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ミステリの祭典

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黒い樹海

作家 松本清張
出版日1960年01月
平均点6.75点
書評数4人

No.4 7点 ALFA
(2019/10/31 13:18登録)
ネタばれアリ


清張にしては珍しく、古典的なミステリの骨格を持った作品。怪しい人物が複数提示され、次第にある人物にフォーカスされていく。大きなどんでん返しはなく、少しずつ疑惑が深まっていき、最後は調書による謎解きとなる。
個人的には、複数の犯罪(犯人)の組み合わせは好まないが、ここでは話の整合性はとれている。
むしろ味わい深いのは清張節ともいうべき、突然身内を失った喪失感や山峡の情景、そして昭和中期(30年代)の風俗の描写だろう。
それにしても飲酒運転がこれほど当たり前だったとは・・・

No.3 6点 蟷螂の斧
(2019/10/20 17:04登録)
(再読)~仙台へ旅行のはずの姉が、浜松のバス事故で死んだ。不審に思う妹が姉の交友関係を探る。~
社会派と言われる諸作品と趣を異にしており、旅情ミステリーに分類されるのか?と思います。本作は「婦人倶楽部」に掲載されたもので、当然と言えば当然なのですが、やはり女性を意識して書かれた内容になっています。「波の塔」(1960年)や「花実のない森」(1964年)も同様ですね。著者は「女性心理を描くのは得意ではない」と言っていたらしいのですが、そんなことはありません。なお、題名の「樹海」は登場しませんが、同年発表の別の作品で重要な舞台となっています。

No.2 8点 斎藤警部
(2016/01/08 12:10登録)
こりゃぁ滅法いい、真実(マジ)面白い。目次に見える各章のシンプルな題名から一々魅力的だ。如何にも含蓄の吹き込まれたオープニングの失踪顛末を経るとそこには、厳格の著者にして意外なゲーム性が拡がる。誠実感あるロジック考察も適時現れ、存外な迄の遊戯興味を唆す。物語が進んで朧気に全体像も見えかける辺りから堰を切って「或る人物」への抵抗感ある疑惑が微量ずつ静かに噴出するのだが。。 古(いにしへ)の南武線沿線、多摩川沿いの惡暗いムードも昭和30年代ノスタルジーを誘う、作者初期の好篇です。 さて、これは清張流の、厚み有る通俗小説トライアルなのだろうか?  ともあれ、エンディングには幾つかの意味でホッとしましたよ。。
或る人物の「握手です。」云々には笑ったなぁ。キャバレーだかクラブの一節でキン・シオタニ(イラストレーター)の得意芸を思わす漫画家が出て来るのは面白い。実際の樹海が舞台にならないのが若干寂しかったかな。でも満足。祖父の遺品にて読了。



【逆ネタバレ、というかネタバレ】

わたしゃ途中から「まさか『幻の女』じゃないだろうなぁ」とハラハラし通しでしたよ。

No.1 6点
(2009/10/30 21:12登録)
最初に起こる事件は明らかに運の悪い交通事故以外のなにものでもないのですが、それにしても不審なところがある。この小さな謎で読者を惹きつけておいて、関係ありそうな人物を紹介していき、しばらくしてから殺人事件に発展させる作者の小説運びはさすがです。
さらに殺人は連続して起こり、ヒロイン自身の身辺にも危険な影が忍び寄ってきます。展開は決して派手なわけではありませんが、静かなサスペンスが感じられます。
松本清張作品の中では、何度もテレビドラマ化されているわりに小説自体はあまり知られていないようですが、最終的な着地もなかなかきれいにまとまった佳作だと思います。

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