ビロードの悪魔 |
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作家 | ジョン・ディクスン・カー |
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出版日 | 1965年01月 |
平均点 | 7.27点 |
書評数 | 11人 |
No.11 | 6点 | レッドキング | |
(2022/01/20 20:46登録) 王党派・清教徒派・カトリックが三つ巴に絡み、やがてトーリー党(保守)vsホイッグ党(ややリベラル)二大政党制が形作られる近代英国。とかく「保守=悪玉」vs「ホイッグ=善玉」風な進歩史観に反し、カーは明らかに王党派系びいき。 悪魔との契約で、泥とホコリと下水悪臭まみれで、入浴と歯磨き習慣が無い(それキツイ)17世紀ロンドンへタイムスリップした主人公。美貌の妻と愛人、同志と使用人達と政敵を巻き込んだ歴史サスペンスがワクワク展開したあげくに、驚きのミステリエンドへ。エロとチャンバラ(実はカーが一番精彩放つのって、この類では)と毒入トリックと、おまけに17世紀英国グルメ(!)描写までもが豊富な、魅惑の一篇。 |
No.10 | 8点 | ROM大臣 | |
(2021/12/06 15:36登録) 現代人が過去にタイム・スリップする場合、問題になるのはその当時の人間に、いかにしてなりすますかだが、本書では当時の風習に詳しい学者を主人公にすることでこの問題をクリアしている。 次々と繰り出される謎、美女たちとのラブ・ロマンス、国王打倒の陰謀を企むグリーン・リボン党を敵に廻しての手に汗握る大活劇、そして主人公を襲う絶体絶命の窮地と、絢爛を極める物語に目を奪われるが、幻想的な設定を前提とした真相の意外性と、伏線の張り方の巧みさにも感嘆させられる。歴史伝奇小説と本格ミステリのツボを知り尽くしているカーならではの試みといえる。 |
No.9 | 9点 | クリスティ再読 | |
(2018/10/07 21:26登録) 評者はマニア道純粋主義みたいなものに懐疑的なのは、皆さんご承知ではと思うのだが、カーの歴史ロマンの本作は、評者はカーの代表作にしてもいい..なんていうと嫌がる方も多いかもしれない。でもそうなんだもん、仕方ないや。 SFタイムトラベル設定+考証重視の歴史小説+剣戟ロマンだけじゃなくて、タイムリミットサスペンスや意外な犯人まである、本当に欲張りな小説だ。しかも各要素が渾然一体になって持ち味を損なわない、というジャンルミックスのお手本みたいな小説だと思う。 でとくに、歴史小説としての考証の充実感が半端なく、タイムトラベルする主人公が歴史学者、という設定が効いている。「別な時代」の固有な感性と風俗のリアリティ、強いて言えば「(時代の違う人々の感性が)わからない」のが、「わかりやすく」伝わる。これはかなり歴史小説として凄いことだ。評者なんて歴史小説が現代人のコスプレにしか見えなくてシラケることが多いけど、本作の考証のリアリティは素晴らしい。というか、今の時代小説だと何着てるかさえちゃんと書かない(書けない)作品が多すぎるしね。 まあ弱点は王政復古期のイギリス、という時代設定が日本人にはかなり馴染み薄な時代なこと。イギリス史は宗教が絡むから難しいや...まああまり気にせずに楽しんで読むのを優先したほうがいいだろう。 (あと本作が面白かった方には「ゼンタ城の虜」をオススメする。かなり本作は「ゼンタ」を下敷きにしているから読み比べるのが一興) |
No.8 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2017/06/17 10:53登録) 伏線があるので、ある程度予想できたのですが、一点だけ盲点がありました。思い込みをうまく利用したもので、やられた感がありますね。 |
No.7 | 6点 | nukkam | |
