語でもあり、どう落とし前をつけてくれるのか?が勝負。いい意味で、予想外の展開でした。青春コメディと捉えています。本格はおまけか?。解説に「万人が泣く映画を作るのは容易いが、万人が笑う映画は難しい。笑いのツボは人によって違うから」とありましたが、まったくその通りと実感。本作は今までの著者の作品の中で一番笑えました。


No.974 5点 殺人者は夜明けに笑う
香川由美
(2016/10/23 22:15登録)
「そして誰もいなくなった」の映画化が決定し、その撮影が開始されると同時に殺人事件が起こるというものです。倒叙形式なので犯人は最初から読者にはわかっています。謎は死体がどうしてハリウッド広告塔にぶら下がったかという派手なものです。誰が実行したのか犯人にもわかりません。なかなか犯人の思惑通りにいかないところなどは楽しめました。しかし、謎が謎ではなくなってしまうという瑕疵がありました。読み込みが甘いのかもしれませんが・・・。当然、原作については、ネタバレのオンパレードです(笑)。


No.973 7点 アルモニカ・ディアボリカ
皆川博子
(2016/10/15 22:28登録)
謎解きというより、前作「開かせていただき光栄です」(2011)で出奔したエドとナイジェルのその後の物語といった感じです。ナイジェルの生い立ちや、その周辺の人物の恋物語(アルモニカ=グラスハープを制作する若者とその手伝いをする娘、恋人を守るため精神病院にあえて入っている人物)が描かれています。法を守ろうとする盲目の治安判事ジョン・フィールディングの悩みが主題の一つになっていました。


No.972 4点 赤い殺意
藤原審爾
(2016/10/02 17:44登録)
若竹七海氏「さよならの手口」の巻末にある紹介本です。1964年今村昌平監督により映画化されています。キネマ旬報「オールタイムベスト・ベスト100」日本映画編(1999年版)では第7位にランクインしています。(参考~1位・七人の侍、3位・飢餓海峡、5位羅生門)。
内容は、平凡な主婦が夫の出張中に強盗に犯されてしまう。夫に言おうとするが言えず死のうとも思う。夫の不在時、また強盗が現れ「自分はもうすぐ死ぬので優しくしてほしい」という・・・。
原作は昭和34年の発表で時代の差を感じてしまう。つまり当時の貞操観念が現在とはかけ離れており、その女性心理がよくわからない。死ぬこともできず、告白することもできない。相手を殺そうとも思うがそれもできない。ずるずると関係を続けてしまうのです。あえて愚鈍な女性として描いているのかもしれませんが共感できなっかった。直木賞作家で、心理描写には定評があるそうですが、イライラしてしまいました(苦笑)。


No.971 6点 陽気な容疑者たち
天藤真
(2016/10/01 13:58登録)
著者のデビュー作。後発の作品に比べれば、ユーモアはあまり感じられなかった。本作にユーモアがあるとの書評が多いということは、後発の作品がいかに面白いかの証左ですね。本作はのんびりした、ほのぼの感のある作品といったイメージです。白眉は、結婚式で明らかにされる元警察医の視点とそのロジックです(感心、感心)。


No.970 5点 キルトとお茶と殺人と
サンドラ・ダラス
(2016/09/24 11:48登録)
裏表紙より~『カンザスの田舎町ハーヴェイヴィル。不況の波は農村にも押しよせおまけに日照りつづき、しかし主婦たちはキルトの会に集まってはお茶と噂話に日をすごす。ある日現われたのはキルトより“事件”が好きという新聞記者志望の若い女性、それから何かと騒動が起こりだす―流れ者の登場、不倫と妊娠騒ぎ、そして殺人事件まで…。』~

若竹七海氏「さよならの手口」の巻末紹介に、「最後の一撃」ものとあり手に取りました。前半はキルト仲間の日常が描かれます。コージー的な作風がお好きな方には良いかも?。中盤から殺人事件が起きますが、ある程度ミステリーを読んでいる方には、やや物足りないかもしれません。後味は決して悪くありませんし、いかにも田舎らしいほのぼの感があります。


No.969 5点 ペンローズ失踪事件
R・オースティン・フリーマン
(2016/09/19 12:12登録)
~骨董品のコレクターであるペンローズ氏が失踪。自動車事故で老婦人をはね、その後病院から姿を消したらしい。ペンローズ氏の父親の死亡により、遺産相続問題も発生した。ペンローズ失踪の裏には何があるのか?。ソーンダイク博士が捜査に乗り出す。~
地味な展開で、あまりメリハリがありませんでした。じっくり謎解きをする方にはいいのかもしれませんが・・・。ラストはそれなりのどんでん返しはあります。


No.968 6点 死刑台のエレベーター
ノエル・カレフ
(2016/09/15 09:39登録)
結末の皮肉がいい!滑稽でもあり好みです(笑)。このようなモチーフの作品は他にないのでは・・・。やや中盤に退屈感があったのが残念。その分は後半で盛り返したか?。「大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150」(1991版)では、第5位となっており映画の方が有名ですね。


