蟷螂の斧さんの登録情報 | |
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平均点:6.10点 | 書評数:1692件 |
No.1252 | 8点 | 郵便配達は二度ベルを鳴らす ジェームス・ケイン |
(2019/10/22 16:44登録) (再読)「東西ミステリーベスト100(1985年版)」の56位。かすかな記憶はボニーとクライド(1934年に銃殺)に似ていたような?でした。訳者あとがきによれば、本作(1934)並びに「殺人保険」(1936)は1927年のルース・スナイダー事件(保険金殺人)にインスパイア―されているようですね。題名については、脚本家から郵便配達員がいつも二度ベルを鳴らすという話を聞いて、本作では重要な出来事が必ず二度起きることより、タイトルに相応しいと思ったとのことです。 (ネタバレあり) 二度目の殺人、二度目の裁判、二度目の自動車事故など。 ミステリー的には裁判が一番楽しめました。歪んだ愛情で結ばれた風来坊フランクと人妻コーラ。本物の殺人が過失となり、本当の過失が殺人となる。因果応報。○○メーターでは、恋愛物語などとの評が多いのですが、フランクの”二度の裏切り”(調書での保身、コーラ不在中の浮気)があり、彼に愛を語る資格などない(笑)。 |
No.1251 | 4点 | 波の塔 松本清張 |
(2019/10/22 08:20登録) (再読)~愛した女性は被疑者の妻だった。衝撃の事実は若き検事を悩ませる。現代社会の悪に阻まれる悲恋を描いたロマンチックサスペンス~とありますが、サスペンス色はほとんどありません。純愛不倫物語といって良いのでしょうか。 本作は「女性自身」に掲載されたもので、当時はこういったものが受けたのでしょう。時代を感じます。なおミステリーとしての採点です。 |
No.1250 | 6点 | 黒い樹海 松本清張 |
(2019/10/20 17:04登録) (再読)~仙台へ旅行のはずの姉が、浜松のバス事故で死んだ。不審に思う妹が姉の交友関係を探る。~ 社会派と言われる諸作品と趣を異にしており、旅情ミステリーに分類されるのか?と思います。本作は「婦人倶楽部」に掲載されたもので、当然と言えば当然なのですが、やはり女性を意識して書かれた内容になっています。「波の塔」(1960年)や「花実のない森」(1964年)も同様ですね。著者は「女性心理を描くのは得意ではない」と言っていたらしいのですが、そんなことはありません。なお、題名の「樹海」は登場しませんが、同年発表の別の作品で重要な舞台となっています。 |
No.1249 | 5点 | 蒼い描点 松本清張 |
(2019/10/19 12:39登録) (再読)本作は若者向け雑誌に連載されたもので、著者らしい重厚さがあまり感じられないロマンチック・ミステリー風味な作品です。ジャーナリストの変死に始まり、その妻および女流作家とその夫が行方不明となる。章題は「誰もいなくなった」・・・と言っても本家のような展開にはなりません(笑)。 |
No.1248 | 6点 | 眼の壁 松本清張 |
(2019/10/17 20:28登録) (再読)手形のパクリ事件は2年後(1960年)に発表された「白昼の死角」(高木彬光氏)の方が印象に残っています。本作の印象はやはり死体トリック!!(笑)。この作品が経済犯罪ものの走りであったようですね。「点と線」と本作で著者の人気が不動のものとなり、この作品の背景が以後に発表された「砂の器」に発展していったものと思います。 |
No.1247 | 4点 | ZI-KILL-真夜中の殴殺魔 中村啓 |
(2019/10/15 18:22登録) 主人公は自分が連続殺人鬼ではないかと疑心暗鬼になります。その描写が何回も出てくるのですが、文章がぎこちなく心に響きません。よって感情移入できなかったですね。スピード感も足りなかったし、恋人と謎の女性との関係も中途半端でした。内容自体も新鮮味はありませんでした。残念。 |
No.1246 | 7点 | 三秒間の死角 アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム |
(2019/10/12 23:27登録) 英国推理作家協会賞受賞、スウェーデン最優秀犯罪小説賞受賞。裏表紙には上下とも、あらすじが全開となっています。冒険小説風なものに、この手の紹介文が多いような気がします。警察小説のシリーズものに該当するみたいですが、内容はストックホルム警察の潜入捜査員(元犯罪者)が刑務所に侵入する話が中心となっています。題名の「3秒間」は別に謎ではないのですけれど、成る程と思いましたね。テンポはいいのですが、やや侵入捜査員の妻と子どもの描写が物足りなかったかな・・・。この11月に映画が公開されます!(こちらはFBI) |
No.1245 | 7点 | 月長石 ウィルキー・コリンズ |
(2019/10/10 17:50登録) (再読)東西ミステリーベスト100(1985年版51位、 2012年版67位) 「月長石」盗難事件の関係者が、それぞれの視点(手記)で語ってゆきます。一人の視点では何でもないようなこと(実は伏線)が、別の視点が重なることによって明らかになってゆくという構成です。各視点のキャラクター、特に老執事と医師が魅力的ですね。謎が複雑になってしまう要因が、女性陣の恋愛感情にあるなど、単なる恋愛物語ではない点も好みです。なお、マイケル・イネス氏の「 ある詩人への挽歌」(1938年)が本作品のような多数の手記形式の構成を引き継いでいますね。昔、本作以上に長~い「白衣の女」をあきらめたので、この機会に挑戦しようかな?。 |
No.1244 | 7点 | カササギ殺人事件 アンソニー・ホロヴィッツ |
(2019/10/06 22:55登録) プロットはよく考えられていると思います。しかし、レッドへリングが多すぎるような気がしました。さらに主人公が書き上げた容疑者が小説部分で5名、現実場面では7名と、いくら何でも多すぎ(笑)。結局このことより物語が散漫になってしまったような・・・。クリスティ氏であれば、ものすごく怪しい人物をひとり登場させると思います(当然犯人ではない)。この辺のメリハリがあればなあ。 |
No.1243 | 8点 | 小説帝銀事件 松本清張 |
(2019/10/05 19:37登録) (再読)「BOOK」データベースより~『昭和23年1月26日、帝国銀行椎名町支店に東京都の腕章をした男が現れ、占領軍の命令で赤痢の予防薬を飲むよう告げると、行員らに毒物を飲ませ、現金と小切手を奪い逃走する事件が発生した。捜査本部は旧陸軍関係者を疑うが、やがて画家・平沢の名が浮上、自白だけで死刑判決が下る。膨大な資料をもとに、占領期に起こった事件の背後に潜む謀略を考察し、清張史観の出発点となった記念碑的名作。』~ 著者は、平沢氏には毒物の知識がなく犯行は不可能と冤罪を主張しています。そして真犯人は旧陸軍関係者である可能性を指摘しています。 読後の感想~平沢氏は実行犯ではないと考えますが、金品処理についての疑いは晴れないというのが正直な気持ちです。それは強奪された小切手の裏書の筆跡が本人とものと鑑定されていることや出所不明の預金があったことなどです。旧刑訴法により、自白と状況証拠のみで死刑確定しており、その後の再審請求はすべて棄却されていることは残念な点です。当時のGHQの圧力は相当なものであったと感じられます。 なお本作品(1959年)後の1985年にGHQの秘密文書が公開されました(読売新聞)。①毒殺犯の手口が軍科学研究所の作成した毒薬に関する指導書に一致。②犯行時に使用した器具が同研究所で使用されたものと一致。③1948年3月、GHQが731部隊の捜査・報道を差し止めた。 以上のこと、および生き残った目撃者の1人が一貫して氏は犯人ではないと証言していることより、実行犯ではないのは確実でしょう。しかし、この2年後の1987年5月、氏は刑務所で天寿を全うしました(享年95歳)。 |
No.1242 | 8点 | 金環蝕 石川達三 |
(2019/10/03 18:39登録) (再読)最近、原発マネー疑惑が新聞紙上を賑わしています。本作は同じ電力関連の汚職事件です。過去の疑獄事件では、必ずといって死者が出ています。ロッキード事件(1976年)では、事件を追っていた記者、フィクサーの通訳、首相の運転手。リクルート事件では、首相の秘書。最近では、立件はされませんでしたが森友学園問題での財務局職員2名、工事関係者2名の死が記憶に新しいところです。本作品は1965年に表面化した九頭竜ダム汚職事件(これも立件されず)をモデルに描かれたものです。首相秘書官と事件を追っていたジャーナリストが死亡しています。そして総理夫人(当時の池田隼人総理夫人がモデル)が大きく関与しています。どこかで聞いたような話ですが・・・。以下総理夫人と西尾秘書官のやり取り。~「あなたは8月の初めに、星野官房長官のお使いで、電力建設の財部総裁に会いに行って下すったでしょう。行って下すったわね」「はい参りました」「そのとき、総裁宛の私の名刺(*竹田建設のこと、私からもよろしくお願い申し上げます。と書いてある)を持って行ってくださいましたね」「はい」「その事が、もし世間に知れわたったりしたら、私が非難されるばかりではなくて、総理の政治的生命にもかかわる問題だということも、お分かりの筈ですね」「はい」「それだけ解かっていらっしゃるのに、なぜあなたはあの事を世間に言いふらしたりなさったの」「いいえ、僕は言いふらしたりなんかしていません」~略~「弁解したって駄目よ。あなたは私の顔に泥を塗って下すったのね。私だけなら我慢もします。総理の名誉は完全に傷つけられました。もしこの噂が広まって、新聞が書き立てたり、野党の方が国会で質問を提出したりしたら、あなたの責任はどういうことになるの。西尾さん、どうなさるおつもり。私は人事に口出しなんか致しませんからね。あなたにどうしろという事は申しませんよ。あなたご自分でお考えになって、一番適当な方法をお取りになることですわね。」(映画では京マチ子さん)~その後、西尾秘書官は自殺するのですが、小説といえども、よくここまで書いたものと感心します。金環蝕~まわりは金色の栄光に輝いて見えるが、中のほうは真黒に腐っている。 |
No.1241 | 7点 | 渡された場面 松本清張 |
(2019/10/01 20:22登録) ~同人誌評に引用された小説の一場面が、強盗殺人事件の被害者宅付近の様子と酷似しすぎていた。~ 倒叙ものなので、犯人を追ってゆく警察の地道な捜査が中心です。文学青年の盗作が、まったく関係ない二つの殺人事件を結び付けてゆくというもの。プロットが楽しめる作品です。 |
No.1240 | 8点 | 復讐法廷 ヘンリー・デンカー |
(2019/09/30 18:50登録) (再読)1986年版東西ミステリーベスト100の第77位。映画「十二人の怒れる男」の原作が、リーガル・サスペンスの先駆かなと思っていましたが、そちらは脚本だったのですね(3人の方の書評あり)。法廷場面では、抑えるところはきっちり抑えていますので読み応えあります。最初、日本の法律と違う点があり、よくわからなかったのですが、裁判場面できちんと説明がありました。そして主人公の恋など硬軟織り交ぜるところなど憎い演出。陪審員どうしの恋?は余計かなと思っていたらラストで効いてきましたね。 |
No.1239 | 6点 | ミドル・テンプルの殺人 J・S・フレッチャー |
(2019/09/28 23:59登録) 丁度100年前の1919年の作品。新聞社の副編集長(年齢は若い)が死体の発見現場に遭遇し、残された手がかりから捜査を開始するというもの。現代風に言えばフーダニットそして意外な犯人像ということになりますね。読み終えた後、一瞬、ラストが唐突で説明不足とも感じます。しかし、それは現在のミステリーに慣れ親しみ、それと比べてしまっているからだと思いました。この時代に、このプロットの作品を書き上げたことに敬意を表します。 |
No.1238 | 8点 | ポオ小説全集4 エドガー・アラン・ポー |
(2019/09/27 17:20登録) (再読)各短篇(21篇)を一言に要約すれば「意外な犯人」「ユーモア」「ブラック・ユーモア」「悲劇」「夢落ち」「パロディ」「どんでん返し」「怪奇」「幻想」「復讐」「盲点」「犯人の心理」「暗号」「冒険」などとなった。現在ミステリーの基礎用語でもあり、著者が探偵小説を創造したということで間違いないのであろう。 「黒猫」「黄金虫」は別途評価済み。 「タール博士とフェザー教授の療法」9点 精神病の新治療は失敗したらしい。院長の行動に注目。 「盗まれた手紙」8点 1986版東西ミステリーベスト100の第64位 心理に関する嚆矢的作品。 「ちんば蛙」8点 残酷だが好きな作品。 「ウィサヒコンの朝」8点 ミステリーには該当しないが、何故か心を打たれた。 「お前が犯人だ」8点 探偵小説の原形。死人がしゃべる?。笑えます。 「シェヘラザーデの千二夜の物語」7点 千夜一夜物語はハッピーエンド。では千二夜は?。 「長方形の箱」7点 なぜ彼は箱に自分を縛りつけ海へ飛び込んだのか?。余韻のあるラスト。 |
No.1237 | 5点 | 火蛾 古泉迦十 |
(2019/09/22 15:48登録) 幻想小説として6点、ミステリー小説としては4点といった感じです。宗教のことは全く分かりません。この小説の肝となる教義が本当に存在するのかが気になりました。まあ、フィクションとは思いつつ・・・。 |
No.1236 | 4点 | 天城一の密室犯罪学教程 天城一 |
(2019/09/21 16:24登録) パート1の短篇は、文章を削ぎ落しているというが、それにより話が飛んでしまい意味不明である。非常に読みにくく、文章、構成が巧みとは言えない。江戸川乱歩氏が評した「普通の意味の小説道にははなはだ未熟」が言い得て妙であると思う。作例やテキストのようなものなので致し方ないのかも。パート2はパート1(密室)の解説。パート3が短篇集。高評価の「高天原の犯罪」に期待したが、脱力系であり残念。犯人の脱出方法については、「気配」という概念が欠如している。この手のものなら折原一氏の「不透明な密室」の方が笑える。 |
No.1235 | 6点 | むかしむかしあるところに、死体がありました。 青柳碧人 |
(2019/09/19 15:36登録) 「一寸法師の不在証明」 5点 アリバイ崩しだが、あまり感心しない落ち。トリックを成功させるために考え付いた設定といって良いでしょう。 「花咲か死者伝言」 5点 ダイイングメッセージを中心に物語は進むが、コロンボ張りの非常に細かいところから犯人が判明。うーん細かすぎる(笑)。 「つるの倒叙がえし」 6点 「○○メーター」では一番人気。構成が面白いということらしい。題名の倒叙の意味(作者の意図)がよくわからん。倒叙形式になっているとは思えないので「意趣がえし」がベター。そうなると見え見えか?。 「密室龍宮城」 7点 原作・浦島太郎の落ちを有効に使ったトリック。昔話のパロディとしてはNo.1でしょう。 「絶海の鬼ヶ島」 8点 「そして誰も・・・」のパロディ。動機がGood(感心感心)。 |
No.1234 | 8点 | 黒猫 エドガー・アラン・ポー |
(2019/09/17 15:58登録) (新潮文庫版にて再読)「黄金虫」が1986年版「東西ミステリーベスト100」の40位とのことで再読。いやー、まいったなアが最初の言葉。著者の作品では「モルグ街」が初読で、その印象がそれほどでもなかったので、本書などは、当時流し読み、あるいは読書力の欠如(今、あるとも言えない)のため、ほとんど記憶に残っていませんでした。今般の再読で著者の「偉大なる作家」たる所以を垣間見た気がします。 「黒猫」(1843)7点 怪奇小説なので多少の矛盾点には目を瞑りましょう(笑)。 「アッシャー家の崩壊」(1839)9点 かなり重いものが背景にあることを匂わせる作品。麻耶雄嵩氏の有名作品のラストシーンはこの作品の影響があるのかなあ?。 「ウィリアム・ウィルスン」(1839)9点 この時代にこれを書けるのは素晴らしい。「ジキル博士」は1886年だし・・・。 「メールストロムの旋渦」(1841)8点 想像力に感心する。月の光が巨大な渦巻きに刺し込むシーンは何とも不気味で美しい。 「黄金虫」(1843)6点 暗号は趣味でないが、初の暗号小説ということで+1点。 「ポオ小説全集」1~4が書棚の奥に隠れていた。再読せよということか?・・・ 。 |
No.1233 | 6点 | ワイルダー一家の失踪 ハーバート・ブリーン |
(2019/09/14 18:34登録) 江戸川乱歩氏の「類別トリック集成」で「この小説のトリックは面白い。これは幾つもの人間消失小説で、その内の一二のトリックは、なかなかよく出来ている。奇術趣味ではあるが充分面白い。」とあり拝読。 湖畔の砂浜での消失トリックは風景的には印象深いものがあります。但し、トリックよりも恋愛絡みの古き良き探偵小説を楽しむ方がベターかと思います。伏線も見え見えだし・・・(笑) |