(2016/08/31 09:50登録) (ネタバレなしです) 1951年発表の本書は歴史ミステリーの大家リリアン・デ・ラ・トーレ(1902-1994)に献呈されただけあってカーが実に丹念に歴史を研究した様子が伺えます。前作「ニューゲイトの花嫁」(1950年)と同じく本格派推理小説と冒険小説のジャンルミックス型ミステリーですが本書は冒険小説要素がより強くなってアクションシーンのスケール感、緊迫感は際立っています。その分謎解きに費やされるページは減っていますが結末にはかなり驚かされる仕掛けが用意されています。極めて特殊な条件下で成立させた仕掛けなので、伏線を周到に張ってあるとはいえ人によってはこの結末は拒絶反応するかもしれませんが。 |
No.6 | 7点 | あびびび | |
(2015/12/17 02:32登録) 悪魔と契約し、過去に行き、事件の中心人物に乗り移る…自分にとって最も嫌いなパターンだったが、案外楽しく読めた。主人公の男気が物語を活性化し、イギリスの歴史的背景も楽しめた。 ビロードの悪魔と呼ばれる犯人がいるものと思ったが、なんと、正義を貫く主人公がそう呼ばれていた…。 |
No.5 | 8点 | ボナンザ | |
(2015/03/27 12:11登録) カーの時代物の中でも間違いなく最高傑作に当たるであろう名作。 冒険、ロマン、犯人と三拍子揃った必読作。 |
No.4 | 5点 | toyotama | |
(2010/11/18 04:52登録) 殺されるのを阻止するために過去へ行ったのだけれども、その行為自体が歴史に組み込まれていた、ということだろうか。 とにかく悪魔とのやりとりのシーンが、「デスノート」の一場面として思い浮かんでしまうのにはまいった。 |
No.3 | 7点 | kanamori | |
(2010/06/20 15:57登録) ディクスン・カーの歴史ものはあまり楽しめないけれど、本書の趣向には感心しました。 悪魔との契約によって魂だけが17世紀にタイムスリップし貴族に乗り移るという特殊な設定自体が、意外な真相に直結するとは思いませんでした。 非常によく考えられたフーダニットです。 |
No.2 | 8点 | 空 | |
(2009/02/28 12:45登録) 本書が書かれた1950年台初頭は、ミステリ界でもおなじみアシモフ等のハードSFが隆盛してきた時代でもありますが、これはカー流のミステリ的要素を充分取り入れた時代劇冒険SFという感じです。 時間旅行SFにつきもののタイム・パラドックスについては、精神的なタイム・トラベルなのでほとんど問題になりませんが、現代残っている歴史資料との整合性については、ちょっと拍子抜けでした。後はもう、これもおなじみ現代生活とのギャップも描きながらの、剣劇アドベンチャーの世界どっぷりです。悪魔との契約となると、怖い結末が待っているのではないかと気になりますが、それにどう決着をつけるのかも見所です。 なんだか、SF的観点からのみの評になってしまいました。 |
No.1 | 10点 | Tetchy | |
(2008/12/09 23:00登録) 今まで読んだカー作品を全て振り返ってみると、この作品が1番面白かったのかもしれない。 カーの歴史ミステリで最初に触れたのが本作。当時山口雅也氏のリクエストで復刊された作品だった。 悪魔に魂を売って17世紀のロンドンにタイムスリップした歴史学教授のニコラス・フェントン氏が、同姓同名の貴族に乗り移り、史上では毒殺された妻の犯人を探るという物。 この最初の設定の突飛さを無理なく受け入れれば、もうそこには目くるめく物語世界が待っている。 一番印象に残っているのは活劇シーン。邸を襲ってくる暴徒どもを迎え撃つ剣戟シーンの迫真性はカーのストーリーテラーぶりが横溢している。 そして最後に驚嘆の真相!これは多分納得の行かない人もいるかもしれないが、よく読み返すとカーがかなり計算高くこの設定を編み出しているのが判る。 アクションに加え、当時の歴史風俗、そして男たちの友情に、サプライズエンディングと、エンタテインメントの醍醐味が詰まった1冊だ。 |