No.967 5点 さよならの手口
若竹七海
(2016/09/11 22:38登録)
ハードボイルド風の展開が、あまり肌には合いませんでした。本題とは関係ありませんが、主人公のバイト先がミステリ専門書店であるところより、巻末に「おまけ」として店長のミステリ紹介が載っています。「オリエントの塔」(水上勉氏)「赤い殺意」(藤原審爾氏)「キルトとお茶と殺人と」(サンドラ・ダラス氏)は読んでみたいと思います。


No.966 6点 真夜中の詩人
笹沢左保
(2016/09/05 14:05登録)
誘拐サスペンスものです。メインは動機探しになるのでしょうか。3分の1くらいで大筋は見えてくるのですが、真の動機がうまくカムフラージュされて分からずじまいでした。ヒロインの妹の恋愛に絡んでくる男性陣がいま一つ効果的でないところが残念な点です。
余談ですが、岐阜の景勝「中山七里」が出てきました。中山七里氏のペンネームは岐阜出身でここからきていることを知りました。


No.965 9点 招かれざる客
アガサ・クリスティー
(2016/09/02 17:31登録)
裏表紙より~『深い霧がたちこめ、霧笛が響く夜。庭を見わたすフランス窓の前で、車椅子に座った館の当主が射殺されていた。そのかたわらには、拳銃を握ったままの若い妻が立ちつくしている。車の故障でたまたま立ち寄った男は、美しい妻のために一計を案ずるが…スリリングな展開と意外な結末が待ちかまえる傑作ミステリ戯曲。』~

久しぶりに「ガツン」と来ましたね。サスペンスものです。巧い!(笑)。著者らしさが凝縮された作品であると思います。著者の作品では戯曲ということもあり、あまり読まれていないようです。「アガサクリスティー完全攻略」(霜月蒼氏)での高評価と、あるサイトでの”べた誉め”評により手にしてみました。大正解でした。


No.964 6点 星読島に星は流れた
久住四季
(2016/08/30 08:31登録)
恋?に絡めたラストで後味はいいですね。真相(仕掛け)が本作の肝で非常に気に入っています。地球上で数年かかったとしても、宇宙時間からすればほんの一瞬の出来事なのですから・・・犯人の気持ちと私の気持ち(笑)。たまには夜空をみるのも楽しいですよ。まあ私の住む都会では無理ですが・・・。ということで毎年、満天の星(天の川)を求めて旅をしています。夜晴れること。新月であること。でこれが結構難しいのです。余談でした。


No.963 7点 鍵孔のない扉
鮎川哲也
(2016/08/29 10:05登録)
第2の殺人のアリバイ崩しが魅力的でした。「鍵」が謎解きのカギになっているところがいいですね。サブ的に「シデ虫」が登場します。最近の「法医昆虫学捜査官シリーズ」(川瀬七緒氏)によって、この「シデ虫」メインの物語に変換されることも可能でしょう。このようなミステリーの変遷や発展形を考えると感慨深いものがあります。


No.962 5点 求婚の密室
笹沢左保
(2016/08/26 17:27登録)
パーティの招待客13人ですが、事故が起こっているにも拘わらず、4~5名以外の描写や会話がほとんどなく、いてもいなくてもいいような感じで、小説として非常に異質なものを感じました。また「心中説」の章が冗長でしたね。読者も、あり得ないと思っているようなことを、長々と説明されても・・・といったところです。ダイイング・メッセージもいま一つ。密室も完全な密室ではなく、あまり興味が湧かなかったです。まあ、本作のアイデアはオリジナリティがあり、その点は認めますが・・・。それより、どのように二人が水を飲んだのか(飲ましたのか)が本作では白眉でした。もっと登場人物(生前、女性スキャンダルを仕組んだ教授、助教授、女本人、その恋人)を活かしながら、アリバイ崩しに重点を置き(ページを増やし)、そこから浮かび上がってくる犯人像!とした方がインパクトがあったように思います。真相などは気に入っているのですが、全体にちぐはぐ感が残り、やや辛目の採点となりました。


No.961 6点 空白の起点
笹沢左保
(2016/08/23 17:37登録)
裏表紙より~『真鶴の海岸近くの崖から男が突き落とされ墜落死する。折しも、付近を通過中の列車の乗客が事件を目撃するが、目撃者の一人は被害者・小梶美智雄の娘・鮎子であった。やがて小梶が多額の生命保険に加入しており、要注意の契約者であったことが判明。事件に不審を抱いた保険調査員の新田純一は、小梶の調査を開始するが…。複雑な人間模様に潜む危険な愛憎を捉えた本格長編ミステリー。』~

犯人、トリック、動機が巧く絡み合った作品との印象です。○○○○○○○の殺人に分類されると思いますが、それほど違和感や否定的な感情は起こらず、素直に納得させられてしまいました(笑)。